≪進路指導・キャリア教育研究協議会全国大会のポイントと
『私の行き方発見プログラム』の効果的な活用≫

新学習指導要領が目指す“資質・能力”育成につながる
『私の行き方発見プログラム』

~来年度スタートの「キャリア・パスポート」に直結する出前授業とテーマ別教材~

第68回進路指導・キャリア教育研究協議全国大会(主催:公益財団法人日本進路指導協会/共催:全国中学校進路指導・キャリア教育連絡協議会他)が、7月25日・26日の両日、東京都内で開催され、全国から集まった約300名の小・中・高校の進路指導・キャリア教育担当の先生方等が、大会主題である「新学習指導要領に向けた進路指導・キャリア教育の一層の推進」を目指して、熱心な研究協議を行いました。

第68回進路指導・キャリア教育研究協議全国大会 写真

パワーアップ情報ファイル8月号では、特に参加者の関心が高かった「キャリア教育の基礎的・汎用的能力と新学習指導要領との関わり」と、来年度からすべての小中高校で導入される「キャリア・パスポート」にスポットを当て、今大会のポイントと『私の行き方発見プログラム』の活用方法を紹介します。

■「基礎的・汎用的能力」と「育成を目指す資質・能力の3つの柱」の関連付けが重要

文部科学省がキャリア教育で育成すべき力として示している「基礎的・汎用的能力」は、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つの能力で構成されています。各学校においては、これらの能力を参考にした上で、育成しようとする具体的な能力を設定し、教育活動を工夫しながら達成することが求められており、今大会では、「基礎的・汎用的能力」を新学習指導要領の趣旨を踏まえてどのように位置づけ育成を図るのか、という観点からの実践報告が注目を集めました。

キャリア教育で育成すべき力 【基礎的・汎用的能力】 〇人間関係形成・社会形成能力 〇自己理解・自己管理能力 〇課題対応能力 〇キャリアプランニング能力  × 新学習指導要領で育成を目指す 【資質・能力の3つの柱】 (1)知識・技能 (2)思考力、判断力、表現力等 (3)学びに向かう力、人間性等

東京都大田区立矢口中学校の実践報告では、「基礎的・汎用的能力」と新学習指導要領で示された「育成を目指す資質・能力の3つの柱」との関連を示す相関マトリクスが提案されました。このマトリクスは、先進校の研究事例等を参考にしたもので、キャリア教育全体における各教科や進路指導での様々な活動の位置づけを明確にすることをねらいとしています。同校は、昨年度から「学びに向かう力を高めるキャリア教育~教科指導・進路指導を通して」という研究主題で実践研究に取り組んでおり、多様な分野・業種のゲストティーチャーによる授業を効果的に取り入れている点も特色の一つとなっています(昨年度は15名)。
同校が報告を行った分科会の指導・助言者を務めた東京音楽大学特任教授の関本恵一氏(日本進路指導協会理事)からは、「教育課程上の位置づけを明確にしたキャリア教育の全体像が不可欠。その際、総合的な学習の時間にどう組み込むかが重要で、各教科や特別活動等での実践を組み合わせることで総合的な学習の時間が出来あがっていく」とのコメントがありました。新学習指導要領にも記載があるとおり、「特別活動を要としつつ各教科等の特性に応じてキャリア教育の充実を図る」上で、様々な場面で行われるキャリア教育のねらいを明確にし相乗効果を図っていくためにも、こうしたマトリクスの活用は極めて有益であると考えます。
以下の表は、同校が作成したマトリクス表のフォーマットを基に、『私の行き方発見プログラム』の主なコンテンツや活動が、「キャリア教育の基礎的・汎用的能力」と新学習指導要領で示された「育成を目指す資質・能力の3つの柱」とどのように関連しているのかを示した一例です。各校のキャリア教育全体を俯瞰した時に、不足する部分や補足が必要な部分などに本プログラムをどのように当てはめられるのか、ご検討・ご活用いただければ幸いです。 

<表1> 東京都大田区立矢口中学校作成のマトリクスフォーマットを基にした
『私の行き方発見プログラム』と「基礎的・汎用的能力」・「資質・能力の3つの柱」との関連表

