水資源保全に対する考え方

地球上で利用可能な淡水は水資源全体の0.01%程度に過ぎません。今後の経済発展や人口増加による水使用量の増加を見据えると、水危機はグローバルリスクの一つとしてあげられるものと捉えています。
社会問題として水不足の深刻さが増す中、当社グループは、企業の社会的責任の遂行と経営リスク低減のため、商品・生産活動の両面から水資源保全に取り組んでおり、環境基本方針において、効率的な水の利用と汚染防止により、水資源の保全に努めることを定めています。環境行動計画GREEN IMPACT PLAN 2024+1においても継続課題として定め、事業活動および製品・サービスでの水使用量の削減に取り組んでいます。
当社グループでは、水管理を含む環境経営の推進体制を構築し、PDCAサイクルに基づくマネジメントを通じて、環境経営の継続的な高度化を図っています。また環境リスクを継続的に低減するための体制として、環境リスク管理体制を組織し、毎年度、環境リスクの洗い出しを実施しています。これにより、グループ全体でのリスクマネジメントを推進するとともに、環境リスクが顕在した際には迅速な対応が可能となるよう取り組んでいます。こうした取り組みは、衛生的な水へのアクセスを基本的人権と捉える立場にも基づいています。
さらに、2014年に日本の環境省主導で発足した官民連携啓発プロジェクトであるウォータープロジェクトに当社グループは参画しています。このプロジェクトは健全な水循環の維持または回復の推進などを目的としており、企業の水の取り組みの紹介、水の重要性や情報の発信を行っています。当社グループは日本政府や他社とも協働して、水資源保全に取り組んでいきます。

TNFDフレームワークに基づく水資源のLEAP分析

当社グループでは、2017年度までに水リスクアセスメントを実施済みでしたが、評価基準の進化や事業環境の変化を踏まえ、再評価を開始しました。現在は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークに準拠し、水資源に関するリスクと影響の特定・評価を進め、その一環として、全製造拠点を対象に、「LEAPアプローチ※1」に基づく体系的なリスク評価を実施しています。
第1段階である「Locate(特定)フェーズ」では、自社拠点の位置と自然資本との関係性を明確化しました。具体的には、すべての製造拠点がどのような自然環境下に位置しているかを把握するために、水リスク評価ツールであるWRI(世界資源研究所)のAqueductやWWF(世界自然保護基金)のWater Risk Filterを活用し、水ストレスや水質汚濁に関するリスク評価を実施しました。その結果、水資源に対する物理的リスクの高い拠点を特定することができました。これらの高リスク拠点の中には、すでに物理的リスクの低減に向けた取り組みを積極的に推進している拠点もあり、当社Webサイトにてその内容を紹介しています。
今後の「Evaluate(診断)フェーズ」では、特定された高リスク拠点に対して、取水の依存性(使用する水の種類、用途、取水量など)や排水による影響(排出方法、排水先、保護地域への近接性など)を精査し、水資源への依存度および自然環境へのインパクトを評価していきます。さらに「Assess(評価)フェーズ」では、評価結果に基づき、想定されるリスクと機会を明確に洗い出し、「Prepare(準備)フェーズ」における効果的な目標設定と対応策の策定につなげていく予定です。

※1 LEAPアプローチ
TNFDは、自然関連のリスクと機会を総合的に評価するプロセスとしてLEAPアプローチを策定しました。
LEAPアプローチは、事業と自然との接点の特定(Locate)、依存関係と影響の診断(Evaluate)、リスクと機会の評価(Assess)、そして自然関連リスクと機会に対応する準備と開示(Prepare)の4つのステップから構成されています。

水ストレスリスク(高リスク拠点割合)

水ストレスリスク(高リスク拠点割合)

※2024年12月に連結対象外となったパナソニック オートモーティブシステムズ(株)傘下工場を除く

水質汚濁リスク(高リスク拠点割合)

水質汚濁リスク(高リスク拠点割合)

※2024年12月に連結対象外となったパナソニック オートモーティブシステムズ(株)傘下工場を除く

水資源に対する物理的リスクの高い拠点におけるリスク低減に向けた取り組み

パナソニック・ゴーベル エナジー インドネシア(株)

