パナソニックグループでは、創業者 松下幸之助の「先憂後楽(せんゆうこうらく)の発想」「すべての事には萌しがある」「小さい事が大事に至る。萌しを敏感にとらえて憂慮しなければならない」などの考え方を継承し、リスクマネジメント活動を展開しています。

また、「世界的な視野に立って考え、全世界を対象に仕事を進める」方針に基づき、輸出活動とともに1961年から海外諸国への技術援助、海外工場の建設を積極的に開始したことを契機に、時に発現するリスクとも対峙しながら、早期より海外安全対策や緊急時対応をはじめとしたリスク・危機管理に関する取り組みを進めています。

方針

当社グループでは、当社グループの事業活動に影響を与える可能性のあるリスクを的確に把握し、適切な対策を講じることによって、事業目的の達成と持続的かつ安定的な発展をより確実なものにすることを経営における重要課題と位置づけ、「パナソニックグループ リスクマネジメント基本規程」(以下、「基本規程」)を制定し、これに基づきグループのリスクマネジメントを推進しています。当社グループでは、以下の3つをリスクマネジメントの目的として掲げています。

  • ステークホルダーの安心・安全と事業活動におけるコンプライアンスの確保
  • 事業目的の達成上の「機会になるリスク」と「脅威になるリスク」双方の適切なマネジメントによる事業競争力の強化
  • 経営資源の保全と業務の有効性の確保による商品・サービスの継続的な供給・提供を図り社会的責任を全うすること

また、これらの目的を達成するための役員・従業員の行動指針のほか、持株会社であるパナソニック ホールディングス(株)(以下、PHD)と事業会社の役割・責任およびリスクマネジメント体制を定めています。

リスクマネジメントシステム

当社グループにおけるリスクマネジメント活動は、経営戦略の策定・実行と並び事業経営を推進するための「車の両輪」を成しています。両輪が欠けることなく機能することで事業目的の達成をより確実にし、企業価値の向上を果たせるものであることから、グループの経営において重要な役割を果たしています。

その実効性のあるリスクマネジメントシステムを構築するため、当社グループでは国際的なリスクマネジメントシステムの規格であるISO31000、リスクマネジメントの国際的なフレームワークであるCOSO-ERM(2017)等を踏まえた基本規程に基づき、適切な体制構築、経営・事業戦略のPDCAとも連動したプロセスの推進を図っています。また、定期的な取締役会への報告を通して、事業や戦略に関する議論に資する情報を提供するとともに、リスクマネジメント体制の構築・運用状況に関する監督を受けています。

当社グループは、リスクマネジメントシステムの運用および継続的な向上を図ることで、事業を通じ人々のくらしの向上と社会の発展に貢献するとともに、お客様をはじめ取引先、地域住民、株主、従業員等のステークホルダーの皆様に安心いただくため、リスク情報を適切に社会に開示し、事業経営の透明性を高めていきます。


事業価値創造プロセスにおけるリスクマネジメント

事業価値創造プロセスにおける
リスクマネジメント


責任者・体制

グループのリスクマネジメントの最高責任者として、グループ・チーフ・リスクマネジメント・オフィサー(グループCRO)である副社長執行役員がグループにおけるリスクマネジメント推進を総括しています(2024年8月)。また、リスクマネジメントの専任部門であるPHDのエンタープライズリスクマネジメント室(以下、「PHD ERM室」)がグループにおけるリスクマネジメント推進に係る実務を担っています。

社内におけるリスクマネジメントの推進体制として、グループCROを委員長、PHDの法務、人事、経理等の各機能部門のトップを委員とし、PHD ERM室が事務局を担当する「PHD エンタープライズリスクマネジメント委員会」(以下、「PHD ERM委員会」)を設置し、年3回開催しています。PHD ERM委員会は、グループ全体のERMの推進を図り、グループ全体の機能部門が実施するリスクマネジメントの監督をするとともに、グループ全体に波及する可能性のあるリスク、その対策およびコントロールの状況を確認し、必要な場合は対策の見直しや徹底を指示する役割を担っています。

