パナソニックグループでは、創業者 松下幸之助の「先憂後楽(せんゆうこうらく)の発想」「すべての事には萌しがある」「小さい事が大事に至る。萌しを敏感にとらえて憂慮しなければならない」などの考え方を継承し、リスクマネジメント活動を展開しています。

また、「世界的な視野に立って考え、全世界を対象に仕事を進める」方針に基づき、輸出活動とともに1961年から海外諸国への技術援助、海外工場の建設を積極的に開始したことを契機に、時に発現するリスクとも対峙しながら、早期より海外安全対策や緊急時対応をはじめとしたリスク・危機管理に関する取り組みを進めています。

方針

当社グループは、くらし事業、コネクト、インダストリー、エナジー等の幅広い事業を有しており、それぞれの事業活動に影響を与える可能性のあるリスクも多岐にわたります。当社グループでは、事業目的の達成に影響を与えるリスクに対して、適切な対策やリスクテイクを推進することにより、それぞれの事業が向き合う市場における事業競争力の強化、グループ全体の持続的かつ安定的な発展を実現することを目指しています。

リスクマネジメントの位置づけ

パナソニックグループでは、リスクマネジメントの実効性向上にあたり、組織におけるリスクに対する認識や行動様式としての「リスク文化」を大切にしています(後述の教育・啓発をご参照ください)。それに基づき、事業環境の変化への対応を適切に戦略やオペレーションに織り込むことを目指しています。

責任者・体制

当社グループでは、国際的なリスクマネジメントシステムの規格であるISO31000、リスクマネジメントの国際的なフレームワークであるCOSO-ERM(2017)等を踏まえた「パナソニックグループ リスクマネジメント基本規程」(以下、「基本規程」)に基づき全社的リスクマネジメントの体制・プロセスを構築しています。

グループのリスクマネジメントの最高責任者として、グループ・チーフ・リスクマネジメント・オフィサー(グループCRO)がグループにおけるリスクマネジメント推進を総括しています。また、リスクマネジメントの専任部門であるパナソニック ホールディングス(株)(以下、PHD)のエンタープライズ リスクマネジメント室(以下、「PHD ERM室」)がグループにおけるリスクマネジメントプロセス運用に係る実務を担っています。

また、グループCROを委員長、PHDの法務、人事、経理等の各機能部門のトップを委員とした「PHDエンタープライズリスクマネジメント委員会」(以下、「PHD ERM委員会」)を設置し、定期的に開催しています。PHD ERM委員会は、グループ経営に大きな影響を及ぼす可能性のあるリスクを中心に、リスクの変化や対策、それらを踏まえたリスクコントロールの状況を確認し、必要な場合は対策の見直しや徹底の指示を行います。

リスクマネジメント推進体制

基本的枠組み

当社グループでは、リスクシナリオの対象範囲や時間軸に応じたリスク管理を行う目的で、短期的な事業計画の遂行や日常的な業務遂行の中で「脅威」となりうる不確実な事象を「オペレーショナルリスク」、中長期的な事業戦略の遂行において考慮すべき「機会」または「脅威」となりうる不確実な事象を「戦略リスク」と定義しています。PHD ERM室では、年1回、外部・内部環境の変化や経営層のリスク認識等を踏まえて当社グループ全体に影響を与えうるリスクを特定しています。

特定したリスクのうち、オペレーショナルリスクについては、関連機能部門によるリスクの発生可能性および財務・非財務影響の二軸による評価結果に基づき、当社グループの経営及び社会的責任の観点で「グループ経営基盤リスク」・「グループ重要リスク」を決定し、必要な対策を行います。戦略リスクについては、リスク許容度に応じた適切なリスクテイクを推進するため、「PHD 重要戦略リスク」と位置づけた重要アジェンダのシナリオに基づき、「機会」もしくは「脅威」、またはその両方になりうる事象の特定・評価を行います。

事象の中でも、不確実性の低い事象については直ちに対策を行う対象とし、それ以外の事象については顕在化の予兆を捉えるための先行指標を設定することで、不確実性の変化に応じて対策を検討することとしています。PHD ERM室は、これらのリスクに対して、リスクの変化及び対応策の進捗に関するモニタリングを通して、リスクコントロールの有効性を確認しています。

PHD ERM委員会は、重要リスクや対策の進捗状況等を定期的にグループ経営会議及び取締役会に報告しています。また、PHD傘下の各事業会社にも「事業会社ERM委員会」を設置し、個社及びそれぞれの事業領域における重要リスクを中心としたリスクマネジメント活動を推進しています。これらの活動に対し、内部監査機能は重要リスクを中心としたリスクベースアプローチの監査を実施しています。

