TNFD提言※1
この提言は、TCFD提言と同様に「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」の4つの柱で構成されており、企業による自主的なリスク・機会の特定および開示を求めています。
当社グループは、自然資本に関連するリスクと機会を重要な経営課題と位置付け、TNFD提言に基づき、これらのリスクと機会の特定および戦略のレジリエンス検証を進めています。また、シナリオ分析を活用し、事業の持続可能性に関する評価を実施しています。
※1 TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然資本への依存度や自然環境への影響を把握し、それらを適切に開示するための枠組みとして、2023年9月に提言を公開
一般要件
(1)マテリアリティへのアプローチ
本レポートでは、ダブルマテリアリティの考え方で、「自然資本が事業活動に与える影響」と「事業活動が自然資本に与える影響」を評価し、記載しています。
(2)開示範囲
本開示では、TNFD提言の4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、測定指標とターゲット)に沿った情報開示をします。当社グループの企業活動に加え、上下流のサプライチェーン全体を包含して分析を実施し、記載しています。当社グループ全ての製造拠点が関連する自然関連の影響について分析を行い、事業が関係する依存と影響についてはエレクトロニクスセクターとして分析しています。TNFDが推奨するLEAPアプローチ※2、およびシナリオ分析を用いて、リスクと機会を分析し、記載しています。
(3)地域ロケーション
企業活動を展開している地域を想定して分析し、記載しています。
(4)他の環境課題との統合
気候変動、資源循環等の環境課題との関係性を考慮しながら、分析し、記載しています。
(5)時間軸
短期を現在から3年まで、中期を2030年、長期を2050年として時間軸を定義しています。
(6)ステークホルダー・エンゲージメント
年次のサステナビリティデータブックの発行にあわせて主要メディアとの相互対話を行っています。また、自然資本に関する理解を深め、当社グループの取り組みに対する客観的な示唆を得ることを目的として、社外有識者と経営層との対話会を定期的に実施しています。
さらに、機関投資家とのエンゲージメントも継続的に実施しており、中長期的な企業価値向上に資するサステナビリティ戦略についての対話を重ねています。また、当社グループは事業の直接操業に関して、その用地およびその周辺地域で自然に及ぼす影響により間接的に影響を受け得るあらゆるステークホルダーの方々の人権に負の影響がないかをモニタリング、管理および是正できるプロセスの重要性を認識しています。当社グループは人権に関するすべての国際規範等を支持しており、自らのビジネス活動により影響を受けるすべての人々の人権を尊重し、その責任を果たすべく努力していくことが最重要であるという認識をしています。先住民族・地域社会・影響を受けるステークホルダーの実施状況の把握に努め、人権の尊重に関する取り組みを強化しています。詳細につきましては後段の「ガバナンス」をご参照ください。
※2 LEAPアプローチ
TNFDは、自然関連のリスクと機会を総合的に評価するプロセスとしてLEAPアプローチを策定しました。
LEAPアプローチは、事業と自然との接点の特定(Locate)、依存関係と影響の診断(Evaluate)、リスクと機会の評価(Assess)、そして自然関連リスクと機会に対応する準備と開示(Prepare)の4つのステップから構成されています。
ガバナンス
当社グループは、持続可能な社会の実現を目指し、生物多様性を含む自然資本関連の課題を重要な経営課題と位置付けています。これらの課題は、TCFD対応と同様の体制・仕組みに基づき、全社的なガバナンスのもとで管理しています。当社グループは、ネイチャーポジティブ(自然を回復させる取り組み)に貢献し、自然と共生する社会の実現に向けて取り組むうえで、当社グループの事業やサプライチェーンが自然に及ぼす影響により間接的に影響を受け得るあらゆるステークホルダーの方々(特に環境の悪化によって脆弱な立場に置かれやすい方々として、例えば、先住民族、地域コミュニティなど)の人権を尊重しています。とりわけ、ステークホルダーの方々が正確で適切な情報を得る権利、環境に関する意思決定に実効的に参加する権利(先住民族・地域コミュニティの自己決定権や強制移住の防止を含む)、実効性のある救済措置を受ける権利、およびこれらを支援・実現するためのエンゲージメントの実行については、特にその重要性を認識しており、対応の拡充を目指しています。
