※本ページの内容は、イベント開催当時のものです。社名や組織名など現在とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
2017年3月7日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京にて「Panasonic NPOサポート ファンド」 子ども分野の成果報告会を開催しました。子ども分野の助成先9団体が参加し、2016年に「組織診断」や「組織基盤強化」に取り組んだ成果を発表。選考委員による講評や、活発な質疑応答が行われ、終了後には交流会も設けられました。
ご挨拶
成果報告会の冒頭に、パナソニック株式会社 CSR・社会文化部 部長の福田里香が挨拶しました。
「私たちパナソニックでは次代を担う世代の学び支援をテーマに、子どもたち自身で映像制作を行う『キッド・ウィットネス・ニュース』や、オリンピック・パラリンピックを題材とした教育プログラムを学校へ提供する活動も展開しています。そして、実際に子ども達と向き合う現場で活躍されているNPOの皆さんのお役に少しでも立ちたいというのが、この「Panasonic NPOサポート ファンド」です。組織基盤強化の過程では、いろいろ大変なことがあったかと思いますが、本日はその取り組みを赤裸々に語って頂き、お互いに経験や知見を共有できればと思います」
第1部:助成1年目の成果報告と講評
「第1部」では助成1年目の5団体が発表を行いました。
危機意識を共有し、何をすべきか明確になった
社会福祉法人 日本国際社会事業団
発表者:常務理事 石川美絵子 さん
「家庭養護を必要とする子どもの支援、無国籍児など外国につながりのある子どもの支援を中心に活動しています。支援母体の高齢化をはじめ、さまざまな背景から財政基盤が悪化し、本助成へ応募。組織診断の結果、事業戦略の策定や社会への発信・広報、支援的資金の拡大が課題として浮かび上がりました。ニュースレターや事業報告書、ウェブサイトの改善や、ファンドレイジング計画を策定する一方、事務局機能の強化に取り組み、できなかったことも多々ありますが、チラシの配布によって寄付額は前年比8.5倍に増加。何より職員間で危機意識を共有できたことが大きな成果です。」
支援者の特徴を分析し、情報発信を改善
特定非営利活動法人 e-Education
発表者:事務局長・薄井大地 さん
「途上国での中等教育修了支援や進学支援を行っています。私たちは学生組織としてスタートした団体で、学生が現地に飛び込み一定の成果を上げることができた一方、課題を10年スパンで解決するようなマネジメントができずにいました。国内体制をしっかり作るために本助成に応募し、ミッションを再設定。会計・ファンドレイズ・広報の3つを組織基盤強化の柱に、キャッシュフローシートの作成や支援者ペルソナの分析と情報発信に取り組んだ結果、マンスリーサポーターが着実に増加。職員全員がキャッシュフローを認識できるようになったのも本助成ならではの成果です。」
本来の理念に立ち返り、活動を文書化&数値化
特定非営利活動法人 アレルギーネットワーク京都ぴいちゃんねっと
発表者:事務局長 小谷智恵 さん
「食物アレルギーの子どもと保護者のQOL向上をミッションに活動しています。私たちは当事者スタッフによる任意団体としてスタートしましたが、ソーシャルビジネスを開始した2013年から創設者や当事者の『思いの共有』ができなくなり、事業・活動が空洞化してしまいました。当事者に寄り添う事を第一にしてきた元の組織体制へと戻るべく組織基盤強化に着手しました。理念を文書化して明確化した結果、ソーシャルビジネス時のスタッフは退職しましたが、新規スタッフも入り、またコンサルタント同席の理事会によって財務分析に基づいた中長期計画も立案できました。法人として『できること』『すべきこと』『すべきでないこと』がハッキリしました。」
助成事業で予想以上の課題を発見
NPO法人 キッズ&子育て応援隊MerryTime
発表者:代表理事 永谷陽子 さん
「10年前に法人化して以来、参加者が増える一方、方向性や対象がハッキリしないまま人間関係にも齟齬が出るようになり、組織基盤強化を図ることにしました。コンサルタントにお願いした組織診断では、価値観の明文化や共有化、管理会計や財務分析を活かした組織・事業運営、中期的視点に立ったPDCAマネジメントの不足に直面。研修を通じてビジョン、ミッションを明確にし、初めてコンセプトブックも作成。さらにコアメンバーを組織化することで次への方向性を見いだすことができました。この機会がなければ分裂していたと思います。予想以上の課題が見つかる助成です。」
他のフリースクールとの恊働へ進化
特定非営利法人 ふぉーらいふ
発表者:副理事長 矢野良晃 さん
