『ソウゾウするちから~スポーツで異文化と繋がる~』イベントレポート

パナソニックセンター東京が、毎回さまざまなゲストを招いて社会課題について考えていくウェビナー形式のイベント「ソウゾウするちから」シリーズ。2021年8月7日(土曜日)は、空手 女子 形の部の東京2020大会アメリカ代表で、パナソニックのブランドアンバサダーも務める國米 櫻(こくまい さくら)選手と、明治大学体育会空手部の久保田 光皇(くぼた みつきみ)さんをゲストにお招きし、トークセッションを行いました。
幼い頃から海外で暮らし、現在はロサンゼルスを拠点に選手としての活動と平行し、現地の子どもたちに空手の魅力を伝える指導にも取り組んでいる國米選手。そして、学生アスリートとして海外遠征も行う久保田さんが「スポーツで異文化と繋がる」をテーマにセッション。そこから見えてきたのは、“言葉や文化の違いがあるからこそ、面白い”というお話でした。
【セッション1:東京2020オリンピック競技大会に関して】
コロナ禍の影響で1年延期となった「東京2020オリンピック競技大会」。1年越しに参加できた感想について國米選手は「開催できたことが本当に幸せです。選手村で知っているアスリートと顔を合わせて、その喜びを分かち合いましたね」と嬉しそうに話してくれました。

また、ロサンゼルスでパナソニックとリトル東京コミュニティが応援イベントを開催し、國米選手が指導をしている子どもたちが応援をしてくれたことに対して、「色々な人にサポートされて、オリンピックに出場できたんだなと改めて実感しました。その場にいなくても強いパワーを感じました」と國米選手。スポーツを通して、人と人が深い絆で結ばれていることを感じられました。
【セッション2:お二人の生い立ちについて】
続いてのテーマは、お二人の生い立ちについて。
國米選手は岡山県出身のご両親を持ち、ハワイのホノルルで生まれました。7歳のときに母親から薦められたことをきっかけに、現地のYMCAスクールで行われていた空手のコミュニティーに参加。「もともと親戚が習っていたので空手については関心を持っていたんです。そこで、すばらしい指導者に出会い、すぐに空手を好きになりまして、もっと本格的に学びたいという気持ちが出てきました」。そこから國米選手は空手の練習に励む日々を送る中で、14歳の時にはアメリカ代表の選手に抜擢。高校生まではアメリカと日本を行き来する生活を送りながら、大学生の頃に初めて日本へ。大学院までの6年間は、日本を拠点にして海外大会に参加していたそうです。
一方、久保田さんが空手を始めたのは、お祖父様の影響が強いそうです。「祖父が空手道場の指導者をやっていまして、単純にかっこいいなと。あんなふうに強くなりたいと思い、空手の道に進みました」と語ってくれました。
ここで、久保田さんから「アメリカや日本など環境が変わる中で、トレーニングなどで苦労した点はありましたか?」と國米選手に質問が。國米選手は、「確かに大変な面はあります。近くに練習する道場が無い時は、市民体育館を借りて練習をしたり、練習の様子を撮影した映像を観てモチベーションをあげたり、色々な工夫をしましたよ」と、環境が変わっても情熱さえあれば質の高い練習ができることをお話してくれました。この答えに久保田さんも「行動力がすごいですね!環境が変わっても平気なところが國米選手の強みだと感じました」と驚きの声をあげました。
【セッション3:空手の魅力を紹介】
今回、「東京2020オリンピック」の正式競技として初めて採用された「空手」。決定した瞬間、お二人はどのような心境だったのでしょうか。

國米選手は、幼い頃から情熱を傾けてきた競技が採用されたことについて、あふれるような喜びを隠せなかったようです。「最初は本当なのかなって、まわりの人に何度も確認したことを覚えています(笑)。昔からオリンピックは観ていたので、正式競技に決まったからには出場はもちろん、メダルの獲得を目標にさらに練習に力が入りました。具体的に、目標を達成するために計画表を作りましたよ」と國米選手。久保田さんも同様に「今まであまり空手に関心が無かった人も、その魅力を知ってもらえるかもしれない。そう思うと、嬉しい気持ちでいっぱいになりました」と同じく感動したようです。
そして、話は空手という競技の魅力について。

そもそも空手には大きく分けて2種類の種目があります。選手二人が安全防具を付けて、身体の上段や下段に有効な技を決めて点数を競い合う「組み手」。そして、仮想の敵を想定し攻撃や防御の一連の演武を行う「形」。この種目について國米選手は「『組み手』は、頭、顔、胸などを攻撃しながら、突きや蹴りのスピード感やパワーなども審査の基準に入ります。そのテクニックが見どころですね。『形』は動きのキレや力強さ。あと、選手が持つ感性と身体性も点数に反映されます。体操やフィギュアスケートと似ている種目かもしれません」と解説してくれました。
久保田さんは「形」の魅力について、「『形』が上手い選手は、一瞬で会場の雰囲気を変えてしまう。観ている人の目を釘付けにするほどの力がある選手もいるほどです」とお話してくださいました。
また、お二人が得意とする「形」は、ともに「スーパーリンペイ」。「ほかの『形』と比べて長い分、緩急やリズム感も十分に表現できるので」と國米選手。久保田さんも「國米選手と同じく、自分を表現しやすいです」とその理由を明かしてくれました。
【セッション4:スポーツ×カルチャー】
次に、競技から離れて日米間の文化の違いや文化交流に関することをテーマにお話しいただきました。國米選手は前述した通り、ロサンゼルスのジャパニーズ・アメリカンコミュニティーで空手を通じて日本文化の発信をされています。

