パナソニック技報

【11月号】NOVEMBER 2018 Vol.64 No.2

(2018年11月15日公開)

特集:100周年

パナソニックは1918年の創業以来,皆様のくらしの向上と社会の発展に貢献することを基本理念とし,日々の事業に取り組んでまいりました.このたび創業100周年を迎え,当社の存在意義を「くらしアップデート業」と定義いたしました.一人ひとりのくらしを少しでもより良くしていくこと,より暮らしやすい社会をつくりあげることへの思いに変わりはありません.
本特集では,あらゆる時間と場所で皆様のくらしや社会に貢献する,各事業部門の100周年商品と今後の成長を担う新商品・新規事業を支える技術を紹介しています.

100周年特集によせて

パナソニック(株) 専務執行役員 技術担当 宮部 義幸

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招待論文

より良い社会を勝ち取るために ~Society5.0の実現に向けて~

東京大学 総長 五神 真

今,世界は激動の時を迎えている.皆で力を合わせ,強い意志と戦略をもって,より良い未来社会を選び取るため,何をすればよいのか.東京大学が考える未来社会ビジョン,そしてこれを実現させるための取り組みを紹介する.

招待論文執筆者顔写真

技術論文・技術解説

<家電>

[論文]健康空調を実現するクリーンシステム搭載エアコンの開発

植松 峻一,岡 浩二,大野 洋平,久保 次雄

昨今,省エネ性能とともに清潔性がエアコンに求められている.APF(Annual Performance Factor)を向上させる省エネ技術開発に加え,昨今の健康志向と清潔性の要求の高まりを受けて,部屋の空気とエアコンの内部を清潔に保ち続ける機能として,「アクティブクリーンフィルター(注1)」(当社独自)と「防汚(ホコリレス)熱交換器」(業界初)を新たに搭載.部屋の空気を素早く,きれいにするとともに,エアコン内部への埃(ほこり)の侵入を抑え,付着を低減することで購入時のきれいさを維持し続けることのできるエアコンを開発した.

(注1)当社の日本国内における登録商標

キーワード / 可動式空清,空清エアコン,防汚熱交換器,プリーツフィルター,内歯車機構,コーティング,超親水撥油ナノシリカコート

代表図

[論文]コンパクト大容量を実現した7days冷蔵庫Xシリーズの開発

今田 寛訓,藤田 智弘,堀井 克則

週1~2回の買い物で食品をまとめて購入する生活スタイルが増加していることから,冷蔵庫の置き幅そのままで大容量化を実現しつつ,背反する課題である消費電力量の低減を図り,2021年度省エネ目標値を達成した2017年度冷蔵庫を商品化した.筐体(きょうたい)のスクエア化を含む高断熱箱体と,冷蔵庫内の温度変動を抑制した『フラット冷却』などの冷却効率を向上させた『高効率冷却システム』の新技術を開発し,置き幅685 mmのままで,容量50 L増と高い省エネ性能を実現した.

キーワード / 冷蔵庫,省エネ,大容量,高断熱,コンパクト

代表図

[論文]「空間調和のデザイン」「液体洗剤・柔軟剤自動投入」を搭載したCubleドラム式洗濯乾燥機

松岡 真二,川名 啓之,植田 健大

本稿では3つの技術開発による,新需要を創造するCubleドラム洗の実現について述べる.使いやすさにこだわりながら空間調和するデザインを具現化するため,業界初の「①キュービックフォルム」と「②大口径ドラム」を開発し,新構成である角型フラットドアを実現するトーションバー機構と,大口径を実現する新・大口径バランサを確立した.さらに,高粘度の液体投入量の精度および信頼性の向上を図るべく,独自の低圧損流路とクリーニングシステムを開発し「③液体洗剤・柔軟剤 自動投入」機能を確立した.

