第66回電気科学技術奨励賞を受賞
2018年11月14日、第66回電気科学技術奨励賞(旧オーム技術賞)が決定し、パナソニックグループから1件が受賞しました。
同賞は、電気科学技術に関する発明、改良、研究、教育などで優れた業績を挙げ、日本の諸産業の発展および国民生活の向上に寄与し、今後も引き続き顕著な成果の期待できる人に対し、公益財団法人 電気科学技術奨励会より贈呈されるものです。
今回の当社の受賞者と業績は以下のとおりです。

受賞式
電気科学技術奨励賞
『細胞培養しながらのタイムラプス観察を可能にする赤外内層顕微鏡の開発』
受賞者
武智 洋平:マニュファクチャリングイノベーション本部 主任技師
壁谷 泰宏:マニュファクチャリングイノベーション本部 主任技師
追風 寛歳:アプライアンス社 主任技師

左から追風、武智、壁谷
開発の背景
近年、ES細胞やiPS細胞を用いた再生医療の研究が活発になり、特に細胞を三次元的に培養する試みが盛んになっています。それに伴い、立体構造の生体サンプルを観察するニーズも高まっています。従来の生体サンプルの内部観察は、細胞の水分をワックス等へ置換後に薄くスライスした切片を生物顕微鏡で行う方法、または特定波長の光で蛍光する染料で処理した後にレーザー共焦点顕微鏡で行う方法が主流ですが、いずれも細胞培養に影響なく観察することが困難でした。そこで我々は新たに、生体サンプルを非浸襲かつ、高精細に三次元(3D)内層観察できる赤外内層顕微鏡を開発しました。
開発技術の概要
(1)光干渉を用いた光学的擬似スライスでの非侵襲3D内層観察
赤外内層顕微鏡の内部は、サンプルを観察する測定光路と光干渉を誘起させる参照面ミラーが設置された参照光路に分岐しています(図1)。カメラから見て、参照面ミラーまでの参照光路の長さと、測定側対物レンズ焦点面までの測定光路の長さが等しい時に光干渉が生じます。参照面ミラーを独自パターンで変調動作させ映像信号から干渉信号のみを抽出することにより、焦点面におけるサンプル断面像を得ることができます。焦点面をサンプル深さ方向に移動させながら順次断面像を取得し、重ね合わせることで3D画像を構築することができます(図2)。得られた3D画像からはソフトウェア処理により任意の断面観察が可能です。
(2)高い生体浸透性を持つ近赤外光の利用
観察光として、波長分布を持つ近赤外光(波長1000±100nm)を用いています。波長1000nm付近の近赤外光は「生体の窓」とも呼ばれ、水分や生体中の色素(ヘモグロビン等)による光吸収の影響が小さく、細胞の内部まで浸透しやすいため、生体サンプル内層の観察に適した光です。
(3)水浸レンズによる高分解能観察
赤外内層顕微鏡の対物レンズは水浸式を採用しています。これにより、サンプルを水浸状態で観察するため、サンプルと対物レンズ間の不要な空気層がなく、ノイズの少ない良好な画像を得ることができます。また、面内、深さ方向の分解能が2μmと高分解能であり、生体組織を構成する細胞も個別に観察することが可能です。

図1 赤外内層顕微鏡の原理構成

図2 三次元データの取得方法
開発技術の成果
本赤外内層顕微鏡は、近赤外光と光干渉技術を組み合わせることにより、細胞組織などの生体サンプルを破壊することなく、従来の手法よりも高分解能に観察できます。さらに、顕微鏡下で細胞培養しながらその経過を長時間に渡って3D観察することを可能としました。

図3 ラットの腸外壁の毛細血管網
受賞者コメント

武智 洋平
この度は大変名誉ある賞を頂くことができ、非常に光栄であると共に、ご支援いただいた皆様に感謝申し上げます。本技術は、元来生産工程内で用いられていた検査装置向けの計測技術を、医療・バイオ分野へと応用展開したものであり、当社にとっては異色ながらも意欲的な新規事業への挑戦の一つとして取り組みました。今後も、新たな顧客価値の創出、社会発展への貢献を実現する計測技術の開発に努力、邁進していきたいと思います。

壁谷 泰宏
名誉ある賞を頂き、大変光栄に思っております。本開発は弊社の生産工程における検査技術を再生医療に展開する大きなチャレンジでした。このように世に送り出すことができたのも、再生医療に関わる研究者の方々の崇高な理念とモチベーションに触れ、刺激を受けた弊社メンバが技術を通じて応えた、業種を超えたチームワークによるものと感じています。プロジェクトの苦しいときにも常にご支援を頂いた関係の皆様方に改めて感謝申し上げます。

追風 寛歳
この度は歴史ある賞の受賞者に名を連ねることとなり、大変光栄に思っております。先輩方が培ってきた光応用計測技術を応用し、このような形で社会に送り出すことができ感慨深く感じております。本技術の実用化にあたっては、これまで知見のなかった再生医療や細胞培養という領域への挑戦が必要となり、社内外の皆様に多大なるご支援・ご協力をいただきました。この場を借りて、改めて深く感謝いたします。