一方で、各事業会社においても、自主責任経営のもと「事業会社ERM委員会」を設置し、事業・業務に由来するリスクの管理を実施すると同時に、当社グループの経営上重要かつグループ全体で一定水準以上の管理が必要なリスクの管理をPHDと共に実施しています。さらに、これらの推進体制のもと行われるリスクアセスメント等の情報は内部監査にも活用され、内部監査部門がリスクアセスメントの結果から、検討すべきテーマを設定し、機能部門に対するリスクベースのアプローチによる監査を行っています。

PHD ERM委員会は、リスクマネジメントのPDCAサイクルに基づき重要なリスクや対応策の進捗等を定期的にPHD戦略会議や取締役会で報告しています。これらを踏まえ、リスクのモニタリングの状況や、リスクマネジメントプロセスの有効性・実効性について取締役会および監査役がその監督と検証を行っています。また、各事業会社においても、事業会社ERM委員会が定期的に事業会社の経営会議や取締役会で報告を行っています。


パナソニックグループ リスクマネジメント 推進体制

パナソニックグループ
リスクマネジメント 推進体制


基本的枠組み

当社グループでは、PHDおよび事業会社で同一のプロセスに基づくリスクマネジメントを推進しています。

当社グループは、短期的な事業目的の達成に向けた事業計画の遂行や日常的な業務遂行において「損失」や「脅威」となる不確実な事象を「オペレーショナルリスク」と定義しています。当社グループでは年1回のサイクルで、外部要因・内部要因の変化等を踏まえて想定されるオペレーショナルリスクを網羅的に洗い出すことで「リスクインベントリー」を更新し、インベントリー上のすべてのリスクを対象として、財務・非財務両面の評価軸によるリスクアセスメントを実施しています。

PHD ERM委員会では、当該評価を基礎として、当社グループの経営・事業戦略と社会的責任の観点から審議を行い、グループ経営上の重要かつグループ全体で一定水準以上の管理が必要なリスク(以下、「グループ重要リスク」)を決定します。

各事業会社では、グループ共通のリスク項目にそれぞれの事業領域に応じたリスクを追加したリスクインベントリーを用いて、リスクアセスメントを行い、事業会社経営上の重要リスク(以下、「事業会社重要リスク」)を決定します。

グループ重要リスクおよび事業会社重要リスクが決定されると、PHDおよび各事業会社では対応策の策定・実行および進捗状況のモニタリングを実施し、継続的な改善に向けて取り組んでいます。特にグループ重要リスクに関しては、グループ共通の対応策に加えて、各リスクを担当する事業会社の機能部門がPHDの機能部門と連携し、当該事業会社の事業領域に応じ必要な独自の対応策を策定・実行します。PHDの機能部門は各事業会社におけるグループ共通および独自の対応策の進捗状況をモニタリングすることで、当社グループ全体での対応を徹底してリスクが適切に管理されていることを確認し、必要な場合は適宜対策の見直しや徹底を促しています。

なお、リスクアセスメントにあたっては、従来、財務影響と発生頻度に基づき重要度を評価してきましたが、昨今の感染症の流行や災害の激甚化、地政学的な緊張の高まり等に伴い、人命を影響度の評価要素に取り入れています。また、企業の社会的責任(CSR)やSDGs、ESG等の社会的要請への取り組みの重要性に鑑み、これらの期待に応えられないことによるリスクに関する項目(人権・労働コンプライアンス、環境問題等)や自社の社会的な影響に関する評価要素(レピュテーション等)についても活動の枠組みに取り入れています。リスクマネジメント活動を通して、法令や規制の順守といった「事業活動の前提」となる取り組みを強化すると同時に、社会やお客様へお役立ちを果たす機会と捉え、今後もグループ全体の統合的なリスクマネジメントの高位平準化を目指します。


リスクマネジメントの基本的枠組み

リスクマネジメントの基本的枠組み


2024年度 グループ重要リスク/PHD重要戦略リスク

■グループ重要リスク(オペレーショナルリスク)

・自然災害※1・感染症・パンデミック
・テロ・戦争・暴動・政情不安・労働災害
・人権・労働コンプライアンス・貿易規制・経済制裁
・独禁法違反/贈収賄・腐敗行為防止法違反
・品質コンプライアンス・サイバー攻撃
・サプライチェーンマネジメント
(環境保全、人権・労働コンプライアンス)

■PHD重要戦略リスク(戦略リスク)

