2021年7月12日から15日までの4日間、オンラインにて「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 20周年記念 シンポジウム・ウィーク」を開催しました。
2日目の13日は子ども分野の取り組みを紹介し、195人の参加申し込みをいただきました。この日は、子ども分野の選考委員長も務めた「カリヨン子どもセンター」の坪井節子氏に、子どもの人権を取り巻く社会状況とNPOの役割について講演いただきました。続いて、3団体がサポートファンドの助成による取り組みと、その後の展開を発表し、最後にパネルディスカッションを行いました。

●開会の挨拶

企業市民活動を通じて、子どもたちの育ちや学びを支援

103年前に創業したパナソニックは、事業活動と企業市民活動を車の両輪のように進めてきました。その企業市民活動の一環として2001年にサポートファンドを立ち上げ、未来を担う子どもたちの育ちを応援する「子ども分野」を設立しました。また、学び支援として、オリンピック・パラリンピックを題材とした授業支援、子どもたちのキャリア教育のために社員が出前授業を行う「私の行き方発見プログラム」、「映像制作プログラムKid Witness News」など独自のプログラムも開発してきました。今日お集まりの皆様ともパートナーシップのもと、さまざまな体験を共有し、新たな価値の創造に向けて、共に進んでいければと思っています。

パナソニック CSR・社会文化部
部長 福田 里香

●子ども分野の振り返り

組織診断の導入後、取り組むテーマがより多彩に

サポートファンドの子ども分野では、2001年~2019年までに115団体、のべ179件の組織診断・組織基盤強化事業に対して2億2,318万円の助成を行いました。
その活動内容は子どもの人権・権利擁護、暴力・虐待・性被害を受けた子どもの支援、障がい児・病児支援など、多岐にわたります。組織基盤強化で取り組んだ内容を見ると、第1期(2001~2005年)は事務局機能の強化、人材育成、広報基盤強化、第2期(2006~2010年)は人材育成、新規事業開発・事業の収益化が多く見られました。また、第1期よりも中長期計画の策定、財政基盤強化、拠点整備に取り組む団体が増えました。第3期(2011~2019年)から第三者による組織診断の仕組みが始まり、組織診断を実施した団体は90%にのぼりました。
その結果、組織基盤強化の内容は第1・2期に見られた偏りがなくなり、さまざまなテーマに取り組むようになりました。

●基調講演

子どもの人権を取り巻く社会状況とNPOの役割

社会福祉法人 カリヨン子どもセンター
理事/弁護士 坪井 節子 氏

弁護士として30年以上、子どもの人権救済活動に携わる中で、いじめや虐待、少年非行など、壮絶な人生を送ってきた子たちと出会い、無力感にさいなまれながらも、そばにいて話を聞き、共に歩むしかないことを教えられました。
その中から「子どもの人権を支える3つの柱」が見えてきました。

写真
  1. 「生まれてきてよかった」「ありのままでいい」と伝える。
  2. ひとりぼっちにしないで、そばにいる。
  3. 「あなたの道は、あなたが歩いていい」と保障する。

その理念として、「子どもと大人の対等かつ全面的なパートナーシップ」を大切にしてきました。中でも大変なのが、親の虐待から逃げてきたり、少年院や児童養護施設を出たりして行き場がない10代後半の子どもたちです。そこから「子どもの自立を支援するシェルターがほしい」という夢が生まれ、実現に向けて私たちは、親権者から子どもを守るために一人ひとりに担当弁護士をつけ、子どもシェルターの必要性を広く市民に知ってもらうために子どもたちとお芝居を上演しました。
多くの人の共感を得て、2004年に「NPO法人カリヨン子どもセンター」を設立し、その後、日本初の子どもシェルターやデイケア施設、自立援助ホームを開設。「出て行けと言われなかったのは初めて」と泣いていた少女もいました。現在では厚生労働省の認可を受けて、全国で17法人、18カ所の子どもシェルターが稼働しています。

そして、サポートファンドでは「NPOの組織基盤強化に必要なこと」を学びました。①ニーズの把握、②理念の言語化と共有、③風通しのいい組織内コミュニケーション、④ファンドレイジング、⑤外部機関との協働、⑥次世代への承継、という6つの視点です。
子どもの人権の回復には、子どもを真ん中にした多機関のスクラム連携が必要です。多くのNPOとNPOが対等なパートナーとして歩める社会を皆さんと目指したいと思います。

●事例報告①

「アレルギー大学」修了生が活動を支援する仕組みを確立

アレルギーの子どもの家族や患者会への情報提供や調査研究、災害対策などをしています。2006年には、食物アレルギーの知識を体系的に学ぶ「アレルギー大学」を開講しました。2007年~2009年度まで助成を受け、1年目は愛知と静岡のアレルギー大学を定着させ、患者会のリーダーに受講費を補助。運営を通して、スタッフもスキルアップしました。2年目は三重県でも開講し、修了生に事務局スタッフになってもらう働きかけをしました。3年目は、私の自宅だった事務所を廃校跡のインキュベーション施設に移転。アレルギー大学の研究・実践コースも設け、修了後に「食物アレルギーマイスター」として活躍できる仕組みをつくりました。その結果、現在ではアレルギー大学を企業内でも開講できるようになり、講座数も受講生も増え、財政規模も倍に。修了生が事務局スタッフになったり、講座運営や患者家族の支援、医療機関での食事指導などをして、活動を支えてくれるようになりました。

