Cross Talk 子どもたちとともに成長してきたKWNの20年 ~未来へと続く意義と役割~ 中編 Cross Talk 子どもたちとともに成長してきたKWNの20年 ~未来へと続く意義と役割~ 中編

日本におけるKWNの活動がスタートしたのが2002年。そして、2005年に「第1回(2004年度)KWN日本コンテスト」が開催され、今年で20周年という節目の年を迎えました。そこで、森村学園初等部を入賞常連校に育て上げた榎本 昇先生、映画監督でありKWNの映像講師でもある朴 正一さん、そしてパナソニックホールディングス株式会社 CSR・企業市民活動担当室の福田里香室長に、それぞれの立場から、KWNのこれまでの歩みと現在、さらに今後についてさまざまな議論を実施。2回目となる今回は「時代の変遷と子どもたちの変化」、「映像が持つ力」などについて論じていただきました。

※この鼎談は2024年1月16日に取材したものです。役職名等は当時のものです。

コロナを境に子どもたちの 伝えたい気持ちが強まっていった

ファシリテーター・香月よう子さん(以下、略)──前回のお話で、東日本大震災、コロナ禍、スマートフォンとタブレットの普及……こうしたキーワードが出てきました。映像が特別な時代から動画がより身近に、消費される時代へと変化しているように感じます。このような背景が子どもたちの作品にどう影響しているのか。教育の現場、映像の現場、それぞれお感じになったことを教えてください。

榎本(以下、敬称略) この20年間で、東日本大震災とコロナという2つの大きなインパクトがありました。インパクトそのものの事実に加え、自分たちが持っているメッセージや、自分たちが感じたこと、そして、どう思っているかといった、メッセージの割合が増えていった印象があります。

 最初の頃の作品は事実が羅列されていて、それに対し解決していく構成でした。一方、震災以降の作品を改めて客観的に見直してみると、「どう思ったか」「どうしたいか」といった、心の動きが入っていて、それが2回のインパクトを受けたことで、どんどん強くなっている印象を受けます。

 特にコロナ禍では、外出できない状況に対して、子どもたちはすごく考えたと思います。「どうしたら自分たちの思っていることを伝えられるのか」「どうやったらこの状態を変えることができるのか」「みんなはどう思っているのか」など、相手に対して自分の気持ちや存在を伝えたい欲求が強く感じられました。子どもたちもつらかったのだと思います。

福田(以下、敬称略) 歩みを止めることなく活動を続けてこられたのも、子どもたちの伝えたい想いが強かったからなのですね。

榎本 コロナ当初は、学校もオンライン授業を考えていませんでした。しかし、「子どもたちの声を聞きたい」「お互いに先生や友達の顔を見ながら声を聞けたらちょっとは安心するよね」という純粋な気持ちがきっかけでオンライン授業が始まりました。単に勉強するだけなら、授業動画を見たり、問題集を解く方が効率的です。ただそこでお互いに声を聞くことが、こんなにもインパクトがあるのかと、コロナ禍のオンライン授業で気付きました。

福田 ネットワーク環境の構築は学校によってすごく差がありますよね。私たちもKWNのイベントやワークショップで学校にうかがいますが、かつてはネットワークに不慣れな学校も多く、職員室や体育館、教室を、先生や私たちスタッフが何度も行き来してやっとつながったということもありました。会社でも、今は普通にリモートを取り入れていますが、それまではDXなども進んでいませんでした。ある意味、コロナによって強制的にオンライン化が進んだ感じもあります。

榎本 小学校なので、いちばん大変だったのは、保護者の方の理解を得ることでした。今になって考えると、何でもないことなのですが、オンライン授業に対して、効果があるのか、オンラインで大丈夫なのかと、保護者の方も不安だったのだと思います。

香月 よう子さん フリーアナウンサー/ 公益財団法人東京学校支援機構評議員 司会、ナレーション、ラジオパーソナリティほか、教育分野においての執筆やアドバイザーなど幅広く活躍。2012年にオンライン授賞式の司会を担当したのを機に、2015年より最終審査会の審査員に就く。 香月 よう子さん フリーアナウンサー/ 公益財団法人東京学校支援機構評議員 司会、ナレーション、ラジオパーソナリティほか、教育分野においての執筆やアドバイザーなど幅広く活躍。2012年にオンライン授賞式の司会を担当したのを機に、2015年より最終審査会の審査員に就く。
KWNの取り組みが 社会課題の解決にもつながる

