パナソニック技報
【11月号】NOVEMBER 2017 Vol.63 No.2

(2017年11月15日公開)

特集:B2Bソリューションを支えるインダストリアル技術

IoTの加速度的進展,人工知能(AI)の非連続な進化,さらには桁違いのコンピュータ処理能力向上といった近年の技術メガトレンドは,B2B事業に質的変化をもたらし,事業を支えるインダストリアル技術にも新たな視点が必要と考えられます.
本特集では,そのメガトレンドから期待されるサービス価値を生み出すB2Bソリューションを支えるインダストリアル技術のプラットフォームをご紹介します.

B2Bソリューションを支えるインダストリアル技術特集によせて

パナソニック(株) 執行役員
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 副社長・技術担当 (兼)技術本部長 藤井 英治

顔写真:執筆者 藤井 英治

招待論文

材料研究の醍醐味とこれから

東京工業大学 科学技術創成研究院 教授
同学 元素戦略研究センター センター長 細野 秀雄

材料という分野の特徴からその研究ならではの醍醐味を紹介する.また,大きな変革期に入りつつある材料研究の現状と将来ついて私見を記す.

顔写真:招待論文執筆者 細野 秀雄

技術論文・技術解説

[論文]サーモカメラによる非接触温冷感センシング

楠亀 弘一,米田 亜旗,式井 愼一,シラワン ナワット,野坂 健一郎,久保 博子

サーモカメラを用いた非接触式温冷感推定手法を開発した.サーモカメラで撮影した16名の被験者の熱画像を基に,着衣や皮膚表面からの外部への放熱量を推定し,温冷感との関係を明らかにした.放熱量と温冷感は着衣によらず,冬期,夏期ともに0.6~0.8の高い相関係数を有することを確認した.また,低解像度のサーモカメラにおいても温冷感推定を実現するため,3.4倍の分解能を実現する超解像技術を開発した.本技術により,8×8画素搭載の安価なサーモカメラを用いて6 m先の人の温冷感を推定するセンシングシステムを実現した.

キーワード / 温冷感,放熱量,Grid-EYE,温熱生理,超解像,熱画像,着衣量,エアコン

代表図

[論文]製造システムの稼働適正化に向けた多種多元データ活用ソリューション

樋口 裕一,天野 博史,清水 太一,厚田 鳴海,井田 雅夫,多鹿 陽介

製造工場で稼働する生産設備群のIoT化が進展しつつある.得られた稼働データを活用することにより,製造フロア全体を見通した効率的な設備保守の実現など,稼働率向上への応用が期待されている.一方,新しい社会脅威であるセキュリティ対策なども急務になっている.本稿では,工場のさまざまな機器から得られる多元で,属性が異なる多種データを集約し,多目的に利用できるように,製造現場や設備の特徴を活(い)かして,製造ラインや生産内容単位で統合・蓄積し,機械学習による異常検知を適用可能なアーキテクチャを示す.さらに稼働適正化を目的とする複数のソリューションへの適用事例を用いてその有効な利用方法について説明する.

キーワード / 機械学習,異常検知,産業システム,設備保全,セキュリティ,電力適正化,IoT

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[解説]GaN-GITによる小型高効率パワーエレクトロニクス機器

原 淳一郎,長岡 一彦

GaN-GIT(Gallium Nitride Gate Injection Transistor)はワイドバンドャップ特性をもつ高耐圧パワースイッチングデバイスであり,これを用いることでパワーエレクトロニクス機器の小型化・高効率化を実現できる.AC-DCコンバータと,モータ駆動用インバータを例に取り,GaN-GITの特長を活(い)かした,パワーエレクトロニクス機器について解説する.

キーワード / GaN,小型化,高効率,コンバータ,インバータ

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[論文]特殊産業車両向け3次元測位ミリ波レーダ

佐藤 潤二,岸上 高明,岩佐 健太,阿部 敬之,村田 智洋,四方 英邦

作業者から見えない位置の障害物や人を検出して車両の安全走行を実現するための3次元測位ミリ波レーダを開発した.従来のミリ波レーダは垂直方向の検出精度に課題があったが,送受アンテナ配置を工夫した不等間隔MIMO(Multiple Input Multiple Output)アレイ技術によって,少ないアンテナ数で水平/垂直方向の角度分解能が高い3次元測位技術を実現し,空間を3次元運動する物体の追跡検出や歩行人体のイメージングを可能とした.また,140GHz帯の広帯域性を利用して距離方向の高分解能化を実証するとともに,CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)集積化した140GHz帯送受信回路とアンテナを一体化した超小型レーダモジュールを開発した.

