パナソニック技報

【10月号】OCTOBER 2012 Vol.58 No.3の概要

特集1:スマートアプライアンス

スマートアプライアンス特集によせて

元・本社R&D部門 デジタルネットワーク・ソフトウェア技術担当 理事
AVCネットワークス社  常務 岡 秀幸

招待論文

製造業のサービス化:「サービス・ドミナント・ロジック」による考察

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 准教授 藤川 佳則

技術論文・技術解説

[解説]スマートアプライアンス概要

坂田 毅,野仲 真佐男

当社は本年,従来の白物家電がもつ制約を超えて,ユーザーの多様なニーズに対応し,商品出荷後も新たな価値をユーザーに提供することを目的に,当社のクラウドとスマートフォンを介して連携する白物家電-スマートアプライアンスを発売した.本解説は,そのスマートアプライアンスのねらい,仕組み,サービスおよび今後の展開について簡潔に述べるものである.

[論文]スマートアプライアンスシステムにおけるシステムアーキテクチャ

土居 晋三,山岡 勝,松本 通弘,海上 勇二,大西 聡明,松井 典弘

近年,家電のスマート化が注目されており,家電がネットワークにつながりサーバと連携し,暮らしの快適性,利便性を高めるサービスの提供が可能なスマートアプライアンスシステムの実現が期待されている.筆者らは,スマートアプライアンスシステムにおける家電をネットワークに接続する方式として,NFC(Near Field Communication)を用いて接続するタッチアクセス方式と,900 MHz帯特定小電力無線を用いて接続する無線アクセス方式を開発している.本稿では,これら2つの方式のシステム構成,機能分担,装置間インターフェースなどの観点から,システムの拡張性や安全性を考慮したシステムアーキテクチャについて説明する.

[解説]NFC応用スマートアプライアンスサービス(生活家電)

栗本 和典

オーブンレンジ,炊飯器,洗濯機,冷蔵庫などの家電機器をネットワークに接続するために近距離無線通信NFC(Near Field Communication)技術を利用し,スマートフォンを家電機器に搭載したNFCタグにタッチすることにより,クラウドサーバと連携するスマートアプライアンスサービスシステムを開発した.

[解説]健康機器向けNFC応用アプリケーション

遠山 望

健康機器向けNFC(Near Field Communication:以下NFCと記す)応用アプリケーションは,健康機器(ここでは体組成・体重計,活動量計,血圧計)の計測データを機器からNFC通信によりスマートフォンに取り込み,サーバ上でグラフへの加工などを行うことで,より機器使用者の健康状態を管理しやすくするスマートフォン向けサービスである.

[解説]スマートアプライアンス向けNFC技術応用タグ

間野 良隆,上西 恒雄

NFC(Near Field Communication)通信技術を応用し,スマート家電システムを実現する非接触通信用の家電タグLSIを開発した.本稿では,家電タグLSIの特徴とLSI化に向けた課題,および課題を解決する技術について解説する.

[論文]無線対応スマートアプライアンスサービス

増田 健司

各家庭のインターネットと,家電間の通信(制御コマンド)を接続する無線ゲートウェイ(GW)を設置し,無線GWを通じてインターネットへ常時接続する家電と,携帯端末,クラウドサーバが連携することで家電情報サービスを提供する無線対応スマートアプライアンスシステムを構築した.
本システムでは無線GWとクラウドサーバ間との通信において,非同期に複数発生する通信を制御単位ごとにまとめて送信する機構の導入や,UPnP(Universal Plug and Play)を活用した宅内での制御の高速化を実現することで,家電の応答性を確保しつつ宅内外問わず統一的なUI(User Interface)で家電を制御できるシステムを実現する.