パナソニック・ゴーベル エナジー インドネシア(株)では、これまで排水されていたRO(逆浸透膜)システムからの凝縮水を、冷却塔用水として再利用する取り組みを開始しました。この再利用により、冷却塔の運転に必要な水の使用量を削減できるほか、電力消費や水処理に使用する化学薬品の使用量も抑えることが可能となりました。
この取り組みによって、年間約23,904m3の水使用量を削減し、CO2排出量についても年間10.44トンの削減を実現しています。

パナソニック ライフソリューションズ インド(株)Kutch工場

パナソニック ライフソリューションズ インド(株)Kutch工場では、乾燥した砂漠地帯に立地しており、水をタンクローリーで調達しています。
インド国内の中でもKutch工場は水が非常に高価で貴重な地域に位置していることから、雨水の再利用や給水システムの自動化を積極的に推進しています。まず、原水タンクの屋根を改修し、雨水を効率的に収集できるように整備しました。収集した雨水は、ガーデニングや運転手待機室、食堂エリアの手洗い用水として再利用しています。また、原水タンクから工場のタンクへ送水する際には、これまで制御機能がなかったため、給水時に水があふれるという課題がありました。
この課題に対しては、自動運転機能を導入することでタンクの水位を適切に管理し、水のあふれを防止することができました。さらに、水の移送には新たに水中ポンプを導入し、節水と省エネルギーの両立を実現しました。これらの取り組みによって、年間で約154m3の水使用量を削減し、15,076INRのコスト削減につなげることができました。

パナソニックライフソリューションズインド(株)Kutch工場 原水タンクの屋根(雨水を効率的に収取できるよう改修)

パナソニックAP冷蔵庫無錫(有)

パナソニックAP冷蔵庫無錫(有)では、排水および雨水の管理体制を強化し、環境保全に向けた取り組みを積極的に推進しています。
まず、排水管および関連施設の全面的な更新を実施し、定期的なテストとメンテナンスを通じて、排水管と雨水道の分離を厳密に管理しています。
また、雨水の水質についても定期的にチェックを行い、適切な状態を維持するよう努めています。さらに、作業場内のすべての雨水井口には識別ラベルを貼付し、人為的な廃棄物の投棄を防止する対策を講じています。
加えて、雨水排出口には遮断装置と折りたたみ式の緊急プールを新たに設置し、万が一雨水に汚染が発生した場合でも、外部への流出を防ぐための訓練を定期的に実施しています。

パナソニックAP冷蔵庫無錫(有) 雨水排出口 遮断装置

パナソニック(株)くらしアプライアンス社 彦根工場

パナソニック(株)くらしアプライアンス社 彦根工場では、水環境への影響を最小限に抑えることを目的として、さまざまな取り組みを実施しています。
まず、水質測定に関しては、県や市の条例で定められた基準よりも厳しい独自基準を設定し、より高い水準での管理を行っています。
また、水質汚濁防止法に関連する特定施設を保有する部署や、各部門の環境推進担当者に対して、年に一度の環境法規研修を実施し、法令遵守と環境意識の向上に努めています。
さらに、排水の管理体制として、pH計・濁度計・UV計を備えた排水監視盤を設置し、24時間365日体制で常時モニタリングを行っています。
異常値が検出された場合には、監視装置からアラームが発報され、迅速に対応できる体制を整えています。

パナソニック(株)くらしアプライアンス社 彦根工場 施設管理事務所内排水監視モニター

パナソニック(株)くらしアプライアンス社 加東資源循環工場

パナソニック(株)くらしアプライアンス社 加東資源循環工場では、再生樹脂の洗浄工程において、従来主流だった湿式洗浄に代わり、水を一切使用しない乾式洗浄方式を採用しています。湿式洗浄では、排水中にマイクロプラスチックが含まれるリスクがある一方で、乾式洗浄を用いることでそのリスクを大幅に低減することが可能です。
この乾式洗浄装置は、精米装置を転用し活用されたものであり、加東工場および一部の外部協力企業に限定的に導入されています。独自性の高いこの取り組みによって、水資源の使用量を削減するとともに、マイクロプラスチックの流出を防止することができます。これらの工夫は、水資源の保全と海洋汚染の防止という、二つの重要な環境課題に対して有効なアプローチとなっています。

(採用)パナソニック(株)くらしアプライアンス社 加東資源循環工場 乾式洗浄装置

商品による水資源保全への取り組み

当社グループは、商品における水の使い方を徹底的に分析し、水流制御、循環利用などの機能を向上させ、水を最大限に活用することで、気遣いなくとも節水を可能にする節水商品の開発に取り組んでいます。

