昭和7年春、幸之助は某氏(ぼうし)に連れられて、とある宗教団体(しゅうきょうだんたい)の本部を訪(おとず)れていた。広大な敷地(しきち)を順に案内されるうち、二人は製材所にたどり着いた。

「製材所? 製材所って何をするとこでっか?」
「もちろん材木の製材所です。 全国の信者から献(けん)じられた木を使うて、教祖殿(きょうそでん)などの建築(けんちく)を進めてるんですわ」
「これ、みな、献木(けんぼく)ですか!」

不況(ふきょう)のど真ん中というのに、信者から献木が山のようにやってくる。奉仕(ほうし)によって作業は進められているというのに、作業をする信者の人たちの顔は喜びに満ちている。この様子を見て、幸之助は心を打たれた。