特集2:シミュレーション

シミュレーション特集によせて

モノづくり本部 生産技術開発センター 生産技術研究所 所長 西田 一人

招待論文

量子分子動力学法に基づくマルチフィジックスシミュレータの開発とエレクトロニクスシステムの電子・原子レベル設計

東北大学大学院工学研究科・工学部 教授 久保 百司

技術論文

第一原理シミュレーションによる熱電変換素子のゼーベック係数予測

山本 昌裕

熱電変換材料として広く用いられているBi 2 (Te 1-x Se x ) 3 について,組成比とゼーベック係数の関係を調べるため,第一原理計算およびキャリア輸送計算により解析を行った.熱電特性はバンドの詳細な構造に依存すると予想され,スピン軌道相互作用を考慮したバンド計算を行った.その結果,TeとSeの組成比によるゼーベック係数の変化は小さいことが明らかになった.一方で,キャリア密度がゼーベック係数の温度依存性に大きく影響することが示唆され,素子製造時においてキャリア密度の制御が重要であることが示された.

リチウムイオン二次電池の厚み変化に関する連成シミュレーション手法の構築

久保 太,秋元 雄大,八木 晴久,芦田 高之,中西 正知

リチウムイオン二次電池の充放電サイクル後の状態を事前評価するために,電池厚み変化の主な支配因子が合剤層の厚み変化であるというモデルに基づく数値解析,およびこれに統計解析を併用した連成シミュレーション手法を構築した.電池に対する要求仕様の多様化に迅速に対応するためには,電池設計の効率化が必要である.しかし,充電・放電時に電池内部では電気化学反応や反応に基づく電極の合剤層に厚み変化が生じるので,実験主体の開発では設計に必要な詳細現象をとらえるために多大な時間とコストがかけられていた.そこで,筆者らは電極の合剤層に生じる厚み変化から電池厚み変化を求める数値解析手法を構築した.また,統計解析を併用することで電池厚み変化,および電池厚み変化に対する設計変数の影響を予測するシミュレーション手法を構築し,設計期間の短縮が可能となった.

ロータリ型圧縮機の弾性流体潤滑解析技術

中原 泰彦,松井 大

ヒートポンプの主要構成デバイスである圧縮機の摺動(しゅうどう)損失低減を目的として,ロータリ型圧縮機の軸受潤滑解析技術を構築した.本解析技術は,軸受内の潤滑油膜の圧力を計算する「流体潤滑解析」と,シャフトと軸受の変形を計算する「弾性変形解析」を連成することで,シャフトと軸受の変形を考慮に入れた軸受摺動損失を見積もるものである.シャフトの弾性変形解析の構築においては,バネ支持系の力学モデルを適用することで,固定支持点が存在しない回転中のシャフト変形状態を解析することに成功した.

熱流体解析技術を活用したシステムLSI向け放熱設計手法の構築

松元 昂,小森 晃,鈴木 宏明,大谷 克実

電子機器においては,数μmレベルの微細な構造から,数十cmレベルの部品が混在しており,それらをまるごと解析することが困難であるため,システムLSIからの放熱メカニズムが不明確であるという課題があった.今回,Blu-ray Discレコーダーを対象に,システムLSIチップから筐体(きょうたい)内部まで配慮した3次元熱流体解析技術を構築した.本解析技術により,システムLSIのパッケージ形態,チップ面積,発熱量などの熱設計パラメータについて,構想設計初期段階で放熱性の影響を考慮することを可能とし,設計上流側での熱対策を実現する熱設計フローを構築できた.

タンパク質折り畳みの熱力学特性と熱力学的折り畳みシミュレーション

鬼塚 健太郎

タンパク質の立体構造は,そのアミノ酸残基配列によって決定されている.よって,与えられたアミノ酸残基配列から,折り畳みシミュレーションによってタンパク質の立体構造は予測できるはずである.しかし,折り畳みや構造安定性のメカニズムが十分に解明されていないため,現状では現象にかかわる数万の全原子についての長時間シミュレーションを行う必要がある.本論文では,実験的に得られたタンパク質熱変性に関連する熱力学特性を,要素反応ごとに分解し,対象タンパク質の変性にかかわる熱力学特性が復元できることを示す.また,ここからタンパク質の熱力学的安定性解析や,熱力学的折り畳みシミュレーションを提案する.