・気候変動・環境規制/サーキュラーエコノミーの進展
・地政学リスク・経済安全保障問題
・人材の誘引・獲得・維持(リテンション)
・AI(人工知能)の利活用に関するリスク

※1 BCM・BCPの方針(主な取り組み) 参照

▪2024年度グループ重要リスク

当社グループの短期的な事業目的の達成に向けた事業計画の遂行や日常的な業務遂行において「損失」や「脅威」となる不確実な事象のうち、2024年度のグループ経営上の重要リスクとして選定したリスクは下記のとおりです。

感染症・パンデミック

感染症全般に対する平時における備えとして、各事業会社における感染症版BCPの策定およびマスクや消毒用アルコール、体温計等の適切な備蓄確保を推進することにより、全従業員の健康・安全および事業継続体制の維持に取り組んでいます。また、感染症の蔓延やそれに伴う当社グループの社員および事業等への影響の大きさに応じ、「パナソニックグループ 緊急対策規程」に基づき緊急事態体制に移行し、社員の人命・健康の安全確保を優先とした対応を進めます。

テロ・戦争・暴動・政情不安

グローバルで事業活動を行う当社グループにとって、昨今の地政学的な不確実性の高まりに関連した国・地域間の対立や政治的・社会的混乱、テロ・戦争等の有事の発生等は、事業に大きな影響をもたらす可能性があります。

当社グループが拠点を有する国・地域における政情不安、軍事的緊張が顕在化した場合やテロ・戦争等が発生した場合に備え、人命を最優先とした有事対応の強化を図るため、各機能による平時の安全対策の取り組みやオールハザードBCPの整備を進めています。また、従業員の海外赴任や渡航前に際した研修や、特にリスクが高いとされる国や地域に関する注意喚起、個別の対策等の実施を通して、従業員の安全確保に努めています。

労働災害

各種法令や当社の経営基本方針に基づき、グループCEOが発信する「パナソニックグループ労働安全衛生ポリシー」において、従業員の安全と健康の確保を定めています。また、この方針を実践するため「安全衛生管理規程」を制定し、安全衛生活動の展開によって従業員の健康の保持促進を図るとともに労働災害を防止することで、事業発展への貢献を目指しています。

グループの安全衛生管理に係る重要な方針や政策を審議・諮問する機関として、グループ安全衛生管理部門の責任者を委員長とする全社中央安全衛生委員会、各事業会社・事業場においても安全衛生組織を設置し、グループ一体で安全衛生管理を推進する体制を構築しています。

当社グループでは安全・安心な職場づくりの推進のため、労働安全衛生マネジメントシステムに基づき、定期的にリスクアセスメントを実施し、職場の労働災害や疾病にかかるリスクを洗い出し、危険度の高いリスクから確実にリスク低減策に取り組んでいます。加えて、過去の重篤な労働災害を分析し、災害発生の代表的なパターンを明確化することによって、リスクアセスメント等における重点確認ポイントの共有化を図り、類似災害の再発や未然防止のための対策を効果的かつ着実に推進することを目指しています。

詳細は「社員のウェルビーイング」の章の「安心・安全健康に、はたらく。」をご確認ください。

人権・労働コンプライアンス

「パナソニックグループ 人権・労働方針」において、事業活動・取引に適用されるすべての法令の順守を前提として、「国際人権章典」や国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則および権利に関する宣言」で表明された国際的に認められた人権の尊重や働きがいのある労働環境の実現と、これらに関する様々なステークホルダーの皆様との対話に取り組んでいくことを明記しています。

また、この方針に従って「人権・労働コンプライアンス規程」を制定し、国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、事業会社の事業領域およびバリューチェーンに関連する人権への負の影響の把握・予防・低減に向けた具体的な取り組みを推進しています。人権・労働に関する重要な法的要請の変更等については、情報を収集して各拠点に徹底し、コンプライアンス強化に努めています。詳細は「人権の尊重」をご確認ください。

貿易規制・経済制裁

各国の法規制の変更が相次ぐ中、当社グループではこうした動向を注視し、グローバルで連携して日々の情報収集およびITの活用により、当社グループの事業に影響のある新たな貿易規制・制裁を早期に把握し、グローバルポリシー、ガイダンスを適宜更新する等の対応や、新たな規制分野で対象となる貨物・技術の該非判定を徹底して実施しています。また、社内への周知徹底、取引リスク回避のための対応策の発信等、国内外の従業員啓発にも取り組み、ガバナンスおよびコンプライアンスのさらなる強化に努めています。詳細は「企業倫理」章の「重要なコンプライアンスリスクに対する取り組み」のうち「貿易コンプライアンス」をご確認ください。

