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Special Interview  KWNを支え、盛り上げていただいた キーパーソン20人に直撃! Special Interview  KWNを支え、盛り上げていただいた キーパーソン20人に直撃!

Interview06  相互理解のプラットフォームとしての KWNの活動に期待しています   北出谷 叔宏さん  KWN創設者/元KWNグローバル担当 Interview06  相互理解のプラットフォームとしての KWNの活動に期待しています   北出谷 叔宏さん  KWN創設者/元KWNグローバル担当
人種的軋轢などで学校が荒廃 映像制作活動が緩和剤に

――北出谷さんはパナソニックの社員としてアメリカに赴任後、アメリカでのKWN発足当初から関わっていたと伺っています。

北出谷(敬称略) アメリカへ赴任した翌年の1989年にKWNプログラムがスタートし、おもにPR活動に関わりました。当時、アメリカは移民増加に伴う人種的軋轢が高まっていて、学校も荒れ放題。そんな軋轢を和らげるため、子どもたちがお互いの文化の違いを紹介するビデオ制作をパナソニックの社員がボランティアで行っていたことがKWN発足のきっかけでした。そんな活動が3年ほど続いた後、不登校やドロップアウトした生徒たちが学校に興味を持つようにと、NYのPR会社が課外活動でのビデオ制作プログラムをパナソニックの現地法人に提案したのです。

 当初は黒人や移民などマイノリティー(少数民族)の多い都市部を中心に19校でスタートしました。州知事や連邦議員からも評価されたため、3年目から100校に急拡大。最盛期には全米で約200校が参加し、表彰式にはヒラリー・クリントン氏(当時大統領夫人)やバラク・オバマ氏(当時イリノイ州上院議員)など、著名人のビデオメッセージも寄せられるほどでした。

 私はKWNの運営には直接関与していませんでしたが、広報として参加校の活動現場に取材で赴くことが多々ありました。子どもたちや先生と直接話す機会が多く得られ、銃や麻薬など、当時の社会問題に対する子どもたちの鋭い視点とメッセージの強さを実感したものです。私は、米国人の同僚と「将来はKWNを世界中に広げよう」と夢を語っていました。

――印象に残っているエピソードはありますか?

北出谷 治安が非常に悪かったNYブルックリンの公立学校で出会った先生の最初の言葉を今でも覚えています。当時は荒れた地域だったので学校に来ない生徒も多かったのですが、「不登校だった生徒がちゃんと登校し、映像制作の中心になって30時間も40時間もかけて一生懸命頑張っています。子どもたちのモチベーションを高めるのに大きな効果がありました」と。他の地域や学校からも多くの称賛の声をいただきました。 

 子どもたちの作品テーマは、麻薬や銃問題など当時のアメリカ社会が抱える課題が多く、映像も生々しかったです。特に10代の妊娠を警告する作品に流れた「Your life can’t be rewound.」という小学生が考えたキャッチコピーは、ビデオテープを巻き戻すことに掛けて「人生は巻き戻せない=あとで後悔するよ」という深い意味があり、今でも心に残っています。

撮影技術は進化しても 作品から伝わる感動は不変

――帰国後、KWNを日本に導入した経緯を教えてください。

北出谷 1997年に帰国し、しばらくアメリカのKWN活動からは遠ざかっていたのですが、2002年に本家米国のKWNコンテスト優勝校が来日し、私はその広報を担当しました。

 この優勝校はハワイの小学校で、作品テーマは真珠湾攻撃から60年後に、当時の戦闘に関わった日米双方の兵士が再会して和解するという内容でした。2001年9月のNY同時多発テロに対して憎しみの連鎖を止める良き例として、お互いに理解し、赦しあうことの大切さを訴えたのです。 来日した際、子どもたちは、真珠湾攻撃に参加した元海軍パイロットの方にインタビューをする機会がありました。子どもが、「どうしたら戦争せずに済んだと思いますか?」と質問をしたところ、元兵士は「人間同士、憎む必要もなかったのに、お互いを知らなかったから」と答えたのです。

 優勝校の来日を機に、お互いを知って理解することの大切さを改めて痛感した私は、日本や他の国々でもKWNを展開することを所属部門に提案しました。日本では、当時松下グループで小中学校向け教育支援活動を担当していた松下視聴覚教育財団の賛同を得ることができ、日本での試験的導入が始まったのです。

 2002年からは世界各国に募集をかけ、14カ国が参加。2005年に愛知県で開催された「愛・地球博」期間中に各国の代表作品が会場の大型スクリーンで上映され、合わせて「KWNグローバル・コンテスト第1回表彰式」が名古屋で開催されたのです。

 その後、日本国内のKWNプログラム運営は教育財団からパナソニック本社の社会貢献活動の担当部門へ移管され、私はKWNグローバル事務局の運営と普及に関わりました。KWNグローバル・プログラムには最盛期で31カ国700校以上が参加しました。

――日本への導入はスムーズでしたか?

