パナソニック技報

【4月号】APRIL 2012 Vol.58 No.1の概要

特集:デバイス

デバイス特集によせて

パナソニック(株) デバイス社 常務・CTO 久保 実

招待論文

スマート・コミュニティーとアンビエント・エレクトロニクス

東京大学 生産技術研究所 教授 桜井 貴康

技術論文

省エネ電源制御IC

石井 卓也

電源回路の高効率化は,スイッチングトランジスタなどの主要デバイスの性能によるところが大きい.制御ICはスイッチングトランジスタの駆動回路部を有し,好適に駆動することが求められる.開発した6品種は,スイッチングトランジスタにTMOS-FET(Trench Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)を用いて高効率化したヒステリティック制御方式のPOL(Point Of Load)用DC-DCコンバータであり,2チップのTMOS-FETと制御ICチップを同一パッケージに実装したMCP(Multi-Chip Package)構造を有する.搭載した制御ICは,ヒステリティック制御方式の課題であったスイッチング周波数の変動や出力リップル電圧の増加を抑制できる.測定結果では,定格出力3 Aにおいて同等他社製品に比べて効率が約3 %向上した.

高出力非極性m面GaN-LED

横川 俊哉,加藤 亮,井上 彰,山田 篤志

エネルギー使用量の削減や環境負荷低減が世の中の潮流となるなか,省エネで長寿命であるLED (Light Emitting Diode) 照明機器の普及が急速に進展しつつある.この要望にこたえるべく,当社はその基幹部品である高効率,高出力LEDの開発を行っている.独自の高品質m面InGaN結晶成長技術と低抵抗電極技術を駆使して,1 Aで1.23 Wを示す高出力LEDを実現した.c面のLEDでの顕著なドループによる効率低下は,m面GaN-LEDでは抑えられ,駆動電流密度500 A/cm2においても外部量子効率の低下は約20 %にとどまり,低ドループ特性を実現した.

LED照明駆動用IPDの開発

國松 崇,河邊 桂太,石田 敏史

LED(Light Emitting Diode)照明市場の発展に伴い,高力率や調光に対応可能なLED照明への要望が増えている.そこで力率補正機能や調光機能を内蔵し,フィードバック回路を使用しない定電流制御が可能なLED照明駆動用のIPD(Intelligent Power Device)を開発した.本製品は変換効率80 %以上,力率0.9以上の高力率を実現し,トライアック調光器に対応できる.

分散型バスにおける伝送負荷均一化方式

吉田 篤,石井 友規,山口 孝雄

本稿は,半導体集積回路内のバスにおいてトラヒック量の増大により,集中型バスのバス動作周波数が増大する課題に対し,分散型バスを用いてバス動作周波数を増大させることなく伝送帯域を増加させる伝送負荷均一化方式について述べる.本方式は,伝送を中継するノードの自律分散的な伝送負荷均一化処理により,バス全体の伝送負荷を均一に保ち,バス動作周波数の増大を抑制する.本方式をハードウェア実装し,4段のバタフライ網を対象とした評価で,スレーブ数が4個の場合に,バス動作周波数を増大させることなく平均スループットの最大値を3倍に向上できることを確認した.

技術解説

GaNパワーデバイスのスイッチング応用

田村 聡之

Siパワーデバイスと比較して,低オン抵抗・高耐圧特性を有するGaN材料を用いたGIT(Gate Injection Transistor)やマルチチャネルダイオードを開発した.GaNパワーデバイスをインバータや電源などのスイッチング回路に用いることにより,変換効率の向上を確認した.

イメージセンサ用フォトニクス技術

田中 圭介,小野澤 和利

赤外線アレイセンサは,物体から放射される赤外線をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術で形成された画素で受光し電圧に変換する機能をもつもので,断熱性の高い薄膜片持ち梁構造で画素を形成することで,小型で高感度なセンサを実現した.

