ーー今回はタイプのちがう、3つのテレビリモコンを持ってきていただきました。
内山さん
テレビは小さなお子様からおとしよりの方まで親しんでいる家電です。
パナソニックでは、そんなみなさんが快適(かいてき)にテレビの操作をできるように、UDを考えてリモコンをつくっています。わたしからは2つのリモコンを紹介(しょうかい)します。
音声対応リモコンは、リモコンに付いたマイクに向かってキーワードを話しかけることで、ネット動画やテレビ番組をさがしたり、音量やチャンネルを操作したりできるリモコンです。
テレビで楽しめる機能(きのう)がどんどんふえるにしたがって、ボタンの数もふえました。問題なく使える人もいますが、使いづらいと思う人もいます。リモコンの操作が複雑(ふくざつ)で面倒(めんどう)にならないようにするにはどうしたらいいか。それに対して「声で操作する」という手軽な方法でこたえたリモコンです。
もうひとつのかんたんリモコンは、テレビ放送を見ることに機能をしぼったリモコンです。こちらはボタンの数をへらすことによって、おとしよりの方などが、まようことなくチャンネルや音量を操作できる、シンプルなリモコンです。
かんたんリモコンには音が聞こえづらい方のために、音質(おんしつ)を補正(ほせい)して聞こえやすくする機能「きこえサポートモード」をつけています。この機能にはパナソニック補聴器(ほちょうき)のノウハウがいかされているんです。
音声対応リモコン(音声操作マイク付):
当社大型テレビの上位機種に付属(ふぞく)される音声操作に対応したリモコン。(対応機種:EZ1000、EZ950、EX850、EX780、FX750(2018年2月現在(げんざい))
かんたんリモコン:
パナソニックの専門(せんもん)店のみで販売(はんばい)される一部のテレビにセット販売。(TH-EX850シリーズ60V・55V・49、TH-43FX750・43Vのみ)
下畦さん
わたしが紹介するレッツ・リモコンは、おとしよりや体に不自由のある方がかんたんにチャンネルや音量を変えられるように、かんたんリモコンよりもさらに機能をしぼったリモコンです。
たくさんのボタンがついたリモコンでは操作がむずかしい方、テレビを「きく」ことで情報(じょうほう)をえる目の不自由な方たちがいます。そのようなみなさんがだれかにお願いすることなく、自分で気がねなくテレビを楽しめる。そんな「自分のことは自分でしたい」という気持ちにこたえるリモコンです。
レッツ・リモコンには2つのタイプがあります。おとしよりや目の不自由な方向けのレッツ・リモコンSTと、手指が不自由でボタンを押(お)せない方向けのレッツ・リモコンADです。
また、UDは「できるかぎり多くの人に使いやすいもの」をめざしますが、それはひとつのもので実現(じつげん)しなければいけないわけではありません。
おとしよりや体に不自由のある方向けに使いやすくしたレッツ・リモコンが、テレビのリモコンの品ぞろえに加わることで、「色々な種類のものを用意してその人に合ったものを選べるようにする」というUDを実現するためのひとつの役割(やくわり)をはたします。
——UDや使いやすさの心配りは、
具体的にどのように製品(せいひん)にいかされていますか?
内山さん
音声対応リモコンの「声で操作できる」機能のほかに、音声対応リモコンもかんたんリモコンも、押しやすいボタン、見やすい文字、わかりやすいボタンの配置、持ちやすさなど、細かいところまで工夫しています。
①わかりやすく押しやすい大きなボタンと大きな文字。
②おとしよりでも見やすい、パナソニック独自(どくじ)で作ったUDフォント(字体)。
③同じ分類のボタンは1カ所に集めたレイアウトで、ムダな操作を不要に。
④基本(きほん)の操作ボタンの位置は変えず、新しい機能のボタンをサイドにレイアウトしてわかりやすく。
⑤音声操作マイク付き。リモコンのマイクに向かってしゃべるだけで、かんたんに見たいネット動画やテレビ番組をさがしたり、音量やチャンネルを操作したりできます。
⑥カラーユニバーサルデザイン公式認証(にんしょう)の4色カラーキー(色の区別がしにくい人にも色の差がわかる色)を使用。
⑦持った時に前後の重さのバランスをよくするために、電池の配置を工夫。
⑧小さな手の人でもしっかり持てるデザイン。
⑨信号発信部分が2カ所あるので、リモコンを持った時の角度が変わっても操作しやすい。
⑩音質を補正できるので、音が聞こえづらい人でも聞こえやすい。
下畦さん
レッツ・リモコンのSTとADには、共通の特ちょうがあります。
テレビを見るのに最低限必要な、電源(でんげん)、チャンネル選択(せんたく)、音量調整、放送切替の4つの機能にしぼり、ボタンを整理してならべています。ボタンの種類を文字と色で表すほか、ボタン周辺のデコボコのカタチに変化をつけ、目の不自由な方でも指の感覚で何のボタンかわかるようにしています。
病気により文字や記号がわからなくても色はわかる場合があるなど、その人によって不自由なことやできることはさまざまです。
そのために文字、色、デコボコ、音や光など、いろいろな手がかりをつけることで、普及(ふきゅう)型のリモコンが使いにくいさまざまな人の役に立てるようにしているのです。
<STとAD共通の特ちょう>
細くにぎりやすく、ボタンの間かくが広いので、使いやすい。
にぎらずにテーブルに置いたままでも、親指でもこぶしでも押せます。
ボタンを押した時にはっきりしたクリック感があり、音や光でも知らせるので、
押したことを確認(かくにん)できます。
また、どのボタンを押しているのかわかりやすくするために、音に音階をつけています。
赤外線信号発信部分がリモコンにいくつも(STは3カ所、ADは4カ所)あり、
先端(せんたん)をテレビに向けなくても楽な姿勢(しせい)で操作できます。
使わない機能は無効にできるので、誤操作(ごそうさ)を防(ふせ)ぐことができます。
<ADだけの特ちょう>
手指の不自由な方に向けたレッツ・リモコンADは、補助(ほじょ)入力装置(そうち)をつないで、手のひら、足、ほっぺたなど様々なところで操作できます。
ほっぺたや足などでスイッチを押すと、ボタン上のランプが順番に移動(いどう)します。
操作したいボタンの上のランプが光ったときもう一度スイッチを押すことにより、機能を選べる仕組みです。
——開発にあたりUDや使いやすさの心配りをするために、
苦労した点は何でしょうか?
