はじめに
貧困の解消が大きな社会問題として掲げられている動向を受けて、サポートファンドに、「国内における貧困の解消分野」が加わり3年目になります。このような時期に新型コロナウイルスの襲来を受け、貧困問題は予想もしなかった規模で拡大しつつあります。すでに新型コロナ禍前に広がっていた格差社会の構造を上塗りするような形で、女性、子ども、高齢者、非正規雇用者、自営業者等がそれぞれの事情で厳しい生活に追い込まれています。これまで支援活動をしていた民間団体は、感染の広がりのなかで支援活動が困難になり、一時は活動を停止せざるをえない事態に陥りましたが、その後、withコロナの手法を編み出し工夫しながら活動を再開しつつあります。Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 国内助成の2020年募集事業は、このような緊迫した状況下で進みました。
選考の経緯
新規助成は4月15日に公募を開始し、7月31日に応募を締め切りました。その結果、23件の応募がありました。その内訳は組織診断からはじめるコースが11件、組織基盤強化から始めるコースが12件でした。また継続助成への応募は9件(助成1年目に組織診断を実施し2年目に組織基盤強化を計画する7件、助成1年目に組織診断を実施し2年目に組織基盤強化を実施し更に3年目に組織基盤強化を計画する1件、1年目に組織基盤強化から実施し更に2年目に組織基盤強化を計画する1件)で、2019年に助成を受けた団体すべてが応募しています。
先ず、新規助成は応募団体と応募内容について事務局が要件チェックを行ったところ、18団体は要件を満たしていると判断しました。次にこれらの応募書類について、選考委員長と選考委員5名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、コメントをつけて事務局に提出しました。
その際、選考基準として掲げた2点をおさえておきます。
■応募する団体や活動が以下の点で高く評価されるかどうか
- 明確なミッションとビジョンを掲げ、社会の変革や新たな価値創造に取り組んでいるかどうか
- 寄付やボランティアなど市民の参加が得られ、組織や活動を自立的に運営しているかどうか
■応募事業が以下の点で高く評価されるかどうか
- 応募事業に取り組む背景や問題意識、目的が明確かどうか
- 応募事業に取り組むタイミングとして適切かどうか
- 応募事業に取り組む目標が明確で、実施方法が適切かどうか
- 応募事業の実施スケジュール・実施体制・実施予算が十分に検討されているかどうか
- 応募団体の組織基盤が強化されることで、社会の変革に持続的に取り組み、貧困のない社会づくりへの貢献が期待できるかどうか
9月28日に選考委員会を開催し、選考委員長と選考委員が参加して、新規助成と継続助成について審議を行いました。その結果、継続助成については選考委員長と選考委員が9件すべてを助成可と評価しましたが予算に限りがあるため、相対的に評価が高かった5団体に決まりました。2年目に採択されなかった団体は、組織診断で確認された課題と解決の方向性について、団体の関係者と更なる検証や共有を深めながら解決に向けて取り組んでほしいと思います。
新規助成に関しては少なくとも選考委員1名以上の推薦が付いた案件が14件ありましたが、審議の結果7件(採択3件、条件付き採択3件、次点1件)が選考ヒヤリングの対象になりました。
審議の際に選考委員が重視した点は、本事業の趣旨に合致していること、地域の他機関・団体との連携体制があること、事業内容が具体的で団体の実情が理解可能であること、目的やミッションが明確で社会的にも意味があること、課題解決の見通しがあることなどでした。
その後、事務局がリモートで団体のヒヤリングを行いました。10月30日に委員長はその結果を受けて、新規助成は助成対象5件(組織診断からはじめるコース4件、組織基盤強化から始めるコース1件)、助成総額588万円を決定しました。
また、継続助成は助成対象5件(内訳は1年目に組織診断を実施し2年目に組織基盤強化を計画する3件、1年目に組織診断を実施し2年目に組織基盤強化を実施し更に3年目も組織基盤強化を計画する1件、1年目に組織基盤強化を実施し更に2年目も組織基盤強化を計画する1件)、助成総額912万円を決定しました。その結果、新規助成と継続助成を合わせた助成総数は10件、助成総額は1,500万円となりました。
選考結果からわかったこと
応募団体をみると、ある程度の実績を積み上げてきた団体が、活動の棚卸をして新たなスタートをめざしていることがうかがわれます。団体のミッションを完遂するためには、めざしたい姿を明らかにし、組織を強化することが不可欠です。ここに本事業が組織診断を経て組織基盤強化を図ろうとする団体の支援をする意義があると思います。
採択された団体のテーマをみると、継続助成の5団体は、「子どもの信頼できる他者との関係性をはぐくむための仕組みづくり」「さまざまな居場所を地域に創り子どもの未来に寄与する」「LGBTQリサーチ&アドボカシーのオンライン拠点の開設」「子どもの現状を総合的に伝えられるWebサイト作り」「誰でも働きたいと思ったときに働ける場所を作る」がテーマとなっています。
また、新規助成の5団体は、「国内外の貧困や差別から子どもを解放する」「精神障がい者の生活安定と貧困解消」「生きづらさを抱える人が自分らしい働き方や生き方の選択ができる支援」「自死の苦悩を抱える人の心の居場所づくり」「生活困窮者支援」がテーマとなっています。
毎年、本事業の応募団体の活動内容をみると、貧困という現象が実に多様であることを感じます。経済的貧困にとどまらず、社会的孤立、差別、社会的排除が、年齢、性、障がい、疾病、地域その他多くの事情のなかで生じていることがよくわかります。新型コロナ禍は、これらの現象を悪化させ、複合的な困難を抱える人々が急増することが懸念されます。それに立ち向かうためには、課題の解決に立ち向かう民間団体が成長をとげ、また数が増えていくことが期待されます。本助成事業が貢献できることを願っています。

宮本 みち子
<選考委員> |
★選考委員長 |
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宮本 みち子 |
放送大学 客員教授・名誉教授 ★ |
小河 光治 |
公益財団法人 あすのば 代表理事 |
奥田 知志 |
認定特定非営利活動法人 抱樸 理事長 |
谷口 仁史 |
認定特定非営利法人 NPOスチューデント・サポート・フェイス |
吉中 季子 |
神奈川県立保健福祉大学 准教授 |
福田 里香 |
パナソニック株式会社 ブランド戦略本部 |