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投資ゼロの省エネ手法で省エネ大賞 経済産業大臣賞を受賞

パナソニックのオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 加西事業所は、生産活動に伴う消費エネルギーやCO2排出量の削減に向け、新たな省エネ手法を確立。平成27年度省エネ大賞 省エネ事例部門で経済産業大臣賞(節電分野)を受賞しました。パナソニックが環境行動指針で重視する「CO2削減」の代表事例であり、今後さらなる進化を目指す、同事業所の取り組みを紹介します。

車載用角形リチウムイオン電池を製造する加西事業所
1月27日に都内で行われた表彰式(左)と、受賞トロフィー(右)

空調の消費エネルギーに着目

兵庫県にある加西事業所は、ハイブリッド車や電気自動車に搭載される、角形リチウムイオン電池を製造しています。近年、こうした車の需要拡大に伴う増産で、工場で消費するエネルギー量は増加しています。メータやゲージで消費エネルギー量を「見える化」して削減対策を行う「メタゲジ」は推進してきましたが、新たな改善策の発掘は困難になりつつありました。
同事業所で2013年度、消費エネルギーの3分の1以上を占めたのが空調設備でした。当時から「メタゲジ」では、外気・給気・室内の温湿度や、空調設備のインバータ周波数などを、測定・記録していました。しかし、設備の能力・効率の向上対策を検討する上で有効なデータをカバーしきれず、その活用も十分できていませんでした。空調設備の調整不足に伴うロスが判明しにくいという課題もありました。
さらに、24時間稼働の工場で省エネ施策を導入するためには、空調機器を最適に運転、最高の効率・能力を発揮する条件を事前に確定し、効果を「見える化」することが必須でした。そこで加西事業所 加西製造部は、省エネ施策の検討に必要なデータを演算し、統計的手法を用いてその効果をシミュレーションする方向性を打ち出しました。

加西事業所で製造する車載用角形リチウムイオン電池

シンプルで応用が利く演算式

メンバーは早速、データの演算方法の検討を始めました。空調設備の効率化を検討するためには、空気が含む最大の水蒸気量(飽和水蒸気圧力)、空気1m3に含まれる水蒸気量(絶対湿度)、空気の熱量(比エンタルピー)、取り込んだ外気の結露が始まる温度(露点温度)といったデータが重要です。一般的にこうしたデータは、「空気線図」と呼ばれるチャートを用いて、温度や湿度を基に導出します。しかし、1時間・1日・1カ月・1年間・・・の動きを、温湿度条件を変えながら手計算で追うのは、事実上不可能です。そこでパソコンの表計算ソフトに空気線図の演算式を入力、データを自動計算しようと考えました。
データの算出法は、多くの人々が研究を重ね、様々な数式が存在します。しかし、「2つの式の使い分けが必要」「内容が複雑」など、表計算ソフトでの活用には課題がありました。そこでメンバーは、既存の数式を参考に、可能な限りシンプルで応用が利く、独自の演算式を確立する方針を決定。1カ月以上にわたり全員の知恵を集め検討を重ねたほか、個々人が空き時間を使い検証を進めるなど、試行錯誤を繰り返したのです。
こうした取り組みが結実。空気線図の数値や、空調設備運転時の実測値と比べても誤差の少ない、演算式を確立することができました。

加西製造部のメンバー。左から課長代理の會田一博、東尾直人、和田 誠、難波厚司
メンバーのノートには計算式がびっしり

設備の効率運転を徹底追求

メンバーはこの演算式を活用、空調設備の高効率化に向けたシミュレーションを実施しました。
省エネを達成した例の一つが、デシカント空調機。外気を冷水に通して結露させ除湿した後、除湿剤を通過させて乾いた空気にする設備です。メンバーは演算式を基に、各過程で消費するエネルギーと除湿量の関係をシミュレーション。従来は16℃に設定していた冷水を12℃にすると、最も省エネ運転ができることを突き止めました。こうした運用の導入で、2014年度はエネルギー使用量を前年と比べ、原油換算で83.5kl削減しました。
外気を冷却・結露させて除湿した後、再び温めて工場内に送り出す、外気処理空調機も代表事例です。メンバーは、生産設備の放出熱による室内温度の上昇なども考慮しつつ、工場内の温湿度をシミュレーション。その結果、空調機からの平均給気温度を、従来の23℃から20℃に下げても、従来と同様の室内環境を維持できるという結論に達しました。こうした運用により、エネルギー消費量を、原油換算で前年比240.7kl減という成果を上げたのです。

工場の屋上にある、デシカント空調機の設定を確認
演算したデータは、エネルギー監視装置に落とし込んで運用

CO2排出を年1,300トン削減

リチウムイオン電池の生産には、品質確保のため温湿度の厳密な管理を必要とする工程があります。そこでメンバーは、空調設備の設定を変えても従来どおりの温湿度を維持できる点と、期待できる省エネ・コスト削減効果を生産部門に提示するようにしました。現場との合意形成は、活動の加速と成果の最大化を実現する上で、重要なポイントとなりました。
一連の施策を通じ、加西事業所は空調設備や計測機器への投資を行うことなく、前年度比でエネルギー使用量を原油換算で690.7kl、CO2排出量を1,356.8トン削減しました。現在こうしたノウハウを、他の工場にも展開中です。今後は空調設備の制御の最適化を追求することで、省エネ・CO2削減効果の拡大を見込んでいます。