NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップ
<セミナーパート>

第三者の視点を採り入れ、組織の強みを
引き出す「組織基盤強化」について学ぶ

2022年5月20日、日本NPOセンターとの共催で「NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップ<第1回セミナーパート>」を開催しました。この日はNPO/NGOの組織基盤強化を理解するための講義や、実際に組織基盤強化に取り組んだ団体による事例紹介、参加者の皆様からの質問に答えるQ&A・トークセッション、「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」の紹介を通して、NPO/NGOの組織基盤強化の在り方や意義について考えました。
今回のワークショップはセミナーとワークのパートに分かれていて、セミナーは5月24日にも開催、ワークのパートは6月に、4地域のNPO支援センターの皆様と協働で実施しましました。

●NPO/NGOの組織基盤強化を理解するための講義

組織基盤の強化とは何か?

日本NPOセンター 事務局長 吉田 建治さん

組織基盤は船、個々のプロジェクトは積み荷

当センター顧問の山岡義典は東日本大震災の後、被災地のNPOの組織基盤を応援する中で「組織とは何か、組織基盤とは何か、組織基盤強化とは何かを考え続けること自体が組織基盤の強化につながる」と述べ、私たちは今も考え続けています。
私たちはいつも組織基盤を船、個々のプロジェクトを積み荷にたとえています。組織が大きくなり、継続性が求められるようになると、積み荷だけでなく、船にも目を向けなければならなくなります。また、目的地によっても必要な船は変わります。

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吉田 建治さん

NPOにとってのビジョン、ミッション、バリュー

組織基盤強化を考える上で主なポイントとなるのは4つ。①ビジョン・ミッション、②ガバナンス、③人、④資金です。今日は①と②について、お話しします。ビジョンは目指すべき方向性や将来あるべき姿、ミッションは組織の使命や存在意義です。最近では、ここにバリューも加わるようになりました。バリューとは価値や行動の判断基準、すなわち自分たちらしさを明文化したものです。
組織が段々と大きくなってきたら、ビジョン・ミッションを見直すと共に、バリューを明文化し共有しておけば、後から入ったスタッフともスムーズに議論ができるようになります。乗組員が同じ方向を向いて活動するには、現状と目指す姿、方向性の共有が必要なのです。

危機への対応にも欠かせないガバナンスの明確化

ガバナンスはNPOの場合、自分たちで自分たちを律するルールととらえると、わかりやすくなります。一般的に、人は自分が決定に参画したことについては関心や責任をもちやすいと言われていますが、あらゆることを全員の合意で決めると時間がかかります。そこで、組織のどこで何を決めるのか共有しておく必要があります。
ガバナンスを考える上でのポイントとしては、①意思決定の透明さ、②現場の問題が責任者にすぐ届く風通しのよさ、③状況に応じた意思決定の在り方の使い分け、④法令に基づいた組織運営などが挙げられます。
組織基盤とは、何かトラブルが起こった時に、危機に対応できる力のことではないかと思っています。そのためにも、決裁権限規定や経理規定などの各種規定を整備しておくことは重要です。ただし、規定ばかりつくるとそれに縛られてしまうので、組織のサイズ感や成長の度合、社会的責任に応じて変えていくといいと思います。

●組織基盤強化の実践事例紹介

一人ひとりの強みを引き出し、組織としての実行力が向上

特定非営利活動法人 フェロージョブステーション
理事長 三好 大助さん
理事・事務局 馬場 友加吏さん

組織の方向性が見えず、空中分解の危機

2010年から愛媛県松山市で、障がいをもつ人がITの技術を活かして社会参加できるような福祉サービスを提供してきました。「就労継続支援A型事業」ではホームページの制作などを通して、障がいをもつ人が付加価値の高い仕事に就けるよう支援し、「放課後等デイサービス」では早くからITに触れることで、障がいをもつ子どもたちが将来の選択肢を広げられるような支援をしてきました。
設立から5、6年経った頃、事業は拡大し、職員は目の前の仕事に追われているものの、団体の方向性が見えず、このまま三好理事長にもしものことがあれば、世代交代もできずに空中分解してしまうのではないかという危機感を抱き、サポートファンドに応募しました。

組織の課題を洗い出し、リーダー層と全職員の研修を実施

助成1年目の2017年は、コンサルタントによる組織診断を実施。朝礼や理事会、勉強会などに足を運んでもらい、全職員にヒアリングやアンケートを行い、課題を分析しました。その結果、スタッフの専門性の確立や計画力・実行力の低さの改善といった課題が明らかになりました。そこで、組織運営の中心となっているリーダーの研修と全体合宿型研修を実施。全職員のやりたいことや悩みを聞きました。

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三好 大助さん
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馬場 友加吏さん

2年目は、リーダー層や次世代の職員に向けたマネジメント力養成研修で、PDCAを回していける力を養うと共に、社内全体の教育力を底上げするツールとして、自分の強みやなりたい自分、年間目標などを記したポートフォリオを作成。さらに、障がいをもつ子どもの保護者を対象とした勉強会も開催しました。

組織としてのチーム力がアップし、地域との連携も強化

2年間の成果としては、共通言語が増え、組織のチーム力がアップしました。職員一人ひとりが組織のことを発信できるようになり、保護者や地域の皆さんと連携して問題解決に取り組む意識も向上しました。A型事業所で雇用できる障がい者スタッフも助成前の倍以上の25人に増えました。課題だったPDCAも回り始め、次世代の若いリーダー候補に任せられることも増えてきました。
2018年にはスタッフの発案で、地域を大きく巻き込んだ夏祭りを開催し、600人もの方が来場しました。職員や役職者、保護者、地域の教職員向けの研修や勉強会も継続しています。組織基盤を強化するには人に時間とお金を投資するのが最も効果的で、この助成はとても役に立つものでした。

