石川
昭和55年、神様が見そめたうるしの鬼。
「製品は工芸品のようでなければいけない」――創業者松下幸之助は時に語り、大量生産でも工芸品のような精密さを求めていました。そして伝統工芸に多大なる敬意をはらい、作品をつくり出す工芸家を支援することで、日本のものづくりを未来に伝えていきたいと考えていました。
『経営の神様』と呼ばれた松下幸之助が日本の伝統文化を理解し、普及を支援していたことはあまり知られていません。きっかけは昭和34年の日本工芸会近畿支部支部長への就任でした。古くは大正末期に高野山に登って伝統文化に触れ、40歳を過ぎてから本格的に茶道を嗜むようになった松下幸之助ですが、何より本業であるものづくりから名工の世界に関心をよせていったのです。
昭和36年、京都・南禅寺近くに「真々庵(現・松下真々庵)」を構えた松下幸之助。みずから設計にこだわった茶室と庭園で国内外の賓客をもてなし、収蔵した作品を紹介し、伝統文化の普及に努めていました。昭和年に直接作家から購入した、下でご覧の抹茶を入れる漆塗り茶器もそのひとつ。加賀蒔絵の伝統を今日に伝えた漆芸界の巨匠であり真々庵にも訪れたことがある人間国宝、松田権六氏の作品『ちどり蒔絵平棗』です。明治29年石川県金沢市に生まれた松田権六氏は、7歳から蒔絵漆芸を習いはじめ、東京美術学校(現・東京藝術大学)漆工科に学んで古代漆芸の研究を深め、伝統をふまえた漆技に近代的な手法も加味した独自の蒔絵技法を確立。格調高い作品を数多く発表してきました。『うるしの鬼』とも称された、妥協を許さない精緻な技術。それは、まさに私たちがめざすものづくりの姿でもあります。
大正7年の創業以来、私たちがここまで歩んでこられたことは石川のみなさまをはじめとする、たくさんの方々のご愛顧とご信頼の賜物と心より感謝申し上げます。これからも変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
おかげさまで、パナソニックは創業100周年を迎えました。