助成を受けられた団体(環境)

環境分野・2010年に取り組んだ組織基盤強化事業 報告書(概要)

事業名

ライセンス・認証業務データベース構築事業

団体名

特定非営利活動法人 フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)

助成事業の概要

 1988年、フェアトレード基準を設定し、基準を遵守した製品にラベルを貼付することで、環境保護と生産者との公平な取引の保証を消費者に知らせるフェアトレード・ラベル運動がオランダでスタートした。1993年、日本でも、同ラベル運動の考え方が導入されたことを機に組織が発足、2004年に現在のフェアトレード・ラベル・ジャパンへと団体名称を変更した。以降、(1)フェアトレード認証製品を販売したい企業・団体に対するライセンス業務・製品認証業務、(2)認証製品取り扱い企業・団体への監査業務、(3)フェアトレードの普及啓発・教育広報活動などを実施してきたが、組織基盤に置いて下記のような課題を抱えていた。

◆ビジョン・ミッションといった組織の在り方や事業発展の戦略など、根本的な部分において組織の理事会と事務局間での共有が不十分であり、事業を発展させていく上での指針を欠いていた。

◆フェアトレードの認知や市場の拡大を目指す上では認証ラベルへの信頼性確保が欠かせず、監査体制やFLO-CERT(フェアトレード認証機関、本部ドイツ)との連携をさらに強化しなければいけないが、組織の長期的な方向性が定まらず、なかなか着手できずにいた。

◆慢性的な財源不足とマンパワー不足により、事業拡大に不可欠な組織基盤の整備に投資できず、社会のフェアトレードの認知促進に伴って急増するライセンス業務の円滑な遂行が困難であった。

 そこで、本事業では、外部アドバイザーによるコンサルティングを受けながら、理事会での協議を重ね、組織の中長期ビジョンの策定、およびフェアトレード市場拡大のための戦略を立てた。また、認証ラベルへの信頼性を高め市場を拡大させていくために、FLO-CERTと連携しながら監査人増員と育成に取り組み、監査体制の強化を図った。さらに、顧客管理システムを導入し、既存顧客(フェアトレード登録企業・団体)ならびに見込み顧客のデータをシステム管理することで、業務の効率化を図って市場拡大に備えるとともに、これまでマンパワー不足で不十分だった広報や普及啓発・教育事業など、フェアトレード発展のための事業にも取り組める体制を整えた。

助成事業の取り組みで得られた成果

(1) 【2015年中期目標と戦略の策定】

組織運営の根幹となるビジョン・ミッションを改めて理事会と事務局とで確認・共有し、同じベクトルを向くことができたことで、今後5年間のありたい姿、そこに向かうための戦略と目標を明確に定めることができた。フェアトレードの拡大・深化・強化を戦略に据え、市民社会、企業、行政へのフェアトレードの浸透を目指していく。中期目標と方向性が定まったことにより、各種事業への組織としての関わり方が明確になり、事務局が機動的に動けるようになった。

(2) 【ステークホルダーとの連携強化】

フェアトレード認証製品の取り扱い企業一同と頻繁に会合を持ったことで、「協働」の重要性が認識されるようになり、企業8社からなる企画サポート委員会が2010年9月に結成された。企業間を超え、ステークホルダー(企業、学生、消費者など)が一体となってフェアトレードを推進していくため、日本社会にフェアトレードを根付かせるための方策を話し合う会議を月1回程度開催している。具体的な成果としては、企画サポート委員会メンバー8社と当団体の協働イベントの開催が決定している。企業も、ただ単にフェアトレード認証製品を販売するだけでなく、市民社会を動かす主体者として、普及啓発事業にも積極的に取り組む姿勢に変わってきている。

(3) 【監査体制の強化】

FLO-CERT管轄下にあるフェアトレード認証原料の輸入業者への監査は、これまで海外から派遣されてくるFLO-CERT監査人(外国人)によって行われており、距離的な問題から監査日程に柔軟性がなく(一度の来日で複数社の監査日程を組むため、どうしても日程が限定されていた)、監査を受ける業者側にとって不便であった。日本人の監査人を配置できたことで、監査日程を適宜組めるようになっただけでなく、言語やコミュニケーションの障害も解消され、今後FLJが仲介役として割く時間とコストの削減が見込まれる。日本企業側の負担も軽減されたため(言語や日程調整など)、日本人監査人が本格稼働する2011年度からは、新規企業からの申請数の増加が期待できる。また、FLO-CERTと連携して監査人育成プログラムを実施したことで、FLJの監査レベルを世界基準に適合させていく体制が整い、信頼性の向上が期待できる。

(4) 【顧客管理システム導入による業務の効率化】

CRM顧客管理システムの導入によって、これまでマニュアル作業で複数のエクセルファイルで管理していた顧客情報を一元管理できるようになり、業務が大幅に効率化した。また、データの誤削除や誤送信といったリスクも解消され、セキュリティの高いデータ管理が実現した。加えて、現在の登録企業・団体のカテゴリーごとの数の把握や、売上状況などのグラフ作成も可能となり、今後、市場拡大のための戦略を立てる上でも有効なツールになっていく。

助成事業の総合評価

 理事会・事務局が1年かけて何度も議論を重ね、組織の在り方や、将来のフェアトレードのあるべき姿など、中長期的ビジョンを改めて確認できたことで、組織の根幹に関わる重要な方向性を理事会・事務局で合意することができ、今後、組織を発展させていくための大きな財産を得ることができたと感じている。理事会と事務局のチームワークも格段に良くなり、日々発生する認証関連の案件に対しても、迅速かつ的確な判断が可能になった。組織の方向性が定まったことにより、事務局も動きやすくなり、その結果として、さまざまな新しい取組みにも自信を持って積極的に参画できるようになった。

今後の展望について

 今後の目標がはっきりと定まり、取り組むべきことが明確にはなったが、財政や人的キャパシティが改善されたわけではないため、今後いかに目標達成に向けて、資金とマンパワーを効率よく活用していくかが求められる。参加企業数や製品数の急増に伴う事務作業量を軽減するための方策や、本助成事業で導入した顧客管理システムのさらなる運用によって、事業の効率化を図りたい。また、パンフレットやウェブサイト等を通して、組織のビジョン・ミッションや中期目標を積極的に発信し、支持者の拡大を目指していく。そして、企業との協働体制が構築されたため、フェアトレードの認知度向上と社会への浸透を目指してフェアトレード普及推進キャンペーンやイベントを展開していく予定である。

事務局より

 本事業で中期戦略の策定に取り組んだ結果、これまで当団体の長年の活動や社会が蓄積してきたフェアトレード運動の経験をもとに、団体の目指す「理想の社会」について合意できたようです。ただし、中期計画通りに活動を推進することが重要なのではなく、都度、ビジョンに対する事業の成果検証を繰り返し、事業計画の見直しを図れるようになることや、中期戦略をもとに賛同者を拡大したり、消費者の行動を変えていけるようになることが重要です。それがなければ、中期計画は窮屈でしかない単なる“予定表”と化してしまいます。また、監査体制と顧客管理システムの基礎も構築できたことから、フェアトレード普及キャンペーンや企業営業などもこれまで以上に積極的に行動できるようになるでしょう。賛同者の拡大から事業規模と社会的影響力の拡大へ、消費者の拡大から社会の意識醸成と資金源の拡大へとつなげ、安定した組織運営のもとフェアトレード運動の牽引役を担っていただけることを期待しております。