独立型ソーラー発電システム
「パワーサプライステーション」で、
クリーンな電力をみんなに
インドネシア西ジャワ州 バンジャルサリ村の小学校
インドネシアの離島や山間部の小学校に、初めて明かりが灯りました。黒板や教科書がよく見えるようになり、デジタル機器を使った教育を受けられるようになった子どもたちは、生き生きと勉強に励んでいます。東南アジアの電力インフラが整っていない地域に電気を届けているのは、パナソニックの太陽光パネルと蓄電池を活用した独立電源パッケージ「パワーサプライステーション」。クリーンな電力を提供するだけでなく、教育や医療、生活環境の改善など、さまざまな効果を生んでいます。
貢献する主なSDGs(持続可能な開発目標)
目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
電力供給に課題のある国や地域で、ソーラー発電・蓄電システムをコンパクトにパッケージ化した「パワーサプライステーション」を設置することにより、クリーンな電力にアクセスできる環境をつくっています。

関連するその他のSDGs





電力にアクセスできない11億人に電気を届けて、地域に新しい価値を生み出す
世界には、電気にアクセスできない人びとが約11億人もいます。アジアでは約4億人、アフリカでは約6億人が、電気のない生活を送っています。無電化地域には、さまざまな課題があります。例えば、電気の代わりによく使われる灯油ランプによって、CO2の排出のほか、煙による健康被害や火事、高い燃料費による家計への圧迫などが起きています。しかし、それでもなお、人びとは明かりを必要としているのです。
パナソニックの社内カンパニーであるエコソリューションズ社では、こうした地域にクリーンな電気を届けることによって、生活環境の改善や教育の充実、雇用創出、経済力向上、地域活性化といった価値を創造して、持続可能な地域社会づくりに貢献したいと考えています。そこで、2012年頃からプロジェクトを立ち上げ、当社の太陽光発電や蓄電技術を活かして、どんな環境でも運搬や設置がしやすい発電設備の開発を進めました。それが、2014年に誕生した「パワーサプライステーション(以下、PSS)」です。
PSSは、高効率な太陽電池パネルHIT®(最大発電量3kW)と蓄電池(総蓄電容量17kWh)をパッケージ化した独立電源システムです。当社工場で品質管理された本体ユニットがコンテナやキャビネットの中に収められているので、非常にコンパクトで、運搬や設置が省力化されます。また、内蔵された電力需給管理システムによって、蓄電量をモニターし需給コントロールを行うため、現地での維持管理も軽減され、山間部や島しょ部などのアクセスが難しい地域でも、普及しやすい設備です。これまでインドネシアやミャンマーで導入しており、さまざまな地域のニーズや課題を踏まえながら、求められる性能や設備のあり方、導入や管理の方法、コミュニティとの関係づくりなど、試行錯誤を重ねながら取り組んでいます。

エナジーシステム事業部
パワー機器ビジネスユニット 主幹

ミャンマーの子供

カリムンジャワ島の小学校
インドネシアやミャンマーの村で、教育や医療、生活に変化が
PSS事業を行っているインドネシアは、約13,000島からなる島国です。2016年現在の電力未利用人口は9%ですが、離島や山岳地帯を中心に無電化の課題を抱えています。2014年度より在インドネシア日本国大使館の「草の根・人間の安全保障無償資金協力(ODA)」事業に採択され、以後これまで4地域でPSSを展開しています。
そのうちの一つスンバワ島のララ・ロンゲス村には、電力供給と生活用水の課題がありました。井戸水の水質は悪く、井戸の枯渇問題などもあって、水を安定的に確保できていませんでした。村には、ディーゼル発電機による不定期の電力供給しかなかったため、PSSのソーラー発電で、ヤマハ発動機株式会社の浄水システム「クリーンウォーターシステム」を稼働させました。これによって、村人はきれいな水をいつでも安定的に使えるようになりました。さらに村の水管理組合が、周辺地域への浄水販売も計画しており、村の収入源やメンテナンス資金の確保につながっていくことも期待されています。

清潔な飲料水と電気を届ける
もう一つのプロジェクト地であるミャンマーは、ASEAN諸国の中でも無電化率が最低水準で、約68%と言われています。無電化地域のインマジャウン村で、生活向上支援に取り組むタイのMFL財団と連携して、PSSを導入しました。この事業は、三井物産株式会社がMFL財団の活動主旨に賛同し、拠出した寄付金をベースとして実現したものです。
インマジャウン村は、ミャンマー中部に位置する約140戸の集落です。この地域には、致死性の猛毒で知られるラッセルクサリヘビなどが生息しており、特に夜間歩いている時に毒ヘビに噛まれて、亡くなったり、歩行が困難になったりする事故が頻発していました。PSSによって村にLED街路灯が灯り、夜間でも安心して歩くことができるようになりました。また、毒ヘビ用の血清を冷蔵庫で保管できるようになり、インマジャウン村だけでなく周辺の村にも提供できるので、地域全体の安心につながっています。

