NPO法人 道普請人の組織基盤強化ストーリー

“土のう”による道直し 共感を得て、アジア、中南米、太洋州に展開 NPO法人 道普請人

「自分たちの道は自分たちで直す」というコンセプトのもと、アフリカをはじめ発展途上国で土のうによる道直しを展開するNPO法人 道普請人。国内ではほぼ無名の存在だった彼らが、広報基盤強化の取り組みでどう認知を高め、活動の発展につなげていったのかを、理事長の木村亮さんに聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第291号(2016年7月15日発行)掲載内容を再編集しました]

コストは舗装の10分の1。
簡単な技術で人々を幸せにする

途上国の農村では、生活道のほとんどは舗装されていない。そのため、雨が降ると、道の一部がドロドロになり、いたるところに大きな穴があいて通行不能になる。泥にはまった車を男数人で押して脱出する様子を、思い浮かべる人も多いだろう。
だが、それを、畑から農作物を市場に運べず、現金収入の道が閉ざされたり、あるいは病人を町の診療所に連れていけないという貧困の問題として捉える人は意外に少ない。

NPO法人 道普請人 理事長 木村 亮さん

NPO法人 道普請人 理事長
木村 亮さん

土木工学の専門家であり、国際協力で長年ケニアの大学で指導してきた木村亮さんは、泥道を前になすすべもなく天を仰ぐ人々を見続けてきた一人。アフリカの貧困削減のために、土木技術者として何ができるのか。熟慮の末、たどり着いたのが「土のうによる道直し」だった。ヒントになったのは、「本物の研究者は難しいことだけでなく、簡単な技術でも人々を幸せにできるはず。」という恩師の言葉だった。
「重機を使えば簡単ですが、お金が十分にない国では住民が自力で道を直せる技術でなければ持続しない。その点、土のうは袋に土や砂利を入れて締め固めるだけで大きな耐荷力を持つので、凸凹になった農道の表面を掘って土のうを並べ、木槌や太い枝で叩けば見違えるような道路になるんです。」

土のう袋は、1枚25円ほど。土と石は現地で調達。作業も地元住民による人海戦術で行うため、道1mを直すコストは約500円とコンクリート舗装の10分の1以下で済む。
2005年に、パプアニューギニアで初めて実践し、その後、ケニアなどでプロジェクトを推進した後、2007年に「NPO法人 道普請人」を立ち上げた。現地では最初、村人たちは半信半疑で集まってくるが、作業が始まると目の色が変わる。泥道がきれいになる頃には、楽しげなおしゃべりと笑い声があふれ、自力で道をつくった喜びから歓喜の声が上がる。
「日本には昔から住民が協力して生活道路を改修する“道普請”という伝統がありました。誰かの援助に頼るのではなく、自分たちの道は自分たちで直すという相互扶助の精神です。そうした意識を多くの途上国に広め、自信とやる気をひき起こさせることこそが私たちの大事な使命だと思っています。」

国内で初の活動報告会
NPOであることの自覚が芽生える

シンプルな土のうの技術で、住民が自力で道直しができるというアイディアが喜ばれスタートした「道普請人」。
だが、当初は団体の認知度は低く、国内ではほぼ無名の状態。事業規模も年間数百万円程度で、木村さんや研究室の学生などが半ばボランティアで行う活動に過ぎなかった。この、住民自らによる道直しを世界に広げていくには、より多くの人々の共感を得る必要があった。そこで応募したのが、アフリカ諸国で活動するNPO/NGOの広報基盤強化を支援する「Panasonic NPOサポート ファンド for アフリカ」のプログラム。2011年から3年間にわたり助成を受け、広報基盤の強化に取り組んだ。

助成1年目は、自分たちの道は自分たちで直せるという自信と自立心を芽生えさせるという団体ミッションと、アフリカをより身近な存在として感じてもらうことに主眼をおいた。国内で一般の人々の共感を得ることを意識したブックレットの作成に加えて、初の「活動報告会」を地元京都で開催した。同プログラムでは、市民との対面による活動報告会を日本で開催することをプログラムに組み込んでいる。木村さんは初めての報告会の準備を通して、NPOとしての自覚が芽生えたと話す。
「それまでは『自分たちはこんなことをしている』という実施者視点で情報発信することが多かったのですが、市民や企業に共感してもらうにはどのような情報を集め、いかにわかりやすく表現していくのか。ビジュアルや展示物の構想、空間づくりに至るまで多くの学びがあった。何より、この作業を通じて心のどこかにあった『ボランティアだから……』という甘えを払しょくし、経営感覚を持った組織として取り組んでいかなければという自覚が生まれました。」

そこで、当時大学院生だった現在の事務局長を専従職員としてスカウト。「必ずきちんとした給与を払える組織にする。」「現地での仕事を作るのが本当のBOP支援(※)。研究は支援しながらできる。」と説得した。事務所も開設した。2年目以降は、土のうによる道直しの施工現場の様子や参加者の生の声を映像で伝えたり、土のうを叩く姿が立体的に飛び出す仕掛けを施した「飛び出すパンフレット」を作成。同時に、日本とケニアの両方でこのパンフレットを活用して実際のデモンストレーションを合わせた報告会などを開催した。その個性的な広報活動が話題になり国内の寄付や会員拡大にも寄与したほか、ケニアの日本大使の目に留まるなど、現地での活動拡大につながった。

事業規模は40倍、活動国は25カ国に。
世界一の国際土木NPOを目指す

「広報素材を集めるため、道直しにより生活が改善したケニアの村の子どもたち約100人に夢や未来をテーマに土のう袋に絵を描いてもらったり、住人約100人に道に対する想いを聞くなどしたところ、具体的なサクセスストーリーをたくさん発見できました。また広報ツールが充実したことや、専従職員の雇用によりアイディアを形にできたことで、ケニアでの外務省のNPO連携無償資金協力の獲得につながるなど、その後の事業が飛躍的に拡大するきっかけをつかむことができました。」
現在、「道普請人」の事業規模は、助成前の約40倍。有給の日本人職員は5名に、海外の現地人職員も入れると総勢33名に増えた。プロジェクト実施国も当初の5ヵ国から25ヵ国にまで拡大して、その活動はケニアを核とするアフリカのほかアジア、中南米、太洋州に広がっている。

また、ケニアでは土のう工法を学んだ現地の若者たちの中から道づくりを請け負う事業家が何人も誕生し、2014年1月にエチオピアで行われた安倍首相のアフリカ政策スピーチでも「道普請人」の取り組みが紹介された。
「本来、土木の原点は人々の暮らしを守り、豊かにすること。日本では忘れられがちなその原点を見つめ直しながら、将来は世界一の国際土木NPOを目指します。」

※BOP支援:低所得層を対象に、貧困によって起きている社会的な課題の解決とビジネスの両立をめざす事業のこと。

[団体プロフィール]NPO法人 道普請人
アフリカの貧困削減を目指して、「土のうによる道直し」を開発。2007年にNPO法人を設立後、「自分たちの道は自分たちで直せる」をコンセプトに、アフリカを中心に世界25ヵ国でプロジェクトを展開する。

寄付などの振込先:みずほ銀行 出町支店
普通1091406 特定非営利活動法人 道普請人

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