内山さん
すべてのボタンを押しやすいように大きくするとリモコン全体がとても大きくなり、逆(ぎゃく)に持ちにくいリモコンになってしまいます。そこでよく使うボタンは大きく、時々使う便利なボタンは少し小さくし、いつもは使わないが付いていたほうがよいボタンはフタの中に入れるなどして、全体のバランスの中ですっきりさせることに苦労しました。たくさんの試作品をつくり、お客様にさわってもらい、意見を聞きながら、ようやく一番使いやすいボタンのサイズやレイアウトを決めることができました。
それらの心配りの積み重ねが、お客様にとってストレスのないリモコン操作につながれば、と思っています。
下畦さん
ボタンは数を少なくしたり大きくしたりすると押しやすくはなりますが、それだけでは使いやすくならないことに気づきました。どんな単純(たんじゅん)なものでもはじめて使う人は新たに操作を覚えなければならないので、「覚えやすさ」も使いやすさにつながると考えています。
たとえば、目が不自由な人にとって、ボタンのちがいをわかってもらおうとしてボタンの形を全部変えてしまうと、それを覚えるのが大変になってしまいます。人間はまとまりをつくったほうが覚えやすいので、音量のアップダウンなど同じ機能のボタンをへこみでまとまりにして、覚える数をへらし、覚えやすくしています。そのあたりは今までのUDの取り組みでわかってきたことで、それらを活用することは大切なことだと思います。
——お二人とも、UDの心配りのあるリモコン開発に、
どのような経験(けいけん)が役だってきましたか?
内山さん
わたしの場合は、当社独自のUDフォント(字体)づくりに、開発メンバーとして参加しました。このUDフォントづくりは小さい家電に入れる、画数の多い日本語を見やすくするためのものです。
つくる際(さい)にはおとしよりの人に協力してもらい、どのようなフォントが見やすいかどうかの実験を行いました。また、パナソニックは海外にも製品をおとどけしていますから、外国の人にもアルファベット(英字)の見やすさの実験もしました。そしてただ見やすくするだけではなく、製品のデザインに合うきれいなフォントになるようにデザインにもこだわりました。
今では、リモコンだけでなく他のパナソニックの製品にも同じUDフォントが使われています。
それらの経験が、今のリモコン開発にもつながっていると思います。
下畦さん
大学で音の研究をした縁(えん)で、家電の報知(ほうち)音、たとえばボタン操作の音や動作の完了(かんりょう)を知らせる終了音などをつくる仕事に関わったのが、わたしのUDの始まりです。
ロボット掃除(そうじ)機ルーロのサウンド制作(せいさく)などやUD推進の担当(たんとう)をへて、高齢者介護(こうれいしゃかいご)用品のデザインも担当しました。
レッツ・リモコンの開発には今までの経験がいかされていると思っています。
——UDに対する思いや、メッセージがあれば教えてください。
内山さん
わたしはみなさんにメッセージをおくりたいと思います。
UDは使う人への「思いやり」をデザインすることです。みなさんもむずかしく考えないで普通(ふつう)の生活の中でまわりの人への思いやりを行動にうつしてみてください。それがUDの第一歩になると思います。思いやりの行動が住みやすいお家、くらしやすい街をデザインすることになるのです。みなさんもわたしたちと一緒(いっしょ)にUDにチャレンジしませんか。
下畦さん
使いやすく、かつデザインの良いことが大切。そう実感して仕事をしている中で、レッツ・リモコンが2017年度グッドデザイン賞の中でもすぐれたものにおくられるベスト100に選ばれました。使いやすさと美しさを両立させたことが評価(ひょうか)され、とてもうれしいです。
また、不便を感じているお客様の意見や使い方から、お客様も気づいていない問題点を発見し、新しい使いやすさを生み出すことも、UDの製品をつくる際に大切な考え方だと感じています。
これからも使う人によりそった製品を生み出していきたいと考えています。
(下畦さんは2018年4月より、パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 品質・環境部 品質企画課で
ユニバーサルデザイン推進を担当。取材は2018年3月に行いました。)