キャリア教育で育成すべき力 【基礎的・汎用的能力】 〇人間関係形成・社会形成能力 〇自己理解・自己管理能力 〇課題対応能力 〇キャリアプランニング能力  × 新学習指導要領で育成を目指す 【資質・能力の3つの柱】 (1)知識・技能 (2)思考力、判断力、表現力等 (3)学びに向かう力、人間性等

※東京都大田区立矢口中学校作成のマトリクス表を基に「私の行き方発見プログラム」運営事務局が作成

■多様な授業スタイルを活用した「基礎的・汎用的能力」の育成

東京都荒川区立第三中学校の実践報告では、「基礎的・汎用的能力」と「授業改善に向けた要素(授業スタイル)」との関連を示す相関マトリクスが紹介されました。同校では、2016年度から「基礎的・汎用的能力を育むアクティブ・ラーニングの在り方」という研究主題で実践研究に取り組んでおり、特に職場体験等の様々な体験活動を通じて生徒達が気付く社会人として求められる資質・能力を、いかに教科学習の中で身に付け確実なものにするか、という点に重きを置いています。
このマトリクスを基に実際の指導案を作成する際には、学習内容・活動ごとにマトリクスとの対応関係を示し、どの要素を使ってどの能力の育成を図ろうとしているのかを具体的に明記することで、設定した授業スタイルや教材活用のねらいを常に意識することができます。
以下の表は、同校が作成したマトリクス表のフォーマットを基に、『私の行き方発見プログラム』の主なコンテンツや活動が、「キャリア教育の基礎的・汎用的能力」と新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の要素(授業スタイル)とどのように関連しているのかを示した一例です。
『私の行き方発見プログラム』のうち、グループワークを中心とした「4つのキャリア教育プログラム教材」の場合には「①協働的問題解決能力視点」が、「社員講師による出前授業」の場合には「④外部人材活用授業視点」が特に関わっており、これらのプログラムを効果的に組み合わせて活用することで、「基礎的・汎用的能力」の育成につながるものと考えます。

<表2> 東京都荒川区立第三中学校作成のマトリクスフォーマットを基にした
『私の行き方発見プログラム』と「基礎的・汎用的能力」・「授業改善に向けた要素」との関連表

キャリア教育で育成すべき力 【基礎的・汎用的能力】 〇人間関係形成・社会形成能力 〇自己理解・自己管理能力 〇課題対応能力 〇キャリアプランニング能力  × 新学習指導要領で育成を目指す 【資質・能力の3つの柱】 (1)知識・技能 (2)思考力、判断力、表現力等 (3)学びに向かう力、人間性等

※東京都荒川区立第三中学校作成のマトリクス表を基に「私の行き方発見プログラム」運営事務局が作成

■「キャリア・パスポート」の活用では教員の対話的な関わりが重要

大会全体を通して、2020年度からすべての小・中・高校で活用が求められている「キャリア・パスポート」への高い関心が示されました。文部科学省では、キャリア・パスポートについて「児童生徒が小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのこと」と定義しており、既にキャリア・パスポートの例示資料(様式例)も公表されています。 今大会では、来年4月からの実施に向け“待ったなし”の状況にある学校現場の先生方にとって、以下のような実践的で示唆に富む多くのヒントが提示されました。

  • キャリア・パスポートのねらいは、教員の対話的な関わりを通して、子供達に自分の良さや可能性に気づかせ る機会をつくることであり、そのことが学習意欲の継続にもつながる。
    (大谷大学教授・荒瀬克己氏)
  • キャリア・パスポートは生徒がすべての学びを“自分事化”するためのツール」であり、教師の役割は“ティーチング”ではなく、生徒自身の気付きや深い内省を促す“コーチング”。
    (島根県立吉賀高校教諭・中村美楠子氏)
  • 児童生徒が自分らしさに気づくためには、親や教師以外の大人との交流を含めた体験活動が重要で、キ ャリア・パスポートの活用には言語能力の育成という観点もある。何よりも、キャリア・パスポートは作成することが目的ではなく、普段の授業でキャリア教育をしっかり行うことが前提となる。
    (日本進路指導協会理事・千葉吉裕氏)
「キャリア・パスポート」の活用をテーマに大会最後に行われた全体研究協議会の様子の写真

