国・道・市・民間の中間支援組織が大連携

今回の助成事業の幹事団体となった「認定NPO法人北海道市民環境ネットワーク(通称きたネット)」は札幌市に拠点を置く、環境系の中間支援組織です。北海道の環境保全に取り組む市民団体や、それを支援する企業・個人をネットワークで結ぶ事務局としての機能を果たすほか、このネットワークを活用した市民への情報提供や活動支援、全道でいっせいに行う「ラブアース・クリーンアップin北海道」などの自主的な環境保全活動にも力を注いでいます。これらの活動は、55団体と企業・個人から成る会員によって支えられています。
今回は、北海道の環境中間支援組織4団体がコンソーシアムで取り組んだ組織基盤強化事例をご紹介します。

札幌市を拠点に活動する4つの中間支援組織

きたネットは2002年に任意団体「北海道市民環境ネットワーク」として設立後、2007年にNPO法人となり、2012年には認定NPO法人として認可されました。
北海道の人口のおよそ3分の1が集中する札幌市には、このほかにもいくつかの環境系中間支援組織が拠点を置いています。
たとえば、1997年に北海道が出資して設立し、2012年から公益財団法人となった「公益財団法人 北海道環境財団」があります。札幌駅に近い「北海道環境サポートセンター」を拠点に、市民の環境保全活動促進や環境学習の機会創出、地球温暖化対策や釧路の自然再生などに取り組んでいます。
また2003年には、展示などを通して市民が環境問題について考える機会を提供している札幌市の施設「札幌市環境プラザ」が開設されました。
そして2006年には、市民と企業、行政のパートナーシップを図り、地域の持続可能な環境保全活動を促進する「環境省北海道パートナーシップオフィス(通称EPO北海道)」が設立されました。

官民の連携に立ちはだかる予算の壁

きたネット事務局の宮本尚さんによれば、「もともと4団体の間には、情報交換をしたり事業の上で協力したりといった交流関係はあった」といいます。と同時に、4団体は「広大な北海道の多様な課題に取り組んでいくには、どうすればよいか」という共通の課題も抱えていました。

北海道環境財団の協働推進課長兼情報・調査課長を務める内山到さんによれば、市民からは「各団体の違いがわかりにくい」「業務の中には重複している部分もあるのではないか」といった声も寄せられていたそうです。

そこで2008年、4団体は役割分担を明確にし、連携を深めるために、パートナーシップ組織「環境中間支援会議・北海道」を立ち上げました。
しかし、国・道・市・民間の組織で構成するコンソーシアムの試みは困難を極めました。
たとえば行事や公募に関する情報はそれまで、各団体がそれぞれのWEBサイトにて公開していました。そのため、情報を掲載してほしい市民団体は各団体に別々に送らなければならず、イベントに参加したい市民もあちこちのWEBサイトをいちいちチェックしなければなりませんでした。

内山さんによれば、そこで『E☆day Hokkaido』というイベントカレンダーへの統合を図ったのですが、公的機関を含む4団体協働とあっては予算を組むのも難しく、無料のWEBカレンダーのサービスを利用して、手弁当でやったそうです。しかし無料のシステムでは、情報量やカテゴリーの多さに対応できず、使い勝手の悪いものになってしまいました。

(右)きたネット常務理事・事務局 宮本尚さん
(左)北海道環境財団 協働推進課長兼情報
調査課長 内山到さん

●助成事業の取り組み

ワークショップで明らかになった強みと役割分担

このような経験から、4団体は「必要な予算を確保し、各団体がきちんと向き合って取り組んでいく認識を共有するためには、外部から客観的な視点をもつナビゲーターを迎え、約束事や期限を決めて、腰を据えて取り組む必要があるのではないか」と考えるようになりました。
そして2009年、「北海道における環境市民活動の活性化に貢献すべく、4団体の役割分担をはっきりさせ、一体感をもった活動をスタートさせること」を目的に、Panasonic NPOサポート ファンドの「コンソーシアム助成」を受けることとなりました。
まず取り組んだのは4団体のうち、どの団体がどの分野に強いのか、あるいは弱いのかを明確にするワークショップです。

ワークショップは、環境保全や地域づくりの分野で協働コーディネートの実績が豊富な「外部ファシリテーター」を進行役として迎え、4団体から2、3人ずつが参加する形で行われました。
「大きな紙に、森づくり、生物多様性、化学物質……といったカテゴリーを書き出して、それぞれの団体が何を得手・不得手としているか、手がつけられていない課題は何かを明らかにし、連携や役割分担のアイディアを出し合いました」
これにより、「外部から問い合わせが来たときも、より専門性の高い団体を紹介できるようになりました。その分の空いた時間や力は、得意分野に効率よく回すことができるようになりました」と、宮本さんはいいます。

