生物多様性に関する考え方
私たちの社会生活や事業活動は、様々な自然がもたらすもの(NCP:Nature's contributions to people)によって成り立っています。そして持続可能な開発目標(SDGs)や国連生物多様性条約の長期ビジョンである自然共生社会の実現において、気候変動対策と資源循環対策、生物多様性保全が密接に関連していると認識されています。
2022年12月に、モントリオールで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が策定されました。
2050年ビジョン「自然と共生する世界」
2030年ミッション「生物多様性の損失を食い止めるとともに反転させるための緊急の行動をとる」、つまりネイチャーポジティブの実現です。
この2030年ネイチャーポジティブ達成のための世界目標が、「昆明・モントリオールターゲット」であり、23の目標が決定されました。
当社はそれに先駆けて、GREEN IMPACT PLAN 2024(GIP2024)の生物多様性保全では、「ネイチャーポジティブをめざして事業活動が生態系に与える影響を低減・回復」を目標としました。
GIP2024の3つの目標
目標 | SDGs | |
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持続可能な原材料調達 | 木材・紙など、持続可能な調達を推進 | 12,13,15,17 |
事業所緑地(土地利用) | 生物多様性に配慮した事業所緑地の活用 | 13,15,17 |
商品・サービス | 生物多様性保全に貢献する商品やサービスの提供 | 11,12,15,17 |
今後は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)、SBTs for Nature(科学に基づく自然関連目標)などの基準に従い、当社グループにおける事業の依存や自然に与える影響を明らかにしながら、取り組みを推進します。
3年ごとに見直し計画するグリーンインパクトプランは、生物多様性条約の生物多様性行動計画(BAP)に相当します。
持続可能な原材料調達の取り組み
まず、調達部門の「グリーン調達基準書」の中で生物多様性保全への配慮を記載し、サプライチェーン全体で取り組むこととしています。
木材調達に関しては、生物多様性保全と持続可能な利用を目指した木材グリーン調達ガイドラインを、WWF(世界自然保護基金)ジャパン様と協議し2010年に策定しました。このガイドラインに基づき、毎年木材調達のサプライヤに実態調査を行っています。
2021年度には持続可能な原材料調達について、WWFジャパン様と意見交換し、木材調達は合法性だけでなく、環境面や社会面(人権)も配慮の重要度が高まっていることを確認でき、対策を検討するきっかけとなりました。
伐採時の合法性が確認できない木材・木質材料(区分3)の排除
2023年度の木材調達実態調査結果は、以下のとおりです。
WWFジャパン様と協議・策定した木材グリーン調達の考え方
土地利用分野の取り組み
事業所緑地と近隣に点在する緑地や公園とのつながりによるエコロジカルネットワーク形成で、鳥やチョウ、トンボなどの生きものが周辺に点在する緑地や水辺の間を移動できるようになり、生息できる空間が広がることになります。事業所の緑地は、こういった地域の生物多様性保全に貢献できる大きな可能性を持っています。特に都市部では野生生物が生息・生育できる自然環境がほとんど残されていないため、たとえ小さくても、その地域本来の植生や水辺などを備えていれば、様々な生きものにとって大切な場所となります。
定量評価手法に基づく外部認証の取得
パナソニック(株)くらしアプライアンス社草津拠点は、生物多様性に配慮した事業場として2018年3月に(一社)いきもの共生事業推進協議会の「いきもの共生事業所認定(ABINC認証)」※1を取得しました。審査の中では、自然環境を適切に保全し多様な生きものに応じた緑地づくりを進めていること、特定外来種についても適宜管理が行われ、モニタリング設置で状況把握されていること、また、自治体や小学生など外部関連主体・地域の人とのコミュニケーションに緑地が積極的に活用されていること、などが評価されました。
2011年から継続しているモニタリング調査で840種の動植物が確認され、都市化が進む地域において重要なビオトープであり、地域のエコロジカルネットワークの形成にも貢献していることがわかりました。また、ドングリをテーマとした小学生向け環境学習の継続的な実施が「生物多様性の主流化に貢献する取り組み」として高く評価され、2020年1月に第2回ABINC賞 優秀賞を受賞しました。
