パナソニック技報
【11月号】NOVEMBER 2019 Vol.65 No.2

(2019年11月15日公開)

特集:2020年の東京/Beyond 2020

  • パナソニックとオリンピック・パラリンピック
    当社は,オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーとして大会をサポートしています.さらには,大会を通じて都市力の向上にもお役立ちをしていきたいと考えています.
  • 2020年とその先に向けて
    当社は,2020年だけではなくその先を視野に入れて社会課題を明確化し,新たなソリューション「5スマート+ネクスト3」を提案しています.本特集は「5スマート+ネクスト3」を支える技術を特集しています.

2020年の東京/Beyond 2020特集によせて

パナソニック(株) ソリューション営業担当参与
(兼)東京オリンピック・パラリンピック推進本部長,ビジネスソリューション本部長,統合型リゾート(IR)事業推進本部長 井戸 正弘

顔写真:執筆者 井戸 正弘

招待論文

小さな技術,小さな建築

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 隈 研吾

1964年の東京オリンピック・パラリンピックは,大きさと高さの時代の頂点であった.2020年の東京オリンピック・パラリンピックは,対照的に,小ささの時代,すなわち小さいデザイン,小さいエンジニアリング,小さいエコノミーの時代の姿を世界へと提案するイベントでなければならない.

顔写真:招待論文執筆者 隈 研吾

<映像>

技術論文

高輝度プロジェクターを支える要素技術とプロジェクションマッピングの最新事例

山岸 成多,藤畝 健司,山本 淳

近年,CG(Computer Graphics)を,建物や床面に対し投写し,対象と映像とを合わせて演出効果を高める手法が開発され,プロジェクションマッピングと総称されている.ロンドン2012オリンピック競技大会以降,当社の高輝度プロジェクターが各種イベントでのさまざまな演出に貢献している.さらなる高輝度化を求められる一方で,連続使用する用途では従来のランプ光源では頻繁な光源交換が必要となり改善が求められてきた.これを受けて,半導体レーザーと無機蛍光体による大光出力化技術,前記光源および蛍光体の長寿命化を実現する冷却技術を開発した.さらに,1920 Hzの高速トラッキング技術による移動物体に対するマッピング技術などへの進化を図るとともに,厳しい温度環境でも多数台でのマッピングを安定的に運用するための技術を実現した.

当社関連リリース

キーワード / プロジェクター,高輝度,高信頼,プロジェクションマッピング,半導体レーザー,無機蛍光体,高速追従,安定運用

代表図

画像センシング技術を活用したスポーツICTの取り組み

田靡 雅基,古山 純子,冨田 裕人,濱田 匡夫,吉原 フウ

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて,スポーツに活用するICT技術の研究開発が盛んに行われている.これに対し,筆者らは「見えないものを自動かつリアルタイムで可視化,することを目指し,肉眼で見えない選手の心拍数や,ボールが四方八方に速度を変えて移動する競技中にボールの高さや速度を数値化する画像センシング技術を開発した.また,これらの技術を用いて,選手のパフォーマンスに影響する心拍数をカメラ映像から推定する非接触バイタルセンシング技術をアーチェリーに適用したソリューションと,4台のカメラを使ってボールの3次元位置を推定する追跡技術を核に,どの選手が何のプレイをしたかをデータ化するバレーボール解析ソリューションを開発し,実践導入した.

当社関連リリース

キーワード / 画像センシング,バイタルセンシング,心拍数,アーチェリー,バレーボール解析,3Dトラッキング,背番号認識

代表図

8Kイメージングソリューション
‒ 有機積層型イメージセンサを用いたマルチパーパスカメラの開発とROI切り出し機能‒

布施 彰一,西村 佳壽子,元田 一真,千秋 久子,三皷 正則,打井 裕基一

世界初の8K有機センサを搭載した8Kカメラシステムを開発商品化した.有機薄膜を光電変換部に用いた独自の積層構造により,効率的な光電変換と電荷蓄積を両立し,8K高解像度と広ダイナミックレンジ,速い動きにも動体歪(ひず)みのないグローバルシャッタの同時実現を可能とした.小型軽量のカメラユニットと光ファイバーケーブルで接続する信号処理ユニットからは,8K/4K/HD映像出力が可能で幅広い用途に対応するマルチパーパスカメラを実現した.また,8K撮影画像から任意の4K/HD領域をリアルタイムで切り出し可能な「8K ROI(Region of Interest)技術,を開発し,スタジアムを少人数でマルチアングル撮影編集可能とした.

