子ども分野 2019年募集継続助成 選考委員長総評

応募状況と選考プロセス

2019年度の子ども分野は継続助成のみ募集し、応募総数は、継続助成2年目が1件、同3年目が5件の計6件でした。
継続助成の場合、新規助成の段階で応募要件を既にクリアしているため、予備選考は実施せず、選考委員5名による本選考のみ行われました。すべての応募書類と報告書に各選考委員が目を通し、書類審査を行った上で、10月3日(木)に選考委員会を開催して、各委員の評価をもとに3時間かけて審議を行いました。

本ファンドの選考は今回が最終年度でもあり、全ての団体を助成することも検討しましたが、応募団体の立場に立てば、あまりに減額されると何も実施することが出来なくなるというジレンマを抱えることにもなると考え、2〜3団体の枠を目安に選考を行いました。
どの団体も成果報告会などで経緯をよく知った団体でしたので、成果と課題が良く理解できた中での審査となりました。結果、6団体の内3団体を採択し、計350万円の助成を決定しました。採択された団体の推薦理由は別途掲載していますのでご一読いただければ幸いです。以下、選考を通して感じたことを述べさせていただきたいと思います。

継続助成の選考ポイント

継続助成の場合、これまでの取り組みを踏まえて次のステップが明確になっているかが選考のポイントとなります。今回の選考では、これまでの積み重ねが見えにくい、又はテンポが少々遅れていると思われる団体やこれまでとは異なる新たな課題が出てきたという団体もありました。その中で、一つ一つの取り組みを丁寧に積み上げ、着実に成果を残してきた団体を助成することになりました。いずれの団体も今後の取り組みに期待したいと思います。
今回の応募団体の中には、最初の助成が5年前に遡る団体もあります。社会の変化が激しい中、子どもの問題を取り巻く環境は、5年の月日の中で法律や制度が著しく変わるなど様々に変化します。組織基盤強化に取り組みながら、こうした変化を確実に捉え、対応していくことが求められます。継続助成の選考では、社会変化への対応という視点も必要だという発見がありました。常に現状を把握し分析しながら進路が定められる組織であって欲しいと願います。

子どもNPOの果たすべき役割とは

この選考に長い間関わり、常に考えてきたことは、子どもNPOの組織基盤強化とは何か、どうあるべきなのかということです。言うまでもなく組織基盤の根本は、組織のミッションであり、ミッションが誰にでも理解し得る表現で言語化していることが大切です。この根本を押さえながら、中長期計画や人材育成、財政基盤の確立に取り組むことになります。
NPO法が施行された当初は、とにかく夢や願いを叶える事業の実施がその組織の力量と思われていましたが、その後、事業という大きな荷積をしっかりと乗せることができる組織の安定化が必須となり、組織基盤強化が重視されるようになったと認識しています。そのため、企業などと同じく、しっかりと社会的にも対応できる組織の整備、財政基盤、人的基盤を固めることに力点が置かれました。ソーシャルビジネスという言葉が広がり、NPOとの違いが分かり難くなった時期もあったように思います。子どもNPOの場合、子どもたちの豊かな成長を願い、様々な体験を提供するという点において、学習塾などの教育産業や企業、ソーシャルビジネスとどのように違うのか、私たち自身がこれをなかなか整理し切れなかったように思います。

一番の大きな違いは、単に子どもたちに向けた事業を非営利で展開するだけでなく、子どもたちのために環境を整備していこうとする「市民」の集まりであるということです。NPO法の制定に向けて、「市民社会の到来」という言葉が使われたように、子どもたちのために市民が集まって事業を展開し、それを通して子どもたちのための社会制度を新しく作っていくということだったはずです。
NPO法ができて20年以上になります。子どもNPOは、子どもに関わる法整備にどんな役割を果たしてきたのでしょう。日本社会で真に子どもが大切にされるためには、文科省と厚生労働省に分かれた子ども政策ではなく、子ども条例や子ども文化基本法など、総合的に子どものことを考え保障できる社会制度がどうしても必要なはずです。フリースクールの方々の力で法制化された教育機会確保法のように、もっともっとこうした動きを作っていく必要があります。子どもNPOは、視野を大きく持ち、学び、子どもにやさしい社会を目指していくことが求められているのだということを痛切に感じます。

選考委員としての学び

自分の経験値を基準に実践してきた私が、選考委員に加わったのは2012年のことでした。それまで思いだけで突っ走っていた私が、本で読んだことのある程度の知識だった、組織診断・中長期計画・PDCAサイクルなど、組織を客観的に分析して整理し、組織基盤強化に取り組む子どもNPOの選考に関わることは、未知の世界での挑戦であり、全てが学ぶことばかりでした。
2014年に選考委員長にと、ご推薦をいただいた時は本当に驚きで、受けられるはずがないと心底思いましたが、子どもNPOの選考には「ぶれない子ども観が必要」という言葉に心が動き、選考委員長をお引き受けし、選考委員も含め8年間も継続して関わらせていただいたことは、大変光栄でした。
あるスポーツチームの監督が、連敗でくじけそうになった時に必要なのは、「こういうチームでありたいという自分たちの目指す姿を見失わないこと」と言っていました。企業であれ、NPOであれ、どういう集団であれ、大切にしなければならないことは、ぶれずに真摯にミッションに向かうことだということを、組織基盤強化の選考を通じて体の髄まで染み込みました。

パナソニックの皆様、市民社会創造ファンドの皆様、そして全国から応募された沢山の団体の方々から学ぶことの多い8年間でした。改めてこの場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

子ども分野選考委員長
森本 真也子

<選考委員>

★選考委員長

森本 真也子

特定非営利活動法人 子どもと文化全国フォーラム 代表理事 ★
特定非営利活動法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事

関 尚士

公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会 地球市民事業課 課長

中村 国生

特定非営利活動法人 東京シューレ 事務局長

林 大介

子どもの権利条約ネットワーク 事務局長 ・ 首都大学東京 特任准教授

乾 とし子

パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化部 CSR・企画推進課 課長