≪出前授業の事前学習を効果的に行うためのヒント≫

事前学習のモジュール化と独自ワークシートの活用

~グループワークの成果を教室前に掲示し意識を喚起~

「私の行き方発見プログラム」実践校訪問の2回目となる今回は、7月に出前授業を実施した東京女子学園中学校(東京都港区)を訪問し、担当された吉田ゆかり先生から、出前授業の事前学習の効果的な進め方を中心にお話を伺いました。本プログラムを活用される多くの学校で参考にしていただければ幸いです。

東京女子学園中学校 吉田ゆかり先生

■教育活動の柱のひとつに位置付けられたキャリア学習

東京女子学園中学校では、「人の中なる人となれ」を教育理念に掲げ、地球規模の広い視野とこれからの時代にふさわしい能力と見識をもち、世界とつながる人材の育成を目指している。こうした観点から、特に重視する教育活動の柱として、「教科学習」「体験学習」と共に「キャリア学習」を位置づけている。
学年を超えて全校生徒が取り組む探究活動「地球思考」(毎週1時間)では、SDGsの学習を通じて、自ら課題を発見、設定しそれを解決するためにどのように貢献できるかを考えていく主体的な探究活動が行われている。
同校のキャリア教育は、中学・高校の6年間を見通した上で、学年ごとの目標・テーマを設定し、各段階で自己チェックを行いながら進められている。本プログラムを実施した中学3年生の場合は、1学期に職業調べを行い、夏休み期間中に実施する職場体験の結果をレポートにまとめ、秋の文化祭で発表する、といった流れとなっており、今回の出前授業は職場体験に向けた事前学習として実施された。

■出前授業の事前授業をモジュール化

「私の行き方発見プログラム」を活用した同校での授業実践の特徴として、まず、出前授業の事前授業をモジュール化し、2回に分けて実施した点が挙げられる。具体的には、出前授業の事前学習で行う「プログラム①会社の役割発見」を、前半(日本の企業活動の特徴、様々な職業・職種の確認等)と後半(役割カードを使ったグループワーク)に分け、前半(約25分)はホームルームの時間を使って、後半(約30分)は吉田先生の担当教科である技術・家庭科(家庭分野)の授業として、同じ週の中で行われた。この背景には、まとまった形で事前授業に50分の時間を確保することが難しかったという事情もあるが、「キャリア学習はすべての教科学習や活動にどこかでつながっており、教師が様々な場面で生徒達に投げかけることが大事」という吉田先生の考え方が反映されている。こうした工夫は、新学習指導要領でも示されている「創意工夫を生かした弾力的な時間割の編成」の具体例として、多くの学校でも参考になる取り組みと言える。その際、「各モジュール間であまり日を置かないことがポイント」(吉田先生)となる。

事前授業後半(2回目)での グループワークの様子

事前授業後半(2回目)でのグループワークの様子

■パナソニックについて調べるオリジナルワークシートも活用

事前学習の前半では、オリジナルのワークシートも使われた。パナソニックの概要を調べるためのシートで、生徒が一人1台所有するタブレット型端末を使い、創業者、事業内容、製品例等について調べた情報を書き込んでいく。
このワークシートを活用することで、後半の「パナソニックで働く人々の役割」を知る学習により実感を持って取り組むことが可能となる。

事前学習で大きな比重を占める「役割カードを使ったグループワーク」を効果的に行う上でのポイントについて、吉田先生は「グループリーダーを決めること」と「何について発表するのかを可視化すること」の2点を指摘した。後者については、「どの役割に興味をもったか」、「グループワークを通して気付いたことは何か」といった定型の設問の他に、「初めて知った役割はあったか」という項目を加え、それぞれの設問を大きく書いた紙を黒板に貼り出す工夫を行った。吉田先生としては、「もう少し時間が確保できれば、『初めて知った役割』についてさらに調べていくような活動も取り入れたい」との考え方をもっている。

パナソニックについて調べるオリジナルワークシート

パナソニックについて調べるオリジナルワークシート

■グループワークの成果を廊下に掲示

吉田先生は、グループワークで取り組んだ成果である「工程ごと役割カードを分類し貼り付けた“役割台紙”」を、教室前の掲示板に貼り出している。職場体験に向けて生徒達のキャリア学習への関心を持続させ、出前授業を含めた今回の実践を一過性のものに終わらせない、というねらいがある。
加えて、学校内外にキャリア学習の成果を発信する効果もある。折しも事前授業が終わった直後に保護者会があり、校長先生があいさつの中で今回の実践に触れたことも手伝って、多くの保護者が関心を持って掲示を見ていたようだ。今後は学年通信でも発信していく予定となっている。
最後に、キャリア教育に携わる全国の先生方へのメッセージを吉田先生に伺った。
・・・本校では、「キャリア」とは「人生(生き方)」そのものであり、「キャリアデザイン」とは「自分の生き方の設計図を描くこと」という考え方に立って、生徒一人ひとりに向き合った実践的なキャリア学習を行っています。中学生はいろいろなことを吸収できる時期でもあり、自分らしいライフ・プランニングを設計していく上でも、出前授業のような形で、学校外部のいろいろな方々から話を聞くような機会をできるだけ多く取り入れていくことが必要だと思います。

事前授業と出前授業を行った家庭科室の前に貼り出された 役割シート

事前授業と出前授業を行った家庭科室の前に貼り出された役割シート