当社関連リリース

キーワード / 有機イメージセンサ,広ダイナミックレンジ,グローバルシャッタ,8K ROI(Region of Interest)技術,広角歪み自動補正,オートコンテンツ制作

代表図

技術解説

超高精細度テレビジョン(UHDTV)放送に対応したスタジアム照明設計

松井 俊成

広色域が特長の1つである超高精細度テレビジョン(UHDTV)放送に対応したスタジアム照明要件を明らかにするために,評価実験を実施し,推奨値を平均演色評価数Raが90以上,特殊演色評価数R9が80以上とした.またグレアを抑制するために,視対象物が消失する照明条件を明らかにするとともに,競技者などおのおのの視点において検証ができるVR(Virtual Reality)技術を活用した評価ツールを開発し,関係者間での課題抽出や対策実施を効率的に行えるようにした.

当社関連リリース

キーワード / スタジアム照明,超高精細度テレビジョン放送,ARIB,VR,グレア,評価ツール

代表図

多様な空間にリアルスケールで映像投影可能なVR映像投影システムの開発

高島 深志

多様な空間に多人数同時体験型のリアルスケールVR(Virtual Reality)映像投影空間を設けることができるVR映像投影システムを開発することで,VR技術を活用した空間演出への応用や,3次元形状で構成される建築物の評価検証時の関係者間での合意形成と意思決定の促進に応用する.

当社関連リリース

キーワード / VR,プロジェクションマッピング,BIM,投影システム

代表図

屋外高倍率監視カメラの夜間高画質化のための赤外線照明技術

片岡 哲志

屋外対応監視カメラにおいて,赤外線照明搭載と高倍率化が普及しつつある.本稿では,屋外高倍率監視カメラの夜間高画質化を実現するための赤外線照明技術(①集光レンズ,②可視光/赤外光の混合光下での照明/フォーカス制御)について解説する.

当社関連リリース

キーワード / 集光レンズ,赤外線照明,可視光カットフィルタ,IR-LED,セキュリティカメラ,IR-PTZカメラ

代表図

<コミュニケーション>

技術論文

光ID技術を活用した屋内ARナビゲーションシステム

堆朱 健太,三好 健吾,中西 幸司

本稿では,GNSS(Global Navigation Satellite System)が不安定な屋内や地下空間におけるAR(Augmented Reality)ナビゲーションシステムを提案する.光ID信号を送信する光源をARナビゲーションのタッチポイントとして用いることで,起点の位置情報を正確に取得することが可能となった.さらには,現実世界でのタッチポイントの方位とAR空間でのタッチポイントとユーザーの位置関係から,現実世界におけるユーザーの方位を求めることで,ARナビゲーションにおいて課題であった初期進行方向を算出した.筆者らは,これらの技術を利用して,スマートフォン向けのアプリケーションとサーバからなるARナビゲーションシステム「LinkRay(注1)ARナビゲーション,を開発した.

(注1)当社の日本およびその他の国における登録商標または商標.

