Panasonic NPOサポート ファンド for アフリカ
特定非営利活動法人 ダイヤモンド・フォー・ピースの活動報告会レポート

すべてのダイヤモンドが人道・環境配慮の上、採掘・カット・製造されることが当たり前の社会を目指して

「Panasonic NPOサポート ファンド for アフリカ」では、アフリカ諸国の課題解決に取り組むNPO/NGOの広報基盤の強化に助成しています。助成事業では広報基盤を強化いただくための取り組みにあわせて、自分たちの活動を広く報告いただく場を設定いただくことをお願いしています。 2018年度の助成先の一つ、特定非営利活動法人ダイヤモンド・フォー・ピースが、2018年12月2日(日)に渋谷区恵比寿にある栄治出版EIJI PRESS LABにて「みんなでつくる持続可能なサプライチェーン」と題して活動報告会を開催。活動を始めた経緯や、ダイヤモンドの採掘・製造にかかわる労働者の労働環境改善・社会的地位の向上の取り組みについて紹介がありました。

※サプライチェーン:原材料の段階から製品やサービスが消費者の手に届くまでの全プロセスの繋がりのこと。

「ダイヤモンドにかかわる人すべてが幸せになってほしい」という願いを込めて

代表 村上 千恵 さん

代表の村上千恵さんは大学時代にスーダンの飢餓を知ったことから、米国の大学院に進み国際開発学を専攻。修了後、ハイチ・ラオス・ケニアにおいて国際協力の仕事に携わります。そして自分に贈られた婚約指輪をきっかけにダイヤモンドに興味を持ち、調べていくうちに、紛争ダイヤモンド・環境破壊・児童労働といったダイヤモンドを取り巻く様々な実態を知りました。

「ワクワクするような素敵なストーリーが詰まっているに違いないと思ったら、実際は、ダイヤモンドを売ったお金で武器を買って内戦がひどくなってしまっている。子どもを鉱山やカットする工場で使っているとか、ということを知って驚きました」

そこで、ダイヤモンドにかかわるすべての人が幸せになり、フェアに取引されたダイヤモンドが当たり前に流通する社会を目指したいと、団体を立ち上げました。
2014年に活動を開始した特定非営利活動法人ダイヤモンド・フォー・ピースは、ダイヤモンド取引・採掘における問題の啓発や、採掘・製造にかかわる労働者の労働環境改善・社会的地位の向上に取り組んでいます。

今回の報告会のタイトルは「みんなでつくる持続可能なサプライチェーン」。
なぜ、「みんな」としたのか? それは、ダイヤモンドを採掘して、最終的に消費者に届くサプライチェーンの過程の中でも一番力を持っているのが、お金を出して購入している消費者だから、と村上さんは言います。

「この会場にいらっしゃる皆さんは、お客さんとしてダイヤモンドにかかわる場合が多いと思います。その皆さんが、『このダイヤモンドは、どこからきて、どんな人たちがかかわって自分の手元に届くのか』ということに興味を持ち質問の上、購入してもらえれば業界は変わります。お客さんである皆さんが、力を持っていることをまず知っていただいて、その力を行使してもらえれば、という願いをこめて『みんな』としました」

写真:代表 村上千恵さん

報告会には10代から50代の男女30人以上が参加。国際協力機構(JICA)やNGOの仕事でアフリカ諸国に赴き国際貢献の現場にかかわってきた人たちや、ジュエリーメーカーの社員や宝石店を経営する人、環境コンサルタントや物流に関わる人、紛争ダイヤモンドを巡る映画『ブラッド・ダイヤモンド』を観て気になったから、という人まで、多様な背景の人たちが、現地に想いを馳せ、自らができることを考える機会となりました。
※『ブラッド・ダイヤモンド』:アフリカ・シエラレオネを舞台に、内戦の資金調達のために不正に取引されるダイヤモンド、いわゆる紛争ダイヤモンドを巡ったサスペンスドラマ。

「みんなでつくる持続可能なサプライチェーン」報告会の様子1
「みんなでつくる持続可能なサプライチェーン」報告会の様子2
「みんなでつくる持続可能なサプライチェーン」報告会の様子3

極度の貧困の連鎖が問題の核にある

ダイヤモンド・フォー・ピースが支援しているリベリア共和国(通称リベリア)は、国土の大きさが日本の約3分の1、人口が460万人という西アフリカの国です。ダイヤモンドが採掘されている地域は無電化で、多くの村には病院も学校もありません。村によっては子どもたちが小学校にも行けないため、単純労働にしか就けず、低賃金の末端労働者として搾取され、大人になっても貧しいまま、それが次の世代にも引き継がれ、貧困の連鎖が続いているといいます。
つまり極度の貧困がダイヤモンドにまつわる多くの問題の原因になっているのです。

そこで、村上さんたちは手堀りダイヤモンド採掘労働者の自立支援活動を現地で立ち上げました。
「まず、2014年5月にリベリアでダイヤモンドの採掘をしている数村を視察、2016年には一村ずつ訪ね聞き取り調査を行いました。その後私たちの自立支援プロジェクトにやる気をみせてくれたパポル州のウィズア村を活動の対象とすることに決めました」と村上さん。