福田 先ほど榎本先生が、子どもたちが気持ちをより強く出すようになったとおっしゃいました。KWNが目指すのは、子どもたちの創造性やコミュニケーション能力、チームワークの育成で、そのベースに、「子どもジャーナリストの眼」というキーワードがあります。榎本先生のお話を聞いていて、「ジャーナリストって何だろう?」と考えたのですが、事実をきちんと見据えて、それに対して自分の意見を加えることだと思いました。ですから、そこに自分の気持ちをより強く出していくのも、ジャーナリストの1つの在り方なのではないでしょうか。

 ご存じの通り、KWNには「子どもジャーナリストの眼」の定義として、心がける4つの眼があります。「世界を見る眼(Global)」「課題を見抜く眼(Issue)」「未来を見る眼(Future)」「伝える眼(Transmit)」。この4つの英字の頭文字を取って「GIFT」と言っていますが、おそらくジャーナリストの眼にはいろいろあって、時代や状況とともに変わったり、子どもたちの気持ちによって変わっていくのでしょうね。4つの眼を掲げていますが、他にもあるかもしれませんし、4つの眼の中のどれかが強く出てくるかもしれません。

朴(以下、敬称略) 私は榎本先生のお話を聞いて驚きました。震災やコロナを経て、子どもたちが作品の中に自分の意見や考えを込めるようになったとおっしゃいましたが、ここ数年、私がワークショップで受ける印象は真逆です。榎本先生の学校は、普段からそう教育されてきて、子どもたちも意見や考えを作品に入れることができるから、毎年、入選しているのだと思いますが、他の学校の子どもたちは、むしろ、だんだん自分の考えや意見を表に出さなくなってきている印象を受けます。

 昨年、訪れたある中学校でのワークショップのことです。ドキュメンタリーを撮りたいということで、話を進めていたのですが、「本当は何を撮りたいの?」と聞いたところ、1人の女子生徒が「ドラマを撮りたいです」と言いました。作品の中に気持ちを込める以前に、自己主張ができていない子どもたちがほとんどでした。

 ワークショップのカリキュラムはすべて映像講師に一任されています。私はテクニカルなことよりも、映像作品に自分の気持ちや想いを込めることの大切さを伝えています。いじめや自殺問題にもつながるのですが、なぜなら、コミュニケーションがきちんと取れていないため、今の子どもたちは自分の想いを相手に伝えず、相手をリスペクトする考えも持っていないと思うからです。それが悲惨な状況を招いていると考えています。だからこそ、多くの人たちがKWNの活動に取り組んでくれれば、いじめや自殺も減ると本気で思っています。

朴 正一さん 映画監督/KWN映像講師 米国カルフォルニア州De Anza大学中退後、独学で映像技術を修める。2010年からPanasonic KWN講師として従事。仕事の傍ら自主映画を制作。短編映画「ムイト・プラゼール」が国内外の映画祭にて入選、受賞、劇場公開されている。春には配信、DVD発売予定。 朴 正一さん 映画監督/KWN映像講師 米国カルフォルニア州De Anza大学中退後、独学で映像技術を修める。2010年からPanasonic KWN講師として従事。仕事の傍ら自主映画を制作。短編映画「ムイト・プラゼール」が国内外の映画祭にて入選、受賞、劇場公開されている。春には配信、DVD発売予定。
作る側と見る側の両方に対して 映像が持つ力を改めて実感

福田 子どもたちが意見を言うようになったのは、榎本先生が子どもたちの引き出しを出すのが上手いという部分も大きいと思うのですが、東日本大震災があった時、やはり子どもたちはすごく苦しい思いをして、たぶん大人への気遣いなどもあって、自分たちの思いを表に出さなくなったと思います。それは、被災地の子どもたちに笑顔と元気を取り戻してもらうための復興支援プログラム「きっと わらえる 2021」で、被災地の子どもたちを見てきて感じたところです。

 ところが、そんな子どもたちにカメラを向けて、「今、つたえたいことを話してください」と言うと、皆が話し始めてくれます。カメラがあるから、気持ちを話せるようになったのかと思っていましたが、朴さんのお話によると、カメラがあっても気持ちを出せない子どもたちがいるということですよね。

