パナソニック技報
【10月号】OCTOBER 2009 Vol.55 No.3の概要
特集1:モータ
モータ特集によせて
モータ社 モータ開発研究所 所長 村上 浩
招待論文
モータ技術の動向と展望
大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 森本 茂雄
技術論文
ACサーボシステムの技術開発
吉良 嘉洋,西園 勝,岡井 洋樹,田澤 徹
サーボシステムは,モーションコントロールの基幹デバイスとして,主に産業機器や生産設備に搭載されている。近年の産業分野のグローバルな発展に伴い,その需要は拡大傾向にあり,多様性も増している。当社では,これらのニーズに対応するため,サーボ製品の技術開発に取り組んできた。その成果として,開発機種では業界最高レベルとなる速度応答周波数2 kHzを実現した。さらに,リアルタイムオートチューニングや振動抑制フィルタといった制御技術の改善によりサーボ性能の向上を図ることができた。また,サーボモータにおいては,磁気回路を一新し小型化と低コギング化を実現するとともに高分解能エンコーダを新たに開発し搭載した。
洗濯機用デュアルロータ-DDモータ
森崎 昌彦,吉川 祐一,田代 裕一郎,李 虎
日本の洗濯機市場で伸張しているドラム式洗濯機において,ドラムを駆動するモータはダイレクトドライブ方式が主流であり,モータの性能が洗濯機の性能に大きく寄与する。洗濯機の更なる性能向上のため,近年モータには洗濯と脱水の相反する2ポイントのバランス設計と,小型化・静音化・高精度化の要求がますます高まっている。これらの要求に応えるべく,業界初のデュアルロータ構造のモータを開発した。これにより,従来のシングルロータ構造のモータに比べ,出力密度を1.5倍に向上させることで体積を40 %小型化し,コギングトルクとトルクリップルを大幅に低減させることで3 dBの低騒音化を実現した。
ブラシレスモータ用 低騒音高効率 正弦波駆動IC
杉浦 賢治,八十原 正浩
ブラシレスモータを低騒音で駆動する正弦波駆動に関して,正弦波波形の解像度と歪(ひずみ)の関係を検討し,騒音の原因である駆動電圧の歪を低解像度で効果的に抑える技術を開発した。また,高効率駆動の実現に重要な駆動電圧の位相制御に関して,グランド電流からモータ巻線電流位相を検出し,安価に駆動電圧位相を自動調節する技術,およびファン用途に特化した速度情報を用いて高効率を維持する位相調整技術を開発した。これらの技術をIC化し,従来の矩形波駆動モータと同等のコストで,5 dB~10 dBの低騒音,高効率ブラシレスモータの実現を可能にした。
技術解説
風量一定制御機能を内蔵した商用電源直接入力ブラシレスDCモータの開発
高田 昌亨,堀田 祐希
送風機に搭載する商用電源を直接入力できるブラシレスDCモータで,送風機の風量を検知するための特別なセンサや,マイコンを使用することなく,内蔵するコンバータの出力特性制御により,送風機の風量を一定に制御する技術を紹介する。本技術を換気扇に搭載することによって,外風圧や,接続されるダクトの長さの影響を受けることのない適正風量での換気が実現でき,快適な室内空気質を提供できる。
業務用空調向け回路一体型IPMモータの開発
河村 清美,横内 保行
小型・高効率化が求められる業務用空調ファンモータにおいて,埋込磁石型同期モータ(以下,IPM(InteriorPermanent Magnet Motor)と記す)の適用が検討されているが,IPM特有のトルクリップルに起因する騒音の課題があった。そこで,トルクリップルをロータ形状の最適化により低減することで,小型・高効率・低騒音のIPMを開発し,業界で初めて量産化を実現した。
軸固定方式を採用したレーザプリンタ用次世代ポリゴンミラースキャナモータ
角 正貴
レーザビームプリンタ(LBP : Laser Beam Printer)に搭載されるポリゴンミラースキャナモータの次世代型開発において,従来採用していた軸回転方式を軸固定方式に転換することにより,高速,長寿命化と低価格化を両立することに成功した。
特集2:生産技術
生産技術特集によせて
生産革新本部 生産技術研究所 所長 安平 宣夫
招待論文
ものづくり経営の今後
東京大学大学院経済学研究科 東京大学ものづくり経営研究センター
教授・センター長 藤本 隆宏
准教授・研究ディレクター 新宅 純二郎
