NPO法人「アクセス」の組織基盤強化ストーリー
フィリピンと日本を拠点に貧困問題の解決に取り組む国際協力NGO「アクセス―共生社会をめざす地球市民の会」は、設立20年目にして団体運営の岐路に立たされ、「Panasonic NPOサポート ファンド」の助成を受けて組織基盤強化に取り組んだ。
「団体存続の危機」ともいえる課題をどう乗り越えたのか? 事務局長の野田沙良さんに話を聞いた。
NPO法人「アクセス」理事・事務局長
野田 沙良さん
留学生支援から、途上国の貧困問題、 フィリピンでの活動へ
貧困のない、基本的人権が尊重された平和なアジアをつくる――そんな目標を掲げる「アクセス」の成り立ちは、少し変わっている。京都の洋菓子企業が労働組合からの提案を受けて、1988年に設立。企業の社会貢献活動の一環として、滞日外国人の支援を行ったのがそのはじまりだ。当時、学生の街・京都には多くの留学生が来ていたが、まだ受け入れ体制が十分でなかったため、社員寮を留学生寮として開放した。彼らへの支援を通じて、問題の根源にある途上国の貧困問題に突き当たり、90年代からフィリピンを対象とした活動を開始した。
現地では、都市スラムと農漁村貧困地区の4ヵ所を拠点に、学校建設などの教育支援をはじめ、青年育成、保健衛生、生計支援など多彩な活動を展開。いずれのプログラムも日本の支援に頼るだけではなく、当事者自身がグループを立ち上げ、地域の課題解決に取り組んでいるのが特徴だという。
「たとえば、スモーキーマウンテン地区(ごみ捨て場周辺スラム)でも、農村地区でも、小さな子どもたちはいつもニコニコしていてかわいいのですが、13歳ぐらいになると、『自分の人生って、このままチャンスもなく、貧しいままで終わるんじゃないか』みたいなことを考え、未来に絶望し始めるんですね。そういう子どもたちに奨学金を出して、学校に行けるようにするだけでなく、奨学生会や保護者会、青年会をつくる。子どもたち、青年たちは日々の困った問題を話し合い、解決に向けた努力をして、音楽や演劇などの発表会なども自分たちで企画・運営する。そういう経験を積むことで、自分たちでも協力して工夫すれば、いろんなことができる、社会も変えられるという意識をもった人を育てることに力を入れている」と野田沙良さん。
また、生計支援でも、ココナッツ殻で雑貨商品を生産するフェアトレード事業、さらには女性を対象としたマイクロファイナンスによる小規模商売の支援など、現地の仕事づくりに力を注ぐ。
一方、日本では現地の貧困問題を広く伝えるさまざまな活動を行うが、なかでも目玉となるのが学生を主な対象としたフィリピンのスタディツアーだ。年4回実施されるツアーは、現地体験にとどまらず、レクチャーとディスカッションを繰り返す充実した内容で、さらに帰国後も現地で受けた衝撃を行動につなげられるよう自主的な活動の場を提供している。このため、「アクセス」では毎週50~60人のボランティアが活発に活動しており、これが団体運営を支える大きな原動力となっている。
「現地で『貧困をなくしたい』『自分も何かしたい』と感じた学生・市民をどんどん受け入れて、その人たちの力を活かしていくのがウチの特色。実際、フェアトレード事業はツアーに参加した学生2人が立ち上げた活動ですし、今も学生を中心にチャリティライブなどを開催してフィリピンに教育施設を建てるプロジェクトが進んでいます」