パナソニック技報

【1月号】JANUARY 2013 Vol.58 No.4の概要

特集1:LTE

LTE特集によせて

パナソニック(株) R&D本部 事業開発推進室 室長 平松 勝彦

招待論文

周波数と電力効率に優れたブロードバンド無線通信技術の実現に向けて

東北大学大学院 工学研究科 電気・通信工学専攻 教授 安達 文幸

技術論文

LTE-Advancedシステム向け帯域拡張技術の開発

大泉 透,西尾 昭彦,今村 大地

国際標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)では,2008年にLTE(Long Term Evolution)としてRelease 8規格を,2011年にはLTE-AdvancedとしてRelease 10規格を策定しており,当社は継続的に技術開発を行いその規格化に貢献してきた.LTE-Advancedでは,最大伝送レート向上のための帯域拡張技術として,複数のLTEキャリアを束ねて通信するCA(Carrier Aggregation)が新規導入される.CAにおいては,1つの上りリンクCC(Component Carrier)のみから上りリンク制御チャネルを送信することがカバレッジの確保の観点で重要である.筆者らは,その実現方法としてチャネルセレクション技術を提案した.さらに,チャネルセレクションにおいて誤り率特性が最も悪いAck/Nack(Acknowledgement/Non-acknowledgement)ビットの特性を改善することで,端末の上りリンク制御チャネルの送信電力を低減するAck/Nackマッピング方法を開発した.CA適用時においてもカバレッジの確保と端末の消費電力削減を実現できることを示した.

LTE対応スマートフォンの技術開発

増田 達也,松野下 昌弘,坂本 昭人,大洞 路夫,陣内 弘喜,山口 浩平

次世代の高速データ通信方式としてLTE(Long Term Evolution)の商用化が世界各国で進んでいる.当社では,LTE対応スマートフォンの技術開発を行い,LTE Release8(Category3)に対応することにより,Downlink最大75 Mbit/sおよびUplink最大25 Mbit/s(15 MHz帯域幅時)を実現し,従来のスマートフォンから大きく進化させた.特に,(1)干渉を抑えたLTE無線回路設計および省電力化技術,(2)小型・低相関・高利得なMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)アンテナ技術,(3)CPU処理の最適化による省電力技術開発により小型化・低消費電力を実現した.

基地局協調伝送システムの開発

齋藤 昭裕,木村 亮介,関 裕太,松尾 英範,庄子 竜也,外山 隆行

LTE (Long Term Evolution) - Advanced 技術の一端として,セルエッジに存在する移動端末のスループットの改善を図り,システム全体の周波数利用効率を改善するCoMP(Coordinated Multi-Point transmission)技術が3GPP(3rd Generation Partnership Project)にて議論されている.当社はCoMP技術の一方式であるJT(Joint Transmission)を用いた実証システム開発をソフトバンクモバイル(株)と行っている.本稿では,散MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術の1つであるCoMP-JTを適用した本システムの特徴である,1)CoMP-JT伝送アルゴリズム,2)ユーザーデータを制御データと対にしてX2インターフェースを介して異なる基地局へ転送する手法,3)異なる基地局間での同期送信方法に関して説明する.そして,本方式によって移動端末のスループットをセルエッジで約15倍改善した実証結果について報告する.

技術解説

LTE携帯端末向け通信プラットフォーム

足立 泰広,村松 慎太郎

LTE(Long Term Evolution)携帯端末向け通信プラットフォーム(PF)は,LTE/WCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)/GSM(Global System for Mobile communications)の複数の無線通信方式による高速なデータ通信および音声通話に対応し,ソフトウェア(SW)の変更により通信機能の拡張が可能な技術を実現する.また,無線部制御インターフェース(I/F)はDigRF v4規格に対応し,無線仕様などにおいて最適なRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)に変更可能である.

セルラ/Wi-Fi統合無線アクセス制御技術開発

後明 一聖,今泉 賢

セルラとWi-Fi(Wireless Fidelity)の自動回線切り替えや事業者間ローミングサービスを実現するNGH(Next Generation Hotspot)に関する標準化が進められている.本解説では,SIM(Subscriber Identity Module)認証やIEEE 802.11u 規定のANQP(Access Network Query Protocol)などの導入によるWi-Fi接続の自動化や,セルラとWi-Fiのネットワーク統合によるシームレスな回線切り替えなど,NGH関連技術の概要について標準化動向とともに説明する.

