健康と環境に配慮した食事「フレンドリーメニュー」で
意識を変え、行動を変える

2025.12.3

社員食堂のメニューのそばに置かれた一枚のポップ。健康と環境に配慮した、「フレンドリーメニュー」とうたう一品が、パナソニックグループの社員食堂で提供された。期間は2025年10月1日~31日、環境に配慮した工夫を取り入れたメニューは71拠点で、1万7411食が喫食された。畜産品との比較で温室効果ガス削減の効果がある「大豆ミート」を使うメニューは全ての拠点で、持続可能な養殖海藻として注目を集める「シーベジタブル」の海藻を使うメニューは31拠点で実施。もちろん、それらは食塩相当量や野菜量に配慮した栄養バランスのよい食事だ。

食育と環境活動を掛け合わせたこのイベントは、パナソニック健康保険組合の健康パナソニック推進部とパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社(以下、PEX)の企業市民活動推進部が主導したもの。グループ共通のフレンドリーメニューの開発には不二製油株式会社と合同会社シーベジタブルの協力を得て、期間中に合計5565食を提供した。身近なところから地球環境を意識する「小さな貢献」が各地の社員食堂で展開され、従業員の意識向上に働きかけている。

いつもの食事シーンで、社会課題と向き合う

パナソニックグループは環境施策「Panasonic GREEN IMPACT」(以下、PGI)を掲げ、2050年に向けて「3億トン以上のCO2削減」を目指している。この中で挙げる「+INFLUENCE」には、多くの人を巻き込み、一人ひとりの行動変容、環境意識の向上に貢献していく一つの軸として企業市民活動が位置付けられている。フレンドリーメニューは、まさにその入り口。食事を選ぶタイミングでふと手を止め、環境に配慮した選択を考える、そうした行動変容のきっかけとなる。

各拠点では、事業マテリアリティとして地球環境問題への貢献を目指し、日々、従業員は仕事に向き合っている。一方で、個人の活動を問われれば「どう関わればよいのか、なかなか難しい」と語る人も少なくない。フレンドリーメニューの特長は、一皿を選ぶだけという気軽さ。食事を通じて環境活動に参加ができる。

また、イベント当日だけでなく後日に「そういえば、あの日に食べたな」と、もう一度振り返ってもらえるよう、今回はその成果の見える化が図られた。大豆ミートを使った共通フレンドリーメニューの喫食数(3183食)を集計し、トータルの温室効果ガス排出量(CO2換算)削減効果を従業員にフィードバック。フレンドリーメニューの選択が積み重なり「自動車が1万6306kmを走った場合の温室効果ガス排出量を削減」と具体化して結果を報告した。

※ 削減量の算出は、一般社団法人サステナブル経営推進機構が実施


キーワード❶「関心を行動に」

PEX企業市民活動推進部 執行 修司

今回のメニューに使ったシーベジタブルは、パナソニック ホールディングスの技術部門が協働実証契約をしています。報道番組でも取り上げられている新しい食材で、パナソニックグループは技術連携によってネイチャーポジティブへの理解と行動変容を促進しています。地球環境の変化とともに、こうした食材への注目度もアップしていると感じます。

企業市民活動の視点で食のテーマを考えると、そこには気候変動やバーチャルウォーター、資源循環、人権問題など幅広い分野が含まれます。ただ、従業員にアンケートをとってみると「関心はあるけども、行動できていない」と感じている人が多数。個人では参加の方法に迷うこともあると思いますが、そこに障壁の少ない場をつくるのが、フレンドリーメニューです。まずは選んでもらうこと、この行動と環境配慮への理解の積み重ねが、大きな効果になると考えています。


ヘルスリテラシーとフードリテラシー

パナソニックグループでは、2001年に会社、労働組合、健保組合の三位一体で健康づくり活動「健康パナソニック」を打ち出し、2012年から社員食堂でグループ共通の健康イベントメニューの提供を開始。2019年からの健康パナソニック活動は、従業員のヘルスリテラシーの向上と適正な生活習慣の実践につなげることを目指して活動している。

長年にわたるグループの全体活動で、健康づくりは少しずつ社内に広がり、運動や食事などの生活習慣を改善する意識は着実に向上。2024年からの健康パナソニックでは、将来を見据えた「健康への自己投資」と「自然に健康になれる環境づくり」をテーマに活動を推進しており、あわせて啓発しているのが、健康的で地球環境に配慮した行動だ。

2021年の東京栄養サミットで、日本政府は「イノベーションやデジタル化の推進、科学技術も活用しながら、栄養と環境に配慮した食生活等を推進し、栄養状況を改善する」とコミットメントした。これを受け、健康パナソニック推進部はPGIを掲げる当社グループならではの施策として「健康と環境に配慮したメニュー」を企画。各地の社員食堂は委託給食会社がそれぞれのメニューを考案しているが、そこに健康と環境を共通テーマとする食育イベントを呼びかけた。

料理を目にしたとき「この料理の食材は、どこからきてどこへいくのか」といった思いが自然とわいてきたり、フードロスを意識して食材や料理を選んだり。そうした「フードリテラシー」の向上も、フレンドリーメニューの狙いだ。フレンドリーメニューは初年度の2024年は65カ所の食堂で実施、2年目の今回は71カ所へと拡大している。


