発表した2週間後にはもう、幸之助は機上の人(※1)となっていた。1月25日、ニューヨークに無事到着(ぶじとうちゃく)。日本とあまりに違(ちが)うアメリカは、強く幸之助の心を揺(ゆ)さぶった。人々(ひとびと)の合理的で気さくな考え方、工場の規模(きぼ)の大きさや専門細分化(せんもんさいぶんか)による効率(こうりつ)のよさ、街角や映画(えいが)の中に見る人々の暮(く)らしの、夢(ゆめ)のような豊(ゆた)かさ。なによりスケールとスピードの違いが幸之助の心をとらえた。
ある日、1台の工作機械(こうさくきかい)に興味(きょうみ)を持った幸之助は、製造元(せいぞうもと)の社長に話を聞きたいと思った。本社はカナダにある。国際電話(こくさいでんわ)が日常的(にちじょうてき)に交わされる風景にも驚(おどろ)いたが、会話の中身を知って、幸之助は開いた口がふさがらなかった。
「社長さんに話を伺(うかが)いたいのですが」
「社長はいま出張中(しゅっちょうちゅう)ですが、ビジネスの話なら現地(げんち)から飛行機でそちらに向かいます」
次の日、実際(じっさい)に目の前に現(あらわ)れたその社長と握手(あくしゅ)を交わしながら、幸之助は事業スケールの大きさと、そのスケールに負けない機動性(きどうせい)に感銘(かんめい)(※2)を受けていた。
※1 機上(きじょう)の人(ひと):飛行機に乗ってる人
※2 感銘(かんめい):心に深く感じてわすれないこと