キーワード / ドラム式洗濯乾燥機,キューブル,感性価値,空間調和,デザイン,液体洗剤・柔軟剤自動投入

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[論文]「360°低速回転機構」と「適温燻製調理」を搭載したロティサリーグリル&スモーク

桐石 卓,高麗 敦,平田 由美子,後藤 孝夫

本開発では,これまで十分な対応ができていなかった塊肉調理のための「回転加熱調理」と,各食材に適した温度条件で燻製(くんせい)可能な食材の幅を広げた「適温燻製調理」とともに,従来の「トースト調理」も含めた複数機能を同じ筐体(きょうたい)に搭載した調理器の実現を目指した.「回転加熱調理」では360°低速回転機構と上面からの遠近赤外線ダブル加熱により,近火と遠火を繰り返しながら自動でゆっくり炙(あぶ)り焼き調理を行うことで,たんぱく質の凝集を抑え,均一な焼き加減と,柔らかくジューシーな仕上がりを実現した.また,「適温燻製調理」では,燻製チップの温度による発煙成分の変化を分析により,燻製メカニズムを解明し,食材に適した2段階の発煙温度の設定と,専用ヒータを用いた高速昇温の実現により,溶けを抑制したチーズ燻製,生の食材(生の塊豚肉など)からの燻製など,本格的な燻製メニューを可能とした.

キーワード / ロティ,ロティサリー,回転調理,炙り焼き,塊肉,燻製,燻り,スモーク

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[解説]SLAM技術を搭載したロボット掃除機

齊藤 弘幸,天野 克重

ロボット掃除機において,自己位置推定と地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術に着目し,カメラを用いたVisual SLAM技術を搭載した.PCレベルの処理能力を必要とする同技術をロボット掃除機の特長を生かした処理の低減化を図ることで実現化し,部屋の掃除の網羅性を把握しながら効率よく掃除動作が行えるようになった.この結果,従来の部屋の中をランダムに走行し,時間をかけて部屋全体を網羅する掃除パターンから,掃除時間を約50 %短縮できた.

キーワード / ロボット掃除機,SLAM,自己位置推定,地図作成

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<住宅など>

[論文]電力系統安定化のための蓄電池アグリゲーション技術の開発および実証評価

渡辺 健一,上野 貴雅,溝端 竜也

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大に伴い,電力の需給調整に要する調整力の不足が予想されており,需要側に設置された機器を新たな調整力とする仕組みとして,バーチャルパワープラントが注目されている.筆者らは住宅用蓄電池を統合制御し調整力として活用する蓄電池アグリゲーション技術の開発に取り組んでいる.本稿では,開発技術および実証実験の結果を報告する.開発した蓄電池アグリゲーション技術は0-1整数計画問題により各蓄電池の運転モードを決定する方式であり,蓄電池の劣化抑制や運転モード指令を送信するための通信量抑制を特徴とする.実証実験では,アグリゲーションコーディネータを模擬したサーバからの制御指令に対して複数の蓄電池が5分以内に制御を開始し,平均誤差10.5 %で制御していることを確認した.

キーワード / 電力需給調整,エネルギーリソース,蓄電池,バーチャルパワープラント,仮想発電所,アグリゲーションコーディネーター,リソースアグリゲーター

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[論文]MEMS加速度センサによる住宅構造診断システム

佐田 貴浩,岸本 和貴,藤野 崇史,野村 建太朗

高層ビルなどの大規模建築物で既に実用化されている構造ヘルスモニタリング技術を戸建て住宅に普及展開するため,安価なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型3軸加速度センサと無線通信(Wi-Fi(注1))を用いた簡易な地震計システムを開発した.宅内の各階層で計測した振動データの時刻ばらつきを補正するための新たな手法として,収録波形の相関に基づく同期補正法を提案し,試作品の加振実験によりその有効性を確認した.また,収録波形に含まれるノイズレベルと解析精度(加速度の2階積分で求めた層間変位波形)の関係から,住宅構造診断システムとしての適用性を確認した.

(注1)Wi-Fi Allianceの登録商標

キーワード / 構造ヘルスモニタリング,地震計,MEMS加速度センサ,無線通信,同期ずれ,ノイズレベル,層間変位

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[論文]軽度な認知機能低下を示す高齢者の早期検知

阿部 賢吾,松村 吉浩,西山 高史,中島 博文,南雲 亮佑,笹部 孝司

現在日本は高齢化により認知症が社会課題となっており,その予防が急務である.筆者らは認知症予防で重要な軽度な認知機能低下者を早期に検知するシステムの開発を目指し,日常生活においてそれと意識させない非侵襲な各種センサ情報から高齢者の行動変容を捉え,認知機能低下を検知する技術の実証実験を行った.その結果,認知機能と相関の高い特徴量を複数抽出することで心理的負担が低く,かつ比較的取得が容易な活動量,家電操作,音声,歩行のデータから,さりげなく対象者の認知機能低下を検知する可能性が得られた.