UniPhierシステムLSIとその要素技術

田中 卓敏,吉岡 康介

当社では,デジタルAV家電統合プラットフォームであるUniPhierアーキテクチャを時代とともに進化させてきた.本稿では,そのハードウェアプラットフォームであるUniPhierシステムLSIの最新のアーキテクチャ,およびその要素技術について解説する.特に高機能化に対する性能保証へのアプローチ,オープンソースソフト活用のためのプラットフォーム拡張,低消費電力技術の展開,SoC(System on Chip)展開加速のための入出力インターフェース向けバスアーキテクチャについて解説する.

招待論文

MEMS技術の課題と展望

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構
教授 江刺 正喜

技術論文

民生用3軸角速度(モーション)センサの開発

佐々木 剛,藤井 剛,吉内 茂裕,森仲 克也,中村 裕幸,山崎 稔夫

近年,スマートフォンには3軸加速度センサ,電子コンパスに加えて,新たに3軸角速度センサも搭載され始めている.しかし,現在搭載されている3軸角速度センサは,モーション検出はできるものの,カメラの手振れ補正に対応できるノイズレベルには到達していない.そこで本稿では,手振れ補正に対応できる小型3軸角速度センサの開発について,(1)小型低背化:駆動振動方向の多軸化による小型1素子3軸検出素子の開発,およびフリップチップ(FC)実装を用いたスタック構造の開発,(2)低ノイズ化:広い検出範囲が必要なモーション検出と低ノイズが要望される手振れ補正対応の両方を実現する初段アンプ電流切り替え機能を搭載したセンサの開発,の2点について報告する.

ESD保護用低電圧積層バリスタ

古賀 英一,沢田 典子,網沢 幹典,南 誠一,沖本 知久

ZnOへSrCoO3を添加したバリスタ材料は低電圧領域で優れた非直線性を発現する.バリスタの特性起源である粒子界面における電圧は,従来材料(BiおよびPr添加系)と比較して約25 %低圧化された.それを用いた積層バリスタは,ESD(Electro-Static Discharge)保護効果につながる低電圧特性(V 1mA=5.6 V)と強ESD耐性(8 kV)を両立する.また,放電原理を併用した新型の積層バリスタは低静電容量(0.1 pF)でありながら,優れたESD抑制効果(200 V at 8 kV: IEC61000-4-2)を示す.これらは各種電子機器,携帯電話のアンテナ直下やLED(Light Emitting Diode)などのESD対策に有効である.

Blu-ray Discプレーヤー用光ピックアップ

橋本 光宏,小沼 裕志,梶野 徹,山岸 康文

大型高品位(ハイビジョン)TVの普及に伴いBlu-ray Disc(BD)プレーヤーの本格的な普及が進行している.当社は業界に先駆け,プレーヤーの基幹部品であるBD再生専用光ピックアップの外部販売を開始した.また,BDプレーヤーの普及に伴う低価格化に対応するために,低価格で,高品質と高信頼性を維持しながら,ドライブへの組み込み性を考慮し,DVD用と同等に小型化された光ピックアップを,新規技術と共に独自技術の応用展開により開発し量産化した.

技術解説

電解質ハイブリッド技術を用いた導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

青山 達治

導電性高分子コンデンサに匹敵する低ESR(等価直列抵抗)特性とアルミ電解コンデンサに匹敵する高耐電圧/低漏れ電流特性とを兼ね備えた導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサを具現化する電解質ハイブリッド技術について解説する.

MEMS技術による小型高感度赤外線アレイセンサ

山中 浩,吉田 岳司

赤外線アレイセンサは,物体から放射される赤外線をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術で形成された画素で受光し電圧に変換する機能をもつもので,断熱性の高い薄膜片持ち梁構造で画素を形成することで,小型で高感度なセンサを実現した.

小型・高輝度OIU用緑色レーザモジュールの開発

石橋 真

OIU(Optical Imaging Unit for projector)とは,ノートパソコンに搭載可能な,レーザを光源とする超小型・高輝度(50 lmクラス)プロジェクタの光学ユニットであり,2011年7月から量産出荷している.OIUに搭載する緑色レーザモジュールは,半導体レーザの直接発振ではないため,温度特性や組立工程が複雑であるという課題があった.本稿ではその解決方法について報告する.