独占禁止法/贈収賄・腐敗行為防止法違反

「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」において、「社会の公器」として法令や社会道徳に反しないことはもちろん、私心にとらわれず高い倫理観や適切な知識を持って業務を遂行できるよう、当社グループ各社および当社グループ社員一人ひとりが果たすべき約束を定め、全社員に共有・徹底しています。

特に「独占禁止法・競争法違反」や「贈収賄・腐敗行為」等の重大なリスクに対し、グローバル規程に基づくコンプライアンス徹底のための研修や、贈収賄・腐敗行為に関するリスクベースアプローチによるコンプライアンス監査等の取り組みを通じて未然防止、早期発見に努めています。さらに、年間を通じ、全社員に対する基本的なコンプライアンスの教育に加え、必要な対象者への事業特性や地域特性を踏まえたリスクに応じたコンプライアンスの教育等、倫理・法令順守意識のグローバルな定着とリスクへの対応力向上をめざした取り組みを実施しています。

また、不祥事の防止や早期解決を目的とした一元的な内部通報窓口として、国内外の拠点や取引先からも通報ができるグローバルホットラインを設け、適切な社内調査を通じて問題の早期発見と是正を図っています。詳細は「企業倫理」をご確認ください。

品質コンプライアンス

当社グループは、経営基本方針に則り、常に製造・販売する製品の安全性を確保して、お客様に安全・安心をお届けすることが経営上の重要課題であり、社会的責任であると考えています。また、グループの品質方針を「常にお客様および社会の要望に合致し、満足していただける製品およびサービスの提供を通じ、真にお客様に奉仕する」と定めています。

その一方で、当社の子会社であるパナソニック インダストリー(株)の電子材料製品において、米国の第三者安全科学機関であるUL Solutionsの認証登録等の際、複数の不正行為を行っていたことが判明しました。対応状況については「企業倫理」をご確認ください。

サイバー攻撃

より高度な情報セキュリティレベルを実現するために、IT環境の健全性の確保およびサイバーレジリエンス(有事の対応・復旧)の向上に取り組んでいます。特に、国内のみならず海外子会社のインフラを含むネットワーク、サーバ、パソコン等を対象としたさらなる異常監視の拡大および工場内部のセキュリティ監視との一体化と、グローバルかつ一元的なセキュリティ監視体制の強化のための対策を実施しています。

技術的な対策に加えて、情報セキュリティ教育プラットフォームの構築およびグローバルの従業員に対する定期的な教育実施、システム運用等の委託先に対する定期的なセキュリティチェックの取り組み等、人的な対策も強化・推進しています。各国の個人情報保護またはサイバーセキュリティに関する法令・規制については、その動向を外部専門家とともに調査したうえで、当社規程等へ反映、社内へ周知する仕組みを運営することによって、法令・規制等への対応を進めています。

情報、製品、工場セキュリティの共通機能を統合し、複合的なサイバーセキュリティリスクおよびサプライチェーン全体への一元的・網羅的な対応を推進するため、PHDに「サイバーセキュリティ統括室」、各事業会社に「サイバーセキュリティ統括責任者」を設置し、サイバーハイジーン(平時の予防)とサイバーレジリエンスの戦略的な実行に向けて連携を図っています。詳細は「サイバーセキュリティ・データ保護」をご確認ください。

サプライチェーンマネジメント

当社グループは、グローバルで約13,000社の購入先様と取引をしています。近年、サプライチェーンにおける企業の社会的責任の要請は日増しに強くなっており、人権・環境分野を中心として各国・地域で新たな規制が制定、施行されるなどの法制化の動きにも表れています。当社グループでは「サプライチェーン・コンプライアンス規程」を制定し、サプライチェーン・コンプライアンスに関する基本方針や、その実践のための社内ルールについて定め、実践状況については定期的なマネジメントレビューを行っています。

