パナソニックグループでは、あかりや電気がないことで貧困から抜け出せない無電化地域に“あかり”を届ける「無電化地域の未来を照らすプロジェクト~LIGHT UP THE FUTURE~」に取り組んでいます。

2024年11月、私たちは国際協力機構(JICA)と協働し、ケニアのカジアド県オリニエ村の女性たちにソーラーランタン100台を寄贈しました。今回の寄贈はJICAが2023年よりこの地域で展開している、ジェンダーに基づく暴力(GBV:Gender-Based Violence)(*) の予防と撤廃に向けた取組の一環として行われました。ソーラーランタンが女性たちの夜間や暗がりでの移動や活動を安全にし、学習や経済活動、GBVの撤廃に向けた取り組みを強力にサポートします。

私たちとJICAは、この取り組みを通して女性たちの知識や自信を育み、経済的な自立を促すことでGBV撤廃に少しでも繋がることを願っています。ソーラーランタンの寄贈はその一助にすぎませんが、この活動が今後どれほどGBVの撤廃に向けた大きなインパクトにつながるのか、しっかり見届けていく必要があると感じています。

*ジェンダーに基づく暴力(Gender-Based Violence : GVB)
「女らしさ」や「男らしさ」といった、社会文化的に構築された固定的な性役割や性規範、不平等な力関係を背景にして振るわれる暴力を指す。ドメスティック・バイオレンスや性暴力のほか、児童婚や女性性器切除、オンラインでのセクシュアル・ハラスメント、性的搾取を目的にした人身取引などが含まれる。GBV被害による世界経済のダメージや損失は、医療や法的費用の増加、女性の労働生産性の低下などを含めると国のGDPの1.2%から3.7%に相当するとも試算されている(World Bank, 2018 Gender-Based Violence)

箱をあけてソーラーランタンを手に取る女性たち

皆さんは、毎年11月25日が「女性に対する暴力撤廃の国際デー」であることをご存知でしょうか。世界の関心の目がGBVに向けられたこの日、私たちもGBVの被害を受けてきた女性たちに直接出会い、その「心の機微」に触れ、感情を大きく揺さぶられる体験をしました。その様子をお伝えします。

GBVに苦しむ女性たちと、JICAのプロジェクト

JICAの久保田真紀子さん(左)と、ソーラーランタンを受け取る女性

ケニアではドメスティック・バイオレンスや、性暴力、そして児童婚など様々な形態のジェンダーに基づく暴力が蔓延しています。2022年のケニア人口保健調査によれば、15歳以上の女性の約43 %が、家庭内や親密なパートナーによる暴力被害に遭った経験がありました。また、このオリニエ村のように、家父長制に基づく伝統的な慣習や文化が根強い地域も多く、性別による厳密な役割定義をもとに、女性が社会や家庭内での意思決定プロセスから排除され、教育や雇用の機会を制限されてしまうケースも多く存在しています。

家事に時間がかかると、家族やパートナーから暴力を受ける。また、夜遅くに市場から帰宅する途中や、薪拾いや水汲みに行く途中にも性的暴力に遭う。そして家には「あかり」がないので、女性が家事や経済活動を効果的に行うことをさらに困難にさせ、自立の機会も失われてしまう。女性は男性に経済的に依存している状況も、虐待的な関係を助長させている要因ともいえます。

GBVの現状を語る久保田さん(左)

このような状況下でJICAは「GBVのないスマートビレッジ」をつくるための取り組みを行っています。例えば、成人識字プログラムや収入創出活動、自己認識と幸福(*)に関する知識を共有できる場づくりなどを通じて、女性がGBVに対処するための「主体性」を高めることを支援しています。同時に男性参加の活動も実施し、男女共に、「GBVがなぜ、いけないのか」を伝え、認識を変えていく取り組みを実施しています。

*自己認識と幸福: 自己を理解し、自分の状態や心身の健康を意識することが重要であるという概念

JICAでこのプロジェクトを推進している久保田真紀子さんは言います。

「女性は暴力を受けて苦しいはずなのに、『助けて』の一言すら声に出せませんでした。男性もなぜ暴力がいけないのかを理解できない。それが彼らの常識でした。この意識を変えるために、まずは女性に対し、『GBVは地域や社会全体の問題であること』、『助けを求めるのは恥ずかしいことではないこと』を地道に伝えてきました。このおかげで、今では“それは暴力だ”と女性が男性に伝えることもできるようになりました。また、女性たちがGBVについて共に語りあうことができるようにもなりました。」

ケニア行政機関(左)や県政府のジェンダー局(中央)と連携し、JICAの久保田さん(右)がプロジェクトの様々な取組に奔走します

このプロジェクトの大きな取り組みの1つに、「成人識字プログラム」があります。

「プロジェクトの開始に際しては、GBVを撤廃し、女性も一人の人間として尊厳をもって生きていくためにはどのような行動や取り組みが必要なのかを、村の女性たちとじっくり話し合いました。すると女性たちからは、“字を学びたい!”という声がでてきたのです。これをきっかけに始めたのがこの『成人識字プログラム』です」(久保田さん)

