環境分野 2019年募集継続助成 選考委員長総評

Panasonic NPOサポートファンド(環境分野)の2019年継続助成の選考委員長を務めた山崎宏です。私自身、過去に本サポートファンドの助成を通じて、組織基盤強化の意義を実感した一人であります。その経験も踏まえ、選考にあたり感じたことをお伝えします。

2019年募集事業の選考プロセス

すでに伝えられているとおり、環境分野は今回が継続助成最後の公募となります。7月16日に応募受付を開始し、8月3日の締め切りまでに5団体の応募がありました。つまり、応募団体すべてが3年目の助成を目指していることになります。なお、この中には過年度、いったん応募を見送り、再度チャレンジをした団体も含まれています。

9月上旬に開催した選考委員会では、応募のあった5件全てを審議対象案件とし、委員会での協議の結果、ヒアリング対象を2団体に絞り込みました。その後、9月中旬までにヒアリングを終了し、報告書を選考委員に送付。各選考委員からの最終評価を踏まえ、10月上旬に選考委員長による決裁会議で助成内定先として2団体を選定しました。

前述のとおり、環境分野については審議対象案件全てが3年目継続助成への申請でした。すなわち、自団体の「組織診断」を終え、具体的な「基盤強化」を実践する中で、更なる一歩を模索する団体の申請書のみが並んだことになります。記載内容は熱い思いにあふれ、各団体の努力の道のりが思い浮かぶものばかりでした。

足もとの“声無き自然”へのまなざしを

さて、近年、気象の観測や将来予測の技術発展は目ざましく、地球規模の変化が高精度で可視化できるようになりました。また、情報発信がもたらす影響も高まり、例えば地球の裏側で起こる大規模森林火災の様子や、プラスチックごみを大量に食べて海岸に打ちあがった海洋生物の姿が、即時に私たちの携帯端末で確認できる時代になりました。こうした進歩はとても重要で、環境配慮に関する様々な意思決定の材料にもなっています。

しかし、地球の変化は「専門家が専門的な機器で計測している」“だけ”ではなく、もちろん「どこかの誰かが情報をシェアしてくれる」“だけ”のものでもありません。私たち一人ひとりが、自身の感性を研ぎ澄ませながら、敏感にその変化を感じ取ることも大切です。特に、まだ技術的に計測が難しいテーマについては、市民一人ひとりのモニタリング力が鍵を握ると考えられます。

地域の環境活動をしている方と話をすると、良く耳にする課題があります。「足もとの草花や昆虫の種類を識別できる人材が急速に減っている」というものです。ある方は、「一口にトンボと言っても複数の種類がいる。今ここに飛んでいるトンボは何という種類のトンボで、それは増えているのか、減っているのか。変化があるとしたらその原因は何なのか。近々、こうしたことを誰も判断できなくなるのではないか」と心配していました。このエピソードはほんの一例に過ぎませんが、地球規模の変化が可視化できるようになる一方で、足もとの小さな自然の状態、傾向、置かれている状況などに関心を寄せる市民が減ってきているのではないかと危惧しています。

「環境」の問題は「関係」の問題でもあります。人間の暮らしの在り様が遠く離れた自然環境にどのような影響を及ぼすかを想像することとともに、「私」と「庭先のミツバチ」、「私」と「裏山のヒノキ」といった身近な自然との「関係」に対し、深いまなざしを向け続けることも忘れてはならないと思います。足もとに存在する声無き自然物は、ヒトとの関係の中で、ひっそりと、しかし急速にその数を大きく変動させたり、本来の状態から逸脱してしまったりしている可能性があるのです。

地域の環境NPOに期待

「市民一人ひとり」と「足もとの自然」の関係性を再構築すること。そして、変化に気づき、改善策を講じることができる人々を増やすこと。この点については、今回採択に至った2団体のみならず、国内各地で活動する環境NPOに強く期待したいところです。そのために、まずは一人でも多くの人に、見えているようで見えていない足もとの自然の実状を感じ取ってもらえるきっかけを与えてほしいと思います。

本ファンドが立ち上がり20年弱の時を経て、環境分野のNPOにも根付いてきている「組織基盤強化」という視点。その道のりは決して平坦ではありませんが、自団体の組織基盤をしっかり整えることが、日常的な私たちの暮らしを支える“地域生態系という基盤”の強化にもつながり得ることを今改めて認識し、各地で歩みを進めてほしいと願います。もちろん、かく言う私もその一員として尽力いたします。

環境分野 選考委員長
山崎 宏

<選考委員>

★選考委員長

山崎 宏

特定非営利活動法人 ホールアース研究所 代表理事 ★

粉川 一郎

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授

佐藤 恭子

パナソニック株式会社 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室 主務