パナソニックグループは、研究開発やその他の事業活動の過程で得られる技術、ノウハウ、デザイン、ブランドおよびその他の成果を知的財産として適切に取得、保護および活用するよう努めています。
当社グループは、事業活動において第三者の知的財産を尊重するよう努めながら、当社グループの知的財産について、当社グループでの事業化や他社との共創など、様々な形でその社会実装をすることにより、当社グループの事業成長と社会課題の解決を実現することを目指しています。
方針
当社グループは、創業以来の「事業の前に知財あり」の精神のもと、事業に対する知的財産起点での戦略提案、グローバルな知的財産の取得・保護・活用および知的財産に係る紛争の予防と解決により、現在と将来にわたる事業の優位性と安全の確保を目指すとともに、社会課題の解決への貢献も視野に入れて、知的財産活動を推進しています。
当社グループは、これらを着実に遂行するため、グループ全体に適用する「知的財産基本規程」を定め、知的財産活動の適切な遂行と活動基盤の確立を図っています。また、購入先様、お取引先様およびその他の第三者の知的財産を尊重し、侵害しないよう最善を尽くしています。このことは「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」にも定め、従業員全員が順守するように定期的な教育を行っています。
責任者・体制
当社グループの知的財産に関する責任者は、グループ・チーフ・テクノロジー・オフィサーの執行役員です(2024年8月現在)。
持株会社であるパナソニック ホールディングス(株)(以下、PHD)の知的財産本部において、グループの知的財産戦略の策定・推進等を行っています。また、各事業会社にも知的財産部門を設置し、各事業会社の知的財産戦略の策定・推進等を行っています。PHDの知的財産本部と各事業会社の知的財産部門とは連携して知的財産戦略を推進することで、グループシナジーを創出しています。
さらに、高度専門人材を擁するパナソニックオペレーショナルエクセレンス(株)(以下、PEX)の知的財産本部およびPEX傘下のパナソニックIPマネジメント(株)(以下、PIPM)において、グローバルに幅広い知的財産業務を推進しています。
PIPMは、当社グループの知的財産業務を集約・事業化するため当社完全子会社として設立された会社であり、信託業法第51条に定められた「同一の会社集団に属する者の間における信託」を活用し、知的財産業務を推進しています。
主な取り組み
▪知的財産戦略フレームワーク
当社グループでは、取締役会での議論を経て、知的財産戦略フレームワークを策定しています(下図)。

このフレームワークは、当社グループのマテリアリティを踏まえ、「顧客」「競合会社」「社会」の視点から行う我々の知的財産戦略・活動が、「事業の優位性」と「事業の安全」への寄与とともに、知的財産を起点とした「共創による社会実装」にもつながり、そして、これらが社会課題の解決に貢献し、最終的に我々の目指す姿につながることを表しています。これらの戦略・活動は、「権利」・「資産」・「情報」という知的財産の各側面に基づき、当該フレームワークの中で具体化されています。例えば、「顧客」の視点では、「共創・オープン&クローズ戦略の立案・実行」「コア技術の知財ポートフォリオ構築」といった戦略・活動を通じて、「顧客価値の向上」というアウトプットにつながります。また、「競合会社」の視点では、「紛争解決」「第三者知財の尊重」「知財ポートフォリオの筋肉質化(例:不要な知的財産の放棄)」といった戦略・活動を通じて、「コストパフォーマンスの向上」というアウトプットにつながります。また、「社会」の視点では、「知的財産を起点とした共創」といった戦略・活動を通じて、「共創による社会実装」(例:他社との共創による環境関連技術の事業化)というアウトプットにつながります。そして、これらのアウトプットは、当社の「競争力強化」とともに「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現という、我々の目指す姿につながります。PHDでは、当該フレームワークに示される各戦略・活動について、当社グループ共通のKPIでモニタリングするとともに、重点テーマについての支援を行っています。
▪グループシナジーを創出する特許等集約の仕組み
当社グループでは、PHDに特許等を集約して当社グループ全体の資産として同時多面的に使用し、活用する仕組みを設けています。PHDおよびその子会社であるPIPMは、当社グループ全体の特許等(例:共通基盤技術に関する特許、当社グループ会社から法的名義を集約した特許)を対外的に活用します(例:ライセンス)。そして、この仕組みの対象となる当社グループ会社(国内)は、みずから生み出しまたは譲り受けた特許等を、PHDへの法的名義集約後も管理し(「管理籍」の保持)、当該特許等の費用を負担し、当該特許等に基づく収益を受け取ります。そして、当該グループ会社は、みずからが管理籍を有する特許等を対外的に活用するとともに、当社グループ全体の特許等を使用できることになります。当社グループでは、この仕組みにより、社内外の共創等を促進しています(下図)。