キーワード❷「健康×環境の時代」

パナソニック健康保険組合 健康パナソニック推進部 管理栄養士 岡田 有紀

グループ全体活動としての健康イベントメニューは2012年から実施していますが、当初は約40拠点から始まりました。各拠点の食堂では栄養バランスを考えながら、毎日バラエティー豊かなメニューが提供されており、健康イベントメニューの実施にはそれぞれの委託給食会社との協力関係が欠かせません。その意味で今回、71拠点まで拡大したことには手応えを感じています。これからはさらにグループ全体での実施を広げていきたいと考えています。

近年は健康経営が広がり、食生活改善セミナーなど、私たちが講演に立つ機会も増えています。セミナーなどを受講し、実践意欲が高まっている従業員がすぐに実践できる環境作り、従業員への食育と社員食堂での環境整備を同時に推進することを心がけています。私が活動の一番の軸と考えるのは継続すること。健康的な食事には「野菜をたくさんとる」「減塩」といった定番のテーマがありますが、そこに「環境」をプラスして発信を続けていきます。


大豆ミートの工夫、シーベジタブルとの出合い

フレンドリーメニューの共通メニューのうち3種で採用した大豆ミートは、低脂質高たんぱくであることや環境負荷低減への期待などから、肉の代替として期待が高まっている食材。管理栄養士によると「実は大豆ミートは冷凍ギョーザなどの加工食品に使われているため、意識しないうちに口にされている方が多いと思います。しかし、まだ多くの人にとってなじみがない食材なので、『大豆ミートを使っています』と明言すると、敬遠されるかもしれない」という。また、シーベジタブルの海藻は給食現場では普及していない食材のため、委託給食会社の導入へのハードルがやや高い印象であったという。

こうした課題を克服したのは、大豆ミートを題材とした意見交換会(勉強会)の実施と、コラボレーションした不二製油株式会社、合同会社シーベジタブルとの連携によるもの。大豆ミートがおいしく食べられる調理の工夫や人気のあるメニューのリメイクなど手に取りやすい工夫が凝らされている。もう一つ、実施の採否を左右するのが、複雑すぎない調理、提供がしやすいオペレーションの視点だ。サンプル品とともにレシピを添えて各拠点に送り、委託給食会社に検討を呼びかけた。

共通メニューの4種は「大豆ミートと豚ひき肉の麻婆なす」「大豆ミートと牛肉のトマト煮」「野菜たっぷり大豆ミートと豚肉の酢豚風」「白身魚のフライ 青のりタルタルソース(シーベジタブル)」。フレンドリーメニューの提供日、食堂では料理のポップやのぼりとともに「プラントベースフードってなに?」「海藻が減ってる?」と環境問題を問いかけるポスター類が掲示された。


キーワード❸「素材を生かすスキル」

パナソニック健康保険組合 健康パナソニック推進部 管理栄養士 五十嵐 栞奈

実施食堂で聞いた声で印象に残っているのは「大豆ミートに興味を持ってもらうきっかけになった」「大豆ミートに気が付かなかった」「大豆ミートとは思えないおいしさだった」という反応です。それくらい自然に、健康と環境に配慮した食事をとっている。それがフレンドリーメニューの特長です。給食現場では旬の食材や地産品を活用したり、曲がったキュウリなどの規格外品を採用したり、さまざまな環境配慮が進んでいます。こうした工夫もポップなどを活用し、従業員に啓発していきたいと思います。

大豆ミートを社員食堂で普及させる上で、大豆ミートのシェアNo.1である不二製油株式会社の方へ、勉強会の講師と共通メニューの考案を依頼しました。調理法や味付けの工夫により、風味も食感も肉と遜色なく、素材を使いこなす調理法の研究には驚かされました。また、シーベジタブルについてもサンプルをきっかけに多くの食堂で利用いただき、「いつものメニューよりも彩りがよくなった」「香り高くいろいろなメニューに合う」などの声をいただきました。今回の反響を分析しながら、また給食現場の声も集めながら、健康と環境に配慮した次のメニュー作りに取り組んでいきます。


社会課題と向き合い続ける、パナソニックの理念

フレンドリーメニューの訴求は、CSRの活動(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の初めの一歩。一人ひとりが社会課題に目を向け、そうした意識が事業を通じた製品やサービスに宿り、課題解決へと結びついていく。

PEX企業市民活動推進部の執行は「企業市民活動からさまざまな社会問題に気付き、ひいては、CSV(Creating Shared Value:社会課題の解決と経済的価値向上の同時創出)につながっていくこと。それは、松下幸之助創業者の掲げた『事業を通じて人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する』という理念の実践につながると信じています」と語る。

フレンドリーメニューの効果も、1回の企画には終わらない。パナソニック健康保険組合 健康パナソニック推進部の岡田は「今回は採用に至らなかった拠点も、シーベジタブルの海藻を知り、興味を持っていただけたかもしれません。また、大豆ミートの料理が好評だったことから、通常のメニューにも使ってみたいという声も出てきています」と波及効果に期待を寄せる。

健康的な食生活の実践、環境配慮の意識拡大と行動変容へ。フレンドリーメニューを通じた両輪の施策は、さらなる拡大を目指している。

(記事の内容は掲載時のものです)