◆今回、解説する役割カードはこれ!
パワーアップ情報ファイル9月号は、プログラム①「会社の役割発見」で使用する30種類の「役割カード」のうち、「生徒達がイメージしにくい」との声が寄せられた役割について解説する2回目です。今回は「会社全体をサポートする役割」の中から、「知的財産」と「環境推進」の2つを取り上げます。
「知的財産」とは、一般には「人間の知的活動によって生み出されたアイディアや創作物などで財産的な価値をもつもの」を指し、こうした知的財産を保護するのが「知的財産権」です。パナソニックにおける知的財産に関わる具体的な仕事内容について、知的財産センターの若代さん、パナソニックIP(Intellectual Property)マネジメント㈱の高木さんと青木さんの3人にお話を伺いました。
■「知的財産」について中学生に説明する場合、どのような言い方が適切でしょうか?
---「商品の裏側にある目には見えない重要な財産」という言い方ができます。いろいろなアイディアが形になったものが商品ですが、そのアイディアを勝手に真似されたり、盗まれたりしたら、それを考えた人や会社は報われません。保護される主な知的財産権には次のような種類があります。
〇発明を保護する「特許権」
〇物品の形状や構造等の考案を保護する「実用新案」
〇デザインを保護する「意匠権」
〇ブランド名やロゴマーク等を保護する「商標権」 など
パナソニックグループでは、国内だけで約700名の社員が知的財産に関わっており、弁理士の資格を持っている社員は約200名います。この人数は、世界的にみても最大規模だと思います。
■現在担当している仕事について具体的に教えてください。
---私たちが主に担当しているのは、知的財産権の中の「商標権」に関わる仕事です。例えば、世界各国でパナソニックの偽物が出回っていないかどうかをモニターし、見つかった場合には現地の警察や弁護士等と連携して対応しています。因みに、パナソニックの偽物に関する摘発件数は、世界中で年間400件ぐらいあります。偽物を排除する目的は、安いだけで保証書もないような偽物による事故等から「お客様の安全を守ること」、「当社の利益を守ること」、そして、「パナソニックというブランドを守ること」です。商標権は国ごとの制度であり、現在は約180か国でその権利を取得しています。こうした権利(武器)をもって、模倣対策を行ってもなかなか偽物が減らないという現実はありますが、もしこうした活動を止めたら、パナソニックが偽物を認めたことになり、会社の信用にも関わってきます。
パナソニック製アイロンの模倣品(右側)
■特に重点的に取り組んでいることは何ですか?
---消費者の皆様、特にインターネットなどで商品を購入することの多い若い世代のみなさんに「偽物のもつ怖さを知ってほしい」という思いが強くあります。偽物は単に安いだけではありません。事故が起こる可能性もあり、何か困ったことがあっても責任を取らない、また、テロ組織や犯罪組織の資金源につながっているようなケースもあります。こうした問題意識から、偽物のこわさを具体的に知ってもらい、パナソニックが取り組んでいる模倣対策を紹介する動画を作成しました。今後、様々な機会を活用して「偽物を買わないことの大切さ」を訴えていきたいと考えています。
■知的財産の仕事で特に求められる能力やスキルは何ですか?
---まず、知的財産に関わる法律的な知識は必須となります。また、海外とのやりとりが多いので、コミュニケーションツールとして英語力も必要です。加えて、国によって状況が異なるので、現地の事情を知ろうと思う好奇心と、集めた情報を分析する力も求められます。
■中学生の時に学んだことや体験したことが、今の仕事にどのようにつながっていますか?
---中学の時から英語が好きで、将来は英語を使って仕事ができればいいな、という思いはありました。大学では法学部に進み、社会の枠組みを学ぶことができました。結果として、法律と英語を使う今の仕事につながっています。また、世界中の様々な人達と会う仕事ですから、コミュニケーション力が大事になります。部活動ではバレーボールをやっていましたが、その時の経験も活きていると思います。(青木さん)
---何を学ぶにしても基礎が大事だと思います。例えば、国語力や道徳観などです。また、ビジネスの世界では数字で示すことが重要ですから、数学の力も必要となります。(高木さん)
---各教科の勉強というよりも、まずは世界や社会を知ることが大事だと思います。そこで自分なりの進路を考え、それを実現するために必要となる専門知識を修得していくということではないでしょうか。(若代さん)
■知的財産の仕事を行う上で、最も大事にしていることは何ですか?