グループシナジーを創出する特許等集約の仕組み
グループシナジーを創出する
特許等集約の仕組み

▪知的財産権の取得と報奨制度
当社グループは、事業戦略および研究開発戦略を踏まえた知的財産戦略に基づき、グローバルに知的財産ポートフォリオの構築を行っています。当社グループの2023年度の研究開発費、特許・実用新案・意匠の出願件数および2024年3月現在の保有特許権・実用新案権・意匠権・商標権の件数は、下記の通りです。
2023年度研究開発費 | 約4,912億円(売上高研究開発費率5.8%) |
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2023年度出願件数 | 特許・実用新案・意匠出願件数:計約1.6万件 (うち海外約9,200件) |
2024年3月現在の保有権利件数 | 保有特許権・実用新案権・意匠権:計約9.8万件 (うち海外約5.5万件) |
保有商標権:計約1.6万件 (うち海外約1.1万件) |
当社グループの知的財産が適切に保護および活用されない場合には、当該知的財産に関する模倣品・侵害品等が出現し、品質問題、犯罪組織等への資金流入や、持続的イノベーションの阻害などの問題を引き起こす可能性があります。引き続き、当社グループは、研究開発および事業活動の過程で得られる各種成果を知的財産として適切に取得し、さらに知的財産を保護および活用するよう努めます。
また、当社グループは、発明者への報奨制度により、発明者のモチベーションの向上および発明等の創出活動の活性化を図り、各国の法令に基づき、公正かつ公平にその運用を行っています。例えば、日本においては、報奨の基準は、従業員との協議を経て策定して従業員に公開し、報奨金について発明者の意見を聴取する仕組みも設けています。
▪第三者の知的財産の尊重
私たちが第三者の知的財産を侵害する場合には、当該第三者に損失を与える恐れがあるとともに、当社グループの製品またはサービスの仕様変更や供給中断等により、当社グループの直接・間接のお客様にご迷惑をおかけする恐れがあります。
当社グループは、第三者の知的財産を尊重するよう努めながら事業活動を行っております。当社グループ全体に適用する社内規程において、第三者から知的財産権の侵害の疑いがある旨の連絡を受けた場合の対応や、知的財産権の侵害が生じた場合に想定される損失の算定プロセスを定めています。また、各事業会社の社内規程でも、第三者の知的財産権の侵害防止に向けた調査、リスク発見時の報告およびその他のプロセスを定めています。
▪共創関係の構築への貢献
当社グループは、事業活動において社会課題の解決に貢献することを目指しています。社会課題に正面から向き合ってその解決に貢献し、結果として事業を成長させることに加えて、知的財産活動においても、多様なヒト・モノ・コトがつながり、協力しあう仕組みを構築し、個社では対応困難な社会課題を、無形資産を起点とした共創関係の構築により解決すべく、新たな知的財産戦略を推進しています。
具体的には、2023年9月に、社外向けの「技術インデックス」を公開しました。「技術インデックス」は、当社グループの知的財産情報について、その技術の利用シーンや目的などを感覚的に分かりやすい言葉でインデックス化することで、利用者が技術を簡単に探し必要な技術とつながることができるシステムです。「技術インデックス」を起点として、無形資産を社会に巡らせることで地球環境問題の解決をはじめとした社会課題解決の加速に貢献します。
また、環境関連技術に係る特許・ノウハウについて、戦略的に他社との共創関係を構築することにより、社会実装を推進し、社会課題の解決への貢献を目指しています。例えば、車載電池分野において共創パートナー様に当社特許を使用いただくことで、ガソリン車の電気自動車・ハイブリッド車への置き換えを図り、CO2の削減に寄与しています。そして、このような取り組みが世の中に評価される仕組みが出来れば、社会課題の解決に必要な無形資産の流通が促進されるのではないかと考え、その第一歩として、試行的にCO2削減効果の可視化などにも挑戦しております。例えば、2022年における、リチウムイオン電池に関する当社特許が使用された車載電池を搭載した電動車によるCO2排出の削減効果は、775万トンと試算しています※1。
気候変動等の社会課題への対応は、当社グループだけで対応できるものではありません。パナソニック知的財産部門は、無形資産を巡らせる動きが起点となり、さまざまなステークホルダーが動き出し、つながりあい、社会にイノベーションが生まれ、世界が幸せになる、そのような未来を信じて、今後も取り組みを進化・深化させていきます。
また、社会課題の解決には、多様なヒト・モノ・コトがつながり、協力しあうことが必要と考え、無形資産を起点としたオープンイノベーションにも取り組んでいます。
※1 ガソリン車と、当社特許が使用された車載電池を搭載した電動車の走行時(使用時)のCO2排出量の差分量を、フロー方式(販売年にその生涯分の排出量を一括計上)により試算。
