今回は、長年「私の行き方発見プログラム」を活用していただいている三田学園中学校高等学校 総合科担当で中学教頭 平山茂先生と中学校2学年主任 笹島 裕之先生に、学校におけるキャリア教育の位置付けや、「私の行き方発見プログラム」活用方法等について、お話を伺いました。
兵庫県三田市にある三田学園中学校高等学校は 1912年(明治45年)に「私立三田中学校」として開校、110年以上の歴史を誇る中高一貫校です。「『知・徳・体』のバランスのとれた全人教育をもって、高い学力と健全な心身を育み、将来社会に貢献できる人物を育成する」ことを理念としています。2022年度より「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」を最大限に活用する、三田学園独自の新たなプログラム「探究SG(Sanda Gakuen)メソッド」を開始しました。時代に応じ、社会で求められる資質、能力の育成を目指しており、中学、高校6年間を通したキャリア教育にも熱心に取り組んでいます。
中学校での目標は「学ぶ楽しさからはじまるキャリア教育」
---まず、三田学園におけるキャリア教育の位置付け・取り組みについて教えてください。
中学校学習指導要領 第1章総則では「キャリア教育の充実を図ること」が明記され「その中で、生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行うこと」と述べられています。
そこで、中高一貫校である本校では、中学では「社会との繋がりを意識していく中で、自らの価値観を見つける、自己理解を深める。 学ぶ楽しさからはじまるキャリア教育」、高校では「自己の在り方生き方を具体的に描いていく。可能であれば、卒業後のキャリア形成を意識する」を目標と定め、6年間を通して連続したキャリア教育を進めています。
具体的には、生徒が自らの将来の職業選択や生き方を考え、 それを実現するための進路選定や、その目標に向けての適切な準備ができるようアドバイスや相談を行い、職業見学や職業人による講演会など、生徒の動機づけになる機会をつくっています。その他、希望者を対象にした研究機関や企業への訪問プログラムや本校独自の大学合同説明会の開催なども実施しています。 (平山先生)
(3)生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。その中で、生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行うこと
中学校学習指導要領(平成29年告示)第1章総則 第4の(3)より
---「私の行き方発見プログラム」活用の経緯について
「私の行き方発見プログラム」は2018年以降、これまでに4回活用しています。本校は「職場体験学習」がなく、当初は「職業体験学習」の代替として中学2年生を対象に「プログラム①」を、3年生を対象に「出前授業」を実施していました。
2023年度からは、文部科学省が作成している冊子『2023年中学校・高等学校キャリア教育の手引き』に挙げられているキャリア教育の課題で、特に「社会への接続」と「『働くこと』の現実や必要な資質・能力につなげていく指導」というところに本校の課題もあると感じ、6年間を通した「キャリア教育」の導入として、中学1年生で本プログラムを採用、2学期に3コマ、3学期に2コマを使って実施しました。
---教材の活用法について教えてください。
教材にはティーチャーズ・ガイド、授業用スライドが用意されているので、教員にとっては準備の手間が少なく、それに沿って授業を進めることができました。生徒用ワークシートは生徒各自のタブレットにシェアして活用しました。
プログラム①「会社の役割発見」はカード教材を使っての授業でしたが、生徒たちは1つの会社でも異なったさまざまな役割があることに興味を持ったようでした。プログラム②「職業と能力の関係発見」はエピソードシートを使い、それぞれの役割と必要な能力について考えました。プログラム④「自分の“行き方”発見」は偉人の言葉などから自分の価値観を知る授業でしたが、最後の自分の“行き方”を表す言葉を考えるパートは中学1年生には少し難しかったようです。特に、その言葉を選んだ理由を考えるところで苦戦する生徒が結構いたようでした。もう少しテーマを絞って考えるようにした方がよかったかも知れません。(笹島先生)
「私の行き方発見プログラム」は学校とは異なる企業のこと、様々な職種が協力して社会が成り立っていることがわかるところがとても良いと思います。また、このプログラムを長年活用していると、活用が2回目、3回目の先生が出てきます。そういう先生が以前作ったプラスアルファの資料などを共有しながら進めることで、教員の負担が軽減されていると思います。(平山先生)
---御校では、パナソニック社員が講師を務める「出前授業」も活用いただいていますが、なぜ、活用しようと思いましたか?
わが校では中学生の時期から地域や企業などの社会と接続することが重要だと考えています。本プログラムでは、パナソニックの社員の方から直接お話をお聞かせいただけることに価値を感じています。毎回異なる方に来校いただけるので、我々教員もお話を楽しみにしています。
通常の中学校では、地域の中小企業とのお付き合いはあっても、パナソニックのような企業と接点を持つ機会は滅多にないと思います。地方の学校や外部の講師を招待する機会の少ない学校などには特にお薦めです。(平山先生)
---生徒のみなさんの反応はいかがでしたか
以前、本校で講師を務めていただいたのは知的財産部門の社員の方でした。知的財産という仕事は中学生にはあまりなじみがないので難しいと感じる生徒もいたと思いますが、実際に担当されている方の話を聞いて、知的財産の仕事に関する理解が深まったと思います。こういうお話を聞けるのも、この出前授業の価値だと思います。
授業の中には、クイズや質疑応答の時間があり、生徒たちが積極的に授業に参加している様子が見られました。講師からは、出前授業の前に実施したプログラム①の内容と連動して「社内には多様な職務があり、それぞれの立場で意識していることが異なる」という話や、「中学生の時にどんなことを頑張っていたか」「中学生の時に何をしたらよいと思うか」等についても話していただきました。授業後、生徒から「学校での勉強や部活動などが、将来、仕事についた時に役に立つことがわかったので、これから真剣に取り組みたいと思った」や「自分の得意なところを伸ばしたい、自分の苦手なことを克服したいと思った」などの意見があり、講師の話が生徒のモチベーションアップにつながったと思います。実際、事後アンケートでは、95%の生徒が「出前授業の内容を理解できた」と回答しました(笹島先生)
---「私の行き方発見プログラム」の課題や今後に期待することがありましたら、教えてください。
このプログラムはパナソニックの事例を活用した教材で、具体的でわかりやすかったですが、他の職種や企業の事例など、比較できるような教材があると、生徒はより多くの仕事や役割について知ることができて良いかも知れません。(笹島先生)
また、GIGAスクール構想で1人1台ICT端末を使用する状況は整ってきていると思うので、教材のワークシートなどが教育系アプリで使用できるようになると便利だと思いました。
他には、夏休みなどを活用して、全国各地の中学生(希望者)を招待しての宿泊型キャリア教育プログラムを実施するのも面白いかもしれません。(平山先生)
三田学園中学校高等学校では、「私の行き方発見プログラム」だけでなく、他の企業プログラムなども取り入れながら、総合学習の時間、ホームルールなど学級活動の時間を使ってキャリア教育に取り組んでいます。また、平山先生、笹島先生のような中心となる先生がいて、中学校、高校を通じて総括的にキャリア教育を進めている様子が非常に印象的でした。
平山先生には、第4回キャリア教育オンラインセミナーでも、実践校として登壇いただきました。記事はこちら→