このプログラムは、JICAがカジアド県政府をサポートして実施しているものです。カジアド県政府が教員を確保し、JICAは教科書の購入を支援して「成人識字プログラム」がスタートしました。現在約50人の女性たちが日々、学んでいます。

識字プログラムに参加の女性が、自分の名前を書いて見せてくれました

このプロジェクトは、GBVの撤廃に向けた女性たちのネットワークや連帯強化を意識して取り組みを進めています。日本でも近年、さまざまな地域で人と人のつながりが希薄になっていると感じることがありますが、オリニエ村でも、そもそも住民同士が同じ目的を達成するために、互いに協力し合うことが少なかったと久保田さんは言います。オリニエ村の住民はマサイ族で、もともと遊牧民であることが背景にあるのかもしれません。

その女性たちを引き合わせ、女性たちのネットワークづくりをJICAは後押ししました。お互いの苦境を話し、共感しあう。それだけでも女性たちにとっては大きな変化であり、前進することにつながるのです。これまで自分たちが暴力を受けていたことを周囲の人に話すことは決してなかった彼女たちは、大きな心の支えを得ることとなりました。

今このネットワークでは「貯蓄活動」にも励んでおり、共同してお金を貯め、今年はAさんの子どもの進学に、来年はBさんの子どものためにと、相互協力体制を築いています。

他にも、女性たちが共に野菜づくりをはじめるなど、生計向上に向けた様々な取り組みが広がっています。

「友達に会うのが楽しみになった」とある女性はいいます

パナソニックのソーラーランタンが役にたつこと

パナソニックのソーラーランタンは、GBVのないスマートビレッジをつくるこの取り組みに活用されます。例えば「成人識字プログラム」では、女性たちは日中、家事や家畜の世話など、作業に追われる中、識字教室に通いますが、これでは勉強時間が足りません。しかしランタンがあれば、夜間も家でノートを広げ、学習ができるようになります。

あかりの元、識字教室のノートを広げる女性たち

商店を営む女性は、暗くなる前に店を閉め帰宅していましたが、あかりのお陰で「夜まで営業できるようになり、収入を増やすことができる」と喜びます。

自分の商店にソーラーランタンを取り付ける女性

夜間に水汲みにいかねばならない女性は、安全を確保することができます。また、「あかり」がないがゆえに、決まった時間に家事を終わらせないことで夫から暴力を受けていましたが、これからは時間にゆとりを持つことができます。

足元を照らし、夜の移動を安全にします

ソーラーランタンは、村の女性のエンパワメントを加速させ、GBV撤廃に向けた取組を強化していくものとして期待されます。

5人のお子さんを持つ女性(左)へのインタビュー。マサイ語 – 英語の通訳をしてくれたのは村の女性リーダーです(中央)

5人の子どもを持つ女性は語ります。

「これまで夫の暴力は日常茶飯事でしたが、今はJICAや県政府による夫へのトレーニングにより、夫は自分の行動が間違えていたことを理解してくれました。家は貧しく、ときに子どもたちの食事にも困ることもありますが、ソーラーランタンで夜でもビーズ織の仕事を増やすことができるようになります。子どもたちも充分な勉強時間を確保できるようになるので、とても嬉しい」

ソーラーランタンの寄贈式で聞いた「心の声」

ソーラーランタン寄贈の日、女性たちはその喜びを歌に表現してくれました。

オリジナルの歌をうたう女性たち。拍をとる度に、首元のビーズが音をならして揺れます

ある女性がいいます。

「ソーラーランタンを手にして、私たちは、自分たちが”something”(何か)に、値する存在であることを感じることができました。人生のステージが1段階あがった、そんな気持ちになりました」

自分たちが「何かに値する存在」になれた気がする——。

私たちはこの言葉にとても感情を動かされました。女性たちは、寄贈式で見せてくれた満面の笑みの裏で、過酷な環境に身を置いてきた過去があります。暴力が日常にあふれ、家父長制に基づく伝統的な慣習や文化、性別による厳密な役割定義の中で、これまで自分の人生の意思決定プロセスすらも持てず、「自分たちには価値がない」と思い込み、過ごしてきたのです。そうした女性たちの存在にハイライトし、ソーラーランタンの寄贈を通じてエンパワメントを後押ししたことで、女性たちが「自分たちが "Something (何か) "=価値ある一人の人間に値する気持ちになれた」と話してくれた言葉が私の心に刺さりました。

私たちはこの小さなあかりが、女性たちのエンパワメントに大きく貢献することを祈っています。

私たちを受け入れてくださった協働パートナーのJICA、そしてケニア行政機関、県政府に改めて感謝を申し上げ、ソーラーランタンがこれからも、可能性に満ちた明るい未来を照らし続けられるよう活動していきたいと思います。

LIGHT UP THE FUTURE 関連活動