はじめに


2025年は、世界的な不確実性が増し、国際社会が混迷の時代へと突入した年となりました。トランプ政権の誕生に象徴されるように、アメリカでは「自国第一主義」の政策が展開され、援助機関の事業停止など、他国への支援よりも自国の利益を優先する傾向が強まっています。この潮流は、もはやアメリカだけにとどまりません。
日本においても、多様な社会課題が顕在化する中で、「他国を支援している場合ではない」という内向きの雰囲気が蔓延しつつあります。8月に発生したJICA解体のデモ事件は、ある事業がアフリカからの移民受け入れを促進するものと誤解されたことによるものでしたが、結果的に事業の廃止を余儀なくされた事態は、国際協力を行うNPO/NGOにとって厳しい時代を迎えていることを象徴しています。
このような厳しい状況下、今年度の応募数は22団体(新規17、継続5)となり、最低応募数であった昨年度より新規応募が5件増加しました。このうち、資格審査で新規3団体が対象外となり、選考委員会にて新規4件、継続3件に絞り込まれました。その後のヒアリングと条件の調整を経て、最終的には新規の「組織診断」3件、「基盤強化」1件、継続の「基盤強化」3件の合計7団体が採択され、助成総額は1,150万円となりました。

海外助成 選考委員長
松本 祐一

応募状況の傾向


過去最低だった昨年度よりも応募数が増加したことは、多様な周知活動を展開し、丁寧な説明を繰り返してこられた関係者各位の努力の賜物と言えます。
応募22団体の内訳を見ると、設立後20年以上の歴史ある団体が45.4%と半数近くを占めました(昨年度17.7%)。これに伴い、財政規模においても5,000万円以上の団体が約4割を占める結果となっています(昨年度23.6%)。逆に、1,000万円未満の団体は18.2%と、約3割だった昨年度よりも減少しています。活動地域は、昨年のアジア中心から分散化が進み、アジア37.1%、アフリカ34.3%、中東14.3%という構成でした。
老舗や規模の大きな団体からの提案は、取り組みのレベルが非常に高いものが多くありました。しかし、それぞれの繰越金の蓄積を見ると、組織基盤強化にも自己資金を積極的に投資してほしいという期待も生まれます。とはいえ、そのような団体であっても助成金に頼る状況は、昨今の不確実な環境下において、防衛的な経営判断の表れなのかもしれません。

審査における視点


今回の審査でのキーワードは「切迫感」でした。助成金の必要性はもちろんですが、団体役職員の高齢化や経営危機の回避、業務の効率化・属人化からの脱却、新たな財源づくりのための国際資金基盤の構築など、「この機会に行き詰まりをなんとかしたい」という強い意気込みが伝わる提案が高く評価されました。また、一組織にとどまらず、国際協力の「業界」全体に波及する可能性を秘めた取り組みが採択されたと言えます。
残念ながら不採択となった企画にも意欲的なものはありましたが、企画が組織基盤強化にどのように寄与するのかのロジックが不明確なものが多く見受けられました。その中でも、特に海外渡航を伴う計画については、選考委員会としてシビアな視点で審査しました。海外拠点の基盤強化や現地団体とのネットワーク形成など、現地に行かなければわからないこと、伝えられないことも確かにあります。しかし、オンラインやリモートでの活動が日常となった今、現地に「行く」ことの意味や価値を、より明確に、論理的に説明できることが求められます。
また、継続事業の応募については、組織診断の結果がなぜこの企画につながったのかの明確な説明や、複数年の取り組みによって確実に進化した過程を具体的に描くことが必要不可欠です。

総括:時代に対応し、業界を牽引するファンドへ


世界的に国際協力の構造が変わろうとしている今、本ファンドの役割や位置づけも変わらざるを得ないと感じています。自国優先の傾向が強まるなかで、日本の団体が海外で支援活動を行う正当性を説明する圧力はさらに高まるでしょう。縮小する公的資金に頼る事業モデルそのものを変えていかなければ、その事業モデルを前提にした組織基盤強化は「絵に描いた餅」になる可能性があります。本ファンドは組織基盤強化のためのものですが、車の両輪となる事業のあり方自体もモデルチェンジしていくことを視野に入れなければ、真に強固な組織基盤は構築できません。
したがって、個別団体の組織基盤強化も重要ですが、「業界」全体を底上げするような取り組みは、今後ますます必要になってくるという認識です。国際協力のエコシステムの進化を意識しながら、本ファンド自体も、この時代に対応し、業界を牽引できる存在として考え続け、変わり続けなければならないと考えます。

<選考委員>★選考委員長

松本 祐一 ★多摩大学 経営情報学部 教授
総合研究所 所長
特定非営利活動法人 NPOサポートセンター 代表理事
井川 定一スタンフォードソーシャルイノベーションレビュー・ジャパン副編集長
AVPN マネージャー
一般社団法人 トラスト・ベースド・フィランソロピー・ジャパン 事務局長
坂口 和隆くらしにツナガル HātWork 共同代表
武蔵野大学 非常勤講師
米良 彰子認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン
事務局長
堂本 晃代パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
企業市民活動推進部 部長