●事例報告②

話し合う土壌が生まれ、独自性を活かした自主事業が拡大

自閉症・発達障害のある子どもと家族の支援事業をしています。2011年の東日本大震災前後に事業規模が拡大し、職員の多忙感と疲弊感から組織的な運営が必要と考え、2014年~2016年まで助成を受けました。1年目は組織診断を受け、中期計画と行動プランを策定しました。2年目はリーダー層と高い専門性をもつ人材の育成に取り組み、3年目は発達支援の教材に焦点を当てて、実践事例集を発刊し、支援者対象の教材づくりワークショップを開催しました。その結果、自主事業が拡大し、収入全体の1%だった割合が18%に。職員も、業務に主体的に取り組むようになりました。2017年には発達障害児の支援者育成講座を開設。2018年には、多くの方の支援を受けて新拠点を確保しました。2020年も自主事業は安定的で、独自性を活かした活動が定着しました。コロナ禍で前年比マイナス60%の月もありましたが、組織基盤強化の取り組みにより、問題が起きるたびに職員全体で話し合う土壌ができていたおかげで、存続の危機は乗り越えつつあります。

●事例報告③

組織基盤強化が海外事業の支援成果につながることを実感

ウガンダとケニアで、エイズ孤児家庭の自立支援と地域で取り残されている子どもの支援をしています。海外事業を駐在員常駐型から現地主導のパートナー型にシフトしたくて、2014年~2015年に助成を受けました。1年目は組織診断を受け、年数回だった理事会を隔週開いて経営課題を議論し、市場調査や内部・外部環境の分析を実施。
さらに「4つの支援者ペルソナ像」を作成して、イベントの企画立案改善に活かし、海外事業でもPDCAサイクルを定着させました。1・2年目のマンスリーサポーター獲得キャンペーンでは、共に目標を達成。現地では、新たなパートナー型事業も始まりました。その結果、ウガンダとケニアで2,500人以上の子どもたち、560のシングルマザー家庭に支援を届けることができ、国内でも「ジャパンSDGsアワード」など、さまざまな賞を受賞。国内の理事会と事務局のPDCAサイクル定着化を通した組織基盤強化が、現地の支援成果にもつながることを実感できました。

●パネルディスカッション

組織基盤強化に欠かせない「6つの視点」と第三者の支援

  • モデレーター
    市民社会創造ファンド 坂本 憲治 氏
  • 登壇者
    カリヨン子どもセンター 坪井 節子 氏
    アレルギー支援ネットワーク 中西 里映子 氏
    みやぎ発達障害サポートネット 相馬 潤子 氏
    エイズ孤児支援NGO・PLAS 小島 美緒 氏

坂本氏 基調講演で坪井さんが挙げられた「サポートファンドから学んだNPOの組織基盤強化に必要な6つの視点」について、皆さんのご経験をお話しください。

小島氏 「①ニーズの把握」として、ケニアで元エイズ孤児の20代若者に必要だった支援の聞き取りをしています。教育への理解を深めるために、年収2万円未満と大変な状況にある保護者のキャリアカウンセリングも行い、保護者が変わると子どもも変わることを実感しています。

中西氏 アレルギー大学を現在は千葉と沖縄でも開講し、現地のNPOが運営しています。総勢100人の講師がいるので、「②理念の言語化と共有」をするために同じテキストを使用して、オンラインで密に情報を交換し、会議の機会を設け、運営についても十分に相談するよう心がけています。

相馬氏 「④ファンドレイジング」については、信頼されなければ寄付も何も生まれてこないとの思いがあります。発信に力を入れようと、ホームページを刷新。写真やグラフを多用した事業報告のダイジェスト版もつくり、自分たちがやりたいことも含めて見せる工夫をしています。

坂本氏 第三者による組織診断や組織基盤強化への支援については、どう思われましたか?

小島氏 専門的なコンサルタントの客観的なアドバイスには説得力があり、全員が組織基盤強化という同じ土俵に上がるステップをつくってくれる重要な取っ掛かりになりました。

相馬氏 第三者の支援がなければ、そもそも応募していなかったと思います。自分たちではお手上げのところに第三者が入ることで、どこを改善すべきかが可視化され、職員の思いを引き上げてもらえました。今でもまた組織診断を受けてみたいと思っています。

坪井氏 皆さんの発表を聞いて、自分の近くにあるニーズを無視できず、現場に即した創意工夫をしていくしなやかさと、自分たちの弱さを人に見せることを恐れず、第三者の応援を求めたたくましさを感じました。個人の名誉を求めず、子どもたちの幸せのために、共に生きる市民社会をつくるNPOが、これからも必要だと思わせてくれたシンポジウムでした。

パネルディスカッションの様子