自己変革、社会に貢献できるしなやかな組織づくり

パナソニックは10年にわたって、「Panasonic NPOサポート ファンド」(以下、サポートファンド)を通じて、NPOのキャパシティビルディング(組織の基盤づくり)を支援してきた。サポートファンドの強みはNPOと企業が協働で助成プログラムを企画開発、運営していること。 環境分野協働事務局の古瀬繁範さんと、子ども分野協働事務局の坂本憲治さん、サポートファンド総合事務局の金村俊治が事例を交えながら「キャパシティビルディング」の重要性について語り合った。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第171号(2011年7月15日発行)掲載内容を再編集しました]

中期的な視野で持続的な活動へ、お金以外の応援も

パナソニック株式会社
社会文化グループ 参事
金村 俊治

金村 パナソニックは創業以来、「企業は“社会の公器”である」という考え方に基づき、事業活動を通じて社会に貢献するとともに、社会課題の解決に向けて、企業市民としての社会貢献活動をグローバルに展開しています。

サポートファンド設立時の2000年頃、当社の社会貢献部門の社員が、個人的にNPOの活動に参加する中で「NPOの持続発展には、団体の基盤強化を応援する助成プログラムが必要だ」と実感したのです。既存の事業助成ではなく、組織基盤強化への助成という、これまでに例のない助成プログラムの実現に向けて、いろいろな方にご相談に行きました。その一人が古瀬さんだったんですね。

古瀬 01年に「子ども分野」が設立され、02年から「環境分野」も立ち上げたいということで、環境分野の相談を受けました。私自身も大学卒業以来、ほとんどをNPO・NGOで過ごしてきたこともあり、助成制度の問題点を肌で感じていました。

当時の助成は単年度で、事業へのプロジェクト助成が中心で、しかも事務局の人件費に使えないものが大半でした。そうなるとNPOの担当者は、来年の活動資金を今年中に確保しようと近視眼的にならざるを得ない。1年先の予算だけを考えて、見栄えのいい申請書を書くようになります。地球サミットのような大きなイベントがある年は助成金がつきやすいけど、必ずしも継続的な活動につながっていきません。3~5年後を見据えた中期的な視点はもちにくかったのです。

NPO法人
地球と未来の環境基金
専務理事 古瀬 繁範さん

金村 サポートファンドでは一貫して組織基盤強化を支援し、毎年プログラムを改善、進化させ、5年ごとに大きくプログラムを改定しています。坂本さんには「子ども分野」で06年にプログラムを改定した時からかかわっていただいています。

坂本 助成プログラムの改定にあたり、過去5年の間に助成を受けられた団体に、アンケートとインタビューを行いました。

その結果、子どもにかかわるNPOの組織基盤の構成要素として最も重要なのは、「子ども向けプログラムの企画開発と運営を担う人材の育成」「子ども向けプログラムを展開する活動拠点」「新規プログラムの開発とサービスの質の向上」であることがわかりました。中には、「申請書を書いたことで振り返りにもなったし、将来どんな組織になりたいかを考える良い機会になりました」という団体もありました。

NPO法人
市民社会創造ファンド
事務局長・プログラムオフィサー 坂本 憲治さん

古瀬 実は初めから「書いてもらうことで、団体内で気づきを促せる申請書にしたい」と考えていました。たとえば「組織のどこに問題があり、何をどう変えていけばいいか」という項目は、理事会や事務局全体で話し合ってもらわないと書けませんからね。

金村 お金以外の支援を重要視しているのも、このプログラムの特徴です。 助成先とのコミュニケーションの機会としては、助成を決める前に直接出向いてヒアリングをします。その時、こちらからの質問を通して、担当者より「気づきを得られた」と言っていただくこともあります。また、助成開始の贈呈式やワークショップで、他の団体と交流し学びあう機会も提供しています。さらに半年後には中間インタビューがあり、そこで「やってみたけど想定と違った」ということになった時は軌道修正するなど、実施計画の変更なども相談にのります。 そして最後は成果報告会で取り組み内容や成果を共有します。 財務状況や進むべき方向性において転換期を迎えるなど、NPOにとってキャパシティビルディングに取り組むタイムリーな時機があると思うんですが、どうでしょうか?