今進めようとしているプロジェクトは、労働者の収入をあげるための『より効果的な採掘方法の導入』『効率的な副業の導入(養蜂)』と『組合化』支援の活動から成ります。養蜂は、週に15分手入するだけで年に1、2回はちみつが取れるので、採掘労働者の副業として最適だと考えているとのこと。また、蜂蜜であれば買ってくれる企業が既にあるそうです。
また、採掘労働者は個人で採掘をする人が多いため団体交渉ができず不利な条件で搾取されてきたため、「組合化することで採掘権保有者や仲買人(ブローカー)に対する発言権が増すことを目指しています」。
全産品に共通するフェアトレード認証要件の一つに「生産者が組合化されており、民主的に組合が運営されていること」があるのも理由の一つだと村上さんは言います。

手掘り採掘の風景
ダイヤモンドを掘るために学校をやめた子どもたち

欧米ではフェアなダイヤモンド取引への関心は、
日本とは比較にならないくらい高い

相田 華絵 さん

次に団体の啓発活動の紹介が相田華絵さんからありました。
相田さんは、看護師としてガーナ、シエラレオネ、リベリアで働いた経験から、「リベリアにかかわる活動がしたい」とダイヤモンド・フォー・ピースの活動に参加しています。

活動を知ってもらうため、ウェブサイト、SNS、書籍の刊行、イベント出展、講演会などに取り組んでいますが、中でも一番の情報発信の場はウェブサイトだと相田さんは言います。日本語のサイトの更新は頻繁にできていましたが、英語のサイトになかなか手が回らないのが現状だったそうです。

しかし、フェアなダイヤモンド取引に対する問題意識は日本に比べ、欧米のほうが高い。そのため、英語のサイトを再構築してより魅力的にすることで、欧米の支援者を獲得することが差し迫った課題でした。そこで、アフリカ諸国で活動するNPO/NGOの広報基盤強化を支援している「Panasonic NPOサポート ファンド for アフリカ」に応募し、広報基盤の強化に取り組むことになりました。

最初に、誰がサイトを見に来るのかや、どんな情報を発信すべきかなどを洗い出し、ターゲットを明確化、それにそって、掲載する写真の撮影なども行い、記事の執筆にも活かしているそうです。
また、イギリスやアメリカでのジュエリー関連のカンファレンスにも参加し、支援者の獲得や今後の活動のヒントなどを得ました。

まだまだダイヤモンドに関する問題への意識が低い日本。
映画公開を機に関心を持ってくれることを期待

報告会ではさらに、「日本におけるダイヤモンドの消費者および、ダイヤモンドを販売している企業を対象にしたアンケート調査」の結果が発表されました。
インターネットを使った消費者の意識調査と、ダイヤモンドを扱うブランドや販売企業100社に郵便で質問状を送る調査、そして実際に店舗などで販売している店員の知識を知るための覆面調査を行ったそうです。

写真:ダイヤモンド白書

消費者への調査では、「ダイヤモンドには、人道または環境の問題があると思うか?」には41.8%の人が「あると思う」と答えたものの、「ダイヤモンドを買う時に、原産地、採掘・製造過程における人権・環境配慮について販売員に質問したことがあるか?」には80%以上が「ない」という回答でした。

企業を対象とした調査では、100社に送ったアンケートに対して返答があったのは、わずか10社から。このことだけでも問題意識が低いという現状を表しているといえます。回答があった10社のうち、課題があると答えたのは41.8%、人道性や環境配慮の状況については43%がわからないと答えたそうです。

ジュエリーショップでの覆面調査では、販売されているダイヤモンドが採掘された鉱山名や鉱山の労働環境を知っている店員は、ほぼいないという結果でした。
「この調査結果を踏まえ、ダイヤモンド・フォー・ピースが実施している啓発活動を改善していきたい」と相田さん。
この調査結果は「ダイヤモンド白書」として発行しています。

報告会では参加者の方々に、ダイヤモンドの流通の現状、課題、フェアなダイヤモンドを購入したい時、販売業者に確認すると良いことをまとめたチラシを見てもらい、改善点などの意見を出してもらう時間もありました。

写真:代表 村上千恵さん

報告会の最後に、村上さんから今後の展望についてお話がありました。
「私たちの団体は2015年にNPO法人格を取得したばかりで、まだまだ創設期真っ只中ではありますが、日本とリベリアでの活動拠点整備が進み、さらなる活動が動き始めています。採掘関係者の能力開発プログラムを開始させたり、イギリスで製作されたダイヤモンド採掘労働者のドキュメンタリー短編映画「Voices of Mine」の日本語字幕制作を進行中で来春には完成予定です。映画をきっかけにしてダイヤモンドの問題に関心を持ってくれる方が増えることを期待しています」

「まだフェアトレードのダイヤモンドの認証基準は世界に存在してない。そういったものをつくっていきたい」と村上さん。フェアトレードの概念をダイヤモンドに応用し、フェアなダイヤモンドが国際正規市場に当たり前に流通するという大きな目標に向かって、着実に活動を積み重ねている様子が伝わる報告会でした。

Panasonic NPOサポート ファンド for アフリカでは、社会課題の解決に取り組むNGOが持続発展的にアフリカ諸国の課題解決に取り組めるよう、広報基盤の強化に助成しています。
今後も社会において重要な役割を果たすNPO/NGOの皆様ともに、組織基盤強化の取り組みを通じて市民活動の持続的発展、社会課題の解決促進、社会の変革に貢献してまいります。