キーワード / ミリ波,レーダ,MIMO,3次元測位,CMOS,モジュール

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[論文]ロボット用高精度モーションセンシングユニット

藤田 孔明,中原 充也,佐藤 祐之,寺尾 篤人

産業用ロボットに用いられるセンサユニットには,3次元動作の検出,進行方向や傾斜の検知,広範な温度および振動環境下での使用ができることが求められる.筆者らは,シリコンMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)検出素子を採用した角速度センサと加速度センサに対し,ユニット化による多軸化,高精度な温度特性の補正,姿勢角出力,耐振動性の改善を行った.本稿では,-40 ℃~85 ℃の範囲においてZ軸のオフセット誤差角速度0.1 deg/s,加速度0.2 m/s2,スイープ振動試験(±9.8 m/s2,10 Hz-300 Hz)においてヨー角変動が0.2 degを実現した,広範な温度および振動環境下で使用できる高精度なモーションセンシングユニットについて報告する.

キーワード / モーションセンシング,角速度,加速度,姿勢角出力,6軸,耐環境性能,MEMS,ロボット

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[論文]小型・高速・高精度位置決め技術を有する高性能サーボモータ,アンプ

麻生 宜農,辻本 隆宏,園田 大輔,下田 和弘

半導体製造装置,電子部品実装装置,加工/組み立てロボットなどに代表される産業機器の分野では,IoT化に向けた工場のスマート化や人件費高騰および省人化を背景とした自動化が拡大している.当社では,これらの市場環境に対応するため,産業機器のモーションコントロールの基幹デバイスであるサーボモータとサーボアンプの技術開発に取り組んだ.成果として,サーボモータでは,放熱性向上により最大でモータ長を従来比15 %低減,ロータ構造の変更により堅牢(けんろう)性も向上させた.サーボモータに搭載のエンコーダでは,従来比8倍の高分解能化を実現した.さらにサーボアンプでは,サーボ制御処理の並列化により業界最高レベルの速度応答周波数3.2 kHzの実現に加え,外乱抑制制御技術,高速ネットワーク技術,工場のIoT化に向けた無線接続システムを開発した.

キーワード / 高性能,サーボモータ,サーボアンプ,小型,高速,高精度位置決め

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[論文]マイクロ波無線電力伝送による超小型絶縁ゲートドライバ

根来 昇,河井 康史,田畑 修,崔 成伯,榎本 真悟,永井 秀一

インバータなどの電力変換機器で用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor),SiC(Silicon Carbide)やGaN(Gallium Nitride)といったパワーデバイスを駆動する超小型絶縁ゲートドライバを開発した.今回開発したゲートドライバは,マイクロ波を用いて,制御信号だけでなくパワーデバイスを駆動するのに必要な電力も同時に伝送することができる.さらに,絶縁電源で用いられる大きなトランスを小型化するため,新たな電磁界共鳴結合器を開発した.これにより,従来の絶縁電源が必要なフォトカプラを用いた構成と比較して,実装面積6分の1以下の超小型絶縁ゲートドライバを実現することができた.

キーワード / 絶縁ゲートドライバ,マイクロ波,無線電力伝送,電磁界共鳴結合器,インバータ,DBM(Drive-by-Microwave)

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[論文]IoTソリューション向け電池レス無線スイッチ

佐田 紀文,野田 雅明,大石 傑

今後の市場拡大が見込まれるIoT市場をターゲットに,電源を持たない装置や配線が困難な装置,電池交換が困難な装置からの情報取得を実現する電池レス無線スイッチを開発した.電池レス無線スイッチは押下操作により電磁誘導発電する自己発電部と,928MHz帯無線通信部で構成されており,電源供給なしでON,OFF信号を無線送信できる.自己発電部はさまざまな装置への搭載を考慮し,小型・薄型形状としながら独自の磁気回路反転機構,速動機構により業界トップレベルの発電量(300 μJ)を確保し,また無線通信部においては独自の高効率アンテナ,制御技術により安定した通信品質を実現した.

キーワード / エネルギーハーベスティング,電池レス,無線,発電,電磁誘導

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[論文]SOI技術による機能安全対応車載電池監視用IC

藤井 圭一,小林 拓,井上 真幸,小林 仁

電気自動車/ハイブリッド自動車に搭載するリチウムイオン電池のバッテリーマネジメントシステムは,自動車機能安全の国際標準規格ISO26262への準拠が必須になりつつある.筆者らは,「機能集積化」と「機能安全」の両立を実現する0.15 μm SOI-BCDMOSプロセスを開発し,フェールオペレーション可能な次世代バッテリー監視ICに適用した.絶縁体による素子分離を行うSOIプロセスは,高温動作可能で,寄生素子による誤動作を発生させないという「本質的に安全な性質」を有する.本監視ICは機能ブロックを電気的に独立して1チップ上に配置することで「機能安全設計」の有効性を高め,ISO26262のリスク指標ASIL-Cが要求する故障検出率を1チップで実現する.