北出谷 アメリカでは各地の教育委員会(Board of Education)の推薦により参加校が選ばれましたが、日本では松下視聴覚教育財団(後のパナソニック教育財団)と既に関係のあった学校に、KWNを紹介する形で参加校を募りました。

 編集機材については、アメリカではVHSテープの業務用編集システムを参加校に提供していましたが、日本ではDVDレコーダーの普及期と重なったこともあり、DVD編集を紹介しました。ところがDVD編集は子どもたちや先生には扱いが難しかったようで、結局パソコン編集で作品を制作する参加校が多かったです。パソコン編集といっても、現在と違って操作が難しく時間もかかったため、参加校の先生方からは多くの苦労話を伺いました。

――2012年に退職されるまでKWNに関わったそうですが、現在のKWNの活動はいかがでしょうか?

北出谷 YouTubeやZoom会議などが普及した現在、2010年から試みていたKWN参加校同士の国際交流がもっと広がればと願っています。また、私の退職後、KWNが文部科学大臣賞を受賞したと伺い、この活動の社会的意義が日本でもようやく評価されたと感慨深かったです。

――当時と現在とで、KWNの違いをどのような点で感じますか?

北出谷 現在のKWN参加校のビデオ制作の実情をあまり知りませんが、世の中の動きとして、スマホでの動画撮影や編集が簡単になり、パソコン編集の技術も格段に進んだので、作品の技術的レベルは昔とは比べ物にならないと思います。ただし、作品から伝わる感動は、参加校が作品に込めるメッセージがどれだけ強いかという点が勝負なので、今も昔も変わらないのではと思います。2010年頃のグローバル・コンテストでは、欧州やアジアなど異なる地域から「いじめ」や「環境美化(たばこやガムのポイ捨て問題等の例)」など同じ題材の作品が同じ年に出品されて興味深かったことを記憶しています。

――今後のKWNに期待することはありますか?

北出谷 SNSやZoomの使用が当たり前の現在、KWN活動も、ビデオ作品の制作という範囲から国際交流へ活動の枠を広げて、世界の子どもたちの相互理解と平和の促進につながれば理想的かと思います。翻訳システムで字面の直訳はできても、言葉の背景にある文化の違いを理解して本当の意味を知るには、生の対話や映像による理解は欠かせません。若い世代による相互理解のプラットホームとして、このような活動が今後も広がってほしいと思います。

印象に残っている作品

「水は世界をめぐる」

(2007年度/長野県・東御市立東部中学校)

「水田に引く水の権利を巡って、昔の農民たちが上手に折り合いをつけたという歴史を紐解いた話です。しかし、地元の歴史紹介を越えた深掘りをしていて、今の時代に役立つようなメッセージを発しています。公立の中学生たちが作ったことにも感心しました」

Interview07  世界に発信できるテーマに取り組む子どもたちが増えることに期待 黒上 晴夫 さん 関西大学 総合情報学部 教授 Interview07  世界に発信できるテーマに取り組む子どもたちが増えることに期待 黒上 晴夫 さん 関西大学 総合情報学部 教授
作品を作るために勉強しているか それを見極めるのが私の役目

――スタート当初からKWNに関わっていますが、KWNについてどんな印象をお持ちでしたか?

黒上(敬称略) 日本でKWNがスタートしたころは、映像制作がまだ身近ではなく、学校の授業でもデジタルカメラが使われ始めた時期だったような気がします。だからこそ、重たいカメラを持って撮影をするのは、子どもたちにとっては、特別感があって楽しいだろうなと思いました。また教育という視点から見ると、「総合的な学習の時間」が始まったばかりで、自分たちのやったことを発表する機会がそれほど多くなかった時代ですから、アウトプットできるチャンスの1つと感じました。

――どんな時に審査員の楽しさややりがいを感じますか?

