特集1:精密加工
招待論文
機能創成加工が拓く新しいものづくり
東北大学大学院医工学研究科
教授 厨川 常元
超精密加工表面上に微細構造体を創成することにより,新たな機能を発現することができる.このような究極の“形状創成”に“機能創成”を加味し,高付加価値創成を目指した新しいものづくり技術,「機能創成加工」について紹介する.
技術論文
単結晶ダイヤモンド測定針の高精度加工法
久保 雅裕,鷹巣 良史,和田 紀彦
高精度が要求される光学部品の3次元形状測定は,高精度に球形状加工された測定針を用い,被測定表面をトレースすることで行われる.そのため測定針の形状精度の維持管理が重要となり,物理的,化学的に安定し,摩耗しにくいダイヤモンドが針先端材料として多く利用されている.しかしながら,その材料特性ゆえに機械加工やエッチングによる加工が困難である.ダイヤモンドがもつ結晶方位による加工性の違いを改善するため,紫外線を援用することによって結晶方位の影響低減を検討し,高精度加工プロセスの開発を行うことにより,先端球状部半径20 μmのダイヤモンド測定針を形状精度0.1 μmで加工できた.
キーワード / ダイヤモンド,研削,紫外線,測定針,形状
代表図
超短パルスレーザ加工機による精密加工
中奥 洋
高精度で微細な孔加工が可能なレーザ加工機を製品化した.レーザ光源として超短パルスレーザを使用し,そのレーザビームをピエゾ素子による駆動ミラーによってスキャンすることで,高精度な加工を実現している.
本製品の大きな特長の1つとして,形状自由度の高い加工が可能であるということが挙げられる.本稿では多角形形状の加工用ソフトウェアを開発し,さまざまな断面形状の孔加工を行うことで,孔加工の特性の検証を行った.その結果,加工時間は計算値より4.7倍以上必要であったが,非常にシャープなエッジの孔加工を行えるということが確認できた.
キーワード / 超短パルスレーザ,ピコ秒レーザ,ノズル加工,微細孔加工,微細穴加工,多角形孔加工,多角形穴加工
代表図
金属光造形複合加工法による成形金型の革新
阿部 諭,上本 誠一
金属粉末の3Dプリンティングプロセスと切削プロセスを組み合わせた金属光造形複合加工システムを開発した.従来の3Dプリンティングプロセスと比較して飛躍的に加工精度・表面粗さを向上させるだけではなく,従来の切削加工では加工不可能な深リブを含む形状でもワンプロセスで加工することができ,超短納期で金型製作が可能となる.また,射出成形金型に適用すると,従来の除去加工法では不可能であった自由な温度調節回路の形成が可能であるため,成形サイクル向上,成形精度向上などを達成する高機能な金型を実現できる.
キーワード / 3Dプリンティング,Additive Manufacturing,金属粉末,切削,射出成形金型,ハイサイクル成形
代表図
ロールプレスナノインプリントによる微細構造の大面積高速成形
岩瀬 鉄平,上木原 伸幸,石川 明弘,和田 紀彦
基板上にナノメートルオーダーの微細構造を形成することで,LEDや有機EL照明などの発光デバイスの発光効率を大幅に向上させることができる.基板の作製コストを削減するには,微細構造を大きな基板に対し高精度かつ高速に形成する必要がある.そのため筆者らは,独自のロールプレス方式を用いたUVナノインプリント技術を開発した.成形樹脂材料の硬化挙動に合わせた専用のUV光源を設計し,応力シミュレーションを用いたロール仕様の検討を行い,作製した検証装置を用いて,高精度と高速成形を両立した実用レベルの基板作製が可能であることを実証した.
キーワード / ナノインプリント,微細構造,LED,有機EL照明,発光効率
代表図
技術解説
太陽電池用シリコンウェハ加工システムの開発
高橋 正行,渡邉 衛
筆者らは新たな太陽電池用シリコンウェハの自動化ラインを開発した.技術のポイントは,(1)短時間接着プロセス,(2)スチームによる枚葉剝離,(3)水のみのウェハ洗浄システムの3点である.それらの結果,ラインタクト1.4秒/枚が実現し,加えてウェハ生産時の歩留まりを改善できた.
キーワード / 太陽電池,ウェハ,スライス,一貫ライン
代表図
プリズム式導光板の加工・成形技術の開発
伊藤 正弥
近年,プリズム式導光板は液晶テレビのバックライトへの用途以外にも,立体形状を有する導光体による照明器具や透明性が要求される商品などへの展開が行われている.本稿では,配光特性や透明性などの光学特性と金型費および成形費の低コスト化との両立を実現する金型および成形加工法について解説する.
キーワード / プリズム式導光板,電鋳金型,高精度転写,光学特性
代表図
特集2:環境生産革新
招待論文
環境視点からのものづくりの課題と今後の方向性
東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻
教授 梅田 靖
ものづくりと環境問題の関係について,EUでは資源循環ビジネスを大きく変革するプラットフォーマーの出現が予感される.この問題に対応し,製品ライフサイクルシステムを構築するためのライフサイクル設計,ライフサイクル・プランニングの考え方を述べる.