 私も「きっと わらえる 2021」で被災地に行きましたが、福田さんがおっしゃったように、カメラを向けると子どもたちは想いをさらけ出してくれました。カメラの周囲には、カチンコやマイクがあって、「みんなが私の気持ちを聞いてくれるんだ」「私のためにこんな用意をしてくれたんだ」「1人じゃないんだ」というのがあるから、カメラの前でしゃべれるのだと思います。そこには輪ができて、カメラの後ろにたくさんの友達がいて、自分を支えてくれていることがわかるから臆することなく話せる。KWNの活動がいかに貴重なのかを示していると思います。

 「お互いの支えがあるから気持ちを出せるし、自分の気持ちは出していいんだよ。言いたいことは言っていいんだよ。それが君のためにも、周りの人のためにもなるんだよ」という部分が映像制作の真髄だと思っていて、ワークショップでは、それを子どもたちに伝えています。

福田 映像の力のすごさを改めて考えさせられました。映像を作る側は、自分たちの身の回りに潜んでいる社会課題を見つけて、自分たちの頭で考え、忖度なく映像制作という行動に移します。一方では、子どもたちの作った作品を見る側もいます。「素で撮った映像がいちばん」というお話もありましたが、子どもたちの作った映像を大人が見て、心を動かされたり、反省をしたり、子どもたちの素晴らしさに気付かされることも多々あります。そう考えると、作る側に対するインパクトと、見る側に対するインパクト、その両方がある映像の力のすごさを、改めて実感しました。

榎本 映像の力という意味では、今でも鮮明に覚えているのが、「未来に、咲け-桜とSAKURA-」(2017年度)という作品の表彰式でのこと。最優秀作品賞は取れなかったのですが、審査員の伊藤有壱先生から「作品は見られることで成長するからね」というさりげないひと言をいただいたのです。「なるほど」と思いました。この作品を多くの人たちが見た時に、見た人の誰かの心を動かして、何か新しい価値を生み出していくと。子どもたちにも「君たちが大人になった時にこの作品を見たら違う見方をするだろうし、その時が楽しみだね」と話しました。

 同じ人でも見た時期によって捉え方が違うと思いますし、この作品を作った子どもたちはもう高校3年生になっていますが、高校3年生になった彼らが見ても、また違う価値観を持つと思います。その違う価値観がまた違うアクションを起こしてくれるはずです。それがまた作品を作る面白さだと思います。

福田 伊藤先生ならではのご発言ですね。

福田 里香さん パナソニック ホールディングス株式会社  CSR・企業市民活動担当室 室長   1986年 松下電器産業株式会社(現パナソニック ホールディングス株式会社)に入社 以降、人事・労政部門にて、パナソニックグループの賃金体系、退職金・年金など人事処遇制度の企画・運営に携わり、渉外部門にて人事・総務責 任者を経て2014年より現職。企業市民活動では、誰もが自分らしく活き活きとくらす「サステナブルな共生社会」の実現に向けて、3つの重点テー マである「貧困の解消」「環境活動」「人材育成(学び支援)」を軸に各種活動に取り組んでいる。 福田 里香さん パナソニック ホールディングス株式会社  CSR・企業市民活動担当室 室長   1986年 松下電器産業株式会社(現パナソニック ホールディングス株式会社)に入社 以降、人事・労政部門にて、パナソニックグループの賃金体系、退職金・年金など人事処遇制度の企画・運営に携わり、渉外部門にて人事・総務責 任者を経て2014年より現職。企業市民活動では、誰もが自分らしく活き活きとくらす「サステナブルな共生社会」の実現に向けて、3つの重点テー マである「貧困の解消」「環境活動」「人材育成(学び支援)」を軸に各種活動に取り組んでいる。
配信動画の影響か 結論から先に言う傾向がある

──教育現場では、GIGAスクール構想が広がるなど環境の変化もありました。また、子どもたちが意見を言わなくなったというお話もありましたが、子どもたちのチームワークや活動についてはどんな印象をお持ちですか?