●Q&A・トークセッション

参加者からの質問に答え、事例紹介の内容を深掘り

【進行役】
特定非営利活動法人 えひめグローバルネットワーク 常任理事
環境省四国環境パートナーシップオフィス 所長
常川 真由美さん

【登壇者】
特定非営利活動法人 フェロージョブステーション
理事長 三好 大助さん
理事・事務局 馬場 友加吏さん

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常川 真由美さん

Q1:常川さん ポートフォリオはどのようなもので、どう活用しているのでしょうか?

馬場さん 職員同士で面談をしながら、生育歴やこれまでに積んできた実績、これから達成したいことをまとめ、その職員のことがひと目でわかる資料を作成しました。今これを、放課後等デイサービスの子どもたちにも使える形にアレンジしているところです。

Q2:常川さん 保護者にも勉強会を実施しようと思った理由や目的を教えてください。

馬場さん 子どもたちの支援をする中で、家庭での過ごし方や家族の関わりもとても重要だと感じるようになりました。そこで、保護者の考えや気持ちを理解したり、価値観を共有したり、保護者同士が対話できる場をつくろうと考えました。何人もの方が、なかなか打ち明けられなかった悩みを吐き出せて、気持ちが軽くなったと話してくださいました。

Q3:常川さん 人員を増やすために、財政面の問題をどうクリアしたのでしょうか?

三好さん 保護者との人間関係ができてくると、親御さん同士のつながりの中で、障がいをもつお子さんを放課後等デイサービスに、たくさん紹介していただけるようになりました。おのずと収入が増え、それに伴って人員を増やすことができるようになりました。

Q4:常川さん 助成事業のコンサルタントは、どのように選んだのでしょうか?

三好さん 事務所から歩いて2、3分のところに、地域との連携に熱心な愛媛大学があって、経営者仲間と一緒に、マネジメントの話をしてほしいとお願いに行ったことがあります。その時に紹介された先生に今回、第三者として客観的に団体のことを見ていただきました。

Q5:常川さん 助成事業に積極的でないスタッフには、どう対応したのでしょうか?

三好さん 「2:6:2 の法則」というものがあって、人が集まると、2割の前向きな人と6割の中間層、2割の消極的な人に分かれると言われていますが、私は2割の前向きな人と価値観や意識を共有するようにしています。そうすると、6割の中間層の中から前向きな人が出てくるので、その割合を増やしていきます。全員が一丸となるのは難しいことですが、できるだけチャンスや学ぶ機会を平等に提供するようにしています。

馬場さん 初めは前向きでなくても、事業を続ける中で、日常の仕事がスムーズに進むようになったり、チームワークがよくなったりしたことを実感してくれた方もいました。事業の目的をしっかり伝えることと、効果が実感できるまで続けることが大事だと感じています。

●「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」の紹介

NPO/NGOの活動を持続的に発展させ、社会課題の解決を促進

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
企業市民活動推進部 サポートファンド総合事務局
細村 綾子

3つの重点テーマで共生社会の実現を目指す

パナソニックグループは今年で創業104年を迎えます。私どもは事業活動と共に企業市民活動を通して、社会課題の解決に取り組んでいます。その中でもSDGsの1番目に掲げられ、創業者の松下幸之助が産業人の使命と考えた「貧困の解消」を重点テーマとしています。2022年度からは、これまでも取り組んできた「環境活動」にも力を入れ、これらの課題解決のベースとなる「人材育成」と合わせた3つのテーマで、「誰もが自分らしく活き活きとくらすサステナブルな共生社会」の実現を目指しています。

組織の根っこを強化することで、すべての事業に成果

「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」は貧困の解消に向けて取り組むNPO/NGOの組織基盤強化を応援する助成金のプログラムで、海外助成と国内助成の2つを用意しています。
組織基盤強化助成は団体の根っこに当たる人材育成や財政基盤、組織マネジメント力、広報基盤などの強化を支援することで、しっかりと根が張り、幹が太くなり、木そのものが成長して、すべての事業に成果が出ることを狙いとしています。さらには、助成団体が同じテーマや同じ地域で活動する団体にも組織基盤強化のノウハウを提供し、社会課題の解決が促進されていくことを願っています。

第三者の多様で客観的な視点を採り入れる

プログラムの特徴としては、NPO/NGOの支援機関の方など、第三者が関わることで、多様で客観的な視点を採り入れます。組織の優先課題や解決の方向性を明らかにしてから組織基盤強化の計画を立案する「組織診断からはじめるコース」と、具体的な組織課題の解決に向けた取り組みから始める「組織基盤強化コース」があります。
私どもは2011年から、第三者に関わっていただくスタイルを採り入れてきましたが、助成先の皆様からは、自分たちの視野やアイデア、可能性が広がったとの感想をいただいています。また、助成事業を通じて、スタッフの方々が組織全体を発展させていく視野に立てたり、熱い思いを再確認したりできるようなプロセスにもなっています。
応募用紙は、内容を整理して記入するだけでも組織基盤強化につながる設計になっていますので、この機会にぜひサポートファンドをご活用ください。

関連情報

「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」
応募受付期間:2022年7月15日(金)~7月31日(日)必着