幾度(いくど)もの困難(こんなん)を見事に克服(こくふく)し、経営者(けいえいしゃ)としてまれに見る成功を収(おさ)めてきた松下幸之助を、いつしか世間は「経営の神様」と呼(よ)ぶようになっていた。 しかし、飽(あ)くなき向上心が身上である幸之助には、まだまだ満足という気持ちはなかった。

経営活動(けいえいかつどう)を通し、そしてPHP研究を通して、いつしか幸之助は、「人間とは何か」という根源的(こんげんてき)なテーマと向き合っていた。 これこそ、経営活動を通して半世紀もの間、追い求めてきたものではないか。 経営者としての成功が揺(ゆ)るぎないものになればなるほど、探求心(たんきゅうしん)は募(つの)った。 そして昭和47年、長年、思索(しさく)してきた「新しい人間観」について、一つの答えを一冊(いっさつ)の本にまとめた。 書き終えたとき「自分は結局このことが言いたかったのだ。自分の考え方の根本はこれに尽(つ)きる」とさえ思った著書(ちょしょ)、「人間を考える----新しい人間観の提唱(ていしょう)(※1)」である。

※1 提唱(ていしょう):人に先立って新しい考えかたを言いはること