黒上 私は教育学者なので、日本中の学校ではどんな勉強をしているのかを、毎年、リアルで感じられるのがありがたいです。そして選んだテーマをこんな風に料理したのかなど、子どもたちなりのクリエイティビティも楽しんでいます。

――審査会で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

黒上 先生の指導力の賜物だと思いますが、毎年、ずば抜けて作品のクオリティの高い学校があります。先生が撮影や編集をしているならまだ納得できますが、子どもたちがちゃんと制作を行っています。その先生は、普通の授業の指導力とは違う力をお持ちなのでしょう。最初に観た時は「何ともすごいな」と思いました。

 また、子どもたちの作品を観たことで、「この街にこんなものがあったんだ」と驚きの発見をさせてもらえたこともあります。後になって街を歩いていて、偶然見かけた風景に「これは子どもたちの作品で観たことがあったな」と思い出したりすることもありました。

――審査をする上で重視していることは何でしょうか?

黒上 作品を作るために、子どもたちがきちんと勉強をしているかが重要です。大人に作らされているのは論外ですし、劇のように台本を書いて「はい作りました」ではなく、情報収集をして、熟考し、必要ならばインタビューをする。作品がそうしたバックグラウンドをしっかりと持っているかを見極めるのが、私の役目だと思っています。

――毎年、最終審査会は難航していますね。

黒上 そのために審査員の先生方は集まっているので、ある意味、当然だと思います。作品には事前に点数を付けますが、採点表の評価基準は細かく示されています。「すごいな」と思いながら作品を観ていると、すべての項目に高得点を付けてしまいます。厳しい目で観なければいけない難しさはあります。

 最終審査会が難航するのは、最優秀作品賞を選ぶのに点数が僅差の時です。議論をする際は、先生方のいろいろな価値観が出てきます。映像の視点から見るとどう評価できるかとか、発想力がとか、オリジナリティが……など、意見が割れることもよくありますが、それは難しさである反面、「なるほどな」という面白さでもあります。

 伊藤(有壱)先生はいつもユニークな視点をお持ちで、お話を聞いていて楽しいですし、映像技術について山口先生の解説を聞き、「この映像にはこんな意図があったのか」と気付かされることもあります。常に勉強させていただいている感覚です。

視野を広げ、世界の課題を 自分たちの感性で表現してほしい

――20年間審査員を続けられていて、時代とともに審査基準に変化はありましたか?

黒上 私自身の審査基準は変わりませんが、最近はLGBTを題材にするなど、子どもたちの作品テーマが社会の流れに応じて変わっているのは感じます。また、テクノロジーは明らかに進化しているので、できることが増え、それを計画的に活用している学校が増えてきたと思います。最初のころはビデオテープでしたし、一生懸命苦労して編集していた時代とは全く違います。

――子どもたちの成長も感じますか?

黒上 事務局がワークショップを開催していますが、映像制作の心構えや技術がちゃんと伝わっているような気はします。それに参加した子どもたちは、演出やテーマの伝え方が上手な印象を受けます。

――KWNの意義についてはいかがですか?

黒上 他の国の作品を観ていないのでわかりませんが、日本のKWNに関しては、ニュースというよりも、その時の「総合的な学習の時間」のテーマを基に、自分たちが学んだ中からテーマを決め、主張している感じがします。ニュース番組という観点からは少しズレている気もしますが、活動自体は子どもたちの成長や学習経験の役に立っていると思います。

――グループで取り組むことについて、子どもたちにどんな影響があるのでしょう?

黒上 学校での学習は、基本的には協働による学びです。その中でKWNの活動は、監督、脚本、出演など、かなりクリアに役割分担をするので、同じ目的をもちながら、個々が責任や協働を学ぶのにいい機会になっているのではないでしょうか。

――今後KWNに期待することは何ですか?