また、購入先様には、順守いただきたいCSRの要請項目(人権・労働、安全衛生、地球環境保全、情報セキュリティ、企業倫理等)について、法令および国際規範・基準を踏まえた「パナソニック サプライチェーンCSR推進ガイドライン」を定め、その順守を契約書等で購入先様に義務付けています。購入先様には、当該ガイドラインの要求事項に関する二次以降の購入先様への伝達および順守状況の確認を要請することで、サプライチェーン全体でのCSRの徹底を図っています。さらに、サプライチェーンに対するデュー・ディリジェンスの一環として、購入先様に対し、ガイドラインの要請事項の順守状況をチェックシートに基づき自主精査するためのCSR自主アセスメントの定期的な実施とその結果に基づく是正を促すとともに、2023年度より、各事業会社がリスクベースアプローチで購入先監査実施計画を策定し、自社および第三者機関による購入先監査を開始しています。これらの取り組みによって、サプライチェーン全体でのCSRの徹底を図っています。詳細は「責任ある調達活動」をご確認ください。

▪2024年度PHD重要戦略リスク

また、オペレーション上のリスクマネジメントに加えて、当社グループでは、中長期的な事業目的の達成に向けた事業戦略の策定・意思決定に際して考慮すべき「機会」または「脅威」となりうる不確実な事象を「戦略リスク」と定義し、リスク許容度に応じた適切なリスクテイクを推進するリスクマネジメントを実施しています。

戦略リスクに関しては、事業戦略に影響する可能性のあるリスクについて、リスクシナリオから「機会」もしくは「脅威」、またはその両方になりうる事象の単位まで管理対象を細分化することにより、当該リスクを担当する機能部門を特定しています。当該事象に対しては、不確実性および発現した際の影響度の評価を行い、必要な事象については対応策を策定・実行し、それ以外の事象についてはリスク発現の予兆を捉えるための先行指標の設定および定期的なモニタリングの対象とし、外部環境の変化等に応じた適時の対応を講じることとしています。

戦略リスクのうち、グループ経営上重要な「PHD重要戦略リスク」に関しては、グループの目指す姿・ミッションの実現に向けてグループ横断的に取り組む必要性の観点で選定し、「機会」または「脅威」となりうる事象の単位へ詳細化を図っています。また、これらの内容については関係機能部門へ展開し、各部門の専門領域においてモニタリングおよび当該結果に基づき決定した取り組みを推進しています。

各事業会社においても同様に、それぞれの事業戦略に関連する戦略リスクの中から「事業会社重要戦略リスク」を選定し、マネジメントを行っています。

このように、当社グループでは、対象となる時間軸や影響の種類に応じたリスクマネジメントを推進することで、事業とリスクの一体的な管理に貢献し、事業競争力強化に結びつけることを目指しています。

気候変動・環境規制/サーキュラーエコノミーの進展

当社グループの掲げる「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」という使命において、気候変動を含む地球環境問題の解決は最優先で取り組むべき課題であると考えています。国際社会での環境規制・政策の導入・拡大が進み、企業の取り組みにも一層の加速が求められる中で、環境志向型の製品やサービスの需要や関連する新規技術・事業開発等の機会の活用を見据え、事業活動を推進しています。これらの取り組みにより、炭素税や排出権取引制度等のカーボンプライシングの導入、環境負荷の低い材質への切り替え等に伴う調達、製造コストの増加や、環境問題対策の遅れによる事業機会の損失といった脅威・損失の低減を目指します。

また、当社グループでは地球環境問題において、資源効率が脱炭素化に寄与するとともに、地球上の限られた天然資源の消費を削減することが必要であることを認識し、持続可能な社会の実現に貢献するため、2023年12月に当社グループの事業活動においてサーキュラーエコノミーを推進・具体化する上で共通の指針となる「サーキュラーエコノミーグループ方針」を策定しました。再生可能エネルギーの積極利用による企業価値の向上が図れる機会や循環資源を用いた低炭素製品の需要拡大等の機会、他方の循環資源(再生材・再利用原材料)の価格上昇・供給不足による生産コストの増大や生産の遅延の頻発・常態化等の脅威の両面に適切に対応し、事業拡大に向けて取り組みを強化します。詳細は「環境」をご確認ください。

地政学リスク・経済安全保障問題

国際情勢や各国・地域の政策・法規制の動向に関する継続的なモニタリングを通じて、当社グループにおける人命や事業への影響の把握および適時の対応に努めています。特に、当社グループが拠点を有する国・地域における有事または緊張の高まりに備えて、平時の安全対策や事業継続マネジメントを通したレジリエンス高度化の取り組みを進めています。