そのきっかけは自然な成行きでスタートしたそうです。「日本で暮らしている時に、練習の合間に子どもたちに空手を教えることを普段からやっていて、アメリカに引っ越してからもその流れで続けていました。指導をすると、子どもたちから元気をもらえるので自然と続いていますね」と國米選手。
また、ロサンゼルスを拠点にした理由については、“人としての温かさ”が一番の理由だと言います。「とにかく人が優しくて温かい。みなさん気持ちがオープンで、何かと手厚くサポートもしてくれます。練習の合間の息抜きとして、ハイキングをしたり海で遊んだりすることもできる環境の良さもあります。選手としては最高の環境だと感じています」とロサンゼルスの魅力を大いに語ってくださいました。
久保田さんも海外の人との交流については、好意的な印象があるそうです。「イギリスの世界大会やカナダでの北米大会に参加して、現地で生活もしました。日本の選手とは違って、試合の後のTシャツ交換があったりハグをしてくれたり。また、選手や応援する観客の方も気軽に話しかけてくれるなど、とてもフレンドリーさを感じました」と、日本とは違うコミュニケーションのとり方に面白さを感じたようです。
では、お二人は海外の人との交流で苦労した点は無いのでしょうか。國米選手は、「日本独特の先輩や後輩の上下関係もそうですが、集団での規律が印象的でした。私だけ水を取りに行って戻ってくると、みんなは固まってじっと待機していたり(笑)。みんなからも、『ほんと、自由人だよね』って言われますが、苦労とは感じなかったですよ」と、日本で過ごした大学生の頃に微妙な違いを感じたようです。
ここで久保田さんから、「その文化の違いに直面した時、どのように乗り越えたのですか?」と質問がありました。「14歳から世界大会に出場しているので、子どもの頃に言葉の壁に直面しました。だけど、その違いが面白いって思っていました。言葉が違っていてもボディランゲージで通じるとか。空手という共通のものがあったので余計に通じ合える部分もあったと思います」とお話してくれました。
続けて、國米選手は「お互いに競い合うのがスポーツですが、例えば『オリンピックに出場したい』という共通の目標があると、自然と絆のようなものが生まれてきます。今回も、『やっと出場できるね』ってみんな嬉しくて仕方がない感じで、言葉を越えてひとつになれた感覚がありました。スポーツによって国境を越えられるんだと」とスポーツが持つ力について語ってくれました。
【チャットから寄せられたコメント】
その後、チャットに寄せられた質問への回答が行われました。
質問:國米選手にお聞きします。海外を拠点にしているからこそ見える、日本の魅力や異文化の面白さはどこだと思いますか?
國米選手:アニメですかね(笑)。みんな本当にアニメや漫画が好きで、私以上に詳しい。『東京には本当にこんな自動販売機があるの?』とか、マニアックで。それぐらい日本の文化は海外にも広がっているんだと思いました。
質問:お二人に質問です。「形」は内容が決まっていても、選手によってオリジナリティーは出るものですか?
國米選手:同じ身体でも選手によって違いますし、私も小柄という個性を活かそうと思っています。それぞれ感性も違うので、ゆっくりとした動作ひとつとっても選手ごとに違いが出ます。
久保田さん:出ると思います。選手によって、ここを力強く見せるとか表現力を豊かに見せようとか、その人によって個性があると思いますね。
質問:國米選手が、空手を始めた頃と比べて、文化の壁は無くなってきたと感じますか?
國米選手:テクノロジーが進化して、海外の人と格段に情報交換がやりやすくなりました。昔は、パソコンを開いてサイトにアクセスしてメッセージを送るという手順が必要でしたが、今はスマートフォンで対応できるので。コミュニケーションのとり方が変わって、距離も近く感じるようになりました。
質問:久保田さんに質問です。國米選手のどこがすばらしいですか?
久保田さん:小柄なのに力強さがあるところでしょうか。あと、他の選手と比べても緩急の部分の表現力にいくつも種類があるところもすばらしいです。
國米選手:ありがとうございます!(笑)
久保田さんも國米選手にアスリートとしての質問がありました。
質問:海外の食事が合わないことや時差の問題について、どのように対応されていますか?
國米選手:体調管理は大切なので、インスタントのお米や缶詰などをスーツケースに入れて持っていくようにしています。あと、現地のスーパーマーケットでフレッシュな野菜や果物を買って食べたりもしますね。それに、睡眠については大会の2週間前に現地に入って調整をしています。それができない時は時差から逆算して睡眠時間を調整しながら過ごすように気をつけています。
最後にお二人から視聴者の皆様に向けて一言ずつメッセージをいただきました。
國米選手:健康な状態でオリンピックに出場できたのは、本当に皆様のおかげだと思っています。オリンピックをきっかけに、世界の人たちにこの競技の魅力を知ってもらい、少しでも興味をもってもらえたことが嬉しいです。今後とも応援をよろしくお願いします。
久保田さん:このイベントに参加して、文化の違いや空手に対する熱い思いをお聞きすることができて良かったです。文化の壁があったとしてもスポーツを通して、お互いに幸せで活躍できることがわかりました。本日はありがとうございました。
このイベントでたくさんのお話をしてくださった國米選手の言葉からは一度も、海外での交流において苦労したことエピソードは語られませんでした。それは、スポーツを通して生まれた絆によって、国籍や文化の壁を越えたからだと思われます。そんなスポーツが持つ大きな力を視聴者の皆様にも感じていただけのではないでしょうか。