---根本は正義感です。入社以来、営業の仕事が長かったのですが、社内の異動制度を活用し自ら志願して知的財産の部門に来ました。その時に自分を動かしたのは、世界中にあふれる模倣品を排除したいという気持ちでした。(高木さん)
---人とのコミュニケーションです。自分とは異なる考え方や体験をもっている人たちと仕事をしていくので、しっかりコミュニケーションを取りながら、その人がどんな考え方をもっているのか、困っていることは何かなどを聞き取った上で仕事をしていくことが大切です。(青木さん)
---世界を意識することです。中学生の頃から世界や社会の動きや仕組みに興味がありました。大学は工学部に進みましたが、だからといって技術者になろうといった考えではなく、入社した時から知的財産の仕事を志望して現在に至っています。知的財産はまさに世界と直結している仕事だと実感しており、おもしろさを感じています。だからこそ常に世界を意識することが重要となります。(若代さん)
アイロンの模倣品をチェックする高木さん(右)と青木さん
【参考URL】
〇パナソニックの模倣対策活動
〇動画「偽物との戦い~~Panasonicの模倣品対策~」(4分)
2015年の国連サミットでの「持続可能な開発目標(SDGs)」の採択、2016年の温室効果ガス排出削減のための新たな国際的枠組み「パリ協定」の発効等を受けて、企業としてこれまで以上に環境に配慮した取り組みが求められようになっています。パナソニックにおける「環境推進」の役割とはどういうものか、環境経営推進部環境渉外室の下野さんにお話を伺いました。
■「環境推進」とは一般的にどのような仕事でしょうか?
---環境に関する法令のコンプライアンスは、企業の経済活動のベースとなるもので、なによりも大事なことです。「環境推進」は、会社全体がその法令を遵守した上で経済活動をしていくための仕組みやルール等を作り、環境に関するPDCA(計画、実行、評価、対策)を行います。
■パナソニックにおいては、どのような位置づけになるでしょうか?
---1997年に「京都議定書」が採択され、地球温暖化問題にフォーカスが集まるようになると、人々の環境に対する意識が一変しました。その変化を受け、企業は、より積極的な環境への取り組みが必要とされるようになっています。言わば、法令遵守に留まっていた「守りの環境」から、法令に定められていないところまで一歩前に出て取り組む「攻めの環境」への変換です。
パナソニックでは2017年に「環境ビジョン2050」を策定し、2050年に向けて環境経営の目指す方向を明確に定めて活動をしています。また、2019年8月には、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟しました。2050年までに、グローバルで使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替え、CO2排出ゼロの物づくりをすることを目指しています。
■下野さんの仕事は具体的にはどのようなものでしょうか?
---私が所属している環境渉外室は、環境に関する最新情報を関係機関から入手したり、パナソニックとしての環境への取り組みを発信する、社外とのコミュニケーション部門です。
主にふたつの役割があり、ひとつは渉外です。現在は、官庁、省庁などを訪れ、次に制定される環境に関する法令や基準の情報をいち早く入手し、備える仕事をしています。
もうひとつは、広報の役割です。私たちは毎年、約250のパナソニックの工場による環境への取り組みをデータとしてまとめた「サスティナビリティ データブック」を作成し、開示しています。
他には、マスコミやメディアへの取材対応があります。説明会やセミナー、展示会などを通じて、パナソニックの環境活動を知っていただくことも広報の仕事です。これらは、一般の消費者だけでなく、投資家にアピールする意味でも大切です。近年、環境に対する姿勢や取り組みは、その企業が投資に値するかどうかの判断材料として大きなウエイトを占めていると言えます。環境に配慮した企業活動を行い、それを知っていただくことは、投資に有望な企業として評価してもらう上でも重要なこととなっています。
■「環境推進」に必要なスキルはありますか?
---一番に挙げるとしたら、コミュニケーションスキルだと思います。法律という人間ではないモノを、会社の人たちに理解してもらう、守ってもらう、守れない場合はどのような改善策があるか考えていくというような作業を行っていきますので、それぞれの場面で、わかりやすく伝える、話を聞く、意見を交換するといった様々なコミュニケーションが必要となります。AIにはとって変わられない仕事だと言えますね。
■「環境推進」の取り組みの中で印象に残っていることを教えてください。
---昨年、ポーランドで開催されたCOP24のジャパンパビリオンに、パナソニックとして初めて展示物を出展したことは、大きな成果が感じられ、深く印象に残っています。「環境ビジョン2050」をベースに、目標とする「クリーンなエネルギーでより良く快適にくらせる社会」のジオラマを、プロジェクションマッピングなどを使って展示しました。
■「環境推進」の仕事をする上で、下野さんが最も大切にしていることを教えてください。
---「スーパー正直」ですね(笑)。何年か前にパナソニック内でよく使われた言葉ですが、私は、今も心に残っています。私は環境に対する取り組みの数字や情報を扱っていますから、そこに嘘があってはいけません。嘘があれば、会社にとって大事な信用を失ってしまうからです。「スーパー正直」であることがいちばん大切だと思っています。
■「サスティナビリティ データブック」を学校の教材として使うとしたら、どのような使い方が考えられますか?
---多くの企業が環境に関するレポートを開示しているので、複数の企業のレポートを比較してみるのが面白いと思います。グループに分かれて、それぞれ違う企業のレポートから、同じ項目、例えば「パリ協定」で示されている気候変動に対する目標値などを調べて発表、比較するのはどうでしょうか。企業の特徴や、考え方、取り組み方の違いがわかると思います。
【参考URL】
〇パナソニックの環境への取り組み