パナソニック技報
【7月号】JULY 2010 Vol.56 No.2の概要
特集1:創・蓄・省エネルギー技術
創・蓄・省エネルギー技術特集によせて
役員 上野山 雄
招待論文
次世代燃料電池用の革新的材料の研究開発
山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター
センター長・教授 渡辺 政廣
技術論文
燃料電池用燃料処理器に搭載するCu系変成触媒の実用化
藤原 誠二,可児 幸宗,向井 裕二,前西 晃,脇田 英延
家庭用燃料電池コージェネレーションシステムは,H2とO2の化学反応により発電し,その際に発生する排熱を利用して給湯するシステムであり,CO2排出量削減と効率的な資源利用を可能とする。燃料処理器は燃料電池へH2を供給するためのデバイスであり,H2を生成する改質触媒以外に,COを低減するための変成触媒,選択酸化触媒が搭載されている。このうち変成触媒は,工業的には卑金属系のCu系触媒が用いられるが,還元状態に保つ必要があり,一定の還元状態の保持が困難な起動停止運転では劣化することがあった。筆者らは,頻繁な起動停止が想定される家庭用機器に安価なCu系触媒を搭載するために,起動停止運転にかかわる劣化要因の解明を行い,劣化を抑制する起動停止方法を開発した。この結果,Cu系触媒を搭載した燃料処理器においても,10年間毎日起動停止ができる4000回の運転を実現可能とした。
高耐久・高容量ニッケル系リチウムイオン電池、および環境エネルギー分野向けリチウムイオン電池モジュール
山本 典博,名倉 健祐,湯淺 真一,黒崎 敏彦
これまでリチウムイオン電池の正極材料としてコバルト酸リチウムが主に用いられてきたが,電池に占める正極材料の充填量が既にほぼ理論的な上限に達しており,さらなる高容量化が困難な状況にある。そこで,同じ作動電圧(3.0 V~4.2 V)での重量あたり容量が,コバルト酸リチウムと比較して30 %高いニッケル系正極を開発・実用化することにより,2006年に業界最高容量2.9 Ahの円筒形電池を商品化,さらに2009年には電池設計の最適化により充填量を増やし高容量化した3.1 Ahの電池を商品化した。
また,これら電池を用いた電池モジュールを開発することにより,小型機器から,中・大型機器まで幅広い用途に使用可能な電池電源を提供することが可能となった。
電動フォークリフト用EV鉛蓄電池
菊地 智哉,室地 晴美,吉原 靖之
フォークリフト市場では,環境規制の強化によりエンジン車代替として電動化が強く望まれている。しかし,従来電動車は,「液式鉛蓄電池」を主電源としているため,長時間充電と,硫酸鉛の蓄積などの特有の劣化要因で,連続稼働が困難であった。加えて,電池性能と安全性の維持には必須である頻繁な補液作業も,その煩わしさと,溢液による環境圧迫で,作業現場の電動化志向を抑制していた。そこで,(1)業界初補水不要,(2)稼働時間延長を実現する急速充電性能,(3)リフレッシュ充電による長寿命化を有し,24時間稼動が可能な電動フォークリフト用EV(Electric Vehicle)鉛蓄電池を開発・商品化した。
CO2ヒートポンプ給湯機の省エネ技術開発
安藤 智朗,町田 和彦,今川 常子,山本 照夫
CO2ヒートポンプ給湯機の省エネを目的として,水冷媒熱交換器の高効率化技術開発とシステム効率シミュレーション技術開発を行った。水冷媒熱交換器開発では,冷媒管のツイスト化および表面へのディンプル加工により,水側熱伝達率に従来比約2倍を実現した。システム効率シミュレーション技術開発では,熱伝導抵抗値に対流の影響を加味した熱回路網モデルとヒートポンプユニットの動作特性式を用いて,年間システム効率の高速かつ高精度予測計算(計算時間約10分で実測との誤差約2 %以内)が可能になった。
エアコンの省エネ要素技術開発
山本 憲昭,森川 智貴,長谷川 博基,河野 裕介,藤田 直人,弓塲 大輔
地球環境の保護,温暖化防止の観点から,家電製品の省エネルギー性能の向上が求められている。そこで,高効率要素技術(熱交換器,圧縮機,圧縮機駆動制御)および,高性能室内・室外機を開発し,APF(AnnualPerformance Factor:通年エネルギー消費効率)で業界トップクラスの省エネを達成した。さらに,焦電型赤外線センサにより人位置・活動量を検出する「人感センサシステム」,超音波センサにより部屋の間取り・家具の配置を認識する「間取りセンサシステム」,居住空間の日射を検出する日射センサを開発・搭載することで,人位置・活動量・部屋の間取り・日射量まで考慮する「エコナビ」機能搭載エアコンを開発し,人や部屋の状態に合わせた空調で,「エコナビ」機能なしと比較して省エネ最大70 %を実現した。