当社関連リリース

キーワード / 屋内ナビゲーション,ARナビゲーション,光ID,LinkRay,位置情報,タッチポイント検出,ユーザ方位,端末姿勢補正

代表図

お客様の多種多様な運用に合わせて柔軟にカスタマイズできるデジタルサイネージシステム

竹山 裕大,阿部 拓野

お客様の多種多様な運用に合わせて柔軟にカスタマイズできる,新たなデジタルサイネージシステムを実現した.デジタルサイネージの利用用途拡大や開発効率向上を容易にすることが目的である.その実現のため,従来システムを改修し,操作画面をWebUI形式にするとともに,各機能をサーバの主要部から完全に独立したWebAPI形式とするアーキテクチャに変更した.その結果,操作画面のカスタマイズ性の向上,プレイリスト作成の自動化,容易な外部システム連携,他社製コントローラ制御といった効果が得られ,目的を達成できた.

当社関連リリース

キーワード / デジタルサイネージシステム,利用用途拡大,開発効率向上,WebUI形式,WebAPI形式

代表図

技術解説

多言語翻訳ソリューションに向けた翻訳モデルのカスタマイズによる翻訳精度の向上

生田 久敏,荒木 昭一

訪日外国人との多言語による業務コミュニケーションを支援するため,接客業務向け会話コーパスを強化したニューラル機械翻訳(NMT:Neural Machine Translation)モデルを開発した.従来の統計的機械翻訳(SMT:Statistical Machine Translation)に基づく翻訳モデルに対して,ホテルや旅館,公共交通機関などでの業務会話を想定した性能評価において,日本語と英語,日本語と中国語のそれぞれ双方向の翻訳精度が10 %~23 %向上した.

当社関連リリース

キーワード / 多言語翻訳,ニューラル機械翻訳,統計的機械翻訳,翻訳精度向上,翻訳モデルのカスタマイズ

代表図

<ロボティクス>

技術解説

競技運営に活用されるパワードウェアの人間追従技術

中野 基輝,岸本 一昭

パワードウェアとは「着るロボット」であり,人間が衣服のように着て使用する.作業をする人間の肉体的な負担を軽減することが可能で,腰を助けるATOUN(注1) MODEL Yや,歩行を助けるHIMICOが存在する.それらのパワードウェアは内蔵したセンサで人間の動きを検知し,その動きに追従しサポートするようにモータを回すことで機能を実現している.

(注1)当社の登録商標または商標.

当社関連リリース

キーワード / パワードウェア,軽労化,着るロボット

代表図

<エネルギー>

技術論文

極微細化ミスト技術を用いた屋外用ミスト式冷却機の開発

小川 修,尾形 雄司,黒田 遼,田端 大助,磯見 晃,植田 雄輝

屋外環境における従来型のミスト噴霧機器では,ミストが人に届く前に自然風で流され拡散し,十分な冷却効果が得られなかった.このような従来の課題に対して,筆者らは,送風技術と新規開発したドライ型ミストノズル技術を組み合わせた.技術の特徴として,ミスト空間をトルネード型エアカーテン気流で包み込む空気冷却と,ミストを人肌に届けることで擬似的な発汗効果による人体冷却を同時に実現することが可能となる.この開発により,標準新有効温度(SET*)で7℃低下の冷却効果が得られる新たな屋外用ミスト式冷却機「グリーンエアコン,を開発した.

当社関連リリース

キーワード / ヒートアイランド現象,クールスポット,2流体ノズル,極微細化ミスト,蒸発潜熱,疑似発汗,濡れ性,温熱感覚予測

代表図

技術解説

水素社会実現に向けた純水素燃料電池システム開発

田村 佳央,安本 栄一

純水素燃料電池システムは,都市ガスから水素を生成する燃料処理器が不要で,水素を作るエネルギーが不要となり,効率を高くすることができる.この高効率化を実現するために採用した水素循環方式において,希釈して排出するガスの水素濃度が可燃範囲以下であることを保証するために,排気ガスを空気で希釈する混合部と,水蒸気の影響を受けずに正しく水素濃度を検知する水素検知器からなる安全機構を開発した.

当社関連リリース

キーワード / 純水素燃料電池システム,水素循環,水素検知,安全機構

代表図

関連するコンテンツ

【11月号】NOVEMBER 2015 Vol.61 No.2