戦略
当社グループは、家電や住宅設備、製造・物流現場の機器・システム、モビリティ・社会インフラを支える電池や電子部品など、人々の暮らしやビジネスに貢献する製品・ソリューションを提供しています。これらの事業は、生物多様性、水資源、鉱物資源などの自然資本に大きく依存しています。
持続可能な事業活動を継続するためには、事業と自然資本の保護を両立させる経営が不可欠であると認識し、当社グループのバリューチェーンにおける自然関連リスクの特定と評価を進めています。
2024年には、ENCORE※3およびLEAPアプローチを活用し、当社グループ全体の事業を対象に、自然との関係性と優先度を定性的に評価しました。この評価では、調達、製造、使用、廃棄の各段階を対象とし、製造については「くらし」「コネクト」「インダストリー」「エナジー」「その他」の事業会社別セグメントに分類し、さらに主要製品の特性ごとに再分類して分析しました。今後も対象事業の内容を精査し、評価方法の改善を継続することで、より高精度な評価体制を構築していきます。
※3 ENCORE (Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure):国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCSC)等が開発した、自然資本に対する企業の「依存」と「影響」を体系的に可視化するツール。TNFDガイダンスや環境省から推奨されており、企業が自社の操業や取引先の原材料調達などが自然への依存とインパクトを確認することができる。
■依存ヒートマップ
当社グループのバリューチェーンの実態に合わせ、生態系サービスへの依存度を「Very High」、「High」、「Medium」、「Low・Very Low・N/A」の4カテゴリーで分類したヒートマップを作成しています。ENCOREを用いたスコアリングの結果、多くの事業セグメントで水資源(表流水、地下水)の依存度が高いことが明らかとなりました。
生態系サービスへの依存に関するヒートマップ
■インパクトヒートマップ
同様に、生態系サービスへの影響度についても「Very High」、「High」、「Medium」、「Low・Very Low ・N/A」の4カテゴリーで整理したヒートマップを作成しています。分析の結果、多くの事業セグメントにおいて、GHG排出、水利用、陸域生態系の利用、廃棄物、土壌汚染、水質汚染に関する影響が高いことが明らかとなりました。
生態系サービスへの影響に関するヒートマップ
■自然観点での優先地域の特定(Locate)
当社グループのすべての製造拠点を対象に、TNFDが定義している要注意地域に該当する拠点の特定を行いました。
TNFDで紹介されている分析ツールやデータベースを組み合わせて分析を実施し、「生物多様性の重要性」、「生態系の十全性」、「生態系サービス供給の重要性」「水の物理的リスク」の4つの判断基準について、各製造拠点のスコアを確認し、要注意地域を特定しました。例えば、水の物理的リスクについて、要注意地域に位置する拠点は全体で54%を占めていることを特定しました。今後、当社グループの事業としての重要性を考慮した上で、TNFDが推奨している優先地域を特定します。
全製造拠点を対象とした要注意地域の特定
なお、水資源に関するLocate分析についてはこちらに詳述しています。また、鉄資源の生態系への影響については定性的な分析を進めています。
■シナリオ分析に基づくリスクと機会の特定
リスクと機会の特定
当社グループは、事業活動が自然資本(生態系サービス)に与える影響と依存度を深く認識しており、これらに関するリスクと機会への対応を経営の優先事項としています。この取り組みの一環として、自然関連リスクと機会を特定するため、TNFD提言に基づいたシナリオ分析を実施しました。2050年を見据え、「生態系サービスの劣化」と「市場原理と非市場原理の一貫性」という2つの軸で構成されるTNFD提言の4つのシナリオ(象限)を分析しました。その結果、発生確率とリスクの大きさの観点から特に重要であると判断した以下の2つのシナリオを採用し、詳細な分析を進めています。
・自然保護推進(NP)シナリオ
自然環境の保護と再生が積極的に進み、自然資本が回復する世界を描いています。具体的には、生物多様性の回復を目指すGBF(グローバル生物多様性枠組み)の2050年ビジョン「自然と共生する社会」に沿ったシナリオであり、気候変動シナリオにおける1.5℃のシナリオに相当します。
・自然衰退シナリオ