榎本 小学校の現場にいると、チームワークの本質は変わっていませんが、形は変わったと感じることがあります。例えば、私が今回担当をしたKWNのチームでは、夜8時までと決めて、普段、学校で話し足りないことを、オンラインで話し合うチャットルームを設けていました。会話の内容がオープンなので、誹謗中傷などは当然書きませんし、気持ちを対面では言えないけど、チャットだと言える子もいます。ですから、本質的な部分は変わっていませんが、デジタルという形になって、人前で話せなかった子を少し掘り起こせるようになったと感じています。

 デジタルを活用していることに対する印象は、個々が持っているクリエイティブな力やコミュニケーション能力を、少し拡張してくれるイメージです。だから、もともとは1しかないところが、2にはなるけれども、初めから0のものは倍にはなりません。だから映像作品作りでも、実際に教室に集まっての打ち合わせは必要です。そのあたりは上手に使い分けています。

福田 文字のやり取りだと誤解を生むことはないですか?

榎本 それはあります。子どもたちもそれがわかっていて、誤解がないように、わからないことは素直に聞いています。本当にデジタルネイティブです。

福田 デジタルネイティブの子どもたちの世界がどんな世界なのか、私には想像ができなくて。ミュージアムで展示品の解説文を、子どもたちはスマホの画面の様に無意識に拡大しようと(したり)するのを見ると(なんでもスマホでパパっと撮って記録する)その感覚についていけないところもあります。

榎本 そのお話を聞いて思い出したのですが、昔の作品に比べて今の作品は、訴えたいことがどんどん前に来ている感じがします。

 コンクルージョン(結論)を前に出すということですか?

榎本 そうです。結論が出るまで待てないのです。「これです!」と最初に見せて、その後に説明が付くような感じでしょうか。子どもたちの構成台本も、明らかに変わってきています。先に言いたいことを言う。インパクトのある映像を出す。子どもたちに聞いたことがあるのですが、「最初に面白いものをもっていかないと飛ばされちゃう(見てもらえない)でしょう」と、配信動画の感覚なのです。

 それは手法であって、作品を発表する場によって違うと思います。例えば映画館なら、90分、120分、強制的に見なければなりませんが、配信動画は興味がなければすぐに次の映像に飛ばせます。だからコンクルージョンを急がないといけません。KWNの作品の場合、どちらがいいのか一概には言えませんが。

榎本 今年のチームは女子が多いのですが、好きな音楽が昭和ポップスの子と韓国系の子に分かれていて、韓国系が好きな子が「昭和の曲は(前奏が長くて)いつ歌い出すかわからない」と言っていました。最初に(結論を)出すのは時代なのかなとも思います。

福田 KWNに限らず他のプログラムもそうですが、若い人たちにもっと知ってもらうにはどうすればいいかと考えて、1分ぐらいの畳みかけるようなアニメーションを作ったケースがあります。若い子たちの感覚に合わせないと見てもらえないのです。

榎本 子どもたちは動画を倍速で見ていたりもします。

福田 倍速では情報は得られたとしても、気持ちが動くことはないですよね。

榎本 ありません。

 最近のハリウッド映画は、それに反発するように長編作品が多い傾向があります。マーティン・スコセッシ監督の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(2023年)なんて、3時間半の長編です。それでもアメリカでは話題になり、若い人が映画館に見に行っています。ですから、今の若い子たちは、コンクルージョンを急がない長編映画の楽しみ方を知らないだけなのかもしれません。

福田 映画館のお話を聞いていて、隔離して集中させることは大事だと思いました。私は便利だからとリモートでセミナーを受けたりしますが、他のことに気を取られたり、仕事のメールを処理しながら聞いていたり集中できないことがあります。そういう時は、終わってみると、セミナーの本質が頭に入っていなかったりします。会話のネタのために、配信動画をササッと見て情報を取ることもありますが、心が動くことはありません。結局、それは若い人も同じだと思います。

榎本 昇さん 神奈川県・森村学園初等部 教諭 神奈川県横浜市にある私立小学校、森村学園初等部教諭及びICT担当。2010年からKWN映像コンテストに参加し、指導するチームが最優秀作品賞を4度受賞。2020年から2023年までグローバルサミット日本代表校の指導者。また2019年からはApple Distinguished Educator、2021年からはJamf Heroとしても活動を始める。 榎本 昇さん 神奈川県・森村学園初等部 教諭 神奈川県横浜市にある私立小学校、森村学園初等部教諭及びICT担当。2010年からKWN映像コンテストに参加し、指導するチームが最優秀作品賞を4度受賞。2020年から2023年までグローバルサミット日本代表校の指導者。また2019年からはApple Distinguished Educator、2021年からはJamf Heroとしても活動を始める。
作品に対する1つ1つのメッセージ 参加校へのフォローも万全

