第65回電気科学技術奨励賞を2件受賞、1件は最高位の「文部科学大臣賞」

2017年11月27日、第65回電気科学技術奨励賞(旧オーム技術賞)が決定し、パナソニックグループから2件が選ばれ、1件が最高位の「文部科学大臣賞」を受賞しました。

同賞は、電気科学技術に関する発明、改良、研究、教育などで優れた業績を挙げ、日本の諸産業の発展および国民生活の向上に寄与し、今後も引き続き顕著な成果の期待できる人に対し、公益財団法人 電気科学技術奨励会より贈呈されるものです。

今回の当社の受賞者と業績は以下のとおりです。

受賞式

受賞式

文部科学大臣賞及び電気科学技術奨励賞

『FeRAM内蔵非接触ICカード量産化に貢献した強誘電体メモリの開発と実用化』

受賞者

三河 巧:パナソニックセミコンダクターソリューションズ株式会社 主幹技師
吾妻 正道:パナソニックセミコンダクターソリューションズ株式会社 主幹
長野 能久:パナソニック・タワージャズセミコンダクター株式会社 社長

左から吾妻、三河、長野

左から吾妻、三河、長野

開発の背景

現在、交通系ICカードは、1枚で異なる路線の電車やバスの乗り継ぎや、電子マネーとしてお店での買物に利用できる利便性から、国内の交通機関の多くで普及しています。交通系ICカードでは、①非接触、電磁誘導で起電可能な低消費電力性、②ラッシュ時にも認証、読み書きを瞬時に行う高速処理、そして③高いセキュリティが求められました。私たちは、交通系ICカードの内部データ保持用メモリとして、低消費電力、高速のデータ読み書き、高いセキュリティといった特徴を有する強誘電体メモリFeRAM(Ferro-electric Random Access Memory)を開発しました。

開発技術の概要

強誘電体メモリの開発においては、以下に示す強誘電体材料、半導体製造プロセス、水素バリア技術という3つの技術的ブレークスルーが大きく貢献しました。

(1)常誘電体をあえて強誘電体に混合した超格子構造(図1)とすることで、メモリとしての信頼性を大幅に向上した強誘電体材料技術

(2)配線下層を形成するTiが強誘電体キャパシタに拡散して、特性が劣化することを解明し、強誘電体材料を半導体に集積することを可能とした製造プロセス技術

(3)酸化物である強誘電体が水素で還元される本質的な課題を、有効なバリア材料を見出し、素子の上下左右を完全に被覆する構造で克服した水素バリア技術

図1 超格子結晶構造の強誘電体材料

図1 超格子結晶構造の強誘電体材料

開発技術の成果

独自材料による高いメモリ信頼性、製造時における特性劣化の防止、微細化という技術障壁を次々に克服したことにより、最小加工ルール0.8umで製造したFeRAM混載ICの2000年量産開始を皮切りに、2003年には、同0.18umで製造したFeRAM混載IC(前世代の単位セルサイズで約1/10まで微細化)の量産を開始しました。交通系ICカードに広く搭載され改札機やICカード端末とのシステムとして高速で安定・安全な処理を実現しました。

受賞者コメント

三河 巧

三河 巧

この度は、文部科学大臣賞という栄誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。これも開発に携わったコアメンバーに加えて、ご支援、ご協力をいただいた方々、更には、新しいメモリを市場に導入するという実用化に向けてご尽力いただいた方々のおかげと考えております。深く感謝いたします。現在は、顧客のニーズと技術のシーズをタイムリーにマッチさせて、はじめて新しい事業が生まれるという状況です。今回の受賞を励みとし、そういう厳しい環境の中でも、日本の産業振興に更に貢献したいと考えます。

吾妻 正道

吾妻 正道

この度はこのような名誉ある賞を受賞する事ができ、大変うれしく光栄に思います。本受賞は強誘電体材料の開発より始め、高速、低消費電力、高セキュリティといった特長を有するFeRAMの量産化とICカードなど応用商品の実用化と普及にご尽力を頂いた社内外の多くの方々の成果と考えております。今後も豊かな暮らしの実現と社会の発展に貢献できるよう、お客様へのお役立ちができる技術と商品の創出に取り組んで参ります。

長野 能久

長野 能久

このような名誉ある賞を頂く事ができたのは、開発初期から携わっていただいた方、新市場を開拓いただいた方、量産化、安定生産のため苦労いただいた工場の方、プロジェクト推進時の苦しいときに支えていただいた上司各位他、多数の方々のご尽力、ご支援のおかげであります。深く感謝申し上げます。今後もFeRAM内蔵IC、および、このICを搭載したICカード用モジュール等を安定生産し、グローバルなお客様へのお役立ちに貢献してまいります。

