【環境分野】選考委員長総評
『災後社会』
言うまでもなく20ヶ月前に東日本一帯を襲った3.11の巨大災害の後の社会を指す言葉です。この災害は規模や影響がこれまでの災害とは比較にならないほどの巨大さであっただけでなく、この災害を境にして日本列島が災害多発時代に入ったといわれています。
政府機関や権威ある研究機関から次々と巨大災害の予測が全国的に甚大な影響を与える形で出されてくるという異常な状況を生み出し、社会のベースとなってきたエネルギーや暮らし方をめぐる私たちの認識や在りようも根底から変わることを迫られています。そんな時代に地域の最前線で活動するNPOの皆さんに向けられた社会の目線は、期待とともに、社会的な役割を果たすことをこれまで以上に求めるものとなっています。
組織診断にもとづくキャパシティビルディング
本パナソニックNPOサポートファンドはこうした骨太のNPOや市民団体が成長発展し、日本社会に少しでも貢献できるように願って組織の基盤強化のための助成として設置されています。応募された皆さんはすでにご承知のように、NPOの活動助成ではなく、組織の基盤強化のための助成は国内ではほかに類例を見ません。
それだけにこれまで10年余のファンドの歴史では、多くのNPOがこの助成を受けて力強い体質を獲得してきました。昨年から新たに始まったファンドの第3ステージでは、「組織診断にもとづくキャパシティビルディング」とし、NPOがより戦略的に社会課題を解決できるようになるために、自己変革しながら持続的に成長できるよう、組織運営上の課題を抽出して解決の方向性を見出す組織診断の手法を活用して、「組織診断助成」「キャパシティビルディング助成」の2段階で支援を始めました。
選考委員長 広瀬 敏通
(特定非営利活動法人
日本エコツーリズムセンター)
選考の経緯
今年の組織診断助成には5団体から応募がありました。そのうち1団体は環境分野対象から外れるとして4団体を対象に審査を行い、選考委員会では3団体に絞られました。事務局によって10月中に3団体への現地ヒヤリングが行われ、その結果を持って再度審議が行われ、3団体が今年の『組織診断助成』を受けることが決定いたしました。
応募総数が少なかったことは、いくつもの要因が挙げられますが、日本社会では他者(外部専門家)に対して組織の内部情報を開示し、組織課題に関する問題点を洗い出すプロセスには心理的な抵抗感が強いと予想されます。
しかしそれを乗り越えて昨年、今年と応募された団体の先見性、開拓性には心より敬意を表したいと思います。こうした前向きで意欲ある振る舞いがNPOや市民団体に今、とても求められていると私自身、強く思っているからです。
選考のポイント
はじめに触れたように、『災後社会』におけるNPOや市民団体の役割は、自団体の独自性や『わが道を往く』かのような組織運営だけでは不十分になっています。減災や共助、エネルギー、ライフスタイルなどに四つに取り組みつつ、自団体の持続可能な運営を果たすことが求められています。しかし現実には、さまざまな助成や委託事業がNPOに対して多く行われてきた結果、助成依存型の運営に陥っている団体も少なくありません。こうした姿はけっして健全ではないことはいうまでもないでしょう。
本助成はNPO本来の力強い市民的矜持に支えられたたゆまぬ努力を応援し、それが成果に結びつくようにNPO自身の課題の認識と自己変革のための組織診断をおこない、その診断結果を活かして組織基盤強化にむけた改善の取り組みが期待出来ることが選考のポイントでした。
社会と組織のより良い変革のために団体の持つ資源である人材や資金を最大限効果的に活かしたいという思いを実現するために、本助成が意味ある役割を負えるよう、選考委員全員と事務局もまた、思いを実現することに力を注ぐ第1歩が選考過程であったと思います。
引き続き、助成団体の皆様には果敢に組織診断を踏まえて、「キャパシティビルディング助成」へのステップアップをご期待したいと思います。