黒上 総合の授業では、1人1テーマで課題研究を決めて取り組む傾向が強く見られます。そんな中でグループになって大きな問題に取り組める機会は貴重です。ペットボトルなど自分に身近なテーマも大切ですが、視野をもっと広げて、今の時代なら戦争の問題を扱うなど、世界に発信できるテーマに取り組む子どもたちが増えることに期待しています。

――これは参加する子どもたちへのメッセージでもありますね。

黒上 「グローバル教育=英語」ではなく、世界で何が起こっているのか知るのは大事です。実はテレビのニュースを観たり、新聞を読んだりすれば、自然に情報は入ってくるはずですが、世界情勢やグローバルな課題に関心を持つ若い人は、それほど多くはいないと思います。インターネットの普及により、自分が興味のあることしか情報を取り入れていないのです。特に高校生に対してですが、だからこそ広い視野をもち、世界の課題を自分たちの感性で料理してほしいと思っています。

――最後に先生に対しても一言お願いします。

黒上 総合的な学習の授業にKWNを取り入れている学校も増えていますが、学習内容を全部詰め込むと内容が多すぎて収拾がつかなくなります。いちばん大事な核になるテーマを基にストーリーを組み立て、映像表現をした方が、見応えはあるし、訴求力のある作品に仕上がると思います。

印象に残っている作品

「Better future for the next generations」

(2021年度/広島県・尾道市立瀬戸田中学校)

「ドローン映像による生口島の綺麗な風景が印象的。景色をアートマイル作品に仕上げていくプロセスがよくわかりました。この活動を通して、SDGs14についてどのように見方が変わったのか、生徒の語りを集めたアイデアも良かったです」

Interview07  映像を作る体験と工程のすべてが子どもたちの財産になります  伊藤 有壱さん 東京藝術大学 大学院 教授/I.TOON代表/アニメーションディレクター Interview07  映像を作る体験と工程のすべてが子どもたちの財産になります  伊藤 有壱さん 東京藝術大学 大学院 教授/I.TOON代表/アニメーションディレクター
他のコンテストとは一線を画した 意志のある教育支援活動です

――初めてKWNの概要を知った時にどんな印象を持ちましたか?

伊藤(敬称略) 最初、お声がけいただいた時は、数多くある映像コンテストの1つという認識でした。ところが映像制作を支援するワークショップを実施したり、カメラ機材の無償貸出をするなど、映像制作による教育が、学校に浸透していくための努力を包括的にされていることを参加するたびに強く知ることになり、他のコンテストとは一線を画した、大きな意志のある教育支援活動だと感じました。映像分野に関わる身としては、強く共感できるプロジェクトです。

――10年以上審査員を務められていて、どんな時に楽しさや喜びを感じますか?

伊藤 長年続けていると、常連校の存在を次第に知ることになるのですが、リピーターとして参加してくれることのありがたさと積み重ねの効果を感じます。同時に、初めて参加する学校が、新しい視点で作品を作ってきて驚かされることもあります。応募してくる学校のラインナップが毎回変わるので、どんな学校が出てくるか毎年楽しみです。

 また、以前は学校教育のカラーが漂う作品が目立ちましたが、沖縄の学校が活発に参加し始めた2015年ごろからドラマ仕立ての作品や、学生の自然な表情が強く印象に残る作品が増えました。回を重ねるごとに、新しい表現をする子どもたちが次々と登場し、「今年は何に出会えるかな」という期待感は常にもっています。

――逆に難しさを感じるところは?

伊藤 楽しいという気持ちに偽りはないのですが、それゆえ、当落を付けなければいけないのは、正直つらいです。他の審査員の先生方は、それぞれのジャンルのエキスパートですが、専門的なプロの視点と誇りをもちつつも、人間的な部分が発言の端々に見えます。意見を聞くたびに審査に迷いも生じます。

 もちろん審査員全員で丁寧な議論を尽くしているので、大変ではありますが、子どもたちの努力に報いる結果を導けていると自負しています。

――そこまで思い入れがあると、子どもたちの作品を観続けることで仕事に何か影響を与えたりしませんか?

伊藤 直接の影響は少ないけれど、想像もしながった若い世代の映像言語を知ることで、「プロとかアマチュアの境界線がなくなり、誰でも自由にテーマを発信できる」と感じています。最初の頃にKWNに参加した子どもたちは、当時小学生だったとしても、今はもう社会人です。「次の時代がくる」という強い手ごたえを感じています。

――審査方法についてはどうですか?

伊藤 事務局のみなさんの工夫で、採点表にも改善が施され、進化しているのを感じています。現在は、事前に採点をし、点数を踏まえながら議論するスタイルです。点数がすべてではなく、数字だけでは見えない部分を審査員の先生方が議論をし、KWNの受賞にふさわしい作品を導いていきます。2段階方式を取っているので時間を要しますが、今はベストな方法だと思います。

――伊藤先生の審査基準を教えてください。

伊藤 私が審査員に選ばれた理由の1つにもなると思いますが、アニメーションを含めたビジュアルデザインを1つの軸として置いています。

――時代の変化に合わせて、審査基準も変わっていきましたか?