電気科学技術奨励賞

『加熱むらを抑えて短時間で解凍できる電子レンジ向け高指向円偏波アンテナの開発と実用化』

受賞者

吉野 浩二:アプライアンス社 主幹技師
大森 義治:同上 主任技師
貞平 匡史:同上 主任技師

左から貞平、吉野、大森

左から貞平、吉野、大森

開発の背景

従来の電子レンジの開発は、攪拌手段(反射板を回転させる方式、食品をテーブルに載せ回転させる方式、あるいは、放射アンテナを回転させる方式等)により、マイクロ波分布の均一化に取り組んできました。しかしながら、お客様のご不満点を調査すると、あたためや解凍における加熱むらと仕上がり時間についてのご不満が上位を占め、加熱むらを抑えつつ短時間で加熱できる新たなマイクロ波制御技術が必要とされていました。

開発技術の概要

(1)多素子温度センサと高指向アンテナによる食品低温部へのマイクロ波集中制御【ねらって加熱】

従来の攪拌によるマイクロ波分布の均一化では限界と考え、世界で初めて、マイクロ波を食品の低温部に集中させることで能動的に加熱むらを低減する方法に挑戦しました。マイクロ波の放射範囲を狭くした高指向アンテナを新規に開発し、多素子の温度センサをスイングして食品の温度分布を検出し、自動的に食品の低温部にアンテナを向けて「ねらって加熱」するフィードバック制御を実現しました。

(2)円偏波アンテナによる、マイクロ波放射の革新【サイクロンウェーブ加熱】

電子レンジでは従来、直線偏波(電磁界の向きが一方向)が用いられてきましたが、通信分野で利用されている円偏波(電磁界の向きが回転)を活用することにより、電子レンジでも新たな効果が見出せないかという新発想で電磁界解析による分析を行いました。その結果、特定のアンテナ形状で円偏波を放射すると二つの大きな効果が得られることを見出しました。第一は「均一効果」で、円偏波は食品内での電磁界の強弱が少なく、直線偏波よりも均一に加熱できることです。これにより加熱むらを抑制し、特に解凍のできばえを飛躍的に向上することができました。第二は「吸出効果」で、円偏波アンテナの放射口に食品が近づくとより多くのマイクロ波が放射され、効率的に短時間で加熱できることです。これにより(1)の「ねらって加熱」の効果をより一層高めることができました。

以上により、加熱むらを抑えつつ短時間で加熱できる新たなマイクロ波制御技術を確立できました。

開発技術の成果

上記(1)の技術開発により、従来の電子レンジではできなかった、常温ハンバーグと冷凍ご飯のような初期温度が異なる2品でも、同時に均一に仕上げる革新的な電子レンジを商品化できました(2007年度より商品搭載)。この技術は、商品カタログでは「2品同時あたため」あるいは「ねらって加熱」と表記しています。また、(2)の技術開発により、従来は解凍後が包丁で切れる程度の硬さ(-3℃程度)だったのに比べ、容易に手でほぐせる硬さ(10℃程度)となり、調理にすぐに使える仕上がり(ひき肉ならハンバーグ用にこねられる)を実現することができました(2015年度から商品化)。この技術は、商品カタログでは、「サイクロンウェーブ加熱」や「芯までほぐせる解凍」と表記しています。

受賞者コメント

吉野 浩二

吉野 浩二

この度は名誉ある賞を頂き大変光栄です。御支援頂いた皆様に感謝致します。電子レンジが発明されて半世紀以上経ちますが、永遠の課題とも言われる加熱むらの抑制と加熱の短時間化に関し、本質技術のマイクロ波にメスを入れて革新できたことを誇りに思います。未来の調理器を考える時、やはり美味しさや時短につながる技術革新が必要です。これからも、志を高く、新たな発想を取り入れ、仲間と共に挑戦し続けて参ります。

大森 義治

大森 義治

たいへん名誉ある電気科学技術奨励賞を受賞でき、関係各位やご支援いただいた方々に感謝いたしますとともに、その光栄に身の引き締まる思いを抱いております。受賞技術は、電子レンジのみならず、調理機器の永遠の課題とも言える加熱ムラに挑むものです。昨今、市場が価格競争中心になってきている白物調理家電で受賞できたことに意義を感じ、更なる課題へ挑戦し続け、より多くのお客様や社会へ貢献してゆきたいと思います。

貞平 匡史

貞平 匡史

権威ある賞を戴き大変光栄です。本研究では、第1訴求の解凍に留まらず温めでもグリルでも提供価値を発揮できるよう、均一と集中を両立させる制御性に挑みました。自分でも本技術搭載製品を購入し研究成果を日々実感しています。本研究を支えて戴いた関係各位への感謝を忘れず、本受賞を励みとして今後も新技術実用化に挑みたいと思います。