<外部認証と表彰>
- しが生物多様性取組認証制度3つ星マーク取得(2018年)※2
- ABINC認証取得(2018年3月)、1回目認証更新(2021年2月)、2回目認証更新(2024年2月)
- 第2回ABINC賞 優秀賞(2020年1月)
※1 ABINC認証は、企業と生物多様性イニシアチブ(JBIB)が開発した土地利用通信簿(環境アセスメントとしての生物多様性定量評価ツール)の実施といきもの共生事業所ガイドラインに基づき、事業場緑地の整備、管理を第三者の評価により認証する制度
※2 「しが生物多様性取組認証制度」は、事業者が行う生物多様性保全に関する取り組みを、1つ星~3つ星で知事が認証するもので、都道府県が生物多様性に関する幅広い取り組みを認証するものとして、全国でも初めての制度
<国際取組み30by30への参画>
2022年3月には、世界が推進する2030年までに陸域海域の30%を自然環境エリアとして保全する取り組み(30by30)に対して共存の森も貢献できると考え、環境省の30by30アライアンスへ加盟し、2023年10月に「自然共生サイト」として正式認定されました。今後、OECM※3として国際データベースにも掲載予定です。
※3 OECM:Other Effective area based Conservation Measure国立公園等の保護地域以外の場所で生物多様性保全に貢献する場所(例:社寺林、企業保有林、企業緑地、里地里山等)。日本の30by30は、国立公園等保護地域とOECMを合わせて30%の達成を目指すとしている。
パナソニック オートモーティブシステムズ(株)※4松本工場は2015年9月JHEP認証※5のAランクを取得しました。現在は認証の更新はしていませんが、当時整備したススキ草地、立枯木の設置、外来種の排除によって、現在も鳥類及び昆虫類の繁殖増加が定着し、本事業場緑地の生物多様性の保全活動は継続推進しています。
※4 認証取得時点の社名はオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社
※5 環境アセスメントで用いられる「ハビタット評価手法(HEP)」をもとに、(公財)日本生態系協会が開発した生物多様性定量評価手法
商品・サービス分野の取り組み
照明機器による生物多様性保全への貢献
パナソニック(株)エレクトリックワークス社ライティング事業部では、環境および生物多様性に配慮した照明機器を開発・販売しています。
LED誘虫器(商品名:ムシキーパー)
誘虫器とは、店舗、倉庫やグラウンドのあかりに集まる虫を誘引し虫害を低減する機器のことです。これまでは、電撃殺虫器と呼ばれる紫外蛍光ランプにより虫を誘引し、電撃格子によって、殺虫するものでした。2021年6月に紫外・青色のLEDにて虫を誘引、保持することで、虫を殺すことなく虫害を低減するLED誘虫器(ムシキーパー)を販売しました。これにより虫を誘引し殺さずに自然へ戻すことができるため生態系の保護になります。また従来機器は全周囲照射で過剰に誘虫していましたが、LEDにより一方向の照射が可能となり、効果的に虫を誘引できることも生物多様性保全に貢献しています。なお、LED誘虫器は誘虫指数※6で評価し、従来機より誘虫性が高いことを確認しています。
※6 誘虫指数は、理論上の指数であり、実際に光に集まる虫の数を表すものではありません。(誘虫指数:青木慎一他、「新誘虫性指数による誘虫性評価」照明学会第38回全国大会、2005、P284)
DarkSky認証取得のLED照明開発
同事業部の光害対策型のLED防犯灯と道路灯が、2020年2月に国内メーカーで初めて※7、DarkSky※8による認証を取得しました。DarkSky認証品は、「色温度を青色光が少ない電球色3000K(ケルビン)以下とする」という規定があり、星空だけでなく、夜間の野生生物への影響も低減されます。
※7 国内メーカーにおけるDarkSky認証器具として(2020年2月20日現在 ダークスカイ・ジャパン調べ)
※8 DarkSky光害問題に対する取り組みで、世界的に先導的な役割を担う組織
(参考)当社グループも策定に協力した環境省の「光害対策ガイドライン」(2021年3月発行)
ホタルに配慮した照明
IDA認証取得のLED照明に先駆け2016年に、ホタルに影響を与えにくい波長特性、光学特性を有した照明を開発し、自治体等へ設置しました。逗子市沼間地区でのホタルの定点観測結果では、前年68匹だった場所で145匹を確認したと報告されています※9。