伊藤 確かに作品に関しては自然な変化は感じられます。だからこそ、従来の審査や価値基準にとらわれないで、新しいものがでてきたら、評価できるように気を付けています。

KWNは映像文化を切り開くことを 体現しています

――子どもたちの作品テーマや表現も、時代とともに変化していると感じますか?

伊藤 そうした変化を感じ取れるよう、私も含め、他の先生たちもアンテナを磨いていると思います。変わることの良し悪しとは別の意味で、変わること自体に何を読み取るかが審査員の責任です。そして子どもたちは、進化しているというよりは「変化している」というのが正直正しいと思っています。

 また昔に比べて今の方が、子どもたち主導になっています。そうなると限りなく個人の生活範疇内に焦点が当たるのが自然で、学校内のコミュニケーションの「微妙だけど大事なこと」がテーマに増えてきた印象を受けています。一方では、自分が知らなかったテーマを設定して、映像を作るために学んでいく作品もあります。作品テーマが多様化してきたのは強く感じています。

――KWNの意義とは何でしょうか?

伊藤 文化とは、教育であり、社会との連携であり、コミュニケーションツールを開発していく姿勢も内包しています。KWNは映像文化の育成に貢献していますね。

  そもそも学校は、全体の中で映像制作に時間を割くのは難しいという課題があります。学校との連携や新しい技術をアップデートしていくことは、以前から続く課題でもあり、その部分に早い時期から取り組んでいるKWNは素晴らしいと思います。

――KWNがさらに進化するためには、何が必要だと思いますか?

伊藤 年々作品の映像クオリティーが上がっています。カメラや編集ソフトの進化だけに限らず、これはKWN事務局の尽力もあって、ワークショップが非常に効果を奏しているからだと思います。

 私も何度か、指導者向けなどで講師を務めたことがあります。それぞれの場所で、人数はそれほど多くありませんが、非常に熱心な方もいらっしゃいました。そういった方たちと、もっと効果的に繋がり続けるワークショップを展開できれば、全体の底上げにも繋がると思います。

 子どもたちにも、例えば、撮影技術編やアニメーション編、ナレーション編など、講義内容を細分化し、KWNのことをよく理解している審査員の先生方が、それぞれ専門分野をレクシャーするオンデマンド教材を実施しても面白いかもしれません。技術の不公平さを取り払うのも大事だと考えています。

――最後に一言お願いします。

伊藤 KWNのために映像制作を学校の中で行うのは、機材的にも技術的にも大変だと思います。しかし、映像を作る体験と工程のすべてが子どもたちの財産になります。これは、KWNに参加した学校の先生方が、異口同音におっしゃっていることです。そして世界中の子どもたちと知り合い、コミュニケーションを持つ可能性も期待できます。より多くの学校にご参加していただけたら喜ばしいです。

印象に残っている作品

「ボクのこと ワタシのこと」

(2021年度/宮崎県・宮崎日本大学高等学校)

「謎の動画配信者が登場するあたりは学生らしく、ある種、コミックを読んでいるような感覚です。赤ん坊や小さな子供の映像を差し込むなど、シャープな演出もあって、映像の演出力が優れていました。これを作った人の将来がすごく楽しみです」

Interview09  ニュースの基本は、「ねぇねぇ、聞いて聞いて」。想いを伝えるメッセージ性が大切です   飯田 香織さん NHK報道局 ネットワーク報道部長 Interview09  ニュースの基本は、「ねぇねぇ、聞いて聞いて」。想いを伝えるメッセージ性が大切です   飯田 香織さん NHK報道局 ネットワーク報道部長
きちんと想いが伝わっているか メッセージ性を重視しています

――2014年にKWNの審査員を務めることになった経緯を教えてください。

飯田(敬称略) 会社の上司が前任として審査員を務めており、私はそれを引き継いだ形です。KWNの活動内容は知りませんでしたが、パナソニックのKWN担当者とは以前から知り合いでした。概要をおうがかいし、子どもたちが主役という点、私自身、映像が好きなので、子どもたちがどんな作品を作るのか好奇心を抱きました。

――初めての最終審査会はいかがでしたか?

飯田 映像については「思っていた以上にどの作品も上手だな」が最初の印象でした。審査員の顔ぶれは毎年だいたい同じなので、翌年からは、1年に1回、みなさまにお会いできるのが楽しみになりました。

――楽しさを感じるのはどんな時ですか?