ネイチャーポジティブへの国際的な協調が進まず、その結果として自然資本や生物多様性が大幅に失われる世界を想定しています。気候変動シナリオにおける4℃上昇の世界に相当し、自然環境の劣化が加速する状況を描いています。
具体的な分析においては、製造業のバリューチェーンを「上流」「直接操業」「下流」の各事業範囲、および各事業会社の事業分野を対象に、選択した2つのシナリオがもたらす具体的な事象を抽出しました。これらの事象が、財務的および事業的にどのようなインパクト(リスクと機会)を持つのかを整理しています。影響の大きさや発現頻度、そして影響が発生する時間軸を考慮し、リスクと機会の相対的な評価を実施しました。この評価結果に基づき、リスクの影響を最小化し、機会を最大化するための具体的な対応策を検討しました。対応策の検討にあたっては、既に実施している取り組み、現在の検討状況、そして今後の計画を総合的に考慮しています。
4つのシナリオと世界観
■バリューチェーン上流でのシナリオ分析
上流の分析では、自然との関係性が強い資材の調達に関連する事象が多く特定されました。
自然環境の保護・再生が積極的に進むシナリオでは、環境負荷の低い原材料の採用義務化や利用規制の強化により、資材調達の不安定化や違法調達への責任追及、訴訟・損害賠償リスクの増加による事業価値の低下、ブランドイメージ毀損の可能性が示唆されます。一方、自然環境の劣化が進み、社会の関心も低下するシナリオでは、気候調整力や保水力の低下に伴う風水害の激甚化や浸水被害による資材調達の不安定化がリスクとして挙げられます。これらのリスクに対応するため、上流拠点の適正な分散配置、最新規制動向の把握、サプライヤーとの協力体制強化が必要であると認識しています。
リスク・機会および対応策(上流)
■バリューチェーン直接操業でのシナリオ分析
直接操業の分析では、自然との関係性が強い資材を用いた製造に関連する事象が多く特定されました。自然環境の保護・再生が進むシナリオでは、環境負荷の低い原材料の採用義務化や利用規制の強化により、事業の停滞や中断のリスクが生じる一方で、低環境負荷製品・サービスへの需要増加に伴い、事業の適正な提供と生態系への貢献を明確に発信する必要性が示唆されます。また、自然や生態系へのポジティブインパクトを与える製品・サービスの提供や、使用済み製品の回収・再資源化、リファービッシュの促進といった循環型ビジネスモデルへの転換が求められます。これらに対応するため、戦略的・計画的なリソース配置、設備投資に加え、低環境負荷の製品設計・製造・分離技術の開発が必要であると認識しています。一方、自然環境の劣化が進行するシナリオでは、気候調整力や保水力の低下により、風水害や浸水被害が増加し、資材調達や操業の不安定化リスクが高まることが懸念されます。
リスク・機会および対応策(直接操業)
■バリューチェーン下流でのシナリオ分析
下流の分析では、使用済み製品の回収・再資源化やリファービッシュに関連するリスクが多く特定されました。自然環境の保護・再生が進むシナリオでは、循環型経済やリサイクルに関する規制強化が想定され、製品の設計・製造・分離技術の開発・導入、ライフサイクル各段階での原料使用量や廃棄物発生量の測定・評価体制の整備が必要です。また、企業間連携の強化(共同開発・実証、サービス提供、パートナーシップ構築)、および生態系保全・再生を可視化するソリューション技術の開発が求められます。
一方、自然環境の劣化が進行するシナリオでは、希少鉱物資源を主要原料とするデバイスや電池事業において、生態系保護との両立が大きな課題となります。そのため、最新の規制動向の把握、法定基準を上回る自主基準の策定・管理、定期的な検査・審査体制の構築が必要です。
さらに、これらの取り組みやその成果を適切に発信することも重要であると認識しています。
リスク・機会および対応策(下流)
リスクと影響の管理
当社グループは、生物多様性を含む自然資本関連の課題を気候変動と同様に重要な経営課題と捉えています。これらの自然関連リスクと影響についても、TCFD対応と同様に全社的なリスク管理体制に統合し、特定したリスクの影響低減および機会の拡大に努めています。
指標と目標
当社グループでは、長期環境ビジョンPanasonic GREEN IMPACTのもと、バリューチェーン全体の環境負荷の低減に貢献するため、自然資本の保全に関連するリスクの低減と機会の拡大を目指した目標(資源に関する数値目標および生物多様性や水に関する定性的な目標)を設定し、目標達成に向けた取り組みを推進しています。今後も、グローバルでの環境保全活動や、事業活動を通じて、新たな指標と目標を設定することで自然資本の保全につながる取り組みを推進していきます。