キーワード / 電気自動車(EV),バッテリーマネジメントシステム(BMS),機能安全,ISO26262,リチウムイオン電池,フェールオペレーション,SOI

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[論文]セキュリティLSI向け高速・低消費電力ReRAM

早川 幸夫,村岡 俊作,姫野 敦史,伊藤 理,米田 慎一

抵抗変化メモリー(ReRAM:Resistive Random Access Memory)は,高速動作・低消費電力の特徴を有する不揮発性メモリーとして注目されている.今回,酸化・還元型ReRAMの動作メカニズムの観点から,導電性フィラメントのモデルを構築し,良好なデータ保持特性を実現するための指針を示した.そして,この指針を基に考察したReRAM特有の微細化課題から,「素子側面の余剰酸素の低減」と「フィラメントの位置制御」を具現化する新たな技術を開発した.さらに,これら新技術を適用した40 nm技術ノードで2 Mbit容量のReRAMを試作し,1万回書き換え後の優れたデータ保持性能(85 ℃,10年)を実証した.

キーワード / 抵抗変化メモリ,ReRAM,混載メモリ,タンタル酸化物,TaOx,40 nm技術,低消費電力,IoT

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[論文]異方性磁気抵抗効果素子とHall素子を用いた高精度角度センサ

尾中 和弘,長部 亮,藤浦 英明,一宮 礼孝,吉内 茂裕,山田 清高

自動運転システムの実現と小型化に向けて,レゾルバ(角度検出精度±0.17°以下)に代わる小型の高精度角度センサのニーズが高まっている.これに応えるべく,車載環境に必要な広い磁界検出範囲を有し,強磁界下でも破壊しないNiFe膜を用いて,角度検出に最適化設計した異方性磁気抵抗効果(AMR)素子を作製し,回転角0°~180°の領域で角度検出精度±0.1°以下を確認した.さらに,AMR素子が検出不可能な極性判別を補完するHall素子と処理回路を組み合わせた高精度角度センサのモデルを作成し,転角0°~360°の領域で角度検出精度±0.13°で絶対角の検出が可能であることを確認し,次世代の自動運転システムへの対応の可能性を見いだした.

キーワード / AMR素子,Hall素子,高精度,車載用,角度検出,自動運転,絶対角

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[解説]高コントラスト・広視野角IPS液晶ディスプレイの開発

宮崎 香織

業務用モニタにおいて,広視野角と高コントラスト比の両立が望まれている.IPS(In-Plane Switching)液晶の特徴である広視野角を確保しつつ,材料・プロセス・構造の変更により,高コントラスト比を実現した液晶ディスプレイを開発したので,本稿にて解説する.

キーワード / 液晶,IPS,コントラスト,光配向,HDR

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[論文]計算科学によるPZT強誘電体の焦電物性解析法

前嶋 宏行,田中 良明,高山 了一

代表的な強誘電体材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は,その優れた圧電性と焦電性によって,角速度センサやアクチュエータ,焦電型赤外線センサなど,デバイスの基幹材料として広く利用されている.本稿では,PZT(Pb(Zrx-1Tix)O3(x=0.5, 1))を対象として,結晶構造の再現性に優れたGindeleらのシェルモデルを用いて分子動力学シミュレーションを実施し,自発分極,焦電係数,比誘電率の温度依存性を評価した.その結果,キュリー温度を200 K程度過小評価するものの,PZTの焦電応答と誘電応答を原子挙動に基づいて再現することが明らかになった.本解析法の適用範囲を他の元素にも拡張し,材料開発に応用することによって,新たな構造や組成をもつ新材料の探索が可能となり,開発期間の短縮が期待できる.

キーワード / 強誘電体,PZT,分子動力学計算、シミュレーション,焦電係数,比誘電率,赤外線センサ

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[解説]最先端LSI向け応力緩和性基板材料

柏原 圭子,渡邉 李歩子

携帯端末用途のアプリケーションプロセッサに代表される大型の最先端LSIにおいて,その薄型化に伴ってパッケージの反(そ)りが課題となっている.そこで低弾性かつ応力を緩和する効果のある樹脂を基板材料に適用し,半導体チップと基板の間に発生する応力を緩和することでパッケージ反りを50 %低減するとともに接続信頼性の向上を実現した.

キーワード / 半導体,パッケージ,反り,応力緩和,低弾性

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