キーワード / 認知症,日常活動,センサ,MCI(軽度認知障害),睡眠,家電操作,音声,歩行

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[解説]HD-PLCマルチホップを用いたスマートメータ通信システム

丸岡 正典,梅田 直樹

HD-PLC(注1)(High Definition Power Line Communication)マルチホップは,電力線を通信媒体として,データを1つの端末から他の複数の端末へ次々にホップさせることで,通信距離を伸ばすことができる通信方式である.本通信方式にルート分散の仕組みを盛り込み,検針収集スケジューリングにQoS(Quality of Service)制御を付加することで高い検針成功率を実現するスマートメータ通信システムを実現した.

(注1)当社の登録商標または商標

キーワード / HD-PLC,マルチホップ,スマートメータ,電力線通信

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<車載>

[論文]シリーズハイブリッド向け小型・軽量・高出力リチウムイオンバッテリーシステム

大田 晋志,朝倉 淳,戸出 晋吾

ハイブリッド自動車の低燃費を実現する充放電性能に優れたリチウムイオンバッテリーシステムを開発した.自動車メーカーの要望である“運転席下部に格納できる小型・軽量の高出力バッテリーシステム”には,構成部品の大幅な小型,高性能化が必須である.本開発では,リチウムイオン電池セルの電極体改良による24 %低ハイト化と高出力化,電池制御用の専用IC開発による電池ECU(Electronic Control Unit)の46 %小型化,バッテリーシステムの筐体(きょうたい)樹脂化や異種金属を溶接する新技術をセル同士の接続に応用することによる16 %軽量化などを実現.これにより,従来不可能であった運転席下部へ搭載を可能とし,従来搭載されていた後部座席後ろを新たなスペースとして確保できた.この結果,本バッテリーシステム搭載車の車内スペース拡大という付加価値創出に成功,自動車メーカーの目標を超える車両販売台数に結びつけることに貢献した.

キーワード / リチウムイオン電池,低ハイトセル,ECU,小型軽量バッテリーシステム,異種金属溶接バスバー

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[論文]小型電気自動車向けePowertrainの開発

高橋 知宏,石川 諒,冨永 麗司,相澤 伸哉,湊 純司

近年,アジアを中心に小型EV(Electric Vehicle)の普及が期待されており,その普及には航続距離の拡大と車両の低価格化が必要であるため,電動パワートレインにも軽量・高効率による電費向上と低コスト化が求められている.そのため当社は, 駆動・電源ユニットを1つの筐体(きょうたい)に統合した電動パワートレインを業界で初めて開発した.本製品の技術的なポイントは2点.1点目は,電磁界解析による回路基板の等価回路モデル化とモータの実動作を再現する等価モデルの開発によりインバータのサージ電圧を低減させ,小型高回転モータを駆動可能な高効率回路を実現した.2点目は,熱流体解析と強度解析を用いて,小型でかつ厳しい車載環境に耐えうる新規放熱構造を開発することで,放熱器のサイズを削減した.本技術により,2016年開発品比で全体の体積50 %低減,重量30 %低減,コスト18 %低減,電力変換効率90 %以上を達成し,EVの航続距離48 %増に寄与した.

キーワード / 電気自動車,電動パワートレイン,車載充電器,駆動インバータ,小型,統合,高効率,放熱

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[論文]眠気検知・予測技術に基づくドライバーモニタシステム

式井 愼一,砂川 未佳,楠亀 弘一,望月 誠,北島 洋樹,下村 義弘

現在の眠気を検知する技術とともに,ドライバーの周囲温度に基づいて10分~15分先の眠気を予測可能なことを実証した.現在の眠気を検知する技術は,ドライブシミュレータを用いて取得した実験参加者(計48名)の運転中の顔画像から得た瞬目の波形から,60のパラメータを抽出し分析することで,正答率83 %を実現した.さらに,12名の実験から,実験参加者の周囲の温熱環境と10分~15分先の眠気との間に相関を有することを見いだした.これらの技術により,ドライバーの眠気の深まりを事前に検知することが可能になる.これらの技術を用いたドライバーモニタシステムを開発することで,覚醒状態を高く維持したまま,快適に目的地まで到着できるコックピットを実現できる.