きれいな水で乾杯

明かりが灯った
カギは、地域に適したアプローチと持続的な取り組み
世界のさまざまな地域に電気を届けるにあたっては、現地の状況や特性、運搬や設置するまでの条件をしっかり踏まえなければいけません。例えば、インドネシアのような島しょ国とアフリカのような大陸では、輸送に対するアプローチが異なります。また、電化が比較的進んでいる国と、ほとんど進んでいない国とでは、電気の利便性や使い方に対する人びとの認識・知識量も違います。何も知らない状態から電気を使う場合は、リスクも大きくなります。
PSSを試験導入したある地域では、こんなことがありました。今まで電気のなかった村に導入して1カ月後に訪れてみると、村中に扇風機や電灯が増えていたのです。さらには家庭用蓄電池まで使って勝手に電気を溜めるなどした結果、想定をはるかに超えた使用量となりシステムダウンしていたのです。あらかじめ使用量や使用方法の説明はしていましたが、より丁寧なケアが必要だと感じました。
電気を届けるということは、単純に商品を持っていくというだけでなく、設置前の現地での調査やコミュニケーションに始まり、設置後のフォローアップまで、非常に長いスパンで持続的に活動する必要があります。そのためにも、現地に根づいて活動するNGO/NPOや現地日本国大使館、技術面を担うシステムインテグレータなどの協力を得ながら、地域コミュニティと密に連携をしていくことが大切です。現地パートナーとともに活動することで、地域の人びととのより良いコミュニケーションが生まれ、課題や必要なソリューション、効果的な方法や仕組みを一緒に考え、地域に密着した技術的なサポートを行えるのです。

ワカトビ諸島の村
社会課題解決に加えて、ビジネスの広がりにも。
PSS事業から見える効果と課題とは
世界各地にクリーンな電力を届けるという理想を掲げるPSS事業は、まさに「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を実践する取り組みです。さらに、電気が使えるようになることで、教育や医療、安全な水へのアクセスなども改善しており、さまざまなSDGs目標に貢献しています。長期的には、産業育成を通じた貧困撲滅にも活用の可能性があると考えています。
また、社会課題の解決ということに加えて、当社のビジネスにも良い影響があります。例えば、インドネシアでは元々ソーラーパネル販売事業を展開していますが、PSS事業がブランドイメージの向上や広告効果につながっています。またPSSは発電量や使用量などのモニタリング、データ蓄積ができるようになっているので、蓄電池の消耗や商品寿命、メンテナンスなどに関わるデータを回収して分析をし、製品開発やマーケティングに役立てています。
一方で課題も見えてきました。PSSの強みはコンパクトさですが、それでも総重量1トンはあるので、もっと分解してコンパクトさを追求したいと考えています。また、パッケージ化され現地に導入しやすいことが大きな魅力ではあるのですが、ユーザーは完成したところから利用し始めるわけです。現地に部品を持ち込んで組み立てる従来型の他製品との差別化を図るためにも、完成品としての性能を向上させていくつもりです。

電力に課題のあるすべての地域に。
広がるアイディア、期待される産業育成
PSS事業を進める中で、電気の使い道について新たなニーズやアイディアも生まれています。プロジェクト地の人々からは、例えば収穫した農作物や水産物を、機械で乾燥させたり加熱したりできないだろうかといった声が寄せられています。また、観光や銀行などサービス事業者においては、地方へ事業を拡大したいが、電力供給に課題があるというケースもあります。このような地域産業の六次化や、より大規模な産業用途にも活用していけるのではないかと考え、さまざまなビジネスユーザーにアプローチをしているところです。無電化地域や貧困地域だけでなく、電気はあっても課題があるような地域では、例えば再生可能エネルギーの発電システムや電力安定化システムとして、PSSは貢献できるはずです。電力に課題のある地域に、広くアプローチしていきたいですね。
今後もさまざまな地域に事業を広げていくには、各地域の状況やニーズを適切に把握し、持続的なフォローアップを行うことが欠かせません。また、電気の使い道についても、それぞれの地域ならではの新しい発想をすくい上げたいと思っています。そのためにも、NGO/NPOやシステムインテグレータなど現地で活動するパートナーとの連携を強化して、オペレーションを移管していくような体制が必要でしょう。
PSSは、コンパクトで現場に運びやすいことで、電力普及に大きく貢献できるソリューションです。今後は、PSSのさらなる小型化やリチウム電池の活用なども念頭に置きながら、完成形をつくっていきたいと思います。技術向上やビジネスモデルの確立、資金投資など、取り組むべきハードルはまだまだありますが、アジアだけでなくアフリカなども視野に入れて、世界に広げていきたいです。
なお、今まで述べてきたPSSの事業活動に加えて、パナソニックは2018年に創業100周年を迎えたのを機に、企業市民活動としても、「無電化地域ソリューション」プロジェクトを立ち上げ、世界の無電化地域への太陽光発電・蓄電システムの寄贈のほか、電力に関する啓発教育、人材育成などに取り組んでいます。