ワークショップの様子

サービスやイベントが一望できるポータルサイトの誕生

ワークショップで役割分担を明確にした4団体はさらに、それぞれが提供しているサービスを一望できるポータルサイト「環境☆ナビ北海道」を立ち上げました。
当サイトでは、北海道の環境活動情報をエリア別、ニーズ別、環境テーマ別に検索できるほか、使い勝手や見やすさを考えて新たに整備された共用カレンダー「E☆day Hokkaido」で、環境イベント情報を1度に見ることができます。

サイトを見た人々からは、「どうして、こんなに多くの情報が集まるのか」「成り立ちの違う中間支援組織が、どのようにしたら連携できるのか」といった声が、各方面から寄せられました。
これまでは、週末に行われるイベントの内容がバッティングすることも多かったのですが、サイトを立ち上げてからは、4団体の事業計画を前もって説明し合うようになりました。
その結果、「同じ内容なら1つの団体にイベントを任せたり、共同で開催したりすることができるようになり、主催者にとっても効率がよく、参加者も迷わずに済むようになりました」と、内山さんはいいます。

4団体で始まった「環境☆ナビ北海道」には、「釧路市民活動センターわっと」「旭川市市民活動交流センターCoCoDe」という2つの中間支援組織も情報を提供してくれています。

大学との連携で人材育成に貢献

中間支援組織4団体で構成されたコンソーシアムには、新たに北海道大学大学院環境科学院も加わりました。かねてより「理論や知識を身につけただけでは、現場で発揮できる実践力が育たない」という大学側の悩みを耳にしており、一方で市民団体等の高齢化・世代間のコミュニケーションギャップを懸念していた宮本さんらは、「社会の諸問題が複雑化していく中で、環境分野も例外でなく分野を横断して課題を解決できる人材を育成していかなければならない。私たちを通して若い人の人材育成と世代間交流に貢献できれば」との思いで、連携を呼びかけました。

「具体的には学生のインターン先を探したり、どのような人材が求められているかといった情報を提供したりしながら、“地域と大学をつなぐプラットフォーム”を目指しています」

北海道大学大学院環境科学院との
連携協定調印式

●助成事業の成果・今後の展望

助成終了後も続いている4団体の協働事業

連携は助成が終わった後も、さらなる広がりを見せています。
たとえば昨年は、4団体それぞれが推薦する北海道の環境分野におけるキーパーソンにインタビューを実施し、環境の変化についてまとめた『もうひとつの北海道環境白書』という本を協働で出しました。現在は2巻目の発行を目指し、製作に取り組んでいます。

「ワークショップのおかげで、自分には、どんな専門性が欠けているのか気づくことができました。今後は白書のインタビューなどを通して、いろいろな方の話を聞くことで知識を深めたり、データから何を読み解けばいいのか学んだりすることで、スタッフ全体のスキルアップにつなげていきたい」と、内山さんは話してくださいました。

また、きたネットでは年に1度、「北海道環境活動交流フォーラム」を開催していますが、国連が提唱する「国際森林年」でもあった2011年は、「環境中間支援会議・北海道」の4団体が共催する形で、「森からはじめるエネルギーシフト」と題する分科会を開きました。

「北海道環境白書」インタビューの様子

2011年の「北海道環境活動交流フォーラム」分科会

全国への波及が期待されるコンソーシアムの取り組み

コンソーシアムの成果は8ページのリーフレットにまとめられ、各地の中間支援組織に送付されました。さらに、道外で行われる行事や会議などの場を活用しては取り組みの内容を周知・広報することで、全国への波及を目指しています。各地でも関心が高く、「ぜひやってみたい」という声があがっているそうです。

最後に、これまでの歩みを振り返り、宮本さんはコンソーシアム最大の成果を次のように語ってくださいました。
「現在、協働で運営しているサイト『環境☆ナビ北海道』の維持費は、4団体が年間6万円ずつを負担しています。官民の団体が、平等に予算を分担して事業を進めるというのは非常に珍しい例だと思います。『環境中間支援会議・北海道』の連携の推進が、4団体の事業計画にきちんと明記されたことで、担当者や指定管理者が変わっても、継続して事業を進めることが保障されたのも大きな進歩です。何よりも、4団体が強みを活かして連携していることを市民の皆さんに、きちんとお見せできるようになったことが最大の成果だと思っています」