立命館大学 経営学部 東京大学ものづくり経営研究センター
准教授・特任研究員 善本 哲夫
技術論文
ナノスケール半導体デバイスにおけるヴァーチャルメトロロジー技術を用いた最先端製造技術の実用化
今井 伸一,安田 哲
半導体デバイスに限らず工業製品の製造工程におけるインライン計測は,製品の品質確保のために必須であり,製造従事者にとって常識となっている。しかしながら,製品を全数計測することはコストの視点から不可能であり,コスト低減と品質向上を両立したモノづくりに革新する必要がある。
そこで,筆者らは,シリコン半導体デバイスの製造において製造装置のデータを利用して,ウェハ特性さらには電気特性まで予測するヴァーチャルメトロロジー技術を開発し,インライン計測のコストを付加せずに仮想的な全数計測による品質向上を,ナノスケールの半導体デバイスにおいて実証した。本技術は,製造工程の途中で特性を予測できるので,コスト低減だけでなく歩留まり向上を含めた,多くのメリットがある。
本論文では,半導体デバイス製造工程で最も重要なトランジスタ形成工程におけるゲート電極の閾値(しきいち)電圧を左右する,オフセットサイドウォール膜厚を成膜装置の変数によってナノレベルで予測し,さらに予測値を基に自動的に膜厚をフィードバック制御して,膜厚の工程能力指数Cpkが2.23の高品質の製造工程を実現した実例について紹介する。
微小部位の高速気流における可視化計測および数値計算を用いた吸着ノズルの最適設計手法
姫野 素志,仲道 正恭
電子部品実装機においては,実装品質保証のために微小部品吸着時姿勢の安定化が求められる。設計初期段階より吸着システムの最適設計を行うためには,吸着時の気流により部品上に作用する揚力を定量的に求めることが必要とされるが,吸着ノズル先端においては微小吸入口に高速気流が発生しており,この解析と計測は難易度が高いとされる。従来手法においては,吸着時の高速度撮影による定性解析と改善設計を繰り返す実証的手段により吸着姿勢の安定化を行ってきた。本稿では,数値解析による計算的手法および流体可視化による計測的手法を用い,微小領域かつ高速流速の条件下で両手法による解析とその結果対比を行い,吸着時における気流の最適条件を求めるための評価方法を確立する。
3D_machining によるマイクロプリズムアレイ金型の加工
高橋 正行,田代 功,和田 紀彦
著者らは,“3D_machining”ユニットによる加工技術を開発している。3D_machining ユニットは,直交する3軸の圧電素子の交点に工具を配置することで,3次元的に工具を高速駆動することができる。この3D_machining ユニットは,3軸制御可能なFast Tool Servo に加えて,振動切削との併用も可能な世界初の加工ユニットである。本技術をマイクロプリズムアレイ金型に適用し,加工時間従来比1/7(33時間)を実現した。
技術解説
植物由来樹脂成形
田端 大助,磯見 晃
植物由来樹脂であるポリ乳酸を,従来の石油系樹脂と同等に使いこなすため,射出成形時の流動解析に用いる粘度定数を簡便かつ精度良く求める手法と,成形する度に刻々と変わる金型温度・樹脂温度の経時変化を高精度かつ簡便にシミュレーションするための熱移動シミュレーターを開発し,植物由来樹脂の射出成形の技術基盤を構築した。
MEMS・LED高生産ドライエッチング技術の開発
鈴木 宏之,置田 尚吾
ウェハ基板上に微細加工を施すドライエッチング技術に関して,デバイスの高生産性を実現するにはデバイス材料を高速かつ高品質に加工することが望まれる。本稿では,デバイス材料の高速加工に有効な新開発の高密度プラズマ生成技術と基板冷却技術について解説し,TSV(Through-Silicon Via)工法を用いたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサや高輝度LED(Light Emitting Diode)などの新たな電子デバイス加工への適用事例について述べる。
微細回路形成印刷法
田中 哲矢
スクリーン印刷を用いた回路形成に関して,小型・高密度化したセラミックパッケージ部品の内部配線など,従来のギャップ印刷法では不可能であったライン&スペースが20 μm / 20 μm以下の微細回路形成を,密閉式加圧印刷方式を用いた充填プロセスと新しい機構を用いた版離れプロセスの開発により,コンタクト印刷法で可能にした。