昨今では、企業の社会的責任(CSR)やSDGs、ESG等の社会的要請への取り組みの重要性に鑑み、これらの期待に応えられないことによるリスクに関する項目(人権・労働コンプライアンス、環境問題等)や自社の社会的な影響に関する評価要素(レピュテーション等)についても活動の枠組みに取り入れています。

リスクマネジメントプロセス

2025年度グループ重要リスク

* グループ経営基盤リスク…当社グループの経営・事業の基盤において、常に重要度が高いと想定されるリスク

リスク項目

リスクシナリオ

主な取り組み(参照先)

災害・事故*

  • 地震、津波、洪水等の自然災害、事業場火災等が発生し、対策不備や消火活動の遅延または合理的な想定を超える甚大な影響により従業員、設備、材料、完成品等が損害を被り操業中止、生産・出荷遅延及び設備等の修復費用が発生

コンプライアンス*

  • 重大なコンプライアンス違反行為(独占禁止法・競争法違反、贈収賄・腐敗行為等)またはその他のコンプライアンス問題に直面し、行政処分(課徴金等)、刑事処分または損害賠償訴訟の対象となる。また、当社グループの社会的評価に悪影響が及ぶ

「コンプライアンス」

情報セキュリティ・サイバーセキュリティ*

  • 営業秘密(技術情報等)、顧客等のプライバシーや信用に関する情報が、意図的な行為(サイバー攻撃等)や、従業員または業務委託先等の過失により外部に流出し、社会的信用が低下、損害賠償責任が発生

「サイバーセキュリティ・データ保護」

  • 情報システム、生産設備、製品・サービス等がサイバー攻撃の標的となり、業務プロセスの停滞や、製品・サービスの提供停止、それらに伴う損害賠償責任等が発生
  • 製品・サービスにサイバーセキュリティ上の脆弱性が発見され、大規模なリコールや、長期間の提供停止、多額の対策費用等が発生
  • サイバーセキュリティインシデントがサプライチェーン上で発生することで、原材料や部材の入手に支障が生じ、当社グループの製品供給が停止または遅延

品質*

  • 製品の欠陥による品質問題(不安全事故等)が発生し、損害(間接損害を含む)に対し、生産物賠償責任保険で補償しきれない多額の賠償責任、または対策費用を負担。また当社グループのイメージ・評判の低下や、顧客の流出等につながる

「品質向上と製品安全の確保」

テロ・戦争・暴動・政情不安

  • 当社グループまたはサプライチェーンの拠点がある国・地域で、政情不安、軍事的緊張、テロ・戦争等が起こり、事業継続への支障や、従業員や関係者の人命にかかわる事態が発生

労働災害

  • 職場作業環境や作業手順の不備、不適切な労務管理等により、重篤な事故等が発生し、従業員や関係者が肉体的・精神的被害を受ける

「多様な人材・組織のポテンシャルの最大発揮」

  • 労働関連法令(労働基準法、労働安全衛生法等)に違反し、刑事処分、行政処分、安全配慮義務不足に対する損害賠償訴訟等の対象となる。また、当社グループの社会的評価に悪影響が及ぶ

人権・労働コンプライアンス

  • 当社グループが当社グループおよび当社グループのバリューチェーン上で人権侵害行為を引き起こすまたは人権侵害行為への関与や加担に直面した場合、当社グループが行政処分(課徴金等)、刑事処分または損害賠償訴訟の対象となり、当社グループの社会的評価に悪影響が及ぶ。また、当社グループのイメージ・評判の低下、顧客からの取引停止、消費者不買運動等が発生

「人権の尊重」

2025年度PHD重要戦略リスク

リスク項目

リスクシナリオ

主な取り組み(参照先)

地政学・経済安全保障

[脅威]

  • 貿易摩擦に端を発する、米中をはじめとした国・地域間の対立や市場の分断、米国での政権交代に伴う貿易・経済関連の報復措置等を含む政策・法規制の不確実性の高まりにより、貿易規制・経済制裁や関税障壁が一層強化
  • 国家間・地域内の対立や武力行使等の激化に加えて、各国の政権交代や政策転換等に伴う政治的・社会的混乱の広がりにより、事業環境が急激に変化
  • 特に、米国での政権交代に伴う政策・法規制の変更に基づく追加関税の強化、EVに関連する義務化撤廃または補助金削減等によるEV普及率の鈍化により、車載電池関連事業に悪影響が及ぶ

