はじめに
2024年は、パリオリンピックという華やかな祭典のあった年というよりも、国内外で自然災害が頻発し、世界中で注目される選挙が行われ、戦争は終わるどころか泥沼化していった年として記憶されるでしょう。そのなかで「貧困」は深刻化し、そこから生まれる格差の拡大がさらなる分断を助長しています。本ファンドは、そのような悪循環を断ち「貧困の解消」のために、石をひとつひとつ積み上げるように活動を行うNPO/NGOを対象としたものです。
今年度の応募数は17団体(新規12、継続5)となり、残念ながらこれまでで最も少ない件数となりました。このうち資格審査で新規1団体が対象外となり、選考委員会にてヒアリング対象が4団体に絞られ、最終的には新規で「組織診断」が1件、継続で「基盤強化」が2件、計3団体が採択、助成総額は536万円とこちらも過去最低金額となりました。
応募状況について
過去最低の応募数になったことについて、私たち選考委員も正面から向き合う必要があります。応募団体の傾向をみると、申請コースや申請金額、地域、法人格、財政規模では過去2年と比較しても大きな違いはありませんが、設立年数でいうと、設立後10~19年の団体数はほぼ同数に対して、9年以下の比較的新しい団体と20年以上の老舗の応募が半減しています。また活動地域についてはアジアが実数として過去2年と比べると半数以下となりました。このような傾向からすべてを語ることはできませんが、社会や時代の変化のなかで海外活動を行う団体の地殻変動が起こっているという問題意識を持っています。
アジア諸国の経済発展、円安、国からの資金の減少、国内問題と比較しての相対的な関心の低下、インパクト重視のソーシャルビジネスへの注目など、従来型のNPO/NGOに置かれている状況は厳しく、目の前の事業を成り立たせることで精いっぱいで、余裕がなくなっているのかもしれません。歴史のある団体はメンバーの高齢化が進み、人材が不足、一方でファンドレイジングの手段や機会が多様化し、このような新しいツールを活用できる団体は事業化を急ぐでしょう。どちらの場合も組織基盤強化は後回しになる可能性があります。
審査について
本ファンドの主旨は組織基盤強化助成にありますが、今年度は事業助成ととらえられる応募が目立ちました。現場に向き合う団体ほど、事業や活動を軌道にのせたいという意識が強くなるのは当然ですが、その事業を継続・発展させるためには、目の前のことだけではなく、組織基盤という土台をしっかり固める姿勢が重要で「今の組織体制で10年後の現場に向き合うことができるのか」という問いに答えられなければなりません。
そのなかで、採択された団体は、プロボノ中心による運営、ブロックチェーンを活用したコミュニティ運営など、ワークスタイルの変革やデジタル化というトレンドを自組織に活用する提案や、ステークホルダーとのリアルな接点を重視する施策など、それぞれの団体の実績に基づく地に足がついた提案でした。NPO/NGOという組織は想いのネットワークという側面があり、組織内外の境界線は曖昧になりがちで、NPO/NGO運営の要諦は、その境界線のマネジメントにあるともいえます。ときには境界線をぼやかし、多くの仲間を引き入れ、ときには境界線を明確にし、成果の最大化や効率化のためにガバナンスを強化する必要があります。特に本ファンドの対象団体は、日本と海外という複数の拠点があることが多く、より難しいかじ取りが求められます。採択団体はその境界線のマネジメントを意図的に行うことを目指しており、逆にその境界の曖昧さに意識的になれなかった団体の企画が不採択となったともいえるでしょう。
総括
組織基盤強化を支援することは「これからの組織」に光をあてることで、その可能性を広げていくことです。そのような発展途上の組織であっても、助成金を扱える最低限のガバナンスと、外部協力者にまかせきりにならない自律性、そして、何よりも自分たちの組織の「みたくないものをみる」という覚悟が必要です。
応募数の減少・採択数の減少という結果から少々厳しいことを申し上げたかもしれません。もちろん応募団体すべてが世の中をよくしたいと努力しつづけており、本ファンドの主旨からいってももっと応援したいというのが選考委員の総意でした。ただ、本ファンドが目指すものを大事にし、対象団体の成長やソーシャルセクター全体の進化のために、あえて厳しい決断をしたことをご理解いただきたい。今回の採択団体や未来の採択団体のために、本ファンドの選考委員・事務局ともに、今後もよりよい助成の仕組みになるように努力してまいります。
<選考委員> |
★選考委員長 |
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松本 祐一 ★ |
多摩大学 経営情報学部 教授 |
井川 定一 |
AVPNマネージャー |
坂口 和隆 |
認定特定非営利活動法人 シャプラニール=市民による海外協力の会 |
米良 彰子 |
認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン |
堂本 晃代 |
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 |