▪国際的イニシアチブへの参画
WIPO(世界知的所有権機関)によって設立されたWIPO GREENは、そのデータベースおよびネットワークを通じて環境に配慮したイノベーションに関する主要な当事者をつなげることで、気候変動に対する世界的な取り組みを支援しています。当社グループもこれに賛同し、環境に配慮した水中プラズマ技術、人工光合成技術、ガスセンサー技術を登録しています。
また、2022年8月には、日本企業としては初めて、LCPP(Low Carbon Patent Pledge)に参画し、低炭素技術に関する特許のうち人工光合成技術に関するものを、LCPPが規定する所定条件のもとあらゆる個人および団体に無償開放しています。
▪模倣品対策
企業の重要な資産であるブランド、その他の知的財産を無断で使用し、権利者の築き上げたブランド価値にただ乗りする模倣品は、お客様に対して品質問題(事故・ケガ)を引き起こすだけでなく、社会全体に対して下記のような問題を引き起こし、健全な社会づくりの阻害要因となり得ます。
- 経済的損失:税収減、開発意欲の減退
- 安全問題:犯罪/テロ組織の資金源、国家安全保障の脅威の増大
- 環境問題:押収された模倣品の廃棄
そのため、模倣品対策は、企業の社会的責任であると考えています。当社グループは、「お客様の保護」、「ブランドを含む知的財産の保護」の視点に加え、「社会課題の解決」という視点で、模倣品対策に取り組んでいます。2019年には、当社グループの働きかけも一助となり、日本政府の「SDGsアクションプラン」への「模倣品対策強化」の追加が実現しました。現在では、対策の業界団体である国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)において、「模倣品の撲滅はSDGsの達成に貢献する」という考えのもと、当社グループは、政府・他社・各国政府と連携し、積極的な活動を推進しています。最近の傾向としては、現実の市場での模倣品に加えて、オンラインでの模倣品事例が急速に増えています。従来に比べると、オンラインの模倣品は容易に出品され、現物を見ずに取引されることから、一般のお客様が誤って購入してしまうリスクも増大しているといえます。当社グループは、特にオンラインの模倣品に対しては、これまで以上に、権利者がお客様とともに模倣品を撲滅しようとする視点が重要と考え、社会全体で、より良い社会づくりを目指しています。昨今は、SNS利用者の増加を受け、SNSを活用した新たな発信の取り組みも実施しています。
例)https://twitter.com/PanasonicBrand/status/1759463303867466126
社内教育・社外に向けた啓発活動
当社グループでは、知的財産に関する当社グループの方針を徹底するために、従業員に対して、様々な研修・教育を実施しています。上述の第三者の知的財産の尊重に関する従業員教育に加え、例えば、昨今の事業におけるソフトウェアの重要性や急速な生成AIの普及も踏まえながら、著作権に関するeラーニングを多言語で国内外の従業員に向けて実施しています。
また、各事業会社においても、各事業の実情に応じて知的財産に関する研修・教育を行っています。また、知的財産業務に従事する従業員に対しては、知的財産に関する専門性向上のための研修に加え、プロジェクトマネジメントに関する研修など、経営貢献を視野に入れた幅広い研修・教育を行っています。
さらに、特許庁からの要請を受け、海外特許庁職員等の人材育成研修への講師派遣、また当社独自の日本国内の中学校・高等学校への知的財産に関する授業の実施、粗悪な模倣品の問題点を啓発するウェブ動画の発信など、知的財産に関する社外での啓発活動も行っています。
相談・通報
当社グループのすべての従業員、お取引先様とその従業員の方は、知的財産に関するリスクや問題を見聞きした場合、当社グループが設置するグローバルホットラインに相談・通報することができます。詳細は、「企業倫理」の「通報制度」をご確認ください。
評価
当社グループは、クラリベイト(本社:英国ロンドン)が選考する「Clarivate Top 100 グローバル・イノベーター 2024」を受賞しました。この賞は、独創的な発明やアイディアを知的財産権によって保護し、事業化を成功させることで、世界のビジネスをリードする企業を選出しています。2024年は、世界のトップ100社のうち日本企業が38社受賞となり、当社グループの受賞は、アワード創設以来、13年連続となります。また、同クラリベイトの選考するベスト・プロテクティッド・グローバル・ブランドTop 100(2021年)において、当社グループのブランドも、適切に保護されていることが認められています。また、同クラリベイトの選考するTop100ニュー・ブランド2023において、2021年以降に急速に普及し、グローバルな規模で価値とインパクトをもたらしつつブランド保護も行うという卓越した能力を示した新ブランドとして、「Panasonic GREEN IMPACT」が選出されています。