[機会]

  • 各国の経済安全保障政策に基づく税制関連措置や補助金等の活用

環境問題・気候変動

[脅威]

  • 環境問題対策の遅れにより、欧州等の各国市場への事業進出機会の喪失や、取引の停止等が生じる
  • カーボンプライシング(炭素税、排出権取引制度等)の導入等にともなうエネルギー調達コストの増加、環境負荷の低い材質への切り替えによる調達・製造コストの増加
  • 循環資源(再生材・再利用原材料)の価格上昇や供給不足により、生産コストが増大、または生産が遅延
  • 米国IRA(インフレ抑制法)をはじめとする気候変動対策関連の法制度が廃止・縮小し、製品需要が見込みを割り込む

「環境」

[機会]

  • 環境政策・規制に対応した新規技術・事業開発の機会の拡大
  • サステナブル・エシカル消費等の意識変化による、環境志向型の製品やサービスの需要拡大
  • 再生可能エネルギーのニーズ拡大による高効率太陽電池等の新規市場開拓
  • 各国のエネルギー安全保障、気候変動対策関連の法制度に基づく税控除、補助金等の活用

人材の誘引・獲得・維持

[脅威]

  • 有能な人材確保に向けた取り組みが進まず、在籍している社員が流出、または経営戦略の推進に必要な人材が獲得できない

「多様な人材・組織のポテンシャルの最大発揮」

[機会]

  • 多様な人材の獲得・登用機会が増加し、当社グループの事業競争力が向上

AI(人工知能)の利活用

[脅威]

  • AIの効果的な利活用や開発が想定通り進まず、事業機会や製品・サービスの競争力が失われる
  • AIの利活用に伴って、プライバシー、セキュリティ、公平性や著作権の侵害、その他のコンプライアンス問題が発生し、当社グループのブランドイメージや信用が損なわれる

「AI倫理」

[機会]

  • AIの利活用による生産性向上、新たなビジネスアイデア創出、事業競争力の向上

教育・啓発

当社グループでは、従業員一人ひとりが適切なリスクリテラシーを持ち、健全なリスクテイクを志向する「リスク文化」の醸成に向けた取り組みを推進しています。入社時および海外赴任前の従業員を対象とした研修(日本地域)では、リスクを過度に恐れず、組織と個人の成長に繋げるために必要なマインドセットや、危機発生時の基本的な対応等を身につけることを目指しています。

企業の社会的責任の一環として、リスクマネジメントを通じ未来を担う若年層の成長に寄与することを目的として、社外(大学)の講座においても「組織と人の成長を支えるリスクマネジメント」と題した講演を展開しています。

社外(大学)での講演の様子

社内外からの相談・通報窓口

国内外の拠点やお取引先様が潜在的なリスクを報告できる仕組みとして、コンプライアンス違反や各種ハラスメント、調達活動等に関する問題を通報できるグローバルホットラインを整備しています。詳細は「コンプライアンス」をご参照ください。

BCM・BCP

当社グループは、自然災害、テロ・戦争、パンデミック、サイバー攻撃等の危機発生に際した事業継続を可能とする観点で、BCM(事業継続マネジメント)活動を通じたオペレーショナル・レジリエンスの強化に努めています。

当社グループでは、グループ全体に大きな影響を及ぼす可能性のある緊急事態が発生した際の対応の基本方針、体制および役割、初動対応等を「パナソニックグループ緊急対策規程」に定めています。また、当該規程に基づく緊急時の体制構築や連携の実効性を高めるため、毎年グループ防災訓練を実施するとともに、平時の防災・減災対策の強化にも取り組んでいます。

加えて、自然災害(地震・洪水・津波)に関してはハザード調査に基づいて、自社およびサプライチェーンでリスクベースの対策を実施しています。また、当社グループの事業への影響が特に甚大であると想定される自然災害として、南海トラフ地震、首都圏直下地震をストレス事象とした影響分析を実施し、分析結果に基づき必要な対策の強化を進めています。

さらに、グループ全体のレジリエンスの継続的な向上を図るため、有事の際に優先して復旧する事業の選定や事業復旧プロセスの構築等の考え方を示した「BCM構築ガイドライン」を展開し、各事業会社や拠点における事業継続計画(BCP)の策定や適切な見直しを促しています。