また、各国・地域間の対立や政権交代等のイベントに伴い起こりうる政治的・社会的混乱等をリスクシナリオとして特定し、当社グループの各事業に与えると想定される影響を分析することで、中長期的視点でのサプライチェーンの複線化や製品の地産地消も見据えた生産体制の点検・再構築、他社との提携等を通した事業戦略の最適化に取り組んでいます。

今後も、市場のデカップリングや各国の経済安全保障政策の強化、世論の対極化等に起因する事業環境の急激な変化について、事業に対する脅威および経済安全保障政策に基づく税制関連措置の活用等の機会も含めて引き続き注視していきます。

人材の誘引・獲得・維持(リテンション)

グループ共通の人事戦略として一人ひとりが心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて幸せと働きがいを感じている状態である「社員のウェルビーイング」の実現を掲げ、「安全・安心・健康な職場づくり」、「自発的な挑戦意欲と自律したキャリア形成支援」および「Diversity,Equity & Inclusionの推進」に取り組んでいます。また、専門性の高い人材の採用や育成を目的として、事業会社制移行後は各事業会社において独自の人材戦略および人事制度を導入しています。一部の事業会社においては、従来のメンバーシップ型マネジメントからジョブディスクリプション導入や公募による登用・配置を中心とするジョブ型マネジメントへの切り替え、また、係長クラス以上の異動・昇格について原則「公募型」の導入を図るなど、社員自らが自律的にキャリアを選択することのできる制度を取り入れています。一方で、有能な人材の確保をめぐる競争は激化していることから、今後も各国の人材・多様性・女性活躍推進等に関連する政策・法案の動向や競合他社の動向を注視していきます。詳細は「社員のウェルビーイング」をご確認ください。

AI(人工知能)の利活用に関するリスク

生成AI等のAIの急速な技術進歩および普及に伴う機会および脅威を見極めながら、当社グループにおいてもAIの利活用を段階的に拡大し、業務の生産性向上や新たなビジネスアイデア創出、事業競争力の向上を目指しています。

当社グループでは、AIの利活用に際し適時・適切な対策を講じるため、全事業会社のAI倫理の担当者に加えて法務、知財、情報、品質部門等の担当者が参画する「AI倫理委員会」を設置しています。2022年には責任あるAI活用を実践するため「AI倫理原則」を定め、AI開発現場でのAI倫理リスクチェックシステムの運用や、グループ全社員を対象とした「AI倫理教育」およびAI技術人材育成を推進しています。

グループ横断のAIガバナンス体制を強化しながら、AIの利活用に伴うプライバシー、セキュリティ、公平性および著作権の侵害等のAIの特性に起因する問題への対策や各国の法規制への対応を図り、AIの効果的な利活用や開発を加速していきます。詳細は「AI倫理」をご確認ください。

教育・啓発

当社グループでは、「パナソニックグループ リスクマネジメント業務規程」(以下、「業務規程」)を「基本規程」の下位規程として制定し、リスクマネジメントの推進に際しての標準的な手順について定めています。リスクの特定、評価、重要リスクの選定、対応策の策定・実行、モニタリングのプロセスの具体的な手順を定めることにより、当社グループで一元的なリスクマネジメントとその高度化を図っています。

加えて、各事業会社のリスクマネジメント責任者・担当者の実務にあたって、業務規程に基づく手引きを毎年更新・展開し、対象年度における重点的な取り組み事項やプロセスの改善点等に関して周知を図るとともに、実務者のスキルアップやプロセスの効果的な推進を目的とした情報提供、各事業会社との意見交換のための説明会を年に数回開催しています。

これらの取り組みと合わせて、日本地域では、従業員一人ひとりのリスク対応力を向上し、適切かつ健全なリスクテイクおよびリスクコントロールを志向する「リスクカルチャー」を醸成するため、入社時および海外赴任前の従業員を対象として、リスクマネジメントの基本的な考え方や危機発生時の対応等に関する研修を実施しています。

社内外からの相談・通報窓口

国内外の拠点やお取引先様が潜在的なリスクを報告できる仕組みとして、コンプライアンス違反や各種ハラスメント、調達活動等に関する問題を通報できるグローバルホットラインを整備しています。詳細は「企業倫理」をご参照ください。