──誰もが手軽に映像を撮れる時代ですが、やはり子どもたちも本物を感じることはできると思います。プロの映像を撮る人の言葉は説得力がありますし、心にしみ込んでいくのでしょうね。

 榎本先生も感じていらっしゃると思いますが、ワークショップでは、雰囲気というか、集中できる空間を作ることが大切だと思っています。実は苦い経験もしていて、コロナ禍に自閉症の学校でオンラインワークショップを行った時に、自閉症のことを勉強して挑んだのですが、好きなことを一方的に話されて何もできなかったことがありました。やはり何かを伝えるには、一緒に雰囲気作り、空間作りをすることが必要だと痛感しました。特別な空間の雰囲気は、子どもたちも肌で感じてくれると思いますし、その方が集中力も高まると思います。

福田 情報の伝達だけならいいのですが、リモートだと伝わりにくい部分があることは、多くの人たちが薄々は感じていたと思います。リモートでの伝わりにくさは、タイムラグのせいなのか、アプリの性能の問題なのか、1人ずつしゃべらないといけないせいなのか、そもそも対面とオンラインとでは脳の動きが違うのではないかと思いました。

 偶然、同じような検証をテレビでやっていて、それによると、同じ話を聞いた際に、対面だと共感を呼んでいるのに、リモートでは共感していない結果になっていました。ワークショップに関しても、リモートとリアルの違いはすごくあるのでしょうね。

 そう思います。気持ちの伝え方については、映像制作のテクニックとして、カット割りがあります。子どもたちにも、「カメラを寄ったり引いたりしてください。“好き”というセリフは、この距離と、この距離とでは、どちらが相手に強く気持ちが伝わりますか?」とよく聞きます。またある作品で、「どうして子どもの顔をアップにしないのですか?」と聞いたら、先生が「その考えはありませんでした」とおっしゃったこともありました。どう気持ちを伝えるか、伝え方の面白さも映像制作にはあると思います。

──KWNは映像を作ったら終わりではなく、1年の集大成としてのコンテストがあり、学校同士が交流できる場も設けられています。さまざまな活動を含め、KWNの価値は高いように思えます。

榎本 それは、表彰式やグローバルサミットなど、他の学校とディスカッションしている場面で強く感じます。

 「きっと わらえる 2021」もそうですし、「IOCヤングリーダーズ」などの交流支援、「KWNキッズレポート」といったプログラムも展開していますが、応募作品に対しては、募集しただけではなく、審査をした作品の感想を1つ1つ学校側に伝えています。私の場合、いつもきついコメントになりがちで、事務局からも注意を受けていますが、きつくなってしまうのは、「映像を真剣に撮ったら、こんなこともあんなことも伝えられるのにもったいない」という気持ちが働くからです。それは子どもたちに対してではなく、主に先生に向けてのメッセージ。先生に、映像の力の素晴らしさに気付いてほしいからなのです。

福田 コンテストという形式を取っている以上、審査の結果、落選する作品が数多くあります。落とした作品に対してこそ、フォローというか、きちんと伝えていかなければいけないと思っています。

 おっしゃる通りです。以前、小学生が作った作品で、内容としては素晴らしかったのですが、KWNの趣旨に向かないと感じた作品がありました。案の定、落選したのですが、その際、「絶対に作り方を変えてはダメです。先生や大人に何を言われても、あなたのこの作り方は変えないでください。そうすれば今後、素晴らしい作品をあなた方は作ります」とメッセージを書いたことがありました。

 そういう作品は少ないのですが、今年度もリスペクトできる作品がありました。具体的なアドバイスを書き、正直にリスペクトしている旨も伝えています。

福田 どこに伸びしろがあるかということですよね。大人が決めた枠の中で考えたら違うけど、枠を外してあげたら実は素晴らしい作品ということなのかもしれませんね。