飯田 時代の空気感や、子どもたちがメディアをどう見ているか、子どもたちが作る作品には、一種の映し鏡のような要素があると感じています。例えばコロナ禍でしたら、その時の影響が作品に色濃く出ていました。リモート取材やドローンを使った撮影、CGを駆使するなどの工夫も見られました。子どもたちの作品にそうした世情を感じることができるので、観ていて楽しいです。

 また、「聞きます」でいいところを「お聞きします」と言ったりするんですね。これは過度な丁寧語なんですが、「最近のテレビでこう言っているからか」と納得したり。メディアの影響を垣間見られるのも面白いです。

――子どもたちのリアルな状況を知ることができると、何か仕事にも生かされますか?

飯田 直接は関係ありません。関係ありませんが、「こういう風に観られているんだ」と知ることもできて、「子どもたちの模範にならなければいけない」と、気を引き締めたりもします。

――子どもたちの作品を観て、気付きを与えられたと感じたことはありますか?

飯田 「子どもたちは大人をこう見ているんだ」と感じることはあります。また、大人が子どもにインタビューをしても聞き出せないことを、子ども同士だと聞き出せたりします。そうした子どもならではの力はすごいと思ったりします。

――審査の難しさはどこですか?

飯田 いわゆるニュースのような調査報道的な作品もあれば、演技をしてメッセージを伝えるドラマ仕立ての作品もあって、それを同列で評価するのは難しいです。

――他の審査員の先生たちとのやり取りはいかがですか?

飯田 みなさん視点が違っていて、映像テクニックに注力している方もいれば、映像表現をメインに見ている方もいらっしゃいます。私の場合は、仕事でニュースを扱っているので、ナレーションやセリフはもちろん、メッセージの伝わり方に注目しています。

 また、ほかの審査員の方々の発言はとても勉強になります。今年の最終審査会でも伊藤(有壱)先生から「論理は感動に勝てない」という名言が出ました。気になった言葉は忘れないようにメモをしています。

――飯田さんが審査で重視しているのはどんなことでしょうか?

飯田 ニュースの基本は、「ねぇねぇ、聞いて聞いて。こんなことがあったの」という伝えたい思いです。それはつらいことでも、楽しいことでも、驚くようなことでも、どれでもよくて、やはり思いを伝えるメッセージ性を重視しています。映像テクニックが多少つたなくても、きちんとメッセージが伝わるかをいちばん大事にしています。

映像制作でのすべての経験が 人生において何らかの糧になります

――アメリカにいらっしゃった2年間は審査員をお休みしていましたが、その間に、子どもたちの作る映像作品に何か違いを感じたりしましたか?

飯田 復帰した時、あまり久々感はなく、自分の中ではずっと続けている感覚でした。確かに審査員を引き受けた10年前に比べたら、今の作品は映像技術の進歩は目まぐるしいと思います。先ほども話しましたが、CGであったり、ドローンであったり、リモートインタビューの技術であったり、子どもたちは上手に活用しています。

 また、本年度の審査会で出た構成についての話は印象的でした。物語の組み立ては起承転結が当たり前だと思っていましたが、動画配信に慣れている今の子どもたちは、起承転結の「結」を頭に持ってくる傾向が強いと。「最初にインパクトがないと観てもらえないでしょ」という子どもたちの考え方に、今の時代を象徴していると思いました。

――KWNの活動が子どもたちにとってどんな意義があると思いますか?

飯田 映像メディアに身を置く者としては、子どもたちに映像作品の制作の楽しさや、取材の意義を伝える取り組みとして、たいへん高く評価をしています。

 世界的に見ると、資金不足だからという理由でニュースのシーンから身を引く企業もありますが、パナソニックのような経営基盤がしっかりしている企業が、こうしたプロジェクトを主催するのは大きな意味があると本心から思っています。

――本来ならば学校という狭い社会に暮らす子どもたちが、KWNの活動を通して、校外に出たり、知らない大人と接したりします。子どもたちに与える影響はどうですか?

飯田 社会について考えるいい機会になると思います。今はSDGsを意識した作品作りを提案されていますが、SDGsといっても幅広く、人権から環境、食糧問題にジェンダーといろいろあります。自分たちで課題を見つけ、それについて納得がいくまで調べる。時には校外にも出て大人にインタビューしたりします。そうした経験は、後の人生において何らかの糧になると思います。やはり経験は大切ですし、自分が子どもの時にKWNがあったら参加してみたいと思ったはずです。

――今後KWNに期待することは何ですか?