※9 ホタル生育環境を配慮した照明であり、ホタルの成育向上や飛翔数の増加を保証するものではありません
「基材」に建築廃材や未利用材などをリサイクルした木質材料を100%使用した床材
パナソニック ハウジングソリューションズ(株)では、木材資源保全の観点から、天然素材の使用量削減に取り組んでいます。「サステナブルボード」は通常では廃棄されてしまう建築廃材や、扱いづらく行き場のなかった未利用材を再資源化し活用した木質材料を100%(接着剤は除く)使用、環境に配慮した新素材です。
加工技術を駆使し、高密度に仕上げた結果、一般の合板等に比べても高い硬度を実現しました。
そのため、表面の傷やへこみがつきにくい特徴をもっており、例えば、キャスター付きの椅子や、重量のある家具の利用にも適しています。
また、床材を施工していく際に重要となる、サネ部にも、独自の加工を施しており、高い施工性も兼ね備えています。
さらに、サステナブルボードを使用した床材の売上の一部が、群馬県の森林整備の活動支援金として寄付される仕組みも構築しており、より環境保護を意識した取り組みを進めています。
世界初※10アブラヤシ廃材を活用した再生ボード化技術の開発
2022年3月、世界初アブラヤシ廃材再生ボード化技術を「PALM LOOP」※11として発表し、国内家具市場における市場検証をスタートしました。2024年度からは、アブラヤシ廃材の調達地であるマレーシアを拠点に、グローバル展開への取り組みも進めていきます。
- アブラヤシ廃材の放置によるメタンガス等の温室効果ガス発生の削減に貢献
- アブラヤシ廃材から再生ボードをつくる技術を開発
- 廃材再利用により、新たな農地開拓のための森林伐採防止
「温室効果ガス排出」の削減と、「森林伐採」防止で、地球温暖化防止に貢献します。
※10 2022年3月当社調べ
※11 「PALM LOOP」はパナソニック ホールディングス(株)の商標です。
セルロースファイバー樹脂「kinari」が環境省「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」の事例として掲載
2023年3月、環境省よりネイチャーポジティブ経済移行戦略の公表があり、その参考資料集のケーススタディ:「バイオマス(廃材含む)を含むプラスチックに代わる素材へのアップサイクリング」の事例として、セルロースファイバー樹脂「kinari」(天然原料を55~90%使用)が掲載されました。材料としての期待事業規模は、数十~数百億円/年(当社グループ試算)です。
植物の成長を刺激し助ける「バイオCO2変換」(商品名:ノビテク)
パナソニック ホールディングス(株)技術部門では、バイオCO2変換の実証実験を全国各地の農地で実施しており、例えばホウレンソウの場合には収穫量が40.9%増加することを実証しました。バイオCO2変換のプロセスは、光合成に基づく2つの段階から成ります。
まず、光合成微生物の一種であるシアノバクテリアの光合成によって大気中のCO2から植物の成長を刺激する生体分子が生成されます。その後、その生体分子を希釈して葉面に散布すると、作物の光合成に関わる代謝が刺激され、収穫量が増加します。地球環境から無償かつ無限に供給されるCO2をプロセスの核とするため、バイオCO2変換によって食糧コストの増大を相殺することが可能となります。
農家側からすると、新たな装置やインフラへの投資なしで作物の収量を向上できる上、生体分子がストレス耐性を向上する働きを持つので、何重にもメリットがあると言えます。
NGO・NPOとの協働や支援による生物多様性保全
MSCおよびASC認証取得のサステナブル・シーフードの社員食堂への導入
当社グループは20年以上にわたりWWFジャパン様との協業を通じて「海の豊かさを守る活動」※12を行っています。現在の主な活動は、2018年3月より日本初でスタートしたMSCおよびASC認証の※13サステナブル・シーフード※14(持続可能な水産物)の社員食堂での継続的な提供です。本年度は、在宅勤務等による従業員の出社状況に伴う社員食堂での喫食数の減少や、物価高騰などの影響を受け、導入済拠点でも提供を中止せざるを得ない拠点が出るなど、この取り組みにとって困難な状況が続きました。そのため、当社グループ新規導入は1拠点に留まり、累計導入拠点で57拠点となりました。なお、継続的に取り組んでいる他の企業の社員食堂へのサステナブル・シーフードの導入支援は、連携先企業の社員食堂への導入が累計で50拠点を越え、当社グループとの累計の導入拠点の合計は100拠点を超えるまでになりました。
