海外助成 2018年募集事業 選考委員長総評
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創業100周年の記念すべき年に、ここに総評をさせていただくことを光栄に思い、謹んで申し述べます。
助成
2001年に子ども分野から始まったサポートファンドは2002年に環境分野が、2010年にアフリカ分野が新たに加わり、2018年に助成テーマが「貧困の解消」に改定されました。組織と同様に助成プログラムも環境に対応し変化することで有意味性を増します。海外分野での大きな外部環境としては、国連で2000年に策定されたMDGsを引継ぐ形で2015年に、2030年までの国際目標・SDGsが設定されました。この実現を担う機関は政府・企業をはじめとする民間セクター・市民社会が挙げられます。このアクターの一つとしてNGOがあり、今回の海外助成は主にこの国際協力を行う組織を対象にしています。
助成対象の組織基盤とは何なのか。例えば中長期間において継続・安定した活動を実施する為に必要なことなどと定義できるかもしれません。その為には活動する人・給与支払を含む活動資金・これを得る為のプロダクトが必要です。継続して良質な活動を行う上でこの組織基盤は必要ですが、これを強化するための資金は現地での活動資金を得るより困難なものです。組織の支援者は自ら提供したものや社会から集めた資金を組織の人件費にではなく事業費に投資することを望むという調査研究報告もあります。この状況で、本助成金が人件費にも充当できることは特徴です。国の助成金は人件費を含む管理費をできるだけ低減することが望ましいとの話があるなか、助成を受ける組織にとっては有難い存在です。また単年度ではなく伴走者と最長2年8ヶ月間、課題に取り組めることは、簡単には成し遂げられない組織基盤を強化するという目的にも適っています。
選考
プログラム改定に伴い、申請書も従来の利点を活かしつつ改築されました。助成金申請の書類を作成することは多くの組織で、”面倒”な仕事のひとつです。今年度からのユニークな点は、記入を進めること自体で簡易な組織診断を行える様に設問が構成されていることです。組織のミッションから始まり、環境分析・将来展望・課題・その解決手段と、組織内外の情報を順次掘り出してゆくなかで、一つの筋道が見えてきます。手間を掛けていただくからには、それ自体からも何かを得ていただくという心からでしょう。論理的に構成されているため審査をする側も読みやすいものとなっています。また応募に際し助成内容の説明会を兼ねた組織基盤強化ワークショップも全国7ヶ所で開催されました。これも説明のみではなく参加いただくことで組織基盤強化を考えていただけるもので、プログラム全体が有機的な結びつきがあるものでした。
応募基準を満たした団体の申請内容を、選考委員会にて募集要項の選考基準(目的・時期・方法・体制と予算・変革性・他組織への波及効果)にどれほど沿っているかを確認しました。選考体制は、アフリカ分野ご専門の市民ネットワーク for TICAD世話人・米良氏、本ファンドからもこれまでに支援を受けた経験を持ち大いに組織を成長させたICAN・井川事務局長、NGOの連携を行い多くの非営利組織をご存知の横浜NGOネットワーク・小俣エグゼクティブ・プロデューサー、そして助成審査に永年たずさわり助成支援についての知見の深いパナソニック・福田部長と、強力な体制で書類審査を行いました。
複数の視点から議論がなされ、多くのコメントが出され、結果として9団体を候補とし、宵やみの前に選考委員会を閉じました。その後、事務局の担当者が、推挙されたすべての団体を訪問し、選考委員会で出された疑問点・改善点の確認がなされました。その後ヒアリングで得られた内容を事務局と選考委員長とで共有し、最終的な支援先が7団体に確定しました。中には内容の改善を求めるものもあり、当該団体の方は更に仕事がありましたが、組織基盤強化により資する計画に修正されました。見ようによっては、面倒だと思われるかもしれませんが、資金を提供するのみではなく、伴走して細部まで詰めるところに、共に事を成す助成の意味を見出します。
結果
助成先に決定した団体の主な所在地は、東京・三重・福岡・岡山・名古屋と比較的広い地域になりました。またこれまでのアフリカ分野の目的も継承することから、同地域で活動をしている組織を2団体以上採択する約束もしていましたが4団体が該当しました。そして組織診断から始める団体は4件、組織基盤強化からは3団体でした。組織基盤強化の内訳は、収入拡充のためのwebサイトの充実1件、組織成員のマネジメント意識の醸成等能力開発と組織変革が2件でした。助成先に選定されなかったものも含めwebサイトの改築は数件の申請がありました。webで活動を宣伝しそこでの寄付や会費を収集し収入向上を目論むもというのが大方の筋道でした。しかしながら組織基盤の強化に資するプロダクトがしっかりしていないと、宣伝効果は発揮されません。併せて助成を受けたのちの継続性も重要で、この辺りは選考委員会としてもコメントをさせていただきました。
今回の助成先には以前に支援を受けた団体もありました。一度助成を受けたため不要ではないか、もしくは当時の助成は功を奏さなかったと考えることもできますが、再度助成を受けることは必ずしも不適切なことではありません。経営学には組織進化論という考え方があります。組織は、変化を要したり変化している状況から、環境に対応するために必要なものを選択し、その状況を維持します。そして維持したものをまた変化させる必要性もでてきます。組織診断は組織が今どの状態にあるのか、変化か・選択か・維持か、それを見極める為にあります。
組織診断で採用された4つの団体は、大きな本部を有するが日本で成長に腐心している、創業者からの世代交代の必要性が顕在化している、収入拡充のための選択肢を決め兼ねている、現在の支援者からの資金流入が減りそうな未来が見えていて変化をしなければいけない、といった課題をお持ちでした。そしていずれも今回の組織診断を経て、その後の組織基盤強化につながると推測できる内容でした。外部の伴走者の客観的な視点も入れて進む方向と解決策を明確にすることで、次の組織基盤強化がより効果を発揮します。組織は何でも変えれば、また何でも守り続ければ良いというものでもなく、変化する環境下で活動するために必要な選択は何かを見極め、対策を実施することにより組織の基盤は強化されるのです。
さて、この組織基盤強化は営利・非営利にかかわらず、組織が必要とすることです。そして経営の神様が支援する組織基盤強化への助成は、まさに勝地であるといえます。助成を受ける団体はこの100年継続した組織の力を借り、今回の助成をテコの支点として大いに活用し、世界にある社会課題を解決していただくことを祈念しています。この度のプログラム改定は機に適したものであり、募集・審査も公正な手続きにより行われ、事務局の適切かつ丁寧な支援もあり、結果、助成目的に合致し効果的成果が見込まれる助成先が選定されたことを改めて申し上げます。
<選考委員> |
★選考委員長 |
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中山 雅之 |
国士舘大学大学院 グローバルアジア研究科 准教授 ★ |
井川 定一 |
認定特定非営利活動法人 アイキャン 理事・事務局長 |
小俣 典之 |
特定非営利活動法人 横浜NGOネットワーク エクゼクティブ・プロデューサー |
米良 彰子 |
市民ネットワーク for TICAD (Afri-Can) 世話人 |
福田 里香 |
パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 |
海外助成 選考委員長
中山 雅之