飯田 経営基盤がしっかりした企業が主催者だからこそ20年続いたと思いますし、子どもたちの成長だけでなく、この活動は映像制作に携わる次世代の育成にも繋がるので、今後、30年、40年続くことに期待しています。参加した子どもたちが、その後、どんなキャリアを描いたのかも知りたいです。

 事務局も、映像の尺を3分にしたり5分に戻したり、毎回、改善や工夫、いろいろなチャレンジをしています。また、私たちと学校との間をいつも繋いでくださっている。こうした姿勢は持ち続けていただきたいです。

――最後に子どもたちへのメッセージをお願いします。

飯田 「日ごろから疑問を持ったり、不思議だなと思うことはあると思います。そういう気持ちを大事にしてください。私の記者としての原典は、先ほどの「ねえねえ、聞いて聞いて」です。何かを訴えたいという気持ちは大切です。身の回りのことをいろいろ観察しながら、面白いこと、不満なこと、疑問があったら、「ねぇねぇ、聞いて聞いて」とみんなで話し合ってください。

印象に残っている作品

「ボクのこと ワタシのこと」

(2021年度/宮崎県・宮崎日本大学高等学校)

「ステレオタイプの打破というメッセージだったと思うのですが、映像演出も、ストーリーテリングも上手で、メッセージ性が本当に強かったです。とにかく衝撃を受けました。ニュースではないのですが、映像作品として力強いメッセージだと思いました」

Interview10  KWNの活動は「新しい学び」そのもの。主体的、協働的な深い学びを実践できます   中村 亮 さん 『プレジデントFamily』(プレジデント社) 編集長 Interview10  KWNの活動は「新しい学び」そのもの。主体的、協働的な深い学びを実践できます   中村 亮 さん 『プレジデントFamily』(プレジデント社) 編集長
いろいろなジャンルの先生が一堂に会し 審査することに意味がある

――最終審査会の審査員を担当する前から、KWNとは関りがあったそうですね。

中村(敬称略) 『プレジデントFamily』の編集長に就任した2014年から私はKWNの審査員を務めていますが、創刊時の鈴木編集長(現・プレジデント社代表取締役社長)、前任の八尾編集長が、元々は審査員を引き受けていました。私はそれを引き継いだ形です。

 鈴木が以前、「すごいよ、中村君。子どもの映像コンテストということで、高を括っていたわけではないけど、想像以上にクオリティが高くて。驚かされるような発見もあるし、非常にレベルの高いコンテストだよ」と、興奮しながら話していたのを覚えています。

 誌面でも、「パナソニックキッズスクール」の記事を展開していたので、KWNの概要はなんとなく知っていました。

――審査員になられていかがでしたか?

中村 責任を感じました。子どもたちが一生懸命作った作品を評価させていただくので、こちらも真剣味が違うというか、頑張っている子どもたちの想いに応えたいという気持ちが強かったです。

 審査員を引き受ける前は、子どもたちの作品を観る機会はなかったのですが、鈴木や八尾の話を聞いていたので、作品のクオリティの高さは漠然とイメージしていました。しかし実際に作品を観たら想像を超えていて驚きました。

 『プレジデントFamily』は、主に小学生ぐらいのお子さんをお持ちの保護者の方に情報提供をすることが多く、そのため小学生への取材も少なくありません。『プレジデントFamily』の前はビジネス誌の編集部にいたのですが、企業関係者や識者への取材とは違い新鮮でした。子どもたちの場合、素で話してくれます。そのため、大人同士の普段のコミュニケーションでは当たり前のことでも、子どもたちの発する言葉には、気付きがあったりするのです。

 同様に、KWNで作品を審査する時も、大人同士の会話に慣れてしまっている身からすると、作品を通して気付きや驚き、新鮮さを常に感じています。

――審査員の先生方は各ジャンルのプロフェッショナルです。中村さんご自身は、どんなポジションを担っているとお考えですか?

中村 KWNは「キッド・ウイットネス・ニュース」の略で、映像作品も一種のニュースです。いろいろな引き込みがあって、取材をし、伝えるために映像を作っています。雑誌制作も同じで、雑誌編集者としての視点を求められていると思っています。

 また、『プレジデントFamily』は子育てや教育がテーマなので、教育の流れや最近の子どもたちの様子を把握していることも、お声がけいただいた理由の1つだと思います。

――ご自身の審査基準は何ですか?