さらに、企業の社員食堂以外でも、横浜市立大学生活協同組合様が認証を取得(当社グループが支援・連携)され、2022年には、日本初となる大学の学生食堂でサステナブル・シーフードが提供されるなど、新しい流れや広がりができつつあります。
社員食堂等のサステナブル・シーフード提供の拡大や、従業員や次世代に向けたサステナブル・シーフードやIUU漁業問題※15に関する定期的・継続的な啓発活動、メディア等を通じた発信により、消費者である従業員や一般の方々の消費行動の変革を促進し、SDGs「14:海の豊かさを守ろう」への貢献と生物多様性の主流化を推進しています。
<外部表彰>
- 第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード:イニシアチブ部門チャンピオン(2019年11月)
※12 有明海干潟保全支援(2001-2006年)、黄海エコリージョン支援(2007-2015年)、南三陸の環境配慮型の養殖業復興支援(2014年~現在)等
※13 MSC認証は海洋管理協議会が持続可能で適切に管理された漁業を認証するもので、ASC認証は水産養殖管理協議会が環境と社会への負荷を最小限にする責任ある養殖業を認証するもの
※14 MSC認証、ASC認証による持続可能な水産物の生産に加え、CoC認証※16で管理されたシーフード
※15 IUU 漁業問題:Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)で行われる漁業。資源管理の実効性を脅かしている国際問題の一つ
※16 CoC:Chain of Custody の略。加工・流通・販売過程における管理やトレーサビリティ確保についての認証
NGO・NPOを通じたグローバルでの生物多様性保全活動推進
市民ネットワークとの連携で里山・河川の保全活動を継続
当社グループでは国内の会社・労働組合と定年退職者会が、パナソニックエコリレー ジャパン(PERJ)として一体となり、様々な環境保全活動を行っています。
PERJが活動を展開している「枚方市・穂谷里山保全活動」「丹波篠山市・ユニトピアささやま里山再生活動」「門真市・エコネットワーク活動」「大阪市淀川・城北ワンド、庭窪ワンド※17保全活動」は、2010年10月PERJスタート時から今日まで、関係団体※18と連携して活動継続してきました。その間、地元企業や近隣大学、市民団体などと連携し、環境活動を行う次世代の育成に貢献している点が評価され、下記のように多くの表彰をいただきました。持続可能な地球環境と社会づくりへの貢献として、「森林」「緑地」「水」を中心とした生物多様性保全、里山保全につながる活動に今後も取り組んでいきます。
<外部表彰>
- 枚方市環境表彰(2018年2月)
- 生物多様性アクション大賞入賞(2018年12月)
- 門真市環境表彰(2019年2月)
- 大阪市環境表彰(2020年2月)
※17 ワンドとは川の本流とつながっているが、河川構造物などに囲まれて池のようになっている地形のこと。魚類などの水生生物に安定した棲み処を与えるとともに、様々な植生が繁殖する場ともなっている。
※18 NPO、市民団体、大学、行政、自治体、研究所、企業、地元農家など、多くのステークホルダーと連携
生物多様性に関連するイニシアチブ等への参画
当社グループは、下記の生物多様性のイニシアチブや業界団体等へ参画することで、生物多様性条約のポスト2020やTNFD、SBTNなど世界の生物多様性に関する動向や勉強会を通して、日本国内の方針の的確な把握をし、当社グループ事業へのフィードバックを行い機会とリスクを検討しています。また、生物多様性条約のCOPでは、グローバルに日本企業の活動をアピールしています。
<参加>
- TNFDフォーラムへ参画
- 経団連自然保護協議会:経団連生物多様性宣言イニシアチブに当社グループも参加
- 企業と生物多様性イニシアチブ(JBIB)
- 産業と環境の会 生物多様性保全対策委員会
- 電機・電子4団体※19 生物多様性ワーキンググループ
また、海洋プラスチックごみ問題解決のイノベーションを加速するためのクリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)へはパナソニックホールディングスが参画しています。
※19 (一社)日本電機工業会(JEMA)、(一社)電子情報技術産業協会(JEITA)、(一社)情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)、(一社)ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)の4団体