「不登校・発達障害の子どもに学び支援を行うフリースクールを運営しています。法人化を機に事業を整理したものの、業務内容は個人の能力に依存する形が続いていました。この度、組織診断を受けて取り組んだ課題は3つ。団体の年間業務量の見える化と業務削減の検討、子どもと保護者の満足度アップ、研修の企画実施です。とくに、必要なことを考える前に『しないこと』から考えるようになったこと、外部コンサルタントを交えた研修で、外にも伝わる言葉で言語化できたことは大きかったです。本助成に参加している「フリースクールみなも」さんとの恊働事業も実現しました。」
講評
各団体の発表後には質疑応答があり、選考委員の方々から講評をいただきました。
新たな課題にも本助成の経験を活かして
パナソニック CSR・社会文化部
部長 福田里香
今日の成果報告は、各団体、分かりやすく報告をまとめられており、そこにも基盤強化の成果が表れているのではないでしょうか。「日本国際社会事業団」は本助成事業でできたこと、できなかったことをしっかり把握されていますし、今後もサステナブルな活動ができると思います。「e-Education」は年数を重ねるほど、また新たな課題が出てくると思いますので、本助成の経験をもとに課題を解決し、活動を発展させていただきたいです。
客観性のある言葉で「らしさ」を伝える大切さ
特定非営利活動法人 東京シューレ
事務局長 中村国生 さん
「MerryTime」は、コンセプトブックを作ることで当初不明だった「らしさ」をメンバーが共有し、外部へも伝え、それをもとに人が集まってくるように変化してきた様子がよく分かる報告でした。また、「子育て」ではなく「子育ち」という子どもを主体にした言葉にこだわったのも心に響きました。フリースクールは人件費等固定費の割合が大きく経営が難しいのですが、「ふぉーらいふ」は、子どもの活動にかかりきりの中、本助成事業に取り組まれたことは立派です。今後のステージに期待しています。
NPOの本当の使命を改めて見せてくれた
特定非営利活動法人 子ども劇場等京都協議会 常任理事/子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事
森本真也子 さん
「アレルギーネットワーク京都ぴいちゃんねっと」は、ソーシャルビジネスを数年やったあとスッパリ止めようと決断したことが凄い勇気ですよね。その決断を経て今があるのだと思います。「できること・できないこと・すべきでないこと」を明確にできたのは、ご自身のパッションが明快だったからでしょう。「私益の究極は公益だ」というNPOの使命の典型を感じさせてくれる成果報告でした。
第2部:継続助成団体の成果報告と講評
続いて助成2年目の3団体と3年目の1団体より発表がありました。
管理部門強化に取り組んだ2年間が、今の礎に
特定非営利活動法人 キッズドア
発表者:理事長 渡辺由美子 さん
「日本の子どもの貧困問題に取り組んでいる団体です。活動範囲の急拡大に伴い、事務局体制を強化するために本助成に応募。全職員対象の組織診断を実施したところ、会計面や労務管理が弱く、事業計画や予算計画が共有されていないなどの問題が洗い出されました。助成に取り組む中で、メンバーそれぞれの事業への想いが浮き彫りになりりました。方向性が固まり、会計や労務管理を強化することで、2015年度には事業規模が1億円を超えました。また、仙台事務所とのTV会議システムも導入し、全員参加の初の合同研修も実施。管理部門の強化をめざしたこの2年間は、今の礎になっています。」
内外のコミュニケーションが円滑かつ効率的に
特定非営利活動法人 フリースクールみなも
発表者:理事長 今川将征 さん
「不登校の子どもたちを総合的にサポートするNPO法人です。法人が成長し、理事長の事務負担に限界を感じたのが本助成へ申し込んだ動機です。組織診断の結果、部門間のコミュニケーション不足や法人ミッションが明確でないといった課題が見つかり、基盤強化へ取り組むことに。コミュニケーションにおいてはネットツールやSEに時間割のシステム開発を依頼。ホームページはプロに依頼することで分かりやすい情報発信が実現。予算や人事も利害のない第三者の目から検討することができました。2年間の助成で得られた『みなもらしさ』を踏まえ、今後も想いを形にしていきたいです。」
ファンドレイジングに対する意識が向上した
認定特定非営利活動法人 ソルト・パヤタス
発表者:事務局長 井上広之 さん
「フィリピンを活動地に、貧困地区の子どもたちのライフスキル教育を行っています。組織の財政基盤が不安定なことから、外部コンサルタントによる組織診断を実施。中期計画の不在や業務量の過多が課題となり、2年目には業務の効率化やファンドレイジング、コミュニケーションの改善に取り組みました。一般寄付の増加や新規会員の獲得、理事会・合宿の定例化などの成果が得られ、計画に対する意識が向上。当初は財政の安定=組織基盤強化だと思っていましたが、本助成を通じ、重要なのは関わっている人たちの想いを理解することだと気付きました。」