中村 編集者は、面白い人や出来事を取材して、それをありのままではなく、わかりやすく伝えるのが仕事です。そうしたことが映像制作でできているかが、作品を審査する基準になっています。そうはいっても、私も小学生と中学生の子どもを持つ父親なので、父親の目線で作品を観るというか、個人的な感情は切り離せません。

――この10年のうちに、中村さんの中で審査基準に変化はありましたか?

中村 私というよりは、審査の方向性について最近よく議論になっているのが、完成度がずば抜けている学校の存在です。技術の進歩はもちろん、子どもたちの映像に対する意識が進んだことで、作品のクオリティが高くなっています。そのため映像コンテストにおいて重視するのは、技術的な完成度の高さなのか、それとも子どもらしさや気付きなのか、教育的観点なのか、よく議論されます。

――それは審査の難しさでもありますか?

中村 そうですね。私の場合、なるべく作品をプレーンな状態で観て、やはりニュースなので「初見でどれだけ人に伝える力を持っているか」が大事だと思っています。想いが伝わるという軸と、映像の完成度という軸が離れている作品は、どちらを重視するか審査に迷います。

――最終審査会は毎年白熱します。

中村 先生方の話を聞いて気付かされることも多く、学ばせていただいているという気持ちで参加させていただいています。映像ディレクターの山口先生の話を聞いて、「実はこの演出は技術的にすごいんだ」と勉強になったり、伊藤先生の着眼点に驚いたり、黒上先生が矛盾点を突いてきたりと、いろいろなジャンルの先生が一堂に会して審査することにすごく意味を感じます。

子どもたちの成長や日々の生きる力の源と なってくれることを期待しています

――KWNの活動は、子どもたちにどんな影響を与えると思いますか?

中村 子どもたちにとってすごく学びになっていると思います。教育現場での学びは文部科学省が旗振りをして改革が行われています。これまでのような知識の詰込みや、先生が教えることを覚えるという学びから、子どもたちが主体的に課題を見つけ、問題解決をしたり、わかりやすく表現をする学びに変わってきています。KWNの活動は、まさにその新しい学びそのものです。映像制作を作り上げることで、主体的、協働的な深い学びを実践できます。

 この活動が20年前から続いているのは本当にすごいと思います。昔から「総合学習、総合学習」とは言っていましたが、文部科学省が本格的に教育方針を変えたのは2020年の指導要領改訂です。KWNはだいぶ先を進んでいたのだと、改めて感じました。

――学校現場においてはどうですか?

中村 学校はある意味、今までは聖域でした。そこにKWNが斬りこんだことは、教育現場においても刺激になったと思います。いい影響を与えているはずです。

――先生へのメッセージもいただきたいです。

中村 先生方は日々お忙しく大変だとは思いますが、KWNは子どもたちの成長を見ることができる貴重な活動です。チームになって作品を結実させる経験や、それまでの過程は、子どもたちにとって最高の思い出になります。作品として残るのもいいものです。

――今年は20周年ですが、KWNの今後に対して期待することは何ですか?

中村 この20年間で、私がKWNの力を強く感じたのが、東日本大震災とコロナ禍でした。日常生活がままならない震災後だからこそ、「きっと わらえる 2021」など映像制作による復興支援は素晴らしい活動でした。

 またコロナ過では、不要不急が騒がれ、同時に芸術不要論もありました。逆にその時に、映像作品や音楽、美術が人にとっていかに大事なものなのか、再認識する機会にもなりました。例えば、「桜隠し」(2020年度)のように、コロナ禍に制作したとは思えない作品も登場しました。不十分な状況下で、「頑張ろう」「前を向こう」という力にKWNがなったと思います。これからも変わらず、子どもたちの成長や日々の生きる力の源となってくれることを期待しています。

印象に残っている作品

「SDGsが伝わらない?」

(2022年度/熊本県・南関町立南関第二小学校)

「この作品の面白さは、“SDGsなんて当たり前じゃん”という発想です。“偉そうに横文字を使っているけど、やろうとしていることは昔からある当たり前のこと。SDGsなんてそんなにすごいものではないよ”と。確かにと気付かされましたし、常識をひっくり返すような爽快感がありました」