キーワード / 眠気検知,眠気予測,ドライバーモニタ,顔画像,温冷感,放熱量,熱画像,覚醒維持

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<B2B>

[論文]コントラスト比100万対1を実現する液晶ディスプレイ技術

菊池 克浩

医療や放送に代表される産業用途向けのディスプレイではLCD(Liquid Crystal Display)の高コントラスト化が望まれている.筆者らは,これまでに開発した広視野角を特長とするIPS(In-Plane Switching)-LCD技術をベースに,新たに,2層構造,材料,駆動技術をそれぞれ開発することにより,100万:1のコントラストを実現する新型IPS-LCDを開発した.この新型IPS-LCDは,正面のコントラストだけでなく,極角50°でコントラスト20万:1とする超広視野角であり,さらには低階調での色再現性にも優れる特長をもつことから,忠実な画像再現が要求される医療,放送用途に最適なディスプレイと考える.

キーワード / LCD,IPS,High contrast,100万対1,HDR,DICOM

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[論文]RFIDを用いたレジ完全自動化ロボット

山本 浩数,熊川 正啓,今村 幸司,石坪 三和,小林 馨

近年,小売業界における労働者負担を軽減するために,電子タグによる個品識別技術を活用したレジ業務の自動化が期待されている.無線技術を用いる電子タグは,見通し外においても電子タグより情報を取得可能である一方,レジカウンター周囲の精算対象以外の商品を誤って検出する.筆者らは,レジロボ(注1)の袋詰め機構を利用した電子タグの読み取り機構の開発を行った.精算対象とする商品を100 %検出し,かつ80 cmより遠くの不要な商品を誤検出しない構成を実現し,実店舗における実証実験を通じてその有用性を確認したので報告する.

(注1)レジロボおよびRegi-roboは当社の登録商標

キーワード / RFID,電子タグ,レジ業務自動化,レジロボ,袋詰め,コンビニ電子タグ1000億枚宣言,検出率の向上,誤検出率の低減

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[論文]データ寿命100年の高信頼性を実現した光ディスクアーカイブシステム

山崎 卓人,小林 靖史

デジタルデータの長期保存ストレージとして,光ディスクを用いたアーカイブシステムを開発した.このシステムは,Blu-ray Disc(注1)の後継となるArchival Disc(注2)規格によって3倍の容量(300 GB)を実現しながら,新規記録膜材料の開発により推定寿命100年以上のデータ長期保存性を実現した.本システムでは12枚のディスクを高密度に装填する新開発カートリッジによって,ユーザー取り扱い時のメディア損傷リスクを防止している.また,このカートリッジをディスクの内周のみを使ってハンドリングしながら安全に交換できる新規メカニズムにより,大容量でありながらデータを長期に安全に低コストで保存することができる.

(注1)Blu-ray Disc Associationの登録商標

(注2)ソニー(株)と当社の商標

キーワード / データアーカイバー,Data Archiver,光ディスクアーカイブシステム,アーカイブ,長期保存,Archival Disc,アーカイバルディスク

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[解説]世界最高水準の顔認証技術

加賀屋 智之

当社の顔認証技術は,2017年4月にアメリカ国立標準技術研究所(NIST)公開しているデータセット(IJB-A)において,世界最高水準の性能を達成した.本技術は,従来技術では認証が困難だったシーン(45度以上の顔向きがついたシーン,照明の明暗変化のあるシーン,一部顔が隠れているシーン)にも対応し,さまざまな用途への展開が期待できる.本稿では,世界最高水準の性能を達成したディープラーニング顔認証技術のなかで,①複数のディープラーニングを融合した当社独自のネットワーク構造と,②撮影環境に合わせた類似度計算技術の2点について詳細を説明する.

キーワード / 顔認証,顔照合,ディープラーニング,NIST,本人確認,監視

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[解説]5G時代の新たなソリューション事業を支える無線通信技術

佐野 達也,新宮 秀樹

5Gではさまざまな通信方式が重畳配置されるヘテロジニアスネットワーク(HetNet)構成が検討されており,そのなかで無線LANを含めた運用も検討されている.筆者らは5G HetNet上でサービスが提供される時代を5G時代と定義し,5G時代に当社が取り組むソリューション事業を支える無線通信技術(高密度無線LAN環境の干渉低減技術,高周波数帯のアンテナ設計技術,高精細映像の無線伝送技術)について紹介する.

キーワード / 5G,大容量化,高密度無線LAN,MIMO,高精細映像伝送

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