食器洗い乾燥機(フロントオープンタイプ)

フロントオープンタイプ食器洗い乾燥機NP-60EF1Wは、12人分の食器を収納できる大容量な仕様で、1日分をまとめ洗いでき、ユーザーの家事負担を軽減するとともに、食器洗い時の使用水量削減にも貢献します。手洗いと比較した使用水量は約1/9(手洗い約133.6Lに対して約15.1Lで2Lペットボトル約59本分の節約)となり食器洗い時の節水に貢献します。食洗機と手洗いでそれぞれ使用する電力、ガス、水、洗剤をCO2排出量に換算(当社試算)した場合、食洗機の方がCO2排出量は小さくなります。
また、本製品は、高温・高圧水流の高い洗浄力で汚れをしっかり洗い落とすことができるので、食器セット前の予洗いは不要です。さらに新構造の「残さいフィルター」は、当社独自技術により、洗浄中の各工程でフィルターを洗浄する「自動洗浄システム」を採用。運転後のお手入れの頻度を減らすことができます。

フロントオープンタイプ食器洗い乾燥機NP-60EF1W

ななめドラム洗濯乾燥機LXシリーズ

ななめドラム洗濯乾燥機LXシリーズは、縦型洗濯機と比較し、洗濯時の消費電力量を約30%節電するとともに、使用水量を約67L節水することができ、水資源の保全に貢献します。上水、下水の水処理に掛かるエネルギーを考慮すると、節水はCO2削減にも貢献します。また、液体洗剤・柔軟剤の「トリプル自動投入」により洗剤の入れすぎを防ぎ、環境負荷の低減を図ることができます。詰め替え用の特大タイプを使用すれば、洗剤容器のプラスチック使用量を約88%削減することも可能です。

ななめドラム洗濯乾燥機LXシリーズ

リズムeシャワープラス

シャワーの流量・温度を一定リズムで変動させて、「省エネ:最大約20%」「節水:最大約10%」を実現しました。
ひとセンサーと流量センサーがシャワーの使用を検知し、流量調整弁と制御技術でシャワー流量を高速で変動させます。

※当社独自の条件により評価。数値はあくまでめやすであり、使用方法によって異なります。
※当社試験設備にて、家庭用ヒートポンプ給湯機JIS C 9220負荷条件による。夏期給湯モード加熱条件:外気温(乾球温度/湿球温度)25℃/21℃水温24℃ 給湯設定温度40℃ ダイレクト出湯、シャワー使用時間5分/回を使用したときの比較(浴室シャワーのみ使用時)。シャワー使用流量合計:リズムeシャワープラス ON(設定:強)時 45L/OFF時 50L JP、J、W、FP、Fシリーズ フルオートにおいて 省エネ条件:リズムeシャワープラス ON(設定:強)時のシャワー熱量2.6MJ/OFF時のシャワー熱量3.3MJ 節水条件:リズムeシャワープラス ON(設定:強)時のシャワー流量8~10L/分 OFF時のシャワー流量10L/分

リズムeシャワープラス
リズムeシャワープラス

洗浄機能付きフラット形レンジフード

レンジフードは油汚れがつきやすく、1回のお手入れで約28リットルの水を使用します。
エコナビ搭載洗浄機能付きフラット形レンジフードDWシリーズは、給湯トレイにお湯を入れて本体にセットし、「洗浄」ボタンを押すだけで、ファンフィルターで集めた油汚れを自動洗浄します。2か月に1回程度の洗浄で、10年間ファンフィルターを取り外さずに掃除が可能。従来のお手入れ時に比べ、約99%節水できます※2
2020年9月に発売したDEシリーズも、羽に付く油をはじく独自の塗装により油がこびりつきにくいだけでなく、運転終了前にファンを高速回転して羽根についた油汚れを遠心力で飛ばす“油トルネード機能”により、羽根の洗浄を3年に1度程度※3に減らすことができます。

※2 使用水量は自社基準による。月1回(2か月に2回)の従来お手入れと、2か月に1回の自動洗浄の水量比較
※3 (一財)ベターリビング優良住宅部品評価基準換気ユニット(台所用ファン)のフィルターの油捕集効率(レンジフードファン)試験での比較