技術論文
超低鉄損軟磁性材を用いた高効率モータ
西川 幸男,小島 徹,瀬川 彰継,谷本 憲司,小川 登史,金城 賢治
ナノ結晶軟磁性薄帯をモータの固定子鉄心に応用することで,冷蔵庫用モータの効率を向上できた.筆者らは,このモータの製作工程の開発と駆動実証に成功した.製作工程は,溶融合金を急冷して薄帯にする工程,薄帯を鉄心材へ形状加工する工程,鉄心材をナノ結晶組織化するための熱処理工程,鉄心材の積層工程と,巻線工程からなっている.製作したモータの効率は,電磁鋼板品に比べ+3.1 %と大幅に向上する.これは,エネルギー損失である鉄損が60 %削減したためである.さらに圧縮機への搭載評価では,COP(成績係数)が+2.9 %の大幅な向上を示す.この開発されたモータにより,冷蔵庫の省エネルギーが可能になる.
キーワード / 軟磁性,ナノ結晶,薄帯,モータ,鉄心,冷蔵庫,圧縮機(コンプレッサー),省エネルギー
代表図
ケミカルヒートポンプ技術
小林 晋
発電所や工場から排出される産業排熱の有効利用を目的に,その高蓄熱密度や長期蓄熱性に着目して化学蓄熱技術開発を進めてきた.従来の水和物系ケミカルヒートポンプ(CHP)システムについては,放熱動作時に大容量の外部熱源が必要でシステム効率が悪いという課題があった.そこで外部熱源に代わって蓄熱した熱(蓄熱リザーブ)から供給する新システムを提案し,システム効率を改善すると同時に熱的負荷平準機能を実現した.このシステムの原理検証機を製作し,利用率78 %,回生率62 %の基本性能を確認し,実用化に対する見通しを得たので報告する.
キーワード / 未利用熱,化学蓄熱,水酸化マグネシウム,ケミカルヒートポンプ,熱負荷平準
代表図
気流制御を用いた混合樹脂の3種同時選別技術
濱田 真吾,山口 直志,宮坂 将稔,八田 健一郎,楠元 寛史,南田 幸廣
使用済み家電のリサイクル工程で発生する混合樹脂から近赤外線を利用し,臭素非含有の樹脂を高速・高精度に選別する技術の開発に取り組んできた.しかしながら,主要樹脂3種類(PP,PS,ABS)を選別するためには,1種選別を3回繰り返す必要があった.そこで筆者らは,一度の選別工程で3種を同時に選別する技術を開発した.樹脂を精度良く回収するためには,樹脂の飛翔(ひしょう)軌道のばらつきを抑制することが一番の課題であった.そのため,樹脂の飛翔軌道に沿ってコンベア速度と同じ風速の気流を発生させ,空気抵抗を相対的にゼロにすることで,樹脂の飛翔ばらつきを低減させることに成功し,高精度な3種同時選別を実現した.
キーワード / リサイクル,樹脂,選別,気流制御,近赤外線,射落とし,臭素含有樹脂
代表図
技術解説
電気パルスを用いた廃小型家電の高効率破砕技術
内海 省吾
電気パルス破砕とは,水中で高電圧放電を発生させ,放電経路周辺の液体を急速に気化膨張させて衝撃波を発生させるとともに,放電経路にプラズマを発生させることで,対象物を破壊する破砕方法である.本方式の有効性を確認するために,原理検証機の製作と回路基板からの電子部品の剝離検証を行ったので,本稿で報告する.
キーワード / パルス放電,電気パルス破砕,小型家電リサイクル,レアメタル,衝撃波,界面剝離
代表図
省エネ型微細ミストノズルと暑熱対策への応用
田端 大助,磯見 晃
暑熱対策に利用される一流体ノズルと比較し,高圧の圧縮空気を用いて水を微細化する二流体ノズルは,より微細なミストを生成できるため,工場内の加湿用途や除電対策などに使用されている.この二流体ノズルを暑熱対策として屋外で使用するため,低圧の圧縮空気を用いた場合でも,省エネかつ微細ミストを生成できるノズルを開発した.
キーワード / 暑熱対策,熱中症対策,ミスト,ノズル,二流体ノズル,省エネルギー
代表図
省エネ型植物工場システムの概要と活用事例
元山 恵太
植物工場の最大の課題は,生産コスト低減と生産する野菜の露地野菜との差別化である.筆者らは解析技術を応用し省エネ型の植物工場システムを開発し,このシステムを用いて栽培環境条件を適切に制御することで付加価値が高い野菜の量産にも成功したので解説する.
キーワード / 植物工場,省エネ,解析技術,高付加価値野菜,低カリウム野菜
代表図