積極的に外部講師を活用した
「キャリア在り方生き方教育」講座(キャリア講座)学習

~川崎市立南生田中学校の取り組み~

2021年12月3日、神奈川県・川崎市立南生田中学校で「よりよい社会をつくり上げる豊かな人間の育成を目指した総合的な学習の時間における教育課程の研究~キャリア在り方生き方教育を礎に添えて」と題した研究報告会が開催されました。この報告会では、「私の行き方発見プログラム」を含む16企業・団体による「キャリア在り方生き方教育」講座が公開され、川崎市の教員や教育委員などが視察されました。
南生田中学校は、川崎市教育委員会より2018・2019年度「教育課題」、2019年度「キャリア在り方生き方教育」、2020・2021年度「総合的な学習の時間」の推進校に指定されており、今年度は4年間続けてきた推進校としての取り組みの集大成の年にあたります。
今月のパワーアップ情報ファイルでは、川崎市立南生田中学校の網屋直昭校長先生に、「キャリア在り方生き方教育」の取り組みについてお伺いしました。

川崎市立南生田中学校 網屋校長先生の写真

川崎市立南生田中学校 校長
網屋直昭先生

-----「キャリア在り方生き方教育」講座学習の概要について

川崎市教育委員会は、川崎市教育振興基本計画として「かわさき教育プラン」を策定しています。その第2期実施計画の基本政策1に掲げられているのが「キャリア在り方生き方教育の推進」です。これは、中学校学習指導要領解説の総則編にある「生徒の発達の支援1 キャリア教育の充実」に対応しています。そこで、「総合的な学習の時間」を使い、講習会や講座学習を通して、「キャリア在り方生き方教育」に取り組むことにしました。
本校では、教育課程全体を「総合的な学習の時間」を要としてデザインし直すことを通して、特色ある学校づくりとよりよい社会をつくり上げる豊かな人間の育成を目指し、矢坂健太郎研究主任を中心に取り組みました。「総合的な学習の時間」の年間計画は、探究型学習(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)の過程に基づき設定しました。ポイントは、前期は有識者による講演会を実施し、生徒に生活や社会の問題への関心をもたせること。また地域交流学習を取り入れ、生活や社会の問題について多角的にとらえること。後期は「キャリア講座学習」を開講し、地域交流学習で学んだ生活や社会の問題へ理解を深めること。そして、話し合い活動を通して、生活や社会の問題に自ら関わりを持ち解決しようとする態度を身につけさせることです。

研究発表会資料 南生田中学校で取り組んだ「キャリア在り方生き方教育」のポイント

南生田中学校「キャリア在り方生き方教育」の
取り組みのポイント(研究報告会資料より)

また、SDGsについても取り上げ、教育課程の研究に取り組みました。「キャリア講座学習」では、パナソニックの「私の行き方発見プログラム」など16の企業・団体に講座を行っていただきましたが、各講座のテーマに関連するSDGsのアイコンを付け、生徒の意識付けを図りました。  
SDGsが課題解決を目指す2030年は、現在の中学生がちょうど社会に出始める頃でしょう。環境省から2050年までには「温室効果ガス排出量0」という目標が発信されていますが、2050年には、家族ができ中学生の子どもがいるかもしれません。「お父さん、お母さんが中学生の頃には、すでにこれらの課題がわかっていたはずなのに」と、子どもに言われないためにも、より良い社会を目指し、社会課題の解決に取り組んで欲しいです。

-----「キャリア講座学習」では、積極的に外部人材(ゲストティーチャー)を活用されていますが、そのメリットは?

仕事の話や、環境・SDGsなどの話は、本で調べたりすれば、教員でもできると思います。しかし、実際にその仕事をしている人たち、それに携わっている人たちの話は格段に熱量が違います。私は「本物の話」と呼んでいるのですが、「本物の話」を聞いている生徒たちは目をキラキラと輝かせています。
有識者による講演会のひとつで、東日本大震災に関わる絵本作家の方に講演を行っていただいたことがあります。その際、挿絵を描いた画家の方が本校の近くに住んでおられるということで、一緒に来校してくださいました。しかも、3枚も原画を持ってきてくれたのです。お二人の話は生徒の胸に深く刻まれた様子で、「本物の話」は伝わってくるものが全然違うことを改めて実感しました。
研究発表会資料 南生田中学校のキャリア講座学習の整理・分析

SDGsの観点を取り入れた「新しい時代に必要となる資質・能力」の育成や、外部人材
(講師)を活用した「社会に開かれた教育課程」の実現など、学習指導要領の趣旨と親和
性が高いキャリア講座学習の取り組み (研究報告会資料より)

-----「キャリア在り方生き方教育」を通して、生徒にどのような変化がありましたか?