洗浄機能付きフラット形レンジフードFY-60DWD4-S

全自動おそうじトイレ「アラウーノ」

流すたび、泡で洗う全自動おそうじトイレ「アラウーノ」は、独自の節水技術「ターントラップ方式」で効率的に水を使うことにより、従来のトイレと比較して、使用水量を年間で約40%※4に削減できます。また、汚れが付きにくい有機ガラス系新素材を使用していることに加え、トビハネ汚れを抑える「トリプル汚れガード」によって掃除の回数が少なくて済むため、お手入れにおいても節水です。
すっきりとしたデザインで、トイレ空間のコーディネイトに配慮される店舗やホテルにも展開しており、住宅以外でも節水の機会を拡大しています。

※4 2000年頃のトイレとの比較

全自動おそうじトイレ「アラウーノ」
全自動おそうじトイレ「アラウーノ」

生産活動における水資源保全への取り組み

当社グループは生産工程排水、空調系統排水などを回収し、水を再利用することで、新規補給水および排水放流量を削減し、生産活動の取水・排水による水資源への負荷を削減しています。世界には水不足に脅かされる地域が数多く存在しており、当社グループは重点取り組み地域を絞り、活動を進めています。2024年度の工場取水量※5は、1,349万m3となり、前年度比で2.7%減少しました。また、工場取水量生産高原単位※6は、事業再編の影響により前年度比で原単位は悪化しました。2024年度の水の循環利用量※7は140万m3であり、取水量に対する循環水量の割合は10.4%となりました。2022年度・2023年度・2024年度の排水量は、それぞれ、1,178万m3、1,060万m3、1,045万m3です。

※5 GRIスタンダートを参考に「水使用量」から「取水量」へ変更
※6 工場取水量生産高原単位=工場取水量÷生産高
※7 同じ目的のために単に循環させている水(クーリングタワーの冷却水など)は除外して算定

生産活動における取水量と原単位

生産活動における水使用量と原単位。工場取水量生産高原単位※8(2009年度比)は、2009年度49百万㎥(100%)、2020年度19百万㎥(55.1%)、2021年度17百万㎥(48.2%)、2022年度15百万n㎥(38.1%)、2023年度14百万㎥(35.1%)、2024年度13百万㎥(35.4%)

※8 2009年度は当時の三洋電機・パナソニック液晶ディスプレイを含まず

2024年度 水使用の内訳(地域別)

(単位:万m3

(単位:万m3)日本「取水量740(上水道・工業用水 290/地下水 451/河川・湖水 0)、排水量629(下水 151/公共用水域 478)、消費量111」中国・北東アジア「取水量276(上水道・工業用水 275/地下水 1/河川・湖水 0)、排水量199(下水 166/公共用水域 32)、消費量77」東南アジア・大洋州「取水量245(上水道・工業用水 221/地下水 24/河川・湖水 0)、排水量158(下水 97/公共用水域 60)、消費量87」、北米・中南米「取水量53(上水道・工業用水 38/地下水 14/河川・湖水 0)、排水量44(下水 41/公共用水域 3)、消費量9」、欧州・CIS「取水量9(上水道・工業用水 8/地下水 1/河川・湖水 0)、排水量7(下水 7/公共用水域 0)、消費量1」、インド・南アジア・中東阿「取水量26(上水道・工業用水 2/地下水 24/河川・湖水 0)、排水量8(下水 8/公共用水域 0)、消費量18」、取水量合計1,349(上水道・工業用水合計 834/地下水合計 514/河川・湖水合計 0)、排水量合計1,045(下水合計 471/公共用水域合計 574)、消費量304

グループ内で最も多く水を使用する事業会社であるパナソニック インダストリー(株)(52事業場)では、2024年度の取水量の実績は削減取り組みの影響もあり532万m3と前年度比で1.7%削減しました。工場での水のリサイクル使用等により、取水量原単位の削減目標達成率は103%と目標を達成しています。

パナソニック インダストリー(株)佐賀拠点では、近年の地震・豪雨災害などの自然災害が頻発する中で屋外で保管する化学薬品の漏洩リスクにも配慮し、化学薬品が必要な樹脂再生式純水製造装置から、化学薬品を使用しない電気再生方式装置に置き換えることで、工場周辺への環境リスク低減および環境負荷の低減を図りました。その際、新たに導入した排水回収装置により純水製造装置から発生する排水を濃縮排水と回収水に分離し、その回収水を再利用することで工場全体の取水量を6.18万m3/年削減することができました。

当社グループは今後も水資源保全の取り組みを進めていきます。


パナソニック インダストリー(株) 佐賀拠点
電気再生式純水装置