パナソニック技報
【5月号】MAY 2014 Vol.60 No.1
(2014年5月15日公開)
特集:エネルギーマネジメント
持続可能な社会を実現させるために,エネルギーを効率よく利用するエネルギーマネジメントシステム(EMS)の構築が重要視されています.EMSは,効率的な機器制御,再生可能エネルギー利用,平準化を行う蓄電池利用,さらにはこれらを効率よく運用するサーバや情報ネットワーク技術などさまざまな分野の技術で構成されています.本特集では,EMSを実現するための当社の最新技術を取り組み例を含めてご紹介いたします.
招待論文
エネルギーマネジメントの課題と展望
~スマートコミュニティの実現を目指して~
京都大学大学院情報学研究科 教授 松山 隆司
電力エネルギーのマネジメント,つまり発電,蓄電,消費の総合的管理技術を理解するために必要となる言葉として,「エコ」と「スマート」,W(ワット)とWh(ワット時),「プロシューマー」,「スマートグリッド」と「スマートコミュニティ」を取り上げ,それらの意味を解説しつつ,現状と将来展望を述べる.
技術論文・技術解説
[論文]集合住宅EMSにおける系統安定化制御技術の開発
溝端 竜也,Tzen Woo Tham,渡辺 健一,加治 充,船倉 正三, 垣内 隆志
筆者らは,電力品質を維持するためのアンシラリーサービス市場に参画可能なシンガポールの集合住宅EMS(Energy Management System)実現に向けて,1)蓄電池を利用した周波数調整技術,2)エアコンのデマンドレスポンス制御技術の開発に取り組んでいる.本稿では,シンガポール現地での実証実験の結果を報告する.1)では,蓄電量の過不足なく,7日間連続で周波数制御が可能であることが確認できた.2)では,深夜のデマンドレスポンス制御ではユーザーによるキャンセル率を2.0 %に抑制できたが,より大きな電力削減が得られる夜間では24 %に至り課題が残ることが確認できた.
キーワード / アンシラリーサービス,デマンドレスポンス制御,電力市場,周波数制御技術,有効電力指令,エアコン,集合住宅,シンガポール
代表図
[解説]店舗向け省エネソリューションの関連技術
相井 宏之
当社は,電気料金値上げに伴うコストアップの低減や,CO2削減が求められる店舗向けに,省エネ改善に貢献できるソリューションの開発を進めている.本解説は,省エネソリューションを構築するうえで必要と考えられる関連技術について述べるものである.
キーワード / 店舗,省エネ,ソリューション
代表図
[解説]接続性・安全性を確保するネットワーク検証
石川 博一,楠堂 忠夫
エネルギーマネジメントシステムおよびそれを構成する機器において,多様なユーザー環境での接続性の確保と,日々高度化するクラッカーなどからの攻撃に耐えるセキュリティ耐性を確保する取り組みとして,接続検証技術とセキュリティ検証技術を説明する.
キーワード / 接続検証,互換性試験,ぜい弱性,セキュリティ
代表図
[論文]多様なエネルギー管理ニーズに対応する分散サービスプラットフォームPDSPの開発
石井 友規,五島 雪絵,James Simister,Bryant Eastham,村上 宗司,畑中 智行
EMS(Energy Management System)の構築と運用にあたっては,システム規模の拡張やハードウェア構成の変更に柔軟に対応できること,悪意をもった攻撃者からシステムを保護するセキュリティ機構を有することが求められる.また,これらの機能要件は,他用途のシステムにおいても重要となる共通機能であり,個別の案件ごとに対応することは,システム開発において設計と検証工数を増加させる要因となる.筆者らは,これらの共通機能を実現するサービス構築プラットフォームPDSP(Panasonic Distributed Service Platform)を開発することで,システム開発効率を向上させ,多様な顧客ニーズへの迅速な対応を図った.本稿では,PDSPの技術的特徴について述べるとともに,EMS用途への適用を考え,1000台規模の電力モニタリングを想定したエミュレーション評価を行った.評価の結果,スループットの不足や偏りが発生せず,PDSPのスケーラビリティ性能が確認された.