活動の先にある姿を見据えて
認定特定非営利活動法人 みやぎ発達障害サポートネット
発表者:代表理事 相馬潤子 さん
「市民に向けてアドボカシーできる人材育成をめざしてきましたが、3年前は職員も多忙で疲弊困憊の状況。事業中心の視点から組織を考えた視点へ、基盤強化を図るべく助成を受けました。課題解決の支えとなったのは『活動の先にある“人”を考えて行動すること』。そして『療育は法人の柱なり』という全職員の一致した想い。活動内容の発信ツールの強化や中堅職員育成講座のプログラム確立、療育課題実践集の完成といった3年間の成果は、2017年に向けた次の目標へとつながり、かつてのように目の前の仕事に追われるのではなく、能動的に動く組織へと大きく変わりました。この取り組みに関わって下さった多くの方々に感謝しています。」
講評
各団体の発表後には質疑応答があり、選考委員の方々から講評をいただきました。選考委員の森本さんからは、引き続き全体講評もいただきました。あわせて本ファンドの協働事務局である市民社会創造ファンドの山岡運営委員長からも全体講評をいただきました。
想いが伝わる有機的なマニュアルが大切
よく「組織」と「人」は「バス」のようなものに例えられます。進んでいく大筋の方向は同じですが、運転手や乗客はどんどん変わっていくものです。だからこそマニュアルが必要になるわけですが、忘れてならないのは「魂」が大切であるということ。文字にするだけでは伝わらない。「ソルト・パヤタス」の発表を聞いて、想いが伝わる有機的なマニュアルが重要なのだと改めて思いました。
他のフリースクールの見本になる取り組みだった
「みなも」の発表を聞くと、本当に手厚く総合的なサポートを行っているフリースクールなんだと感じます。団体構成員間のコミュニケーションという課題にしっかり向き合い、具体的にツールを開発されたり、理事や外部の役割を明確にしたことなど、他のフリースクールの見本になることが多い成果報告でした。「みなも」の取り組みを一つのモデルに、ますます日本のフリースクールが発展するよう、お互いに頑張っていきましょう。
教育のみならず暮らしにも目を向けた活動を
子どもの貧困率の少ない国は、社会全体が子どもを育てている国なんですよね。「キッズドア」のエネルギーは、まさにそこに向かっている。活動が広がり、日本に真のソーシャルインパクトを起こす団体になってほしいと思います。「みやぎ発達障害サポートネット」は、自分たちに何が足りないのか素直に受け止め、活動の先にどんな社会を作りたいのかイメージを強く持っている素晴らしい団体でした。
子ども問題を考えるとき、私たちは「教育」に目が行きがちですが、実は大切なのは「暮らし」の部分。夜3時までタブレットで通信ゲームをしたりSNSで会話している子どもたちが多い昨今ですが、そうした子どもたちもまた「人と会いたい」ことには変わりありません。教育制度や学習支援も大事なのですが、それだけが子どもの生活ではないということを理解し、そうした視点で活動を広げていければと思います。
全体講評
流行に巻き込まれない本物の強化プログラム
特定非営利活動法人 市民社会創造ファンド
運営委員長 山岡義典 さん
今回の成果報告は、みなさん非常に分かりやすくまとめていらっしゃって興味深かった。私は当初、組織診断を「健康診断」や「耐震診断」に例えて考えていましたが、今はちょっと違ってたかなと感じています。もしそうだとすれば、それは「経営診断」に当たるのでしょうが、そうなら中小企業診断士にお願いすればよいわけです。NPOの組織診断という場合は、健康だけでなく「人生や生き方」の診断であり、また耐震だけではなく「住まい方」まで診断するものです。このファンドの意義の一つは、そのような診断のできるコンサルタントを各地に育ててきたことでもあります。
今回の報告書を読んでハッとした一節があります。それは「これまでさまざまな外部組織・中間支援団体の介入を受けてきたが、組織としてめざす形が明確になったため、流行に巻き込まれない堅固な方向性が築けた」という一節。ソーシャルビジネスやクラウドファウンディングなどを使いこなすのはいいのですが、それだけに頼ってはいけない。敢えてそれらから離れる決断をしたということは、凄いと思いました。私は今回の報告に際して、この組織基盤強化が普遍性を持つ本物のプログラムになってきたと確信しました。
修了書の贈呈
3年目の助成を終えた認定特定非営利活動法人 認定特定非営利活動法人 みやぎ発達障害サポートネットに、パナソニック株式会社 CSR・社会文化部 部長の福田より、修了証が贈呈されました。今回の贈呈では、逆に代表の相馬さんから「NPOサポートファンド」へ感謝状を頂くという嬉しいサプライズもありました。