エコナビ,Wジェットシャワーとヒートポンプ乾燥方式によるドラム式洗濯乾燥機の省エネ性能の向上
安井 利彦,内山 亘,菊川 智之,縄間 潤一,堀部 泰之,村尾 剛
ドラム式洗濯乾燥機において,泥汚れセンサと汗汚れセンサの2種の汚れセンサを用いることにより,目に見えない汚れまでも検知して洗濯物のすべての汚れ量を精度よく検知することで,洗濯物の汚れ量が少ないと判断した場合には水量を節約し洗濯時間を短縮する制御を行う,洗濯機の「エコナビ」機能を開発した。「エコナビ」機能を搭載したドラム式洗濯乾燥機では,とくに汚れ量が少ない場合には,最大で10 %省エネ,7 %節水,15 %時短を実現した。
また,ヒートポンプ方式の乾燥技術や洗浄技術の進化による基本性能の向上によって,省エネ効果のいっそうの向上を行った。
ランプ寿命推定法を用いた長寿命蛍光ランプの開発
真鍋 由雄,森 利雄,岡崎 祐輔,甲斐 誠,山形 幸彦
ランプ寿命が10 000時間を超える長寿命蛍光ランプの開発では,ランプ寿命を推定する方法は,従来数千時間が必要であった。筆者らは,電極に塗布されている電子放出材料の消耗がランプ寿命の主要因であることに注目し,レーザ誘起蛍光法を用いて電極付近のバリウム原子密度を測定し,電子放出材料の消耗量を算出した。バリウム原子密度測定から,点灯当初であってもランプ寿命を推定する方法を開発した。このランプ寿命推定法を用いて,高周波電子安定器専用の高効率長寿命蛍光ランプである丸形,直形蛍光ランプを開発した。
非対角熱電効果を用いた熱電トランスデューサ
菅野 勉,高橋 宏平,酒井 章裕,足立 秀明,山田 由佳
熱を直接電気エネルギーに変換する熱電変換技術の研究が近年広く進められている。筆者らは,ビスマス(Bi)/銅(Cu)からなる傾斜積層体および層状酸化物CaxCoO2薄膜において観測される,非対角熱電効果と呼ばれる特異な現象について検討を行った。Bi/Cu傾斜積層体においては構成材料であるBiの1.5倍の熱電変換のパワーファクターを,CaxCoO2薄膜では600 mV/Kの検出感度を実現できることを実験により確認した。非対角熱電効果を利用することにより,低温廃熱からの高出力発電や高感度の光検出が実現できる可能性がある。
技術解説
アイドリングストップ車用液式鉛蓄電池の開発
原田 岬,杉江 一宏
アイドリングストップ車は停車中にエンジンを停止することで燃費を向上することができる。しかし,鉛蓄電池はアイドリングストップ中の電力をすべて供給するため,放電量の増加に伴い寿命が短くなるという課題があった。そこで,充電受入性を約2倍に向上させ,さらに容量低下とアイドリングストップ特有の劣化である負極耳部の腐食を抑制した液式鉛蓄電池を開発した。
温水洗浄便座のエコナビ制御による省エネ達成率向上の取り組み
松村 充真
人のトイレ入室を検知し瞬時に快適な温度まで昇温する瞬間暖房便座と,室温情報から非使用時の暖房便座の保温温度を最適化する便座保温制御の2つのシステムからなるエコナビ制御を開発し,非使用時の無駄な消費電力を削減することで省エネ基準達成率180 %を実現した。
全熱交換素子の高効率化
村山 拓也,勝見 佳正
熱交換形換気設備は排気中の熱や湿度を回収することにより,快適性を維持しつつ空調負荷を削減できるものであり,その省エネルギー効果はキーデバイスである全熱交換素子の性能に依存する。伝熱板材料の透湿性能の向上や素子風路構造の最適化を図ることにより,全熱交換効率を向上することができる。
小形LED電球の放熱改善技術
細田 雄司,高橋 健治
小型の省エネルギー照明用光源として,E17口金形状対応のLED(Light Emitting Diode)電球を開発した。技術ポイントは,放熱技術である。熱シミュレーションにより改善すべき箇所を割り出し,その対策として,(1)LEDパッケージとヒートシンクの密着,(2)ヒートシンクの表面処理を行った。これらにより,所定温度以下でのLED駆動を可能とした。