特集2:ロボット

ロボット特集によせて

パナソニック(株) モノづくり本部 生産技術開発センター
ロボット技術開発グループ グループマネージャー 松川 善彦

招待論文

次世代ロボット安全:技術の現状と課題

名古屋大学大学院 工学研究科 教授 山田 陽滋

技術論文

パラレルリンクロボットによる生産革新

藤原 茂喜,高野 健,末藤 伸幸

簡単な手づたえ教示機能を付加することで,変種変量生産における垂直立ち上げや熟練作業の再現に効果のある組立系のロボットを開発している.それは吊(つ)り下げ構造の6自由度制御可能なHexa型パラレルリンク機構を有し,駆動源であるダイレクトドライブモータの電源を切った状態で,エンドエフェクタを直接手で持って,安全で容易に作業の教示ができる特徴がある.また,教示データの編集機能も開発し,軌跡データを直感的で容易に修正や調整ができる.本ロボットを活用したシート貼り付け工程とカメラモジュール組立工程の自動化実現例を示す.

接触摺動洗浄機能を有するヘッドケアロボットの開発

廣瀬 俊典,安藤 健,進藤 誠元,藤岡 総一郎,水野 修

人の指を模した接触子で頭髪をこすり洗い(接触摺動洗浄)するヘッドケアロボットを開発した.このヘッドケアロボットは,病院・介護施設における洗髪や頭皮ケアをアシストし,施術者の負担軽減と洗髪頻度向上による被施術者のQOL(Quality Of Life)向上を目的とする.自動調芯による頭部形状への追従と単一の電動モータによる複数の接触子への駆動力伝達を実現する円筒ラック機構,押圧・伸縮動作を実現し広範囲な頭部領域への接触を可能とする五節閉リンク機構,後頭部の支持・洗浄を両立するための双腕協調動作による後頭部押圧力制御などの要素技術を構築した.また,生体情報を用いてヘッドケアロボットによる洗髪の性能を定量評価することで,人による洗髪と同程度の洗浄性および快適性が得られることを確認した.

病院内自律搬送ロボットの3次元環境認識・障害物回避技術

村井 亮介,酒井 龍雄,川野 肇,木下 愼太郎,上松 弘幸,北野 幸彦

自律移動ロボットが,オーバーハングのある物体や移動体などの障害物を回避しながら継続して移動するためには,周囲の動的環境を3次元で認識する必要がある.しかし,移動ロボットに搭載可能な実用的な3次元センサは少ない.一方,2次元センサの時系列データから3次元地図を生成する方法が多く研究されているが,従来手法では動的環境をリアルタイムに把握できない問題がある.そこで,移動ロボットに2次元センサのレーザレーダを複数台搭載し,これらセンサで取得した時系列データを選択的に記憶・忘却することで,3次元情報を含む障害物回避用地図をリアルタイムに生成・更新する技術を開発した.この情報を用いることで,移動ロボットは,オーバーハングのある静止障害物に対する確実な回避動作や,移動障害物に対するスムーズな回避動作を実現できる.病院内搬送ロボット“HOSPI”に本技術を搭載し,実用化した.

カメラと無線タグのフュージョンによる移動体位置推定

山上 勝義,谷川 徹

本稿では,カメラと無線タグによる移動体トラッキングシステムの実現を目的とした,センサフュージョンによる移動体位置推定方式について述べる.カメラから移動体の識別情報が出力されない条件では,物体位置推定精度が悪化するが,センサフュージョン処理の計算過程においてカメラに対する識別情報を近似的に生成することで位置推定精度を改善した.さらに,従来の移動体トラッキング方式で位置推定が失敗しやすい状況に対してロバストな位置推定ができることを示す.

技術解説

空気圧人工筋を用いた重量物ハンドリング パワーアシストアーム

小松 真弓,岡﨑 安直

空気圧人工筋を用いた重量物ハンドリング用のパワーアシストアームの開発を行った.非線形性の強い空気圧人工筋の数値モデルを構築して適用することにより,安定な制御が可能となった.その結果,軽量柔軟で,人に対して安全な操作性のよいアシストアームが実現した.また,本アシストアームは空気圧人工筋の柔軟性を生かし,人と協調した組み付け作業などにも応用可能である.

二重シェル構造による手づたえ教示方式

札場 勇大,津坂 優子

微小な手ごたえを感じながら簡単に人の動作や技能の教示が可能な手づたえ教示方式を開発した.人の把持部とロボットアームを分離した二重シェル構造による手づたえ教示により,従来は人が行っていた複雑で多彩な作業を専門的な知識がなくてもロボットに移植することができるようになる.

Image-Processing Technologies for Service Robot “HOSPI-Rimo”
(サービスロボット“HOSPI-Rimo”の画像処理技術)

酒井 龍雄,Anselm Lim Yi Xiong

To enhance the quality of service robots which perform work as substitutes for people, easy observation of the surrounding situation at the time of remote operation, and environment recognition - especially human detection - at the time of autonomous movement are required. This report explains the image-processing technologies for these purposes, and their application.