「キャリア・パスポート」の活用をテーマに大会最後に行われた全体研究協議会の様子

■『私の行き方発見プログラム』の実践を「キャリア・パスポート」の活用につなげる視点

『私の行き方発見プログラム』の実践をキャリア・パスポートの活用につなげるための視点として、例えば以下のような関連付けが考えられます。特に出前授業については、いわば「社員講師のキャリア・パスポート」を教材化したような要素もあることから、生徒達が自分の将来をイメージし自己実現を図っていくための“ケーススタディ”としての活用も有効です。

〇自己理解の手立てとして「プログラム④自分の“行き方”発見」を活用

文部科学省が示した中学校用のキャリア・パスポート(例示資料)では、各学年とも学年始めに「今の自分を見つめて」という自己理解を促す項目が設けられています。『私の行き方発見プログラム』の「4つのキャリア教育プログラム教材」の中の「プログラム④自分の“行き方”発見」におけるワークシート(自分の価値観を発見しよう)を使った自己理解の学習成果が、上記の項目について考えをまとめ、記載する際に活用できます。

〇職場体験活動の事前学習として「プログラム③職場体験での仕事発見」を活用

中学校用キャリア・パスポート(例示資料)では、体験活動(職場体験活動)に関するページも設けられており、職場体験活動の事前と事後に分けて記載するようになっています。特に活動前では、職場体験活動のねらいや体験先に関する情報、自分なりの課題等を記載する項目があり、『私の行き方発見プログラム』の「4つのキャリア教育プログラム教材」の中の「プログラム③職場体験の仕事発見」での以下のワークシートを使った学習が直結しています。

「私の行き方発見プログラム」の「プログラム③職場体験での仕事発見」で使うワークシート

「私の行き方発見プログラム」の「プログラム③職場体験での仕事発見」で使うワークシート

〇「今と将来のつながり」を考えるきっかけとして「出前授業」を活用

中学校用キャリア・パスポート(例示資料)では、各学年とも学年末に1年間を振り返る以下の12項目のチェックシートが設けられています。その中の一つに「今学校で学んでいることと自分の将来とのつながりを考えるなど、学ぶことや働くことの意義について考えましたか」という設問があり、これは正に『私の行き方発見プログラム』の「出前授業」のねらいと合致した観点です。社員アンケートや社員講師自身の体験を通して、学校での勉強・活動と実際の仕事とのつながりを具体的に知る出前授業での学習成果は、上記の振り返りを行う際の有効な手立てとなります。

「キャリア・パスポート(例示資料)・中学校(生徒用)」の「中学1年生・学年末」のページの一部。 1年間を振り返るチェック表の中に、「今学校で学んでいることと自分の将来とのつながりを考える」項目がある。

「キャリア・パスポート(例示資料)・中学校(生徒用)」の「中学1年生・学年末」のページの一部。
1年間を振り返るチェック表の中に、
「今学校で学んでいることと自分の将来とのつながりを考える」項目がある。

〇「なりたい自分になるために必要なこと」を考えるきっかけとして「出前授業のワークシート」を活用

中学校用キャリア・パスポート(例示資料)では、中学1・2年生の学年末に「なりたい自分になるために身に付いたと思う力とその理由」、そして「中学卒業までに頑張りたいこと(1年生の場合)」「将来の自分(30歳の私)を想像しよう」という項目があります。これについては、『私の行き方発見プログラム』の「出前授業」のグループワークで使うワークシートの項目「これから実行することを考えよう」(今日から・中学卒業まで・大人になるまで)がリンクしています。この設問は時間の関係で出前授業終了後の発展学習としての位置づけとなっていますが、キャリア・パスポートとの関連を図る観点からも、是非多くの出前授業実践校で取り組んでいただきたいと考えます。

※キャリア・パスポート(例示資料)については以下のURLを参照
 文部科学省「キャリア・パスポート」導入に向けた調査研究協力者会議(第3回) 配付資料