BCM・BCPの方針

当社グループは、企業の社会的責任としての事業継続の必要性に鑑み、地震、津波、洪水等の自然災害(気候変動によって発生するものを含む)、火災・爆発事故、テロ・戦争、感染症の流行・拡大やサイバー攻撃等の発生に際しても事業活動を中断しないこと、また、万が一事業活動の中断を余儀なくされる場合においても必要な機能の早期の再開を実現するため、2005年以来、BCM(事業継続マネジメント)活動の推進・向上を図っています。

特に、災害・事故等が部品等の供給業者や製品納入先等といった当社グループのサプライチェーンにおいて発生した場合は、供給業者からの部品等の供給不足・中断といった影響に留まらず、BtoB分野においては、納入先における生産活動にも波及することから、サプライチェーンも含めたBCMを重要課題と位置づけ、取り組みを強化しています。

▪主な取り組み

当社グループでは「パナソニックグループ 緊急対策規程」を制定し、グループ全体に大きな影響を及ぼす可能性のある緊急事態が発生した際のエスカレーションおよび判断のプロセスを含む対応の基本方針、当該緊急事態への対応に際した体制および役割、初動対応等を定めています。また、優先的に復旧を図る事業や復旧プロセス等からなる事業継続方針、有事への対応、平時の防災・減災対応の3点を軸に「BCM構築ガイドライン(以下、「ガイドライン」)を設け、事業場単位での事業継続計画(BCP)に加えて、調達、物流、IT等の機能ごとにそれぞれ所管するサプライチェーン、物流網、ITセキュリティ等の内容に特化したBCPを策定するとともに、必要に応じガイドラインに基づくBCPの見直しを図っていくことで、グループ全体のBCP強化とレジリエンス向上を図っています。さらに、2022年度はガイドラインの改定を行い、内閣府の南海トラフ地震および首都圏直下型地震の最新の被害想定ならびにそれに対応した防災・減災対策を織り込むとともに、各機能におけるBCPとの連携を明確化するなど、実効性向上に努めています。

特に、自然災害リスク(地震・洪水・津波)に関してはハザード調査を実施し、各事業会社と結果を共有することで、自社およびサプライチェーンにおいて優先順位に基づいた対策を実施しています。加えて、当社グループでは、これらの自然災害の中でも当社グループの事業への影響が甚大であると想定される南海トラフ地震、首都圏直下地震をストレス事象とした影響分析を実施し、分析結果に基づき必要な対策の強化を図るとともに、当社グループにおける適切なリスク認識の構築、リスクコミュニケーションの強化に取り組んでいます。

また、平時における備えを強化するとともに、緊急時には迅速に緊急対応体制に移行できるよう、当社グループ全体で「防火・防災対策委員会」を設置しています。「防火・防災対策委員会」では、地震、水害等の災害の別に応じた対策強化を図っています。特に、過去の災害時には電力需給のひっ迫が生じたことも踏まえ、事業継続のための非常用電源設備等をBCPに取り入れています。また、2023年度にはグループ全体で各拠点の被災状況の適時の報告および一元化を可能とする「災害ポータル」の運用を開始しました。各拠点からの対応・支援要請およびグループ全体への影響を可視化することで、緊急事態体制移行の判断や初動対応の迅速化を図れるよう、本格的な活用に向けて各事業会社への周知およびさらなる機能改善を図っています。

さらに、緊急時を想定した訓練を毎年実施し、南海トラフ地震の発災に伴って関西地域を中心に甚大な被害が発生したとの想定に基づくグループ防災訓練を実施しました。各事業会社が被災地以外の場所で緊急対策本部を立ち上げる中で、グループ緊急対策本部も東京に本部を設置し、被災情報の整理、連携および支援要請等の初動対応を確認しました。合わせて各事業場でも所在地にある自治体と協力し、適宜防災訓練・避難訓練を実施しています。

なお、火災事故に対しては、火災リスクアセスメント、防火設備および消防用設備、自衛消防隊および消化活動、再発防止、自主点検、防火訓練、啓発、監査等について定めた「グローバル防火・防災規程」に基づき、事故発生防止と緊急時に備える取り組みを推進しています。