本校に着任した年、生徒にアンケートを行ったのですが、「生徒会活動に積極的に参加しているか」の質問に対して肯定的な回答の割合が低く、生徒たちは自主的に活動することができていないと感じました。
この取り組みを続けてきて、以前に比べ、生徒たちが社会課題に自ら関わりを持ち、解決しようとする態度が身についてきたと思います。例えば、「海洋汚染」の問題に気づき、給食の牛乳はプラスチックのストローを使わず、洗って再利用できる容器に移して飲んだ方がよいと提案したり、地域開放イベント「ふれあい広場」では、SDGsの中から「ジェンダーの平等を実現しよう」をテーマに発表したり、生徒が自分で考え自主的に行動するようになりました。生徒が楽しく「生きる力」を身につけていると感じます。

-----講座学習のような取り組みを考えている先生方にアドバイスをお願いします。

前任校で「総合的な学習の時間」に地球温暖化に関する環境講座学習を行ったのが、この取り組みの原点です。今回、キャリア講座学習を実施するにあたり、当時からご縁のあった企業の方々に連絡をとったところ、ほとんどの企業の方々に賛同いただけました。環境講座学習の時も感じましたが、多くの企業でSDGsや社会課題解決に真剣に取り組んでいることには驚かされます。
担当する教員には、講座を企業の講師に任せるのではなく、自らが授業案を作成するよう指導しています。講師は各分野の専門家ですが、授業の専門家は教員ですので、教員がしっかり授業に関わるべきです。授業の中で、生徒の活動を促し、深い学びにつながるようグループワークを取り入れたり、まとめや共有の時間を設定するなど、講師と相談しながら進めることが大事です。
すでに多くの学校で講師を招いた講演会や講座を実施していると思いますが、「キャリア在り方生き方教育」の取り組みは新しいことを始めたのではなく、今までやっていたことにさらに価値や意味を持たせて、膨らませたものです。 このような取り組みが定着してくると、「総合的な学習の時間」について、毎年、一から考える必要がなくなります。軌道に乗せるまで少し大変ですが、その分、教員の負担が減り、生徒たちの学びは大きくなるのですから、やる価値があると思います。
川崎市立南生田中学校は「キャリア在り方生き方教育」などの功績が認められ、今年度「川崎市環境功労賞(SDGsを通した環境教育・学習推進)」、「かわさきSDGsゴールドパートナー」、時事通信社「第36回教育奨励賞努力賞」を受賞、2022年1月には文部科学大臣より「令和3年度キャリア教育優良校」として表彰されました。
「私の行き方発見プログラム」は2018年度から4年連続で、同校の「キャリア講座学習」に参画しています。2020・2021年度は、パソコン室から生徒1人1台端末を活用したオンラインで、「自分の今が未来につながる」をテーマに、クイズやワークタイムを取り入れたインタラクティブな授業を実施しました。
「私の行き方発見プログラム」オンライン授業の様子

その他、キャリア教育のキーパーソンへのインタビューを紹介しています。

■企業によるキャリア教育支援を活用するポイント(千葉大学教育学部教授 藤川大祐氏)

■数学で行うキャリア教育のポイント(東京都世田谷区立深沢中学校 深沢享史氏)

■理科で行うキャリア教育のポイント(東京都荒川区立第三中学校 斉藤隆薫氏)

■社会科で行うキャリア教育のポイント(東京都目黒区立東山中学校 三枝利多氏)

■「キャリア・パスポート」の活用で期待される生徒と教師の対話的な活動
(東京音楽大学教授 関本惠一氏)

■職業が持つ学びの重要性をリアルに感じるキャリア教育を
(早稲田大学教職大学院教授 三村隆男氏)

■学校の教育活動すべてがキャリア教育(全中進前会長 近江貞之氏)