キーワード / EMS,エネルギーマネージメント,PDSP,サービスプラットフォーム,EMIT,分散オブジェクト,スケーラビリティ,セキュリティ
代表図
[解説]小型蓄電システムのリレー故障時の安全性向上
倉貫 正明,武田 睦彦
停電時の電力供給や電力ピークシフトを行う小型蓄電システムは,商用電源から給電されている負荷をインバータ給電へ切り替える際,リレーが溶着しているとインバータが故障するという特有の課題を有している.本報告ではこの課題を解消する安全な電力切り替え方法について解説する.
キーワード / 蓄電システム,リレー,溶着
代表図
[論文]変換効率24.7 %のHIT®太陽電池の開発
矢野 歩,東方田 悟司,嶋田 聡,田口 幹朗,丸山 英治
「HIT®太陽電池」は,太陽電池モジュールの変換効率向上を可能にし,BOS(バランス・オブ・システムズ)コストの低減を可能にする太陽電池である.HIT®太陽電池の光電変換における損失で多くを占めるのは,キャリアの再結合による損失および抵抗による損失である.キャリアの再結合を引き起こす主因は接合界面に存在する欠陥であり,これらを集中的に不活性化(パシベーション)する新プロセスにより,25 %以上の界面再結合速度の低減が可能である.また,低抵抗化を可能にする新プロセスにより,25 %以上の抵抗損失の低減が可能である.これらの技術の組み合わせにより,研究開発レベルにおいて 24.7 %の変換効率を得ている.これは,実用サイズ(100cm2以上)の結晶シリコン系太陽電池において世界最高(2013年2月時点)となる変換効率である.
キーワード / 結晶シリコン系太陽電池,ヘテロ接合,パシベーション,温度特性,高効率,変換効率
代表図
[論文]プリント基板型電流センサを用いた電力計測
塩川 明実,遠藤 淳平,宮村 雄介,吉田 博
新構造のロゴスキーコイル型電流センサを用い,全分岐回路の電力計測可能な住宅分電盤を開発した.電流センサは,プリント基板に形成した独自のコイルパターンで形成し,外乱磁界による耐ノイズ性を向上させた.また,センサの信号処理回路として,低ノイズ型CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)計装アンプを内蔵したカスタムICを開発した.電力演算用マイコンと同期動作させることにより,多回路計測可能な高精度の電力演算システムを構成し,複数のコイルパターンと処理回路をプリント基板に一体化設計して小型化を図った.これらにより,電流センサ,および電力計測回路部を分電盤内部に組み込むことができ,従来の電力計測システムで必要であった電流センサの施工を省くことができる.
キーワード / プリント基板,電流センサ,ロゴスキーコイル,分岐回路,HEMS,分電盤,省エネ,電力計測
代表図
[論文]高電圧DCバス連携創蓄パワーコンディショナの開発
寺澤 章,菊池 彰洋,吉武 晃,井平 靖久
太陽電池による創エネと蓄電池による蓄エネを320 V程度のDC電圧(以下,高電圧DC)に変換して接続する創蓄パワーコンディショナ(以下,創蓄パワコン)を開発した.蓄電池の充放電制御は業界として初めてとなるシームレスな充放電制御であり,太陽電池の発電変動を蓄電池の充放電によって吸収し出力電力を安定させるとともに,系統停電時にも太陽光発電の発電電力を蓄電池に蓄えることを可能とした.さらに,2013年6月に新制定されたJET((一財)電気安全環境研究所)認証規格を業界で初めて取得し,創蓄パワコン導入時の電力会社との連系協議を大幅に簡略可能とした.
キーワード / 創蓄システム,パワーコンディショナ,高電圧DC連携,